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第35話 学園に入って初めての休日

 書見のほどよろしくお願いします。

 九月八日土曜日。曇りのち晴れ。

 早朝五時にベッドから目覚め、レースの入ったミスリル製のドレスを着たニルトが、台所に立ち包丁を握っている。

 卵と鶏ムネ肉と豚バラ肉を用意。手早くお湯を沸かしてゆで卵の準備をする。


「今日は角煮を作るんだぞ」


 気合を込めて鶏肉と豚肉を大きめに切り分ける。別々のフライパンに入れ、表面を焼いていく。焼けた豚肉を圧力鍋に移し、水を入れ、数分間煮込んでいく。肉に魔力を通し分解を速める処理を施す。


「次は鶏だよ」


 焼けた鶏肉にも魔力を通す。余分な脂を拭き取り、調味料とみりんと砂糖と醤油と水を加え、数分間煮込んでいく。続いてリーズン処理。魔力で灰汁あくを旨味に変え、自然のままの味を引き立てる。


「そろそろいいかな」


 圧力鍋の熱を止め、冷やしに入る。ここでベイパル処理。魔力で分子を固め、熱を取り除く。これが難しい。温めた熱を落ち着かせるには、繊細かつ大胆な魔力操作が必要になる。そう心内でささやくニルトが集中し、片手間で鶏肉も同じようにする。


「鶏の角煮はこれでいいかな」


 あとは豚角煮を完成させるだけだね。圧力鍋からフライパンに移し、同じように味付けをする。

 一通り熱を通したら冷やしていく。ここでも同じくベイパル処理。踏み台の上に乗るニルトが青い光に包まれる。


「鶏と豚の合格煮の完成だよ」


 今日はお兄ちゃんの試験がある。ワーレフになるために精を付けてもらわないとね。

 そんな風に気持ちを込めて次の料理に移る。


「トンカツじゃないのか?」


 半袖のシャツに短パン姿で椅子に座り、ややだらしなくワンブロックの髪が乱した弾矢が、携帯電話を片手にニルトにつぶやいた。

 さっきまで揚げ物をしていたはずだ。試験を受けるオレのために気を利かせ、トンカツを作ってくれたんじゃないのか? そう考えていた弾矢が、皿に盛られた角煮を目にし、予想が外れて残念と、茶色い瞳を細めている。


「トンカツはお弁当のサンドイッチに使ったよ。沢山あるからあとで楽しみにしていてよね」


「そうか……ありがとう」


「それよりもご飯ができたよ。先に食べていようよ」


 配膳を終え席に着くニルトが食事の挨拶を済ませているうちに、珍しく遅れて来た剣が、「おはよう」と告げ、眠そうに椅子に座る。

 朱火も遅れてやってくる。パジャマ姿のまま小さくあくびをする。


 三人ともどうしたの? いつもよりもゆっくりしているよね。

 手を合わせ、無言で食事を開始する兄と姉たちを気にするニルト。角煮を口にして甘く醤油の風味が効いた肉の柔らかい感触を堪能し、肩を揺らして笑みを浮かべる。


「ふふ。上手くできているね」


「ん、美味しいです」


「ああ、うまいな」


「……うむ」


 豚と鶏の角煮とした肉の風味。癖の強い脂のこってりとした味が濃厚で、三人の肥えた舌を満足させる。

 ゆで卵も抜群に相性がいい。プルプルの白身が濃厚で角煮の味をまろやかにしてくれる。

 ご飯が進むよ。肉に染み渡る汁の塩気が口の中で甘い白米と合わさり、程よく緩和されている。ニルトが美味しさのあまり体を揺らす。肩を揺らしサラダを食べる。味噌汁をすすりほほを緩ませる。


「お兄。プロ試験、がんばってください」


「ああ、任せてくれ」


「気を引き締めていくのだぞ」


「ああ……」


 ん? それだけ?

