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第7話 学園初めの一日

2024/10/4 投稿しました。


書見のほどよろしくお願いします。

 三時間目の開始のチャイムが鳴る。


「時間ね。ニルトさん。また今度お話をしましょうね」


「うん。わかった」


 三年の姫野姫芽ひめのひめめは、若いニルトの言葉遣いに気にした様子もなく、天真爛漫てんしんらんまんな性格と考え、ほほを緩ませる。

 生徒会に向かうために、自席に戻ることなく廊下へと歩いていく。

 その後ろ姿を青緑の瞳で追うニルトが、少し緊張していた気持ちを和らげ、鞄から取り出していたノートパソコンに向け、視線がいく。

 電源ケーブルはどこに差し込めばいいのか分からず、思案顔をする。

 コンセントプラグを左手に持ち、接続場所を探し、瞳を動かす。

 机の上や隅に瞳を当て、無いことを悟り、右手でプラグを持ち替え、椅子から降りて屈み、机の下に深く潜り込む。


「なにをしているのですか?」 


 その様子を隣から見守っていた大円初来愛おおまどしょこあが、ニルトの不思議な行動を目にし、疑問の声を上げた。


「コンセントがないんだけど」


 電源プラグの差し込み口を必死で探すニルトが、不意に返答をする。


「必要ないのですよ?」


「えっ? どういうこと? ん!」


 自分の行動を否定され、咄嗟に見上げた拍子に頭を打ち付けたニルトに向け、瞳を当てる初来愛が、「大丈夫なのですか?」と、気になる同級生を心配する。

 格好が悪いと焦ったニルトが、「あっ!」と、再び机の側面に頭を打ち付ける。

 今度は強烈だったせいで、青緑せいりょくの瞳に涙が浮かべる。

 痛いと心内で嘆き、ゆっくりと身を起こし、ブラウンゴールドの長い髪に左手をそえ、初来愛と向かい合い、つぶらな瞳を瞬き、一度だけ鼻をすする。


「あの、大丈夫なのですか?」


 そそっかしい人なのですね。

 そう心内から案じ、両手を胸の前で重ねた大円初来愛に向け、見栄を張るニルトが、「うん。平気だよ」と告げ、悲しく眉を寄せる。


「それでしたらよいのですが。あの、パソコンは机の枠内に設置するだけでいいのですよ?」


 手入れが届いた黒い眉をハの字にし、心配そうにする。


「そうなんだ……」


 親切な人なんだね。

 そう初来愛を好意的に捉えたニルトが、70年前の自分と比べ、生活が大きく違っていることに気付き、文明は日々の進歩しているんだと感心し、小さく息づき、云われた通りにノートパソコンを両手で持ち、設置位置を変えていく。

