120年と花
「姫君がおられぬぞ!」
「何っ!?」
「お目覚めになったのか?」
「探せ!皇帝陛下に御報告せよ!」
バタン
なに、だれ、今の……。
鎧を身につけた私が知らない5人程の男が、私の部屋に勝手に入り込んでいた。
私が部屋を出る時と同じように、窓からこの部屋に入ろうとしたその瞬間に扉が開いて、その男達が入ってきたのだ。
私は慌てて外に出て息を潜めていた。
やっとどこかに行ったらしい。
怖い、な。
「お帰りなさい。」
……!
誰、だろう。
先ほどのこともあって後ろを振り向けない。
小さく息を吸う。
「……ど、どちら様でしょうかっ!」
恐る恐る目を開けると、そこには誰もいない。
慌てて声のしたと思われる窓を覗くと、左手にどこかへ駆けていく明らかに怪しげな人影が見えた。
追いかけなきゃ……!
私は何かに惹かれるように、先ほどの私宛の手紙を握りしめて、窓に思い切りよく足をかけて靴も履かないまま駆け出す。
「まって!」
目の前には誰もいない。
それでも、向かうべき場所を私は知ってる。
あと半分……!
「いらっしゃられたぞ!」
大きな声がして私が振り向くと、少し離れた向こうに、先ほど私の部屋に居たのと同じ鎧の男達が立っていた。
私は必死に走ったが、当然見るからに屈強そうな男の走る速さに勝てるわけがない。
もう少しで、追いつかれてしまう。
追いつかれてはいけない。
どうしてかは分からないけど、絶対追いつかれてはいけない。
……でも、もう…。
「こちらです!」
目の前に男の人が颯爽と現れて私の腕を引いた。
あぁ、この人だ。
私に手紙をくれて、窓から話しかけてくれた人は。
彼はとても身軽に、時に隠れながら、追いかけてきた男達を振り切った。
「あの、ありがとうございます。」
「いえ、元はと言えば、私のせいですので。」
「……?…私、丁度ここに来たかったんです。」
そう。この人は私の目的地を知ったか知らずか、竹林に連れてきてくれたのだ。
「ここは、人には辿り着けない場所ですから。」
「…あなた、ですよね。全部。」
「………。」
「─、───、──より、永い眠りから醒め、ただいま戻りました。大変長らくお待たせいたしました。」
「お帰りなさい、───さま。ずっと、ずっと、貴女をお待ちしておりました。」
彼がそう言った瞬間、竹の花が咲き誇った。
私は120年とは一瞬なのだなと思った。