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7/10

永禄3年/殺生

 差し出された鉄棒を叩きその輝きを見て満足そうに頷く。

あ、どうも猫天丸です。今たたらばに来ております。アツゥイ!

ようやく炉の改良と温度調節がうまくいった。苦節三年近く。くぅ~疲。


 炉は耐熱と断熱の多重構造と玄武岩を使用して、炉壁を厚くして外壁に粘土などを巻いておく。

設計として一次溶鉱炉、転炉、二次高炉として炉内を狭く吸気口を多く配置。

ふいごの大型化や頻度角度などを細かく調整し、燃料として高純度の木炭を用意した。

そして砂鉄を一度炉にくべ製錬したものを転炉に入れ攪拌し余計なものを取り除く、そして二次精錬し水入れなどをして炭素濃度を調節して焼き直したものがこれだ。


 たたらばの職人どもは根久利岩の時も焼き入れで世話になってるし、頭が上がらないねこりゃ。


「どうですかい、若君。」


「私のようなものが金属の良し悪しを見ただけでは分からんよ。」


「へへ、若君は正直言ってくださって助かりまさぁ。」


「それでも、努力は感じる。キチンと鋼になっているように見える。」


「刃金ですかい?そいつはまだ刃付けしとりませんが。」


「バカタレ、良質な玉鋼だよ。良かったじゃないか。これを刃入れしたら名工の仲間入りだぞ。」


 へへっと恭しくたたらばのオヤジがその棒を受け取る。


 これで高温炉の完成だが、まだ発展性があるな。

材料は砂鉄しか使ってないし、高純度な鉄鉱石があればもっといけるだろうな。

合金の技術があればいいんだけど、ニッケルやらクロムを入手する手段が思い至らない。

今は鉄の精錬方法についてもっと習熟してもらえば高炭素鋼や低炭素鋼くらいならいけそうか。

ここまでは史実でも行われてた範疇。答えを知ってるから真似すればいいだけだ。

後は南蛮ことポルトガル人たちがインドから輸入してくる鉄鉱石さえあれば高純度な鉄が作れるのにな。

それに輸入が出来るならもっと夢が広がるのに。いかん、思考が脇道にそれた。


 注文していた物を受け取り、いくつかない事に気が付いた。


「この前発注した型などの、ここにないものはどうなった?」


「へぇ、倉庫にしまってありますが、猫車の部品ですかい?」


「まぁそれにも使えるが、それは応用が利くんだよ。」


「他にも使えるんですかい?」


「そうだ。オヤジよ、この新田金山を盛り立てるぞ。」


「へぇ、そのお手伝いをさせて貰えればと思っとります。」


「その型の物の作成手順はコレに書いてある。よろしく頼むぞ。」


 またしても恭しく指南書を受け取って頭を下げるたたらばのオヤジ。

たたらばを後にして外に出る。アツイッシュ!すぃまへぇ~ん!