 机の天板の窪んだ内側に、ノートパソコンをはめ込むと、電源ランプが点灯し、電気が供給されていることを示す黄色おうしょくの光が充電開始を知らせてくれる。


「できた。ありがとう」


 初来愛に感謝し、目から鱗が落ちた思いのニルトは、両目を大きく開き、ほほを軽くゆるませ、納得のうなずきをする。


「どういたしまして」


 初来愛の黒い瞳が、ニルトの瞳と重なり合う。

 愛想良くほほを緩ませ、外すことなく視線を当て続ける初来愛の興味は、自分よりもお嬢様と思わせるニルトにだけ向けられる。

 黒髪の整った前髪から覗く黒い瞳を緩め、ぜひとも友達になりたい気持ちを表に出すように、口元をつり上げる。

 ノートパソコンと向かい合うニルトが、光センサーで構築されたライトキーボードに視線がいく。

 後は練習をした通りに動かすだけ。

 数日前に兄の弾矢と姉の朱火から使い方を教わっていた通りに、3Dモニタに視線を向け、ライトキーボードに両手をそえ、心内で起動を願い、「動いて」と声にした。


 すると画面が黒く光を放ち、ノーモーションでメーカーのロゴが映し出される。

 次第にオペレーションロゴが浮かび上がり、ログインアクセスキーのPINコード入力画面に切り替わる。

 五月二日の誕生日にちなんだ数字を思い浮かべ、入力と指を動かしていく。

 起動の成功を知らせる効果音。

 操作開始の青い画面に複数のアイコンが立体表示されていく。

 その結果に満足したニルトが、周囲から見れば一人でできるもんと、教育番組の俳優が幼く見せる、自慢顔をアピールする。

 目元を柔らかくし、ご満悦の表情で、「ふふ」と、笑う。

 そんな風に機嫌を良くしたニルトが、肩を横に揺らし、リズムを刻む。

 幼年のように可愛く、物珍しい転校生を見守る学友たちが、会話に割り込みたい欲求を抑え、息づく声を響かせる。

 隣に居る初来愛も同じ様に息づき、ニルトの自信に満ちた表情にだらしなく緩んだ口元を左手で隠す。


「ねえ、遠本さん?」


「ん?」


「私は【藤部渡子ふじべとこ】。パソコンが得意なのよ。よろしければ教えてあげるけど。何か分からないことがあるかしら?」


 右通路向かいの席から藤部と名乗る少女が、注目されていることに気付くことなく、独特の雰囲気で、ニルトに興味を示す。

 黒色と薄い水色が混在するボブヘアーに、まるで氷を連想させる涼やかな鋭い視線をニルトに向ける。

 大人のように振る舞う顔立ちで、淡い緑のプリーツスカートを目にしたニルトが、同学年であるとことを認識し、仲良くなりたい思いから、ほほを緩め、その親切を受け入れる。


「じゃあお願いするね」


 この子の名前を覚えないとね。

 親切な同級生の印象を目に焼き付けたい思いから、藤部渡子の容姿を覚えるようにじっと見詰めていく。

 エメラルドグリーンの視線を黒い瞳に当てる。


「あら?」


 真面目にニルトの顔を認識していなかった藤部渡子が、その瞳から一度背け、再び童顔と愛らしく、整い過ぎた容姿に、ゆっくりと瞳を合わせる。


「あ……」


 この子、可愛い。

 嘘みたいに整っているわね。

 そんな風に考えつつ、周囲から自分が目立っていることに今さらながら気付く渡子が、黒い瞳だけを左右に動かし、動揺とした表情をする。

 それを目にした初来愛が、「くすっ」と笑い、ほほを緩ませる。


「俺ももう一度一年をやり直したいなー」


「なにを言ってぇんだよ。お前があの中に入れるのか?」


「そうだよなー」


 上級性の男子たちが、ニルトと話をしたい欲求を高めていく。その想いがスキル持ち特有の気配を生み、暖かい雰囲気を作り出す。純粋に可愛い後輩たちを想い、時計の表示を見上げ、離れたくない意志を顔に出し、そうした会話をしながら、廊下へと出ていく。

 残るニルトの左右に付く初来愛と渡子が、イントラネットにアクセスして欲しい旨を伝え、操作の指示を告げていく。


 ユーザーIDとパスワードの入力画面にたどり着く。

 渡子の指示に従い、ニルトが学生証明カード取り出し、パソコンのマジライトセンサーに認証を済ませていく。

 初来愛が【イメージセンシング】の理屈を説明する。

 学内のあるセンサーが学生証を監視しているため、カードに触れて思いを伝えることで、その考えを瞬時に読み取ってくれるという。それらの機能が専用のAIで管理されているので、様々なサービスが受けられる。