 会話が進まない状況に不信感を募らせるニルト。堪らず三人に向けて口を開く。


「元気がないよ。皆どうしたの?」


 そういえばそうだね。と、普段と変わらない朱火もそう感じ入り、弾矢と剣に赤い瞳を向ける。


「いや、ない。とは言えないな……」


 そうだ。二人には伝えておこう。

 ゲームでの出来事を思い出す弾矢が困ったように眉を寄せる。一息吐いたのちに理由を口にする。


「実はゲームで知り合ったフレンドが居なくなったんだ。ニルトくらいの小さい女の子なんだが、どうしたのか心配で気になっている」


 初日から知り合いになった少女と遊ぶことになり、楽しくゲームをしていたところ、突然相手が落ちるトラブルが起きる。あとで運営からメールが来ることになり、現実で体調不良が起きたと知らされる。


「私も共に居たのだが感じの良い子だった。回復が得意でダレットに懐いていたのは覚えている」


「オレが戦いにばかりに集中していたせいだろう。彼女に無理をさせてしまったのかもしれないな」


「そんなことがあったんですね……」


 とても愛らしい人だったと言う。ゲームの再開は難しいとメールに書かれていたので、そのせいで気分が落ち込み、浮付いていたとのこと。


「愛嬌があって、つい見てしまう子だった。受け答えが上手くて笑いを誘ってくれる。気が効くし、付き合いもいい」


 好きな異性について語るような口振りで、どことなく不満になる朱火とニルトがほほを膨らます。眉を落とし、弾矢に抗議の視線。


「それ、おかしいです。運営からのメールだという時点で理由があるはずです。お兄は気にしすぎです」


「そうか?」


「そうです。あとで私が確認しておきます」


「ボクも時音に聞いてみるよ。お兄ちゃんは気にしすぎだよ。まずは試験に集中してよね。もしもそのせいで落ちたなんて言ったら、ボク怒っちゃうからね」


「うむ。よくよく考えると不審な点が多いな。弟よ、気にするな。なんとなくそんな気がする」


「だがなあ……」


 可愛い妹がいるのに、どうして他の女の子に目移りするんだよ。内心弾矢に腹を立てるニルトが、兄に甘えたい気持ちを抑え、ご飯をかき込み、より膨れ顔になる。

 それから朝食が終え、後片付けを済ませる。公共放送の朝ドラが開始になる。


「行ってくる」


「私も行ってくる。帰りは夜になる。家のことはよろしく頼むぞ」


「お兄、お姉。ケガだけはしないでくださいね」


「ああ」


「うむ」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。いってらっしゃい」


 玄関で見送りを済ませ、ニルトが朱火の背中に抱き着く。ぎゅっと腰を胸に寄せる。


「ニルトくん、いったい何のまねですか?」


「ちょっとした挨拶だよ。今からお掃除するから手伝って」


「だめです。私も出かけます。ゲームチューブの話でゲリックさんと打ち合わせがあるんです」


「むう。じゃあお昼はどうするんだよ」


「分かりません。でも帰りが遅くなるので食べてきます」


「残念だよ。分かった。一人でお留守番しているからね」


 それから、朝ドラが終わって朝のワイドショーの中ほど、朱火の見送りを終え、室内の掃除に取り掛かる。魔術を使ってほこりを集め、掃除機で汚れを吸い取っていく。


 本質は詠唱だよ。意味を解して命令するんだ。

 手をかざし、魔力を発散させる。リビングの床や壁からほこりがポコポコ生まれてくる。


「フォ、ルー」


 呪文を口にする。声にするたびにほこりが浮き上がってくる。


「フォ、ルー、フォ、ルー」


 手早く掃除機で吸い取る。浮き出る汚れを集める。二階の廊下にやってくる。弾矢の部屋に入り、ベッドのシーツを外す。他の部屋にも入ってシーツを集める。掃除機を持ったまま一階に降りる。脱衣所に入り洗濯機に入れて運転を開始する。空いた時間で風呂の掃除をする。床や壁に魔力をまとわせ、同じように魔術で汚れを浮き上がらせる。