それにしても、技術革新の足音がする。うーん。素晴らしいね。


 先程言っていた型とはプレス圧縮の量産型だ。やり方を工夫すれば今にでも大量生産が出来る。

ギアやネジなどの部品を同一品質で生産可能になれば便利なものいっぱい作れるぞ。

スプリングなんかはこの前作ってもらったが、あれは火縄銃が伝わってきて初めて概念が伝来した最新のものだからな。

片田舎の北関東では中々お目に掛かれないものだ。

そうだ、火縄銃と言えば、高炭素鋼や低炭素鋼を自在に作れるほどの技術力さえあれば作れるようになるな。

戦国、そう、それは火縄銃の歴史なのだ。男なら誰もが夢見る最強。

AIさえあれば銃の歴史掘り放題だぜ。ぐへへへ、さぁどんな改造をしてやろうかな。


「猫天丸様、終わりましたか。」


「待たせたな、お貞。次は藪塚の石切り場だ。」


「わかりました。ではこちらへ。」


 そういって馬に接続された猫車に乗り込む。お馬車ですことわよ。

この時代、牛車ぎっしゃのような権威の象徴としてのものは存在したが馬車は1800年代まで存在しなかった。

それは日本特有の悪路の多さと整備されてない街道では適さなかったためである。

そんな悪路も何のその、この猫車であれば関係ないんだけどね。

パカパカと馬が現代でいう所の太田~藪塚間を歩く。この辺は本当に寂びれている。

まばらな畑、あとは雑木林やら耕作放棄地やら荒廃農地、住宅などはほんとごくわずか。

この辺の土壌改良と肥料改善、区画整備などが進めば多少マシになるんだろうか。

その為の肥料はほぼ完成したと言っていい。

ただの人糞尿を散布しているだけの状態を草木灰に混ぜ発酵させる。

その上で石灰分を足したり、マメ科の植物を使った緑肥を導入したりなど。

これだけで十分土壌はよくなる。後は二毛作の導入や休耕の概念だな。

しかし、川などの恒久的に大量の水を用意できないこの地では稲作に適さない。

粟稗などを作っているのでこれでもいいんだけど、蕪や大根、大豆や麦などの導入などまだ手の入れようがあるな。

行政権を手に入れてしまいすれば一気に解決するんだけど、未だにおこちゃまな俺にはまだ無理だ。


 糞尿といえばそう、お待ちかねの硝石の生成に成功したのである。

これを硝石:硫黄:木炭で大体75:10:15の割合で混合させれば黒色火薬の完成だ。

硝石は少量ながらも生産できた、硫黄は流れの商人から草津の物を取り寄せてある。

生成した黒色火薬は未だ少量だが、いくつかの使用した実験では問題なく使える。

使うもよし、売るのも良し、だ。どうせまだ硝石は生成方法が見つかってないのだし。

黒色火薬の次世代は無煙火薬だが、ニトログリセリンの生成が無理ゲーだしどうしようかな。


 そんな思考をぐるぐる回しながら藪塚の地へ急ぐのだった。



 やりたいことは無限にあるし、それに向かって努力しているつもりだ。

しかしこういう状況になると己が無力を否応にも分からされてしまう。悔しいでもビクンビクン。

こうなることを予想してなかった訳でもない、しかし敵が多い故に他の人間が信用できない。

そんな八方塞がりの状況で、何も対策せずに外に出たツケを払わされる時が来たのかもしれない。

目的の藪塚の地にはこの前発生した流民たちの居住区がある、その流民街へあと少しという所。

目の前には賊と思わしき集団、俺の頼みの綱は奴らの狙いである妙齢の女性である馬上のお貞ちゃんのみだ。


「へへへ、女子おなごがこんなとこ一人で出歩いちゃいけねぇなぁ?」


「殺すなよ、御上に目を付けられたらシノギがし辛くなる。」


「持って帰っちゃえばわかりゃしやせんって。」


 これは偶発的な賊との対峙なのか、それとも誰かの意図した暗殺なのか。

十と数人の武器を構えた男どもに誰何すいかされ、止まったのが運の尽き。

結局のところ、今まではギリギリだが上手くいっていた。

御家問題は妙印尼によって俺の方に流れが来ているし、現代知識による技術流用もある程度成果が出ている。

順風満帆、だからこそ俺は戦国時代を舐めていた、油断をしていたって事なんだろうな。

横瀬成繁は相も変わらず主権奪取に余念がない。

妙印尼がこちらに付いたと分かるや否や、急いで岩松守純ことあのクソ親父への圧力を強めたようだ。

それ故に次代の当主である俺に嫉妬し岩松派の中でも俺の立場は微妙になっている。

やれ横瀬の犬だの鼠憑きだの、君たち本当に動物が好きね。

これが、誰かに仕掛けられた刺客なのだとしても何処から来たのかが分からない。

下手したらこの前の会合で危険視していた太郎丸から小俣の家臣団に伝わり、排除しようとしてるのかもしれない。

こういう人の機微をAIに聞くと可能性を示唆するだけでまともな答え返ってこないんだよな。


「猫天丸様、捕まってください!!」


 そう言ってお貞が馬を逸らし逃げ出す。

猫車車内が天地が分からない程揺れて視界と三半規管が物凄い事になる。