 それを聞いたニルトが、「へえー」と、関心を告げ、眉を晴らし、映し出された立体映像に目を瞬かせ、続く初来愛と渡子の指示に従っていく。

 専用ページにアクセス。

 授業の受講に宿題の提出はこのページで全て行うことができる。そうした教えを聞き、手始めに小テストを選択する。

 この程度の問題なんて、過去に幾らでも解いてきたんだからね。

 そんな風にモニタをにらみ付け、タッチペンを片手に、自信に満ちた表情で、解答を進めていく。


「あれ?」


 チャイムの音を聞こえてきた。我に返ったニルトが、教えてくれていた初来愛と渡子の姿がないことに気付き、「どこ?」と、後ろを振り向く。

 誰も居ない。

 教室中に気配が無いことを認識し、不意に時計を見上げ、今がお昼の休み時間だと気付き、一度だけうなずく。

 廊下が騒がしい。食堂に焦って向かう学生たちの靴音が響く。

 談笑の叫びが響応し、遠くへと通り過ぎる残響を伝えていく。


「お腹が空いたね」


 無為に声を上げ、唐突に空腹を知らせる生理音を鳴らし、淡い緑のスカートを白い椅子から放し、立ち上がる。

 おにぎりがアイテム空間にある。

 それを食べれば済むけど、規則上教室で飲食は禁止されている。

 他の部屋でも同じで、色々と規則があるため、実質食堂に行くしかない方法がない。

 そうした考えから、眉を寄せ、思案顔になったニルトが、ノートパソコンを片付けるために、机の上に目線を移す。

 パソコンは学内に置いていく決まりがある。

 教室から離れる場合は、後片付けをしなければならない。

 面倒だけど、規則に従おう。

 空腹で気力が落ち、息を飲み、教室後ろの棚並びに歩み寄る。

 どの棚番が自分の場所か分からない。

 適当に棚の持ち手に触れて確かめる。

 開かないことを知り、学籍番号を思い出す。

 胸のポケットから学生証明カードを取り出し、何かヒントがないのか、青緑の瞳を細める。

 黒塗りの表面に白字で細く数字が書かれている。

 それを読み上げ、瞳を凝らす。

 その瞬間、近くでカチッと音が鳴る。


「そっか」


 ここでもイメージセンシングが使われているんだね。

 そう解したニルトが、便利を通り越し、不便さを感じ、唇を強く閉じる。

 今までの経験から分からないことは全てセンサーのせいにしよう。

 そう考えを改め、自席に戻る。


「これでよし」


 ノートパソコン本体と付属機器を棚に入れ、扉を閉じる。

 体を起こし、瞳を晴らす。

 初めての食堂に胸が躍り、鼻歌を奏で、内履きでスキップを踏む。

 教室後ろの引き戸を通り、廊下を歩いていく。

 特待生は職員室の隣で、玄関口から上がってすぐの場所。

 学生食堂は一階の離れの建屋。

 全校生徒六〇〇人ほどが入れる広さになる。

 広い通路は出入りが多く、どの学生も歩きのマナーに意識が向いている。そのため、明らかに美少女のニルトでさえも、人の波に埋もれてしまい、このときばかりは路傍の石。

 我先に席を確保しようとする意志力に押され、幼気いたいけな容姿にあせりが生まれる。


 うーん。困ったなあ。

 どうしよう。

 勝手が分かんない。

 食堂の流れに乗って歩くニルトが、不安と青緑の瞳を曇らせる。

 生前の記憶から、券売機を探して立ち止まり、左右に顔を向ける。

 長いテーブル席の間をゆっくりと歩む。

 ラーメンやカツカレーにセット定食を一心不乱に口にする先輩たちの様子を目にしていく。

 ルールが分からない。そう感じ、眉を寄せ、通路の奥へと進んでいく。


 無いよ。

 券売機が無い。

 だったらどうやって注文をするの?

 アーム付きのロボットカートが、食事を配膳していく。

 誰も頼んだ素振りがないのに運搬されていく。

 注文をする仕組みがあるに違いない。

 そう考え、不意に立ち止まり、試しにどこかに座ってみようかと、空いている席に青緑の瞳を配る。

 意を決し、先輩たちが座る通路沿いの席に移動する。

 その場に居合わせた男子が、お椀を片手に、ニルトに意識がいく。

 身なりが整い、清楚で幼い容姿に、思わずほほが緩む。そうした気色に、同じ気持ちになった多くの男子が、白い椅子に腰を落ち着かせ、緑のスカートを乱し、席に着くニルトに、視線を集めていく。注文方法が分からず、首を傾け、向かい席に居る男子の細い目と瞳が合い、条件反射的に顔を背け、下を向く。

