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第26話 ボクだけの入り口を見つけた

 前回の続き。錬金術の魔術天秤の使い方を思い出したニルト。

 そうした流れから、文章がつながっています。


 書見のほど、よろしくお願いします。

 こうした要領で接地皿にある物質と同じ物を抽出することができるんだけど、本来の用途は錬金陣布に用いる素材の分量を適量に分けることにあるんだよ。

 今回のようにガラスだけを取り除くという行為は、それほど重要ではないんだよね。

 つまり分割したときにできる一つの大きさを整える。それこそが本来の目的になるんだよ。


「試しにガラス玉を作ったけど、イメージした通りの量になっていないよね?」


 処理を行う前に天秤の赤い皿側の腕が青い皿側の腕よりも上がっていたのが原因になる。

 釣り合いが取れていなかったために、その分だけ小さいガラス玉が作られたことになる。

 今回はわざと合わせずに分割を行ったからこうなったけど、厳密に行う場合には、皿に素材を置く前に、あらかじめ変化の石に触れてゼロ点調整を行う必要がある。


「今回はこれでいいけど、次からは気を付けないとね」


 そうしないと素材として使えなくなる場合がある。


 鉱物系はまだいい。物によって適当に誤魔化せばなんとかなるからね。

 でもね。薬に関わる植物などは、分量を厳密に計算しないといけなくなる。


 ここはゲームの世界だ。素材の名前も意味も分からない。だからこそ錬金術でどういった物ができるのか、手探りで調べるしかない。


 そうした意味でも規定量の設定は重要なんだ。それにね。


「メモを取りたいね。トライアンドエラーを繰り返してものづくりをするのに記録しないと分からなくなるからね」


 なんかそういうアシスト機能があった気がする。


「うーん……あ、あった!」


 メモ帳があるね。

 バーチャルキーボードを出して作業手順を記録していこう。


「取あえず、試しに適当に薬を作ってみようかな?」


 容器を作るためのガラス玉がたくさん必要になってくる。外に出て石を集めてこよう。


 ボクは外から石を拾ってくる。


「まあ、こんなものかな?」


 作業を始めて数時間。

 すでに日が昇り、室内が明るくなっている。


「腕が疲れてきたね」


 細工道具で適当に石を割っている。同時に魔術天秤に割った石を乗せてガラス玉を生成する作業を熟している。


「おかげでガラス玉がいっぱいできたね」


 作った物が床にたくさんある。


「これだけあれば材料に困ることはないよね?」


 錬金陣布に使う場合には完成品を予想して、材料を一気に使うことになる。

 特にガラスは需要が高く、錬金物の材料に好く使われることになる。


「次は薬草の加工だね」


 なんとなく薬から作っておきたい。

 というのも薬こそが錬金の基本になるからだ。あくまでも現実での話だけどね。

 ガラス玉、蒸留水、薬効抽出液、青の酸化中和剤、赤の塩化中和剤、黄色の魔素中和剤が必要になってくる。

 そのためには薬草を魔術天秤で加工しなければならない。

 まずは天秤の腕の長さを変える。分割分量調整をする。

 赤い皿にヒーリング草を数本束ねて乗せる。釣り合いを見て準備を整える。

 赤い皿側の腕が青い皿側と釣り合っていない。もう少しヒーリング草を減らしてみよう。


「準備完了。じゃあ行くよ」


 開始の合図に変化の魔石の飾りに触れて、少しずつ魔力を流していく。

 すると光が煌めき、丸い形をした固形物が赤い皿の上に作られる。


「できた」


 緑色のビー玉の形をした錬金合成用のマテリエ。これで何かの薬が作れるはずだ。

 ボクはそう期待を込めて、広げていた錬金陣布に作ったマテリエとガラス玉を陣模様の上に置いていく。


「お試しの錬金陣布だから二種類の合成しかできないんだよね」


 本物はもっと大きくたくさん同時に合成することができる。


「あとは魔力を流すだけ」


 流すと云ってもイメージするだけだけどね。


「完成品は前世で流行ったキューブ密閉型にしよう」


 キューブ密閉型とは、立方体のガラス容器の中にマテリエをエーテル状にして封じ込める物になる。