先程たたらばで受け取った品物をまとめた箱が開いて中身が零れ落ちそうになり慌てて閉める。

あががが、このままじゃゲロインならぬゲーローになってしまう。

物凄い衝撃のせいで精密機器の履帯やサスからバキバキと部品の欠損による悲鳴が聞こえてくる。

ゆっくり歩く想定だったから負荷がかかるとこうなっちゃうよね。

かといって速度を落とせば奴らに捕まるからそういうわけにもいかないんだけど。

流民街が遠くに見えて来た、が、猫車が限界でもうほぼ引きずってるようなもんだ。

全力疾走したおかげか、ある程度賊から距離を保てたお貞ちゃんは邪魔になった猫車を外そうと一時止まる。

ここが限界か、懐に仕舞ったさっきのたたらばで受け取った物を確認する。

追い付かれる前にと、お貞が馬から降りハーネスを外すとこちらへ手を伸ばす。


「急いでこちらへ!」


「お貞よ、流民街へ行き人手を集めてくるのだ。」


「何を仰いますか!さあ早く!」


「この猫車に乗っている物を盗まれる訳にはいかんのだ。」


「ではそれも乗せて下さい!」


「そんなことしたら途中でぶちまけるのが関の山だ。この問答も時間の無駄だ。

お貞よ、俺を信じてくれ、さあ早く行け!」


「─────分かりました!ご無事で居て下さい!」


 目を見開いたお貞ちゃんが駆け出す。そう、それでいい。

俺だってバカじゃない、ちゃんと対抗策があるからそうしたんだ。

馬で全力疾走した分離れていた賊どもが追い付いてくる。

手元にある俺の非常時用最終手段の数は五個、これで足りるといいんだが。


「ちぃ!女は逃げたか。まぁいい、この荷物だけでも。」


「あぁん?餓鬼が乗っていたのか。殺っちまえ!」


 そう簡単に、殺されてしまうわけにも行けない立場なんでね!

近づかれる前に投げたそれは、爆音と共に周囲の砂石を巻き込み破裂する。

火薬の生成が出来た段階で注文していたそれは運よく俺の手元にある。

火薬の爆発だけの攻撃型榴弾では殺傷武器にはならず、心理的効果しかないだろう。

しかし、こいつは薄い青銅の缶で作ってある、いわば破裂式破片爆薬。


「いでぇ!!なんだコイツァ!?」


「おい!コイツ鼠憑きだ!!おら聞いたことあるだ!!!

怪しげな妖術使って母親を食っちまったって話だ!!!」


 ついでに作ってもらっていた金属製オイルライターで導火線に火を付けながらそいつに振り向く。


「殺す気はなかったが、どうやら死にたいらしいな!」


 そいつの足元に投げたそれは、予想と違わず四肢をズタズタにし絶命させる。

音にビビっていた賊どもは状況を確認したのか腰が引けて転がりこんでしまっている。


「な──────。」


「──まだやるかい。」


「うわあああああ!」


 逃げ出した賊へ向かって全力投球するも届いて十メートルいかないくらいだ。

閃光、爆音、爆風、破片がチリチリと肌に当たってその衝撃の余波を感じる。

炸裂させたそれを、炸裂させた結果何が出来たのかを見て一言零れる。


「あいつら、ゴミ掃除くらいして行けっていうのに。」


 ゴミがまだ呻いてる、止めを刺そうにも俺の周りにはやれそうなものはない。

こいつらが持ってた凶器は他の賊が撤収時に回収したらしい。

そんなことはどうでもいい、壊れた猫車の状態を確認する。

履帯の保護板が外れ内部パーツがバラバラになったせいでチェーンが外れている。

基になった設計図を頭に浮かべ、何が必要になりそうか整理していく。

自覚はなかったが結構な時間が経っていたらしい。

そうこうしている内にお貞ちゃんが兵を数人率いて戻って来た。


「猫天丸様!!ご無事ですか!!!」


「ああ、しかし猫車は駄目だなこれは。またたたらばのオヤジに頼むしかなさそうだ。」


「そうではなく!血が!額から血が流れております!」


 ああ、気づかなかった。破片が掠ったのかな。


「無事だ。お前ら助かったよ、後片付けを頼む。」


「はっ!ただいま!」


 兵たちが了承すると息の残っていたゴミに槍を刺す。


「猫天丸様はこちらへ、手当をしなければ。」


 ふぅ~一時はどうなる事かと思ったけど、何とかなった。

全く、治安の悪い藪塚なんかに来るんじゃなかったぜ。

あいつらの言葉の節々から感じられたのは、ただの物盗りぽかったけど油断できねえな。

もう少し政治基盤の安定化を図らないと、今回のようにうまくいくとは限らない。

未だ見たことはないが忍者のような暗殺に特化した輩が居たとされる世の中なのだ。

俺みたいな子供なら簡単に処す事だって出来るだろう。


 お貞ちゃんに連れられて藪塚の住宅街を馬の上から見渡す。

こいつらだって間者が紛れ込んでてもおかしくないんだ。

慌ただしさを感じたのか住民どもが物珍しそうな顔をして俺の顔を見てくる。

見世物じゃねえぞ!ただでさえこっちは気が立ってるんだ!