 見られている。

 恥ずかしい。

 そう不安になっていると、目の前に光のメニュー表が浮かび上がる。


 そっか。

 ここでもイメージセンシングセンサーが使われているんだね。

 そう思案し、品書きがある表示に目を凝らす。

 半分が売り切れ表示で赤字が目立ち、黒い文字だけを対象に、青緑の瞳を動かしていく。


「うーん、どうしようかな……」


 激辛マーチャー定食とシェフ独創定食がイチ押しと大きく公表されている。

 数量限定なのに売り切れる気配がなく、明らかに不信感を抱かせる。

 お腹が減ってのどが渇いたニルトは、冒険をする余裕がなく、日替わりA定食を無難に選択する。

 いくつかの確認に同意の意志を念じ、これでご飯が食べられるのかと嬉しくなり、ほほに両手をそえ、小さく身体を揺らす。

 その陽気とした愛嬌に、相席する男子たちの注目が集まっていく。


「ニルト・ファブリス・遠本さんか、外国人なのに可愛いな……」


「マジか。こんな子が居たのか……」


「見ていると落ち着くなあ……」


 異性を意識する周囲の気配に、まるでアイドルを目にした一般人。

 そうとは知らず、光る虚像の案内に意識が行くニルトが、注文してから数秒しか経っていない動くロボットの様子に興味の視線を向ける。

 その意志力は、花より団子。

 食欲以外は気が向かず。

 色恋沙汰にうとい天然さをアピール。

 周りの声に耳を貸すことなく、ロボットアームの物珍しさに息をのむ。


「通ります。ご注意ください」


 背後からロボットの音声が流れてくる。

 A定食のトレイを複数積んだロボットが、アームを動かし、配膳を開始する。

 ニルトの体に触れることなく、テーブルのライン枠にトレイごと置いていく。

 ご飯とみそ汁に野菜の炒め物。

 ソースカツにキャベツの千切り。

 飲み物は、テーブルに備え付けの冷水ポットに自由。

 それらを目にしたニルトが、白いテーブルの中心から茶色い四角の箱を開け、黒塗りの箸を取り出していく。

 それをトレイに置き、食事の挨拶を口にする。

 口の前で漢字の一を人差し指で描き、「感謝します」と告げ、手を合わせ、「いただきます」と、声にする。

 前世で用いた簡易的な食事の作法。

 魔法の世界の繋がりを心内で思い、創生の女神に感謝を示す。

 欠かさず続けてきたニルトが、箸を持ち、食事を開始する。


「美味しい……」


 口いっぱいに含んで、「うん、うん」と小さくうなずき、「ん、ん」と、言葉にならないささやきを繰り返す。

 座高が低いせいか、テーブルが高く、食べ辛いために、背筋を伸ばす。

 それが好い具合に気品ある美しさを表現。

 ニルトの幼さと相応し、無邪気にほお張る姿が小気味よく、周りから旨そうに食べていると、注目が集まってくる。


「あんな子居たの?」


「特待生なんだ。知らなかった」


「かわいいじゃん」


 同性の目も多く惹き付ける。


「ふふ」


 美味しく弾むように肩を揺らす仕草に、相席の男子たちの熱い視線が行き、その天然な雰囲気が、陽気とした空気を生んでいく。次第に周囲がその様子を話題にし、談笑とざわめきが響いていく。