 できた物をエーテルキューブといい、品質消費期限が無く、素材としての価値を高めてくれる。


「あくまでも覚えている記憶が正しい場合に限るけどね。まあ現実と違ってゲームだし、そこはやってみないと分からないけどね」


 ボクは床から立ち上がり、錬金陣布に両手を掲げる。

 布の中心に向けて完成品をイメージする。魔力を少しずつ流していく。

 すると二つの素材から光が現れる。淡く火が燃えるように揺らいでいる。

 ガラス玉からの白い火が上る。マテリエからは緑とした火が煌めく。それらは熱くなく燃える勢いを増していく。

 しばらくすると錬金陣布中央に向けて燃えるエフェクトが移っていく。

 徐々に魔術陣の線を燃やして中央に収束する。混ざり合った火が次第に形になる。


「上手くできたね」


 エーテルキューブが完成した。持ち上げてよく観察しよう。


「冷たいね。いい感じだよ」


 熱が飽和しやすいと品質がいい証拠。

 まるで緑のLEDライトがガラスの中央で光っているように見える。


「形がいいね。なにより美しいよ。イメージの通りにできたね」


 記憶通りの出来具合に思わず嬉しくなる。


「後は水のキューブがあれば試作の薬ができる。だけど肝心の水がない」


 水はどこで手に入るのかな?

 井戸水とかあればいいんだけどね。

 井戸を作るコマンドとかないのかな?


 取あえず設定画面を開いてみよう。


「うーん、いろいろあるんだけどね」


 ログアウトの後でキャラクターに何をさせるかを設定するアシストメニューに、土地の整備をするビルドコマンドの設定がある。他にも選べる項目がありそうだけど、今は選択できないみたいだね。


「ビルドコマンドを開いているんだけど……」


 最初は四種類表示される。

 家の内装に畑と外壁と用水路の設定がある。そういった項目に必要経費と材料が記載されている。


「畑の場合は農具が必要になるみたいだけど、外壁や用水路はレンガが必要になる」


 レンガを作るには錬金か鍛冶スキルが必要になる。

 鍛冶は錬金で代用が利くから今は覚えなくてもいいのかな?


「そうすると……」


 水のために用水路を造ってもいいけど、何か違うような気がする。


「うーん、どうしようかな?」


 こういう時はNPCに聞くのが一番だよね。

 ファーマッドさんに会いに行こう。


「そったら木工スキルを取っとくといいべぇ」


「木工? なんで木工なの?」


「おめえはなんも分かっちゃいねんだぁな。木工つったら大工だろうが。家さ造るとしたら大工だべぇ」


「え? そんな感じなの?」


「んだんだ。まあ取っといた方が無難だべぇ。人に頼むこともできさするが、そうすっと工賃が掛かるべぇ。実費の費用に十倍が加わるんだ」


「だったらそれでいいよ」


「なんだぁおめえ、誰かに作ってもらうんだか? そったらここで対応しとるべぇ。なにさあ造るんだべぇか?」


「井戸を造って欲しいんだけど」


「井戸か? なるほどなあ。いいべぇ。5000ギニーさ支払ってくれるんなら造るべぇ」


「え? そんなにするの?」


「そんなもんだべぇ」


 本来の価格に十倍の値段が付くことになるとすると、実質の支払いは500ギニーになるんだね。

 もっと安いかと思っていたけどそんなもんなんだね。


「だったら止めておくよ。木工スキルを取って自力で作ってみるね」


「んだんだ。その方がええ。井戸さ造るには木工スキルレベルが最初からでもできるんだべぇ」


「そっか。ありがとう。やってみるね」


「んだ。他に何かあるべぇか?」


「あ、そうだ! 薬草の苗を手に入れたんだけど増やすにはどうしたらいいのかな?」


 ついでだから聞いてみよう。


「そりゃあ畑さ造って植えるに限るべぇ。ただし薬草は育ちづらいべぇ。育てるには適した環境が必要になるべぇ」


「そっか。じゃあさあ、その適した環境はどうやって造るの?」


「そうさぁなあ……。影が必要なら日陰を造ってやればぁええし、日当たりを好む植物には水はけの良い所さ造るのがいいかもなあ。でもまあおめぇんところはそったらこと気にせんでもええはずだぁ。薬草はなんでも育つし工夫せんでもいいはずだべぇ」


