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青色 7-2

 子どもたちが匿われているのは、大きなコの字型の箱の背中に玄関がくっついたような二階建ての建物だ。太い山道から外れる細い道を曲がると、しばらくして立派な屋敷が見えてくる。単純な家屋というよりは、教会と孤児院を一緒にやっていたような、そういうふうに見えた。


「俺は今ちょっとショッキングだから」それまで先頭を歩いていたイーセルが言う。「サミュエル、ここからは先に行ってくれるか」


「わかった」


 すぐに頷いて、サミュエルが彼を追い越す。ハイン警部補率いる数人の監視隊とリーデルたちの列から離れて、イーセルは身を清めるついでに落とした荷物を拾いに行くと言って林の中に入っていった。


「みんなー!」


 サミュエルが屋敷に向かって声を投げると、きしきし、かたかたと妖精のような気配が暗い廃屋を駆け回った。大きく開かれた玄関扉から、ろうそく明かりとふたつの緑色系が顔を出す。


「おぉ……?」


 向かってくる集団を見て非常に難解そうな呻き声を漏らすビアーの顎の下で、カルファがほっとした顔で廊下の奥に向かって手招きをする。すると、小さなカラフルがばたばたと飛び出してきた。新入りのペーデだけはカルファと手を繋いでいる。


「サミュ!」


 一旦感動の再会をしようとするも、知らないリーデルや警官の姿に、玄関を数歩出たところでずささーっと立ち止まる。


「警察はいるが、大丈夫だ! おいで」と彼女が言うと、カラフルはやっと安心してぺっとりと彼女にひっついた。ふあーんと甘えた泣き声を上げる一際小さい子を彼女が抱き上げる。「えっと、あと、イーセルは落とした荷物を拾いに行ってるだけだから、すぐ戻ってくる。心配するな」


「サミュエルもイーセルも、誰も連れて行かれたりはしない」シアが彼女のあとに説明を続ける。「警官たちは僕を監視しに来てるのさ。申し訳ないけど、僕たちもここで一泊していいかい」


 微笑みながら子どもたちに視線を合わせて言う青色のリーデルに、子どもたちは人見知りして無言で見つめ返した。エルディアやビアーはまだしも、警官を連れてきたのが彼だと言われて、判断に迷っていた。


「アンタ、誰?」


 遅れて外まで出てきたカルファが単刀直入に言う。それからパスにも気がついて、リーデルでもなければ警官でもない不思議な存在にきょとんとした顔をした。


「アンタも誰?」


「パス、おいで」


 子どもたちに話しかけるついでのような優しい声音になんとも複雑な気分になる。待ちに待ったイーセルの保護する子どもたちとも対面なのに、パスは怒られたあとのような意固地で強張った表情のまま兄のそばに近づいた。


「……はじめまして、僕は、パス・ディークです」


 きらきらとまっすぐにパスを見上げる目のひとつが、「イルの言ってたモノクロームの子だ」と仲間に囁いた。それを聞いて、彼はやっと少し表情を緩めた。しゃがみこんで子どもたちの顔を覗き込み、へなっと眉を八の字にしながら笑う。


「会えて嬉しい。みんなにずっと会いたかったんですよぅ」


「僕はシア。パスの兄で、イーセルとは昔からの友人だ。僕の父親はこの国の王様だから、リーデルを捕まえないよう警察にお願いできるんだ」


 さすが、赤ん坊を一人で育てただけあるというか。さっきの法律バトルとは打って変わって易しい言葉で伝え、すごーいとかわいらしい賞賛ににっこりと笑って返す。パスが以前まで見ていた彼は抑圧され黙り込んでいた姿なのだとたしかにわかった。


「それから、警察の方にも挨拶してもらおう。彼はエーデルセン警部補」


 突然振られたハインがぎょっと顔を余計白くさせて、子どもたちを見る。彼の次の一声であらゆるものへ塗り替わってしまうだろう無垢な瞳に、ついぞ頑なな態度を折れさせた。


「……リノクォル」律儀に敬礼しながら名乗る。「保安警察捜査局第一隊、ハイン・エーデルセン警部補だ」


 上官の行動にならって、後ろの六人の巡査もおずおずと敬礼する。シアが大変満足げに頷くのにハインはすぐ乱暴に手を下ろしたけれど、もう誰一人として、若い警官を怖がっている子はいなかった。


「……今いるリーデル全員をここに揃わせろ。それから、この建物を調べさせてもらう」


「子どもたちはこの七人で全員だ」


 サミュエルが慌てて言う。それから屋敷の中に引っ込んでいたビアーを呼び寄せて、シア、パス、エルディア、紫色と白群色──あとはイーセルと蜥蜴色。全員の色と特徴をメモしたあと、軽くボディチェックをする間に(ちなみにそのために一人女性隊員がいた)、子どもたちが今までのことを声高にサミュエルに報告する。


「エルディアのほうに向かってたらビアーが急に飛んできてさぁ」


「そのときは知らない人だったから武器組で筆出して『仲間って証拠は』って」


「だーあぁ」自分の腹ほどの子どもたちに全力で両手を上げるはめになったビアーがかき消そうと大声を上げる。「クソガキどもがよ……」


「で、カルファが『こいつ、イルの言ってた緑色だ』って判断してついてきたらここだったんだよ」


「おなかいっぱい」男性警官にお腹をぽんぽんされる一番年下のミオルがにこにこしながら言う。


「そう! ご飯あるよ! おいしい!」


「ご飯?」


 オウム返しに言ったサミュエルだけでなく、夕飯を食べ損ねているエルディアたちも思わずその単語に反応した。見上げられたビアーが今度はお手本のようなドヤ顔を浮かべる。


「お前らバカだから飯のことまで考えてねぇんじゃねえかって思ってよぉ」


 はっとサミュエルは表情を固くした。子どもたちの嫌いなものが出たのでは、とかではなく。夕飯まで気を回せなかった自責の念──もあるけれど。みんなに美味しいものをお腹いっぱい食べさせて、喜んでもらうのはこの私の仕事だというプライドに火がついたのだった。


「保護者の代わりにコックの息子の俺がガキどもに飯を食わせてやったってわけ。人数わかんねぇから多めに作ったし、お前らの分もあるぜ」


「私に見せてみろ」


 睨みあげて三白眼になっているサミュエルに言われて、彼はお、気の強い美人、と思った。いいぜ、と二人が館の中に行こうとするのに、慌ててエーデルセン警部補が止めて、「貴様ら、動くなと言ったら動くな!!」と自由奔放なリーデルたちに怒りの咆哮を上げた。

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