「ごちそうさま」


 食後の挨拶と同時に手を重ねたニルトが、椅子を後ろに引いて、立ち上がる。

 引いた椅子を戻し、教室に戻るために、机と机の間を歩く。

 そのまま食堂の出入口に向かい、売店の横を通り過ぎ、注目の気配を感じ、背後に振り向く。

 数人の男子と目が合う。

 思わず微笑みで返し、それが良かったのか、笑いが飛び交う。

 その意味に気付かず、何か粗相をしたのかと勘違いをしたニルトが、首をコテンと傾ける。

 廊下の真ん中で足を止めるのは邪魔になると考え、振り返り、教室へと向かっていく。

 人の行き交いが無くなり、歩く速度を緩め、「ふう」と、息をつく。


 なんでこんなに注目が集まるんだろう。

 行く前に朱火ちゃんか、弾矢お兄ちゃんに聞いておけばよかった。

 今さらながらに、そうした後悔をするニルトが、「あっ!」と声を上げ、閃いたように携帯電話の存在を思い出す。

 鞄に入れていた記憶が蘇り、急いで教室へと歩いていく。

 着いた直後に自席へと向かい、机の横に掛けた鞄を持ち上げ、留め具を開き、ふたを開け、ファスナーを引き、中へ右手を入れる。


「えっと、えっと……」


 携帯電話を取り出し、慣れない手付きで認証解除。

 表示画面に、アプリを参照。

 着信記録の案内数字が十九件を超え、ショートメールに未読ありが数件増えていることに気付く。

 皆が心配をしている。

 急いで返信をしないと怒られる。

 気持ちが焦るニルトは、「開いて」と、語り掛けたようにイメージし、操作に没頭していく。

 そうして休み時間が終わり、誰も居ない教室で、再びパソコン自習を進めていく。


「学園の授業は自立支援教育ASEシステムによって、いつでも自由に受けることができるのです」


 動画教育に没頭し、午後は一年必修の規則講座を学ぶ。

 学園内での共同生活の仕組みを知り、一般常識を培うための確認テストを行う。

 女子のスカートはひざ上で、髪の長さは自由である、とか。

 異能とした力を他者に影響を及ぼさないために、魔力を繊細に制御できる装飾の着用を認める、など。

 おおらかな校風に、生徒の自主性を育むことが正しい教育、などと。

 一般の学校と違う形式の回答を重ねていく。

 なるほどね。

 とっても参考になるよ。

 早く知りたかった学園施設の利用方法。

 これでもう食堂で迷うことがない。

 そんな風に正午の出来事を思い返したニルトが、はまり込むようにタッチパネルにライトペンを走らせていく。


「少しいいかな? ニルトさん?」


 紫桜香花しおうこうか教諭が、勉強中のニルトに声を掛けた。


「一旦手を休めて、私の話を聞いてくれない?」


「え?」


 紫桜教諭の声に反応し、その声色が誰のものかを忘れていたニルトが、顔を上げ、瞳を上にする。

 光沢ある黒いジャージ姿で、紫色ししょくの瞳を開き、青緑の瞳に合わせてくる。

 体育で生徒を引率した姿のまま、教室に戻って来たようで、時刻は午後二時二五分を過ぎたところ。

 五度目の授業が終わりを迎え、今は休み時間になる。

 そう状況を認識し、瞳を揺らすニルトに対し、紫桜教諭が口を開く。


「今日はどうだった? 初日にしては、授業の進みが早いようだけど、疲れはないかな? がんばり過ぎには注意が必要なんだけど」


「はい。平気です」


「そっか。ニルトさんは意外と魔力を扱うセンスがあるのね」


 どうしてそんなことが分かるの?

 先生はボクを見ていたのかな?