 心の内で、『プラッツ、クーリング、オール、インプローブ』と唱える。すると周囲に円陣が生まれ、広い風呂場に淡い光が現れる。


「いいね。綺麗になったよ」


 石壁に触れてキュッと指先で音を鳴らす。五人が入れる浴槽の汚れも綺麗になる。


「あとは……」


 シーツを乾燥機に入れるだけ。替えを持って二階に上がる。ベッドメイキングをして回る。


「買い物に行こうかな」


 来週は泊まり込みで探索をする予定になる。そのための準備をしないとね。

 玄関のドアに鍵を掛ける。青銀色のレースが入ったミスリルドレスのまま外に出ていく。

 交差点で立ち止まる。テレビに映っていたあの子で間違いない。そうした小言を耳にして、携帯電話を掲げる男たちに気を配る。


「なにあれ?」


「かわいいけどやり過ぎじゃない?」


 ティーンモデル雑誌の真似だと勘違いされ、嫌味を言われる。行き付けの三鶴みつるデパートに足を運び、地下のスーパーに向かっていく。

 二台のカートを動かし、沢山の野菜や肉をかごに入れる。あまりの豪快さに年配の女性たちが笑いを浮かべる。それから清算コーナーに足を運び、自動レジに通す。ファーストカードで十一万円を溶かし、人目を気にせずアイテム空間に収納する。


「これでいいよね」


「ママ、あの子変だよ?」


「見ちゃだめよ」


 何気にボクを同級生だと思っていないかな?

 そんな女の子の声を耳にしても気にせず、エスカレーターに乗って調理器具が売られている店に向かっていく。


「ただいま」


 誰も居ない家に帰ってくる。すぐに台所に向かい調理を開始する。


 午後三時を過ぎる。朱火の帰りもなく、未だに一人。そんな中でニルトが備品倉庫に入り、物質転移保管装置の修復作業に入る。


 集中しないとね。失敗したらやり直しだ。一回で終わらせるよ。

 シルクの布に魔銅を組み合わせる。アビリティーの一つ、合成変換を使い、回路の模様を描いていく。隆線の光がニルトの周りできらめき、その輝きの先がシルクに当てられる。

 まるで生き物のように魔銅線がうねり、光を放って生地と同化する。


「いいね」


 ようやく人工アイテム袋が完成したね。あとは保存門と物質転移保管装置を整合するだけ。底なしの人工アイテム袋を手に取り、円柱型の水槽とした装置に近づける。


「ただいま」


 夕方に朱火が帰ってくる。すでにお風呂に入り、ブタさんの着ぐるみ姿のニルトが出迎える。


「おかえり。遅かったね」


「お兄とお姉が帰ってきます。試験は合格です。お祝いに皆さんを呼んで、お寿司を出前にするそうです」


「楽しみだね。お味噌汁を作っておくよ」


 そうして食事時になる。弾矢の友人が集まり、いつもの席に着く。


「今日は私の弟が無事にワーレフの一員になったことを祝しての食事会となる。知っての通りプロになるためには、ポリスティック、スクラー、アドベンチャー、ハンターの資格をそれぞれに取得する必要がある。筆記に加え、実地と実技を行い、最終面接で評価される。だが弾矢はそれら全てを一発で合格した。これは優秀でなければ認められない行為である。ここに居る皆が弟を支えてくれたおかげで、過去の実績も評価されている。だからこそ皆にも感謝したい。ありがとう。これからも弟を支え、良き友人として共に歩む仲間として、できるだけ寄りそってもらいたい。そう私は願っている」