そんな中、一人の年端の行かぬ十歳くらいの少女がこちらに声をかける。


「───貞ねえちゃん?貞ねえちゃんなの?」


「えっ、まさか、ももなの?」


「なんだ、お貞、顔見知りか?」


「はい、ももはあたしの姪です。でもなんでこんなところに。」


「貞ねえちゃんなんだ!よかった!会えてうれしいよ!」


「寺社の子なのであろう?何故流民に紛れ込んでいるのだ?」


「あ、えっと…。」


「ああ、気にするな。私は猫天丸だ。お貞の使えている岩松の子だよ。」


「偉い人なの?んーとね。」


「もも!猫天丸様に失礼のない様にしなさい!尋ねられているのよ、答えなさい!」


「そう高圧的になるな、お貞。すまんな、もも。答え辛かったら言わずとも大丈夫だ。」


「えっとごめんなさい、わたし偉い人と話したことないから、変な言葉いっちゃうかもしれない、です。」


「大丈夫だ、そこはお貞だって上手くないからな。」


「へへへ、よかった。えとね、わたしは赤城神社のぼうけい?で、貞ねえちゃんのような本家の人とは違うの。」


「あたしは赤城神社宗本家といっても七女で口減らしに奉公へ来ていました。」


「へぇ、そんな理由があったのか。それで?なんで流民に紛れていたのだ?」


「えっと、食べるものがなくなっちゃって、皆が怒って一揆だ~って言って、神社もその人たちが来ちゃってね、わたしのお父さんがお頭?になったの。」


「ああ、なるほど。一揆の正当性の理由付けに寺社の名を騙ろうってわけか。」


「まさか、四郎おじさんが?」


「でもね、お武家様にみんな殺されちゃってね。それでお父さんが加担したんだからももの家も同罪だ~ってなって、お母さんがみんなで逃げようって言ってね。」


「なるほど、そうして流民となったわけか。」


「そうなの、おなかすいて死んじゃう~って時にね、岩松の偉い人がね、仕事も畑もくれるって言ってね、だから今はここで暮らしてるの。」


 なるほど、やはり飢民が多いらしい。政情不安と食糧問題でまともに暮らしていける環境ではなさそうだ。

これから上杉の南進が始まるとなるともっと増えるかもしれない。

藪塚の流民受け入れ態勢を整えれば似たような状況の人間を取り込めるか。

戦いは数だよ兄貴!の言葉通り、流民とはいえ生産力だ。

そんな貴重な労働力を漏らすなど愚の骨頂だが、何か対策を練らねばならないか。

そう考えながらお貞ちゃんに血を拭いてもらい、手当を受けていると。


「すごい顔、どうしたの?痛いの?」


 と、ももが顔を覗き込み心配そうに声をかける。

お貞ちゃんもそうだけど、この子の家系は顔が整ってるというか現代風でかわいい。

そんな距離で女の子と話したことないから緊張しちゃうドゥフフwww


「なに?顔がすごいとはなんだ。」


「こうぐぐぐーって眉間に皺寄せて、この世の終わりか~ってくらい目が鋭いよ。」


「なんだ、この世の終わりとは。大げさな。」


「そういう所も猫天丸様のいいとこなんですよ、そんな時の猫天丸様は世界を見通してらっしゃるのです。」


「へーそうなんだ!すごいね!」


「そうして考えた結果、ももたちが救われたのですよ。」


「え?じゃあ、猫天丸様がわたしたちをお救いになったの?」


「バカを言うな、ただ考え事をする時の癖のようなものではないか。」


 冗談はさておき、今後の方針として治安強化のために独立自衛組織の運用と行政区画整備、試験的田畑の導入、出来たら産業工場の設立って感じかなぁ。

どうすればいいと思う?AI。


【はい、その方針においては以下のように段階的計画が必要です。効率よく進めるための具体的提案をします。

1,独立自衛組織:少人数を始めとした地域密着型の戦闘員を育成します。厳しい規範やその士気を損なわない報酬が求められます。

2,行政区画整備:現代の知識を応用して流民の少ない内から戸籍情報を管理し、東西南北などある一定の基準を設けそこから碁盤上に整備していくと効率が上がります。

3,試験的田畑の導入:水源の乏しい藪塚では米を生産できないため、雑穀が主流となっており、年貢が厳しいものとなっています。試験的田畑の導入を促しそれによって年貢を軽減するといった方策を取れば自然と普及するものと思われます。

