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バーチャル観光

作者: 雉白書屋

 バーチャル観光。これは実にいいものだ。私はその魅力にどっぷり浸かっている。

 ヘッドセットと手袋型デバイスを装着するだけで、自宅にいながら世界中の観光地を自由に歩き回れるのだ。技術の進歩とは、人をとことん怠惰にするものだと、クーラーの効いた部屋でアイスを食べながらピラミッドを眺めていると、しみじみ思う。

 仮想空間に再現された景色や音は驚くほど精巧で、現実と変わりないと言っていい。まるで映画の中に入り込んだような気分だ。ああ、いずれそういうサービスが始まるかもしれない。

 バーチャル観光サービスが始まって数年が経ち、行ける場所はどんどん増えている。現在では、百近い国の数千もの観光地を選び放題だ。パリ、ロンドン、ニューヨークと主要都市を一通り制覇した私が特におすすめしたいのは、開発途上国の奥地である。

 今の時代、アマゾンの民族でさえスマートフォンを持っていると聞くから、驚きはしない。地球上から『未開の地』がなくなる日も近いかもしれない。プライバシーなんてあったものじゃないと、地球も真っ青である。


『スリー!』


 ヘッドセットから流れる木々のさざめきや鳥のさえずりが耳を包む。高画質映像との相乗効果で、まるでその場にいるような臨場感だ。


『ツー!』


 さすがに民家の中など自由に入れない場所もあるが、市場や土産物屋などで商品を選ぶことができるのも、このサービスの魅力だ。購入品は後日、自宅に配送される仕組みになっている。翻訳機能付きガイドが商品の説明までしてくれるので、安心して買い物も楽しめる。


『ワン!』


 唯一の欠点を挙げるなら、現地の食事が味わえないことくらいか……と。


『バンジー!』


 お、おほおおおお! これはまたすごいリアルだ! 風が耳を掠め、岩が! え! は!?

 い、今、紐が切れて……いや、ははは、まさかそんなわけない。ああ、そういう演出か……ぶつかる音までしたから、ははは、いやあ、驚いた……。観光地が競って演出を過激化させていると聞いたことがあるが、まったく悪趣味な……ん?


『あーあ、ダメだなこれ』

『機械はどうだ? 無事か? 壊れたか?』


『壊れたに決まってるだと。あ、いや、まだ繋がってるみたいだ』

『あ、どーも。今、死んだのはスラムの若者なんで、気にしないでください。またのご利用をお待ちしてまーす。はははははは!』

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