 上座の席に座る剣が、グラスを取り、掲げるように持ち上げる。すると全員がそれぞれに飲み物を持ち上げ、掛け声の準備をする。


「皆に感謝を。そしてチームマドレートの未来に、乾杯!」


「「かんパーイ!」」


 それぞれが飲み物を口にして食事を開始する。


「なによ、これ。大トロがいっぱいあるじゃない」


「サーモンが無いんだよ。トロトロで美味しいんだよ?」


「料亭泰全のお寿司ですね。キンメダイにノドグロ。中トロと大トロにイクラにウニ。豪勢なネタがそろっていますね」


「うぬ、野菜が無いのう……」


「うまいぜぇな! こんな寿司は今までに食ったことがないぜぇよ!」


「いくらしたんですか? さすがに気が引けるのですが……」


「気にするな。特選はもう無いからな。代わりに特上のならばある。食べたい者は言ってくれ。すぐに用意しよう」


「そう言えば、ニルトが用意してくれたカツサンドは旨かったな。食べると力が湧いてくる。またいつか作ってくれないか?」


「うむ。冷めてもサクサクで美味かったぞ。さすがは私の妹だ」


「いいよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんのためならいくらでも作るからね」


 良かった。ボクの料理はステータスが上がるからね。試験の助けになったみたいだね。


「美味かったぜぇな! 姉さん。代わりの寿司を頼むぜぇよ!」


「うむ。まだまだあるから遠慮はいらんぞ。そこに入っているから好きに取って食べてくれ」


 最上特選盛りを先に食べ終えた環太郎が、特上寿司を箱から取り出す。

 厳永は野菜が食べたいと言い、ニルトが台所に立ちサラダを用意する。普段から食べ慣れている小咲美も食が進まず、特上に切り替える。残りの特選を手麻里に手渡す。


「ちょっとどうなっているのよ。あんたたちの一族って贅沢よね」


「そんなことないんだよ。うちは普通な方なんだよ。うん、カワハギもおいしいね。コハダもいいよ」


「普通っていったい何なのよ。砂子、どう思う?」


一風いちかぜ烽火ほうか土台どだい雷電光らいでんこう氷人ひょうじん。昔は五形ごけいグループと呼ばれた大企業の名残ですね」


「いや、五形は今でも続いているぞ。それぞれが目立っているために表に出てはいないが、私たちも年に一度は親族会を開いている」


「うん、うん。だからうちは普通だよ。偉い人たちとはもう縁ないんだよ」


 なにそれ? ボクは初めて聞くけど?