 おそらくそうなんだろう。

 そう推測するニルトに向けて、親切心から前屈む紫桜教諭が、優しく目元を緩ませ、視線を重ねてくる。


「それでね。入りたい部活動を決めて欲しいの。そういうのに否定的な先生が云うのもなんだけど、この学園は部活強制だからね」


「え、そうなんですか?」


 帰宅部でいいんだけど。

 青春とか今さらだし。

 家で戦闘訓練をして、魔力を高めていく方がいいよね。

 そう願うニルトが、あからさまに嫌そうに、眉を寄せる顔になる。


「できれば今すぐに決めて欲しいの。でもそれだとかわいそうだから、宿題にしたいと思います。学内ページで調べることができるので、家でゆっくりと考えて来てね」


「うん……」


 嫌だな。

 ダンジョン探索部とか在ったら入ってもいいんだけど。

 ふと思い出す昔の記憶。

 体育会系の合宿で先輩方に頭を下げる日々。

 挨拶は欠かさず行い、食事の準備は率先して気遣うことに徹する。

 常に機敏な行動を意識し、目標に向けてまい進する。

 さわやかな汗を垂らし、程よく緊張を保ち、競技にのめり込む。

 そんな風に、辛い過去の想い出に気分を落とし、ストレスを感じ、眉を寄せたニルトが、瞳を細める。


「先生。よろしいでしょうか?」


「はい? あれ? 大円おおまどさん。どうしたのかな? 教室に何か様があるの?」


 入口から入って来たばかり。初来愛しょこあから声が掛かる。


「ニルト様を図書部にご案内したいのです」


「あら、そうなの?」


 淡く黄色いブラウスの胸元で両手を組み、黒い瞳をニルトに向け、満面の笑みになる。

 目を細め、ほほをつり上げ、逃がしませんとした想いを伝えてくる。


「だったらいいわ。早速許可を出します」


「ありがとうなのです。紫桜先生」


「いえいえ」


 二人の会話を聞き、朝の件を思い出したニルトが、勝手に話が進んで行く状況に瞳を細め、疲れたように遠くの壁に意識を向ける。

 すると、アラーム音が耳に入ってくる。

 突然に自然の魔素が揺らぐ気配を五勘で感じ、目を大きく開いたニルトが、疑うように瞳を動かし、左右に揺らしていく。


「図書部の入部を許可します」


 男性の声が聞こえてくる。

 それがイメージセンシングのせいだと気づき、呆気に取られ、口を小さく開ける。


「大円さん。これでいい?」


「はい。ありがとうございます」


「ニルトさんも、今日はこれで終わりよ。帰ってもいいし、放課後まで残ってもいいし、部活動に行ってもいいよ。危ないことをしなければ、自由にしていいからね」


 言葉尻に立ち上がる紫桜教諭が、肩まである紫の髪を払い、教卓隣の教員席に歩いていく。

 代わりに初来愛が横に着き、見下ろすようにニルトに微笑みを向ける。


「それじゃあ行くのです。ニルト」


「え? どこに?」


「時間が惜しいのです。私に付いて来てください」


「でも勉強したいし」


「お願いします。大切な話があるのです」


「うん、分かった。今から準備をするから、少し待ってよ」


「はい」


 推しの強い初来愛の笑みに根負けし、ニルトは仕方なくパソコンの終了を心内で命令する。

 電源が落ちたことを確認し、折り畳み式のパソコンを閉じ、両手で抱え、教室の後ろにある棚へと移動する。

 今朝覚えたばかりのイメージコントロール。

 歩く途中で胸ポケットに右手をそえ、学生証明カードに念じる。


「あれ?」


 反応がないね。

 もう少し近づかないとダメなのかも。

 そう思案し、棚扉に近づき、もう一度イメージをする。

 すると、カチッと音が鳴る。

 棚前たどり着き、屈んで、電源コード一式と一緒に、パソコンを仕舞い込む。


「さあ、行くのです」


「あっ! 待ってよう。鞄を持っていかないと」


 いつの間にか隣に居る初来愛に引かれ、自席の横を通り、鞄を手に取る。

 初来愛に抱き付かれたまま、教室前の入口から廊下に出ていく。


「また明日ね。気を付けて帰りなさいよ」


 紫桜教諭に、「はい!」と、強く返事をする。


「さあ。行きましょう」


 そのまま急ぐ初来愛に付き、廊下を進んでいく。

 一階の玄関口にたどり着く。

 ロッカーから靴を取り出し、外履きに替える。

 外に出て校門から学生専用路に出る。


 歩く速度が早い。

 歩幅が違うのって、なんか悔しいな。

 そんな風に、一二九センチしかない身長に不満を持つニルトが、初来愛の後ろに付き、同じ方向に進む上級生を追い抜ていく。


 中等部学園本館を通り過ぎ、広いグラウンドの敷地に沿う土手の道を歩く。

 グラウンドの周りに、体育系の部室が立ち並ぶ。

 その後ろを歩き、見晴らしがいい景色に、ニルトは視線を泳がせる。

 陸上部の男子が走って来る。

 背が高い上級性。水色の体操服姿で、一〇〇メートルを一二秒ほどで走行している。

 マラソンとした姿で風を起こし、すれ違うニルトの結い髪を舞い上げる。

 右はグラウンド。左は広場。

 緑豊かで手入れが行き届く、大学管理の敷地になる。

 野草と街路樹が等間隔に茂り、大学建屋まで広がっている。

 車の気配はない。

 ここは私立千城学園の私道になるため、関係者以外の立ち入りは禁止されている。

 歩き近づく大きな建物。

 ライブラリーミュージアムと呼ばれる、国内有数の巨大図書館が、中層ビルのように高く、ニルトの視線先に広がっている。


 図書部だから、ここで活動するのかな?