「そっか。だったら井戸を造った後に畑も造ってみるね」


「うだうだ。ちなみに農具は持っとるだべぇか?」


「うんん。持ってないよ」


「そりゃいかんべぇ。無いと何もできん。今なら安くしとくから買っておくのがいいべぇ」


「いくらになるの?」


「本当は500ギニーだべぇが、めんこいおめぇには安くしとくべぇ。150ギニーでどうだ?」


「え? そんなに安くていいの? 買うよ」


「毎度ありだべぇ」


「うん、ありがとう。さっそく作業しに行くね」


 よかった。いい買い物ができたね。

 拠点に戻って木工を取得しよう。


「お?」


 ビルドコマンドに井戸が追加されているね。


「なるほど。木工スキルを取得すると作れる物が増えるんだね」


 あとは材料と500ギニーを用意する。

 必要な物はレンガだね。滑車とロープとバケツと汲み取りポンプはどうしたと突っ込みを入れたくなるけど、そこはゲームだと割り切ろう。


「取あえず石を集めよう」


 錬金、錬金。


 数時間ほど掛けて石が集めたのでレンガを作っている。

 魔術天秤で決めた通りに分割した石を錬金陣布に乗せている。

 魔力を流して石レンガを一気に二〇個ずつ作っていく。


「ぐるぐるぐるぐる~」


 量が多いと魔力が渦を巻く。光の流れを生んでいる。

 積み上げた石の量に比例して時間が掛かる。

 完成するまで手を掲げて魔力を制御しなければならない。その間は暇になるので、今も続いているアルケミストゲームの気分を堪能している。


「ぐるぐるぐるぐる~」


 前世からぐるぐると声に出すと無性に落ち着いてくる。

 錬金術の成功率も上がるような気がするので、作業中はいつもこうしている。


「あ?」


 光が収束している。

 完成を知らせる合図だね。

 この輝きが四角い形になったときに魔力の制御を止めると上手くいく。


「できた! やったね!」


 簡単だね。

 手のひらよりも小さいレンガをたくさん作ることに成功したよ。


「どんどん作るよ」


 まだまだ数が必要だ。

 今作った物を床に置いてどんどん増やしていこう。

 余るくらい作っても問題はないからね。だってレンガはどこにでも必要になるんだもん。


「よし! こんなもんかな?」


 いっぱいできたね。あとは設置場所を決めるだけ。

 家の近くがいいのだけど、将来的にちゃんとした物を建てる予定だから、邪魔にならない場所を選びたいよね。

 今は畑の水も兼ねるけど、いずれは用水路で対応するつもり。だからその点は考えなくてもいいよね。


「じゃあここにしよう」


 勘だけど土が湿っぽいし、家を拡張したときに邪魔にならないような気がする。

 ビルドコマンドを操作して作業開始の許可をする。


「どうかな?」


『ビルド〈井戸〉が完成しました』


「こんなに簡単にできちゃうの?」


 一瞬だったね。


「水質はどうかな?」


 井戸の汲み取り器具に触れてみると、『水の汲み取りを行いますか?』と、メッセージが表示される。

 当然、許可を選択する。


「あれ?」


 しかし、『容器が無いので採取できませんでした』と、メッセージが返ってきた。


「なんでだよ」


 こういうのは勝手に作られる物じゃないの?


「仕方がないな」


 作るしかないよね。

 ボクは家の中に戻って魔術陣布の前に立つ。


「材料はガラス玉だけでいいよね? 作る容器は何でもいいはずだ」


 床に置いたガラス玉を錬金陣布の模様に設置する。手を掲げて魔力を放出したまま完成品をイメージする。


「ビーカーができたね。今度こそ水が汲めるよね?」


 ボクは再び井戸水の汲み取りに挑戦する。


「お願い。成功して」


 すると、『〈水〉を採取しました』と、メッセージが表示される。


「やった! できたね!」


 あとはこのまま井戸水のエーテルキューブを作って、ヒーリング草のエーテルキューブと合わせれば、ヒーリング系の薬ができるはずだ。


「その前に畑を作ろうかな?」


 その方が効率的だよね。

 ボクはビルドコマンドを開いて畑の作成を選択する。


「一区画50ギニー……」


 お金が残り少ない。

 それでも造らないといけない。ボクは150ギニーを支払って10メートル四方の畑を三つ造ることにした。


「できた」


 これで植えた苗に水を与えるだけでいいはずだ。アシストメニューを開いて畑のメンテナンスを選択しておこう。こうすることでプレイヤーがプレイできない間は、キャラクターが自立して畑の面倒を見てくれるようになる。