「なによ。普通って言うけど小咲美の家も一風の一員でしょう? いい加減にしてよね」


「違うんだよ。理道家は末端だよ。今は弾矢くんのお母さんが偉いんだよ」


「いや、それは違うだろう?」


 弾矢が小咲美に反論する。特選寿司を食べ終え、緑茶を口にしている。


「ん。本当は小咲美ちゃんのお婆ちゃんが一番偉いんです。元々は一風の会長さんです。今でも大株主で、私たちの本家になります。お母さんが偉い訳ではないんです」


「うむ、その通りだ。鈴華さんは咲久お婆様の姉だからな。……と、そういえば挨拶がまだだったな。丁度いい。弾矢、明日はニルトを連れておじさんの家に行ってこい」


「いや、急に言われても困る。小咲美、いいのか?」


「うん、いいんだよ! お婆ちゃんもきっと喜ぶよ! ニルトちゃんのことも気にしていたし、会いたいって昨日も言っていたよ! 時期としても丁度いいよ!」


 なにそれ? もっと早くに言ってよね。

 複雑な環境に戸惑いを覚えるニルトが、青緑の瞳を大きく開き、箸を口に着け、息をのむ。


「ニルトくん。変な格好で行かないでくださいね。今日みたいにドレスで行くと怒られますよ?」


「むう。ボク変だったかな?」


「あら、ニルトくんってドレスを着るの? 私も見てみたいわね」


「うん、うん。確かにドレスはやめた方がいいよね。お婆ちゃん綺麗な格好する人にいい思い出が無いから、落ち着いた服装にした方がいいよ」


 落ち着いた服装ってなにかな? パパとママに買ってもらった物って少ないから、持っている物から選べないんだよね。

 そう思い、ニルトが箸を置いて左指をパチンと鳴らす。


「こんな感じでいいのかな?」


 次の瞬間、着ぐるみ姿が和服姿になる。


「すごいです」


「いったいどこから出したのよ!」


 砂子と手麻里が驚きの声を上げる。小咲美が目を見張り、流兎と環太郎が無言で見詰めている。

 全員の視線が和服姿のニルトに向く。倭頭衣と呼ばれる異世界の着物。柄は異界のコスモスをモチーフにする。白地に桃色と黄色と紫色の花弁が咲き乱れる。

 和服と違い、上腕の一部が露出している。袖口も着物より広い形をしている。


「夏服の仕様だけど、どうかな?」


 椅子から立ち上がり、軽く振り返る。

 素材がダークスポットスパイダーの糸で作られている。冒険者ランクSの魔物になるが、そこはご愛敬。華王の花で色付けされた最高級の一品になる。


「ん。コスプレみたいです」


「でもいいんじゃない? うん。ニルトちゃんポイし可愛いよ」


「待て。写真を取らせろ。あとで母さんと父さんにティックラインする」


「あ、私もいいわよね? ニルトくん可愛いから、同研の仲間にも見せてあげたいのよ」


「砂も撮らせてください。お父さんがニルトさんを気にしていましたから」


「えっと……」


 顔を赤くするニルト。唐突に撮影会が始まり、うつむきほほを細める。


「じゃがのう。こう魚が続くと酒が飲みたくなるわい」


「おい、厳永! 俺が居るときに不良は許さんからな! そもそも未成年は酒を飲んではいけないんだぞ!」


「だがのう。うまい肴には酒が一番じゃからなあ……」


「なら、この前のドラッグを入れればええぜぇよ。持って来ているんぜぇろ?」


「マッドマジカルドッグはサプリメントじゃからのう。勘違いはせんでもらいたいのう。それに飽きたわい。今は本物の日本酒が飲みたいのう」


「いや、すまんな。厳永よ、酒は切らしている。うちには飲む者が居ないからな。特別な集まりでもない限り置くことはない」


「姉さん、料理酒があるじゃないのか? まだ少し残っていただろう」


「ちょっと待ってください! 剣さんも弾矢さんも冗談はよしてください! さすがに俺も怒りますよ?」


 お酒。ボクも飲みたいね。前世でも飲んでいたから、実は大好きなんだよね。簡単に作れる仙桃神酒なんてあるけど、久しぶりに飲もうかな? アルコールが入っていないから子供でも飲めるんだよね。

 心内でつぶやくニルトが、ブタの着ぐるみ姿に戻り、左手から白磁の壺を取り出す。


「なにかな? なにかな? ニルトちゃん。それは何かな?」


「アルコールの無いお酒だよ。ただし酔うけどね。厳永お兄ちゃんが持っているサプリメントと同じ効果があるよ」


「ほう、面白いな。まだまだ妹には秘密があるようだ」


「皆の分のコップも用意するね。こういうのは良い器を使わないといけないからね」


 そう言い、ニルトが人数分の酒杯をアイテム空間から取り出す。白磁の器。真白に美しく彩っている。


「まずはお姉ちゃんからだね」


 上座に向かって歩いていく。ポフポフと足音を鳴らし、剣の隣に着く。


「お姉ちゃん。一献」


「いや、飲むのは全員に行き渡ってからにする。最初は一緒の方がいいからな」


「じゃあそうするね。次はお兄ちゃんだね」


「ああ、ありがとう」


 トクトクと音が鳴る。心地よい響きに弾矢の目元が緩む。


「次は流兎お兄さんだよ」


「まあ、酒で無いのならかまいませんが……」


 そう言いつつも、杯を嬉しそうに受ける流兎。桃の甘い香りが漂い、鼻先を柔らかくする。そのまま環太郎に移り、全員に注いで回る。最後に自分の杯にお酒を注ぐニルト。ゆっくりと器を持ち上げ、そこに映る絵柄に目を泳がせる。