4,生産工場の設立:安定した工業を主軸とした産業基盤を整えることにより、長期的な発展を支えられます。現代の知識を応用すれば他領にない新しい製品が作れるため、利益を見込めます。


これらは治安維持と農業の改良を最優先とし、行政区画整備を段階的に行い、最後に産業工場を立てると言った、段階的運用が必要です。

また、試験的運用を経て地域住民の信頼を確保し、外部支援として南蛮などの外国の物を取り入れても面白いかもしれません。】


 ああ、じゃがいもとか鉄鉱石とか輸入が出来れば夢が広がりんぐだな。

帰ったらこれらをまとめてレポートにして提出するかぁ。

大学生かよ、って突っ込みたくなるが、こんな内容を関係者に一々会って相談して根回しする方が面倒くさい。

こういうのはクソ親父に分からない様に岩松のためになるとか適当に吹き込んで、横瀬か妙印尼に伝えれば大体上手くいくのだ。


「ははは、またすっごい顔してる!」


「こら!もも!猫天丸様の邪魔をしないの!」


「でもね!わたし、そのお顔好きだよ!だってわたしたちの事考えてくれてるんでしょ?」


「ん?いや、俺は岩松としてこの地をどうするか考えているだけだ。」


「へへ、それでも、だよ!」


 ぐ、純粋なももがまぶしい、浄化されてしまう。


「そういえばお貞、ももはお貞のような教育は受けていないのか?」


「どうでしょう?普通なら受けるはずですが、その様な状況では。」


「うーんとね、神社関係ならちょっと教わってたよ。でもね、れーぎさほうは途中で終わっちゃったんだ。」


「なるほど。」


 領民へのプロパガンダとして、ももを宣伝塔にして流民集めたり結束させる作戦、とりあえず考えをまとめておこう。

もものような特殊な自出なものが居るのなら、それを利用しない手立てはない。

洗脳してしまえば領民をこちらの意のままに操る事だって出来る。

最悪横瀬に主権を奪われた時にこの藪塚の地で再起できるよう環境を整えておかねば。

となると支城として藪塚に城を立てるほうが動きやすいか。

新田金山は時計回りに北東に市場城、東に矢場城、南東に小泉城、南西に下田島城、西に鳥山城と複数の支城に支えられてるが、北西の方は手薄なのだ。

対上杉の事も考えると新田金山から見て北西にあるこの藪塚は丁度いい立地だ。


「であれば、次は藪塚に城を立てる準備をせねばならんか。」


「えー?どうしてそうなったの?教えて?」


「ええい煩わしい!お貞、なんとかせい!」


「ふふ、猫天丸様には猫天丸様のお考えがあるのよ。」


「貞ねえちゃんには分かるんだ?」


「ええ、分かってさしあげられてます。」


「なんじゃその言い回しは。」


「あたしと右馬の局様の約束ですので。」


「なんじゃそりゃ。まあいい、とりあえず本来の目的の石切り場へ向かうぞ。」


「はい、猫車はこのままここに置いていきますか?」


 とりあえず本来の目的の石切り場での生産効率上昇のために現場指導しに行かねば。


「えーもう行っちゃうの?久しぶりに会えたんだからお母さんに会って行ってよ。」


「もう、我儘言わないの。」


「ふむ、ではまた近いうちに藪塚へ来るように調整しておこう。」


「本当ですか、猫天丸様!やったー!!」


 俺の切り札になりうる少女のためなら別に労もないしかまわんよ。


「ありがとうございます、猫天丸様。では出立いたしましょう。」


「またね!猫天丸様!貞おねえちゃん!」


「ああ、またな。」


 そう言ってももと別れる。快活で明瞭で見目麗しい、とても使えそうな人材が見つかってよかった。

この藪塚の地へ足を運んで賊に襲われた時には来るんじゃなかったとか思ってたが、収支はプラマイプラかな。


 その夜、額に刻まれた稲妻のような傷を見てハリー〇ッターかよ、と毒づきながら、何とも言えぬ気持ち悪さで吐いてしまい、とても寝つきが悪かった。

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