 そう予測し、初来愛の後ろに続き、コンクリートの階段を上っていく。

 大きいガラスの自動ドアにたどり着く。

 中に入り、無人の受付横に付き、自動改札口に突き当たる。

 ロボットが常駐する囲いの入り口から無抵抗にチェックを済ませていく初来愛を目にし、その動きと同じくするため、恐る恐るセンサーに足を通す。


 またイメージセンシング。今度は失敗をしないようにしよう。

 そう心内で願い、意を決し、体を前に出していく。

 ピッと音が鳴り、緑の光が点灯する。

 上手く行ったみたい。

 朝から失敗続き。そのことを思い出し、名誉挽回に微笑んだニルトが、待ってくれた初来愛の顔に瞳を向ける。

 黒い瞳と視線が重なり、うなずく初来愛が、距離あるエスカレーターに乗り込んでいく。

 後に続き、遅れてニルトも搭乗。

 流れていく途中で、本特有の乾いた匂いが漂ってくる。

 良い匂い。

 夏休みの自由研究を思い出すね。

 そうした記憶を懐かしむニルトが、気分を良くし、瞳を瞬かせる。


「こっちなのです」


 降りた矢先に奥へと誘導する初来愛の指示に従い、歩みを進めていく。

 エレベーターの区画に突き当たる。

 エスカレーターを使う前にも乗り口が在ったことを思い出し、今さら乗り換えることに半信半疑のニルトが、初来愛の動きに目を凝らす。


「え、そっち?」


 予想に反し、非常階段口用のドアの前に立つ初来愛が、細いノブを回し始める。その様子に驚くニルトが、目を大きくする。


「こっちなのです」


 重たく音を立て、開くドアのノブを握る初来愛が、近づくニルトを誘導する。

 扉から手を放し、くだりの階段前で足を止める。

 その動きに合わせ、ニルトがドアを通り、初来愛に付いていく。

 螺旋のように二度降りる度にドアが在る階段を進む。その数だけ階層あることを知らせてくれる。

 何度か下る。

 どの階で入ったか忘れてしまうほど、靴音が響いていく。

 そうして、最終地点。

 おそらく地下に相当する場所。

 その場のドアを開ける初来愛の後に続くニルトが、すぐに引き継いで、通り抜ける。


「着きました。ここが図書部の活動場所になるのです」


「へえ……」


 天井が三メートル程の空間に、本棚が所狭く壁際に設置されている。本特有の乾いた匂いが充満し、形が良いニルトの鼻先を刺激する。


「こっちなのです」


「うん」


 奥へと進むにつれて明かりが灯り、まるで誰かがスイッチを押してくれるように、照明の管理が自動に制御されていく。

 誰も居ない。

 二人の靴音だけがカツカツと響いていく。

 おそらく地下のせいだろう。

 耳が痛いほど静かな気配を漂わせる。

 次第に本棚とは違う様相になる。

 発掘物とした石や建築物のジオラマに、発砲スチロールの工作模型が棚に置かれている。

 物置設備かもしれない。

 本も古いし、汚れがある。

 そう目にするニルトが、初来愛の歩く速度に合わせ、棚のすき間に青緑の視線を当てていく。


 なぜか空気に魔素が漂い出す。

 ニルトにしか分からない魔力の淡い光が青緑の瞳を引き寄せる。

 一般的に、魔素濃度と呼ばれ、高濃度となる場所には、ダンジョンの魔物やアイテムがあると云われている。棚の所々にそうした雰囲気があり、ニルトの視線が泳ぐ。


 その場を直角に曲がって進んだ先を更に直角に曲がる。

 一本道だが、入り組んだ構造をしている。

 通路の区切りに防火扉があり、その都度区画になっているようで、空間と通路が一体化した造りをしている。


 奥へと歩き、突き当る。

 本棚が無く、椅子と大きい机が並ぶ部屋のような区画にたどり着く。

 片開きの扉が一枚、人の気配がする窓付きで、左奥の壁に備えられている。


「ニルト。着きました。ここが大学合同研究図書部の部室になるのです」

修正履歴。

2024/10/9 ほんの少し誤字修正

2024/11/16 誤字修正。文章を見やすくする工夫。

2024/12/1 全体的に文章を修正。内容が少し変える。取り急ぎなのでまた変えるかも。

2024/12/23 やっと読めるように修正しました。次は八話目を修正します。

2025/6/29 すべて見直しました。そこそこ修正しました。次は8話を修正します。

2025/8/8 もう一度見直し、読みやすくする。


次もほのぼのしたいです。

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