その婚約破棄、本当に大丈夫ですか?
感想で「連載の一話部分で読む気がしない」(多分その感想読んで)「感想見て、速攻ミュートした」と来ましたので、一応宣言しておきますが……この物語は短編として書いてます!
シャンデリアの光に照らされた広間には、沢山の人たちで溢れていました。
今日は、舞踏会です。
ガーネット王子の婚約者フェリスも、もちろん参加します。
本当はガーネット王子が選んでくれたドレスを着たかったのですが、「忙しい」という理由でドレスを選んでもらえませんでした。なので、代理で来たガーネット王子の側近が一緒に選んでくれた、青地に銀色の刺繍がされた少し大人っぽいドレスを着ています。普段、赤や黄色などの派手な色を選んでいたので、なんだか新鮮です。
それに、会場に入るときも「用事があるから無理だ」とガーネット王子からエスコートをお断りされてしまいました。今日はフェリスのお父様もお兄様もお仕事で舞踏会には来ていません。エスコートなしで入るのはちょっと気が引けます。どうしようかと広間の前で悩んでいましたら、通りかかったガーネット王子の側近の方が代理でエスコートしてくれました。優しい方がいて良かったとフェリスは思いました。
広間に入ってしばらくすると、入り口の付近でザワザワと騒がしくなりました。
フェリスは何があったのでしょうと、行ってみることにしました。
すると、そこにはガーネット王子が居ました。きっと用事がすんで広間にやってきたのでしょう。
「ガーネットさ……ま?」
名前を呼んだフェリスでしたが、途中で表情が固まってしまいました。
「ああ、ちょうど良かった、フェリス」
フェリスの声にガーネット王子も気がついたようで、近づいて来ました。
ガーネット王子の隣には、可愛らしいピンク色の髪をした女の子がいます。ガーネット王子は、その子をエスコートしていたのです。
ガーネット王子がフェリスの前まで来ると、それまでザワザワと騒がしかった周囲が、緊張したように静かになりました。
ピンク色の髪の女の子は、フェリスの視線を怖れるようにガーネット王子の後ろに隠れてしまいます。
「フェリス、君に言わないといけないことがある」
ガーネット王子が、固い表情でフェリスに言いました。
「何でしょうか?」
フェリスは首を傾げました。
ガーネット王子が言いたいこととは、何でしょうか。舞踏会のドレスと一緒に選んでくれなかった理由でしょうか? それとも婚約者のフェリスではなくて、違う女の子をエスコートしている理由でしょうか?
フェリスは、続くガーネット王子の言葉を待ちます。
「僕は“真実の愛”を見つけたんだ。意地悪をするような君との婚約は破棄する!」
ガーネット王子は、声高々に、フェリスを指差しながら宣言ました。
ガーネット王子の、突然の婚約破棄宣言に、周りがまたザワザワと騒がしくなりました。
ガーネット王子はそれを制するように片手をあげると、厳しい表情で口を開きます。
「フェリス、君はモモカが僕と親しいからって、嫉妬していじめていたそうじゃないか。そんな心の汚い者は、僕の婚約者にふさわしくない! モモカはとても優しくて思いやりのある子なんだ。そんなモモカが僕の婚約者にふさわしい!!」
ピンク色の髪の女の子は、モモカと言う名前のようです。
「まぁ……」
フェリス、両手を口に当て、言葉に詰まります。
「何か申し開きでも、してみたらどうなんだ?」
言葉に詰まったフェリスに、ガーネット王子は、フンッ鼻を鳴らして言います。その声でフェリスは我に返りました。
「まぁっ、まぁっ、これが噂の『婚約破棄』というものですのね!!」
フェリスは、声を弾ませてガーネット王子にキラキラと輝く瞳を向けました。
「なっ!?」
今度はガーネット王子が、言葉に詰まる番でした。まさか、フェリスがこんな反応をするとは思っていなかったのでしょう。
「今、『婚約破棄』を題材にした物語が流行っていますのよ。わたしも何冊か読んでみましたが、とても面白かったです。まさか自分が、物語みたいな経験をするだなんて……とても面白いですわ!!」
城下で流行り始めた『婚約破棄』を題材にした物語は、貴族の令嬢たちにも人気となり、フェリスの通う学園でも流行っていたのです。
「ところで、ガーネットさま、知っていますか?」
フェリスがガーネット王子ににっこりと笑顔で尋ねます。
「な、何をだ?」
フェリスの反応に戸惑っていたガーネット王子は、どもりながら聞き返しました。
「物語では、婚約破棄された側に非がなかった場合、婚約破棄した方がだいたい自滅してしまうのですが……大丈夫ですか?」
フェリスの言葉にガーネット王子はゴクリとのどを鳴らします。
「ふ、ふんっ。何を言っているんだ。モモカが僕に嘘を言うわけがないだろう?」
ということは、フェリスがモモカをいじめたと言うのは、彼女の言葉を鵜呑みしたということです。
「でも、ガーネットさま」
「なんだ!」
ガーネット王子は、苛立たしげに大きな声を出しました。でも、フェリスは動じず笑顔を崩しません。
「わたし、その子……モモカさんと会ったのは今日が初めてなのですが、どうやっていじめたのでしょう?」
そう、フェリスがモモカに会うのは、今が初めてなのです。名前もさっき知ったばかりです。
「そんな、バカな!!」
「疑うのでしたら、聞いてみましょう。『影』」
フェリスが『影』と呼ぶと、スッと音もなく真っ黒い服を着た青年がフェリスの後ろに現れました。
「わたし、モモカさんとやらをいじめていたのかしら?」
「いいえ。フェリスさまと彼女が接触したのは、今が初めてでございます」
影はキッパリとした口調で断言しました。
「そんな言葉、信じられるか!」
ガーネット王子は、フェリスと影をキッと睨み付けます。
「あら、ガーネットさまは、王家直属の『影』の言葉よりも、その子の言葉を信じると言うことですのね?」
「ぐっ……」
ガーネット王子は再び言葉に詰まりました。王家直属の『影』は、その名の通り王家の人間を影ながら守る者です。王さまはガーネット王子の婚約者であるフェリスにも『影』を付けてくれていたのです。
影は、真実しか口に出来ない誓約を掛けられています。なので、今の影の言葉は嘘偽りない真実なのです。
「ふふふっ、ガーネットさま。わたし、これからのことは王さまと王妃さまの判断に従いますわ。それでは、ご機嫌よう」
ガクリと膝を落とすガーネット王子を尻目に、フェリスは広間を後にしました。
広間から出ると、ガーネット王子の側近が走って近づいて来ました。
「フェリスさま、大丈夫ですか?」
心配そうな表情をした彼に、フェリスは微笑みます。
「ええ、わたし婚約を破棄されてしまいましたの」
「それは……」
ガーネット王子の側近の表情が曇ります。
「きっと、お父様はすぐに次の婚約者を決めようとなさると思うの……それで、わたし、貴方を推そうと思っているのよ。ロズベル」
ロズベルと呼ばれたガーネット王子の側近は目を丸くしました。
「ガーネットさまに蔑ろにされていても、周りはみんな見てみぬフリをしていたのに、貴方だけが、わたしを気遣ってくれたもの。だから、貴方となら幸せになれる気がするの」
目をパチパチと瞬かせたロズベルは、フェリスの言葉を理解すると「光栄です。必ず、幸せにしてみせます」と微笑んだのでした。
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