「なるほど」


 携帯電話にアプリを入れればリアルタイムに変更設定ができるみたいだね。

 忘れないように覚えておこう。


「それじゃあ薬作りに戻ろうかな? ん?」


 突然メールの着信メッセージが表示される。


「誰からだろう」


 システムコマンドを開いてメールメニューから内容を確認する。


「あ、サクラだ」


 やっとボクのメッセージに気づいてくれたんだね。

 生産ギルドの依頼を受けて手が離せなかったらしい。

 商業街ヘテでバザーを開いているので、一度見に来てという内容が書かれている。


「うーん……」


 作業が終わったら合流しよう。

 一時間したら行くと返信しておく。


「じゃあ本番だね。さっそく薬を作ってみよう」


 作業開始だ。


「うーん、サクラたちはどこに居るのかな?」


 商業街ヘテのバザー会場に着いてからしばらく歩いている。


「安いよ! 安いよ! 鉄製の武具がなんと! 市販の四割引だ!」


「素材アイテムは要りませんか? ダンジョン一層でドロップするクエストアイテムだよ」


「ヒーリングオイルはいかがですか? ダンジョンの宝箱で手に入る品物だよ! 市販よりも安くしておくよ!」


 ユーザーの皆さんがお金稼ぎに必死になっている。

 それにダンジョンで手に入れた物を売っている人がいる。

 すごいね。ボクなんて入る方法すら分かっていないのにね。


「この辺りって云っていたのに……」


 バザー会場の端っこに居ると書いてあったけど、端っこも広場になっていて、たくさんの露店が並んでいる。


「あそこかな? それともそこかな? うーん……あ! 居た! やっと見つけた!」


 よかった。というか皆がボクを見てくるから誰が誰だか分かんなくなるよね。

 やっぱりキラキラしているから注目を集めるのかな?

 今もすごく視られている。気配が嫌らしくて恥ずかしいよう。


「あれ?」


 サクラしか居ない。

 アクトとファイデルはどこに行ったのかな?


「こんにちは。来たよ」


「いらっしゃいませ。歩いている様子がここからでも分かっていました」


「もう! 気付いているんならメッセージくらい送ってくれてもいいよね?」


「ダメですよ。ディーさんが可愛いのがいけないんです。それで? 今まで何をしていたんですか?」


「うん。拠点を持ってから適当に狩りをして、適当に農業と錬金をしていたよ」


「なんだか充実していますね。詳しく聞かせてください」


「いいよ」


 ボクは今までの経緯を大雑把に伝えていく。


「農地が買えるのですか? 初めて聞きました」


「そうなの?」


 家族の三人にも伝えているけど、驚いてはくれなかった。


「それに錬金で作った薬も気になります」


「うん。見せてあげるね」


「ぜひ」


 ボクはヒーリングリキッドとアンチドーテを一本ずつストレージから出してサクラに手渡す。


「これはどういう物なのですか?」


「ヒーリングリキッドとアンチドーテだよ。アンチドーテは毒と麻痺を治すのに使えるんだ」


「そうですか。少し調べる時間をいただいてもいいですか?」


「うん。いいけど何をするの?」


「鑑定紙を使って品質を視るんです。まあ少しお金が掛かります。一回10ギニーほどですけどね」


「いいの?」


「はい。初めて見る物ですし、鑑定紙も手作りですからね。気にしないでください」


「そうなんだ」


 鑑定紙って何だろう。ボクも作ってみたいな。

 なんかインスピレーションが湧いてくるね。

 一応記憶の中に留めておこう。


「これは……」


「どうしたの?」


「ディーさん。これいくつ持っているんですか?」


「どっちのこと?」


「ヒーリングリキッドです」


「いっぱいあるよ」


「でしたら譲ってくれませんか?」


「え? どうして?」


「あ、すいません。つい効能のすごさに驚いちゃいました。実はこのヒーリングリキッド。HPが350も回復します」


「そんなことまで分かるの?」


「はい。鑑定紙は鑑定石を基にしているので、一回だけですが、同じ効果を発揮してくれます。それでどうでしょう。ヒーリングリキッドを500ギニーで売ってもらえませんか?」


「いいけど、そんなに高い値段でいいの?」


 よく分からないけど、なんとなくそんな気がする。


「はい。実は知り合ったユーザーの方に効能の高い回復薬が欲しいという方が居まして、その方に売ろうと考えています」


「そっか。だったらいいよ。12本でいい?」


「そんなに売ってもらえるのですか? ありがとうございます」


 全部買うんだね。サクラってお金持ちなんだ。

 アイテムトレードメニュー画面が表示されたので、ボクはヒーリングリキッドを選択する。12本を対象に指定する。

 買取り金額に6000ギニーが表示されたので、ボクは確認完了のボタンを選択する。


「ありがとうございます。ふふ」


 本当に嬉しそう。


「ところでアクトとファイデルの姿がないけど、二人ともどうしたの?」


 何をしているのかなんとなく気になる。


「もうじき強制ログアウト時間になるので、それまでの間にレベル上げをしていますね。ダンジョンの一階に居るようですよ」


「そうなんだ。サクラはいいの? 一緒じゃなくて」


「私は居残りです。二人は先に全部売り切ってしまったので、やることがないんですよ」


「そっか……」


 バイタリティーがすごいよね。ボクが作業している間に皆がどんどん先に行っている気がする。


「それにしても強制ログアウト時間なんてあったんだね」


「はい。7日と12時間が経過すると強制的にログアウトすることになります。詳しくはホームページに載っていますよ?」


「そうなんだ。知らなかったよ。ありがとう。それとごめんね。教えてくれて」


「いえいえ。そういう方の方が多いですよ。あ、お客さんです。いらっしゃいませ!」


「うん。じゃあボクはそろそろ行くね。ありがとう」


「はい」


 他のプレイヤーに負けたくないね。

 できればトップになってみたいよね。

 ダンジョンに行ってレベル上げもしたいし。

 でもまだ早いかな?

 勘だけどそんな気がする。


「そうだ」


 ここに来たついでに冒険者ギルドに寄っていこう。

 ワープで行けば一瞬だよね。


「それでしたらFランクの依頼をお受けになったらどうでしょう」


「どうしてそうなるの?」


「はい。信用値を取得するついでにお金と経験値が取得できます。信用レベルを上げるといいことがありますよ」


「例えばどんなことがあるの?」


「それは秘密です。ディー様ご自身でお確かめてください」


「ふーん、そうなんだ」


 きっと攻略に関わることなんだろうね。


「あっ、忘れましたが、信用ポイントはランクによって得られる上限が決まっています」


「え? どういうこと?」


「ディー様の場合はGランクですので、一日2000ポイントまで稼ぐことができます。ディー様の世界での一日が経過したその日の午前六時からリセットされます」


「えー、もっと早くに教えて欲しかったなー」


 つまり信用ポイントは一気に稼ぐことができないものになる。きっとゲームの進行に影響がある何かが隠されているに違いないね。


「じゃあ何かおすすめの依頼はないの?」


「はい。常時依頼のゴミ掃除なんてどうでしょう。信用ポイントが700も得られます」


「じゃあそれにするよ。依頼紙を取りに行けばいいのかな?」


「いいえ。そちらはこの場で受理いたします。今からでもよろしいですか?」


「うん」


『〈街のゴミ掃除〉依頼を受注しました』と、チャットログにメッセージが流れてきた。


「ではよろしくお願いしますね」


「うん!」


 取あえず街の中から行ってみよう。


「夕方だね」


 ノルマの半分も終わっていないのに、もう八時間が経っちゃった。


「もうすぐ夜だ」


 まずいよ。間に合わないよ。


「にしてもここは人が居ないね」


 商業街ヘテから始め、職人街デリントを通り、観光街ローデスから住民街ザッカートを掃除する。思ったよりも綺麗なので農業街ルカルゴで仕方なく続きをする。

 そこから外に出ないように歩いていたら、世界樹の外周にたどり着く。今は根っこが見える場所でゴミ拾いをしている。


「なんで人が居ないのにゴミだけあるのかな?」


 南にあるダンジョンの入り口から真逆の方向へ歩いている。

 北には深緑の森が広がっている。森の中はプレイヤーどころかNPCすら居る気配がない。

 東側に農業街ルカルゴがあるため、意外と近くに拠点がある場所になる。


「それにしても街の中からこんなに離れている森の中なのに、ここも街の中なんてびっくりだね」


 世界樹の根っこには魔物が寄って来ない理屈があるようで、街の一部と分かるBGMが流れている。


「あ、またゴミだ」


 結構ある。


「やった。また見つけた」


 不思議と根っこの先に向けて落ちている。

 地図で分かる。どうやらボクは根本から離れて森の中に向かって歩いているらしい。


「うわ、汚い。ヘドロの沼だ」


 ゴミがいっぱいある。


「でもこれでノルマが達成できるのかな?」


 だって汚いんだもん。

 数十回の往復でも綺麗になるか分からないくらいあるよね?

 でもちょっとだけやる気が出てきたかも。

 だってここに来ればゴミ掃除の依頼を簡単に終わらせることができそうなんだもん。


「よし、がんばるぞ!」


「――え! もう二回目を終わらせたのですか?」


「うん。もう一回受けるよ」


「ありがとうございます。ディー様のおかげで街が綺麗になりますね」


「う、うん。そうだね」


 あそこも街の一部ならね。


「それでは引き続きもう一度お願いします」


「うん。行ってくるね」


 幸い近くがボクの拠点だからそれほど時間を掛けずに沼地にたどり着くことができる。


「さてと。ラスト一周がんばりますか」


 魔術で明るくして作業に取り掛かろう。

 よいしょ。よいしょ。


「だいぶ拾ったね」


 泥がぬかるんで奥が歩きづらいけど、その分たくさんゴミを拾うことができる。


「でも……、なんか変な感じがする」


 なんだろう、この違和感。何か見落としているような気がする。