「ねえ。これ、底にお花が咲いているんだけど……」


「あ、手麻里お姉さん気付いてくれた? これはね、水花鏡現って言うんだよ。水を入れるとお花が咲くんだよ」


「へえー、すごいわね」


「自由に飲んでいいからね。無くなったら補充するよ」


 仙桃神酒は魔導具から生まれる水になる。疲労回復に効果がある代わりに、少しの間酩酊し、記憶を曖昧にする副作用がある。


「うむ。では改めて仕切り直そう。皆、今後とも弾矢をよろしく頼むぞ。乾杯!」


「「かんパーイ!」」


「なにこれ? ないこれ? あまーい」


「おお! 飲み応えがあるのう」


「かー、なんだか体が温まってきたぜぇよ。こいつは効くぜぇな」


「気に入ってもらえてよかったよ。久しぶりに飲んだけどおいしいね」


 これがいけなかったのかもしれない。今日も泊りになる宴会が始まる。

 全員がほろ酔いになる。笑いが飛び交い、乱痴気騒ぎ。


「弾矢くん、弾矢くん、えへへ」


 小咲美が顔を真っ赤にする。弾矢の背中に抱き着いている。


「ん、ん、お兄、大好きですよ……」


 朱火がテーブルに伏せる。すでに意識が無い。


「ちょっと……あなたたち、くっつきすぎよ~」


 手麻里の舌が回らず、声を崩している。


「砂子、ぬぎまぁーすう」


「あ、だめ。さすがにそういうのは禁止だよ」


 ブラウスに手を掛ける砂子がニルトに取り押さえられる。


「よっしゃ! 飲み勝負ぜぇよ!」


「お前には負けん!」


 環太郎と流兎が仲良く酔っている。帰ることを考えていない素振りをする。


「うむ。私は勘違いをしていた。酒がこれほどうまいとは知らなかった……」


「うまいのう……」


「ダメだ。オレはダメなんだ。このままではいけない。もっと強くならないと……」


 剣と厳永は黙々と飲み続ける。弾矢はすでに泥酔状態。一人の世界に入っている。


「はっはっは! 脱ぎが足らんぜぇよ! 下着もいらんぜぇよ!」


「ちょっと、ちょっと、あんたたちバカじゃないの?」


「負けんぞ! 俺の方が筋肉はある!」


「はな~よ、咲きみーだれぇ~、よっしゃ!」


「厳永さん、上手ですね。あははは……」


「ねえねえ、弾矢くんのも見たいな~」


「そう……だな。オレも脱ぐ!」


「よいぞ、よいな! お前たち! 面白いぞ!」


 男子たち裸で抱き合い、女子たちが笑い合う。

 それぞれが騒ぎ合い、さらに時間が過ぎる。全員が眠りに就き、残ったニルトが介抱する。


 こうして今日も皆さんが泊まることになるのでした。

 おしまい。


「弾矢お兄ちゃんが好きって砂子さんが告白してから、小咲美ちゃんがすねて大変だったね」


 手麻里さんもすごかったよ? 悪酔いしてお兄ちゃんにキスして騒ぎになったからね。

 流兎さんと環太郎さんも裸で踊り出すし、厳永さんも裸になってびっくりしたね。

 お姉ちゃんと朱火ちゃんは眠っちゃったね。疲れていたのかな? そんなに変なことは無かったよ。

 むしろお兄ちゃんがひどかった。裸になって筋肉ムキムキするんだもん。

 手麻里さんが笑っていたよ。ちょっと不気味で気持ち悪かったよ。

 でも誰も覚えていないことになるはずだよ。仙桃神酒はそういうものだからね。明日になればすっきりするんだよ。


「これで終わり。あとはゲームをするだけだね」


 今日はどうしようかな? 根源のダンジョンを本気で攻略するのもいいかもね。

 改訂履歴


 なんとなく書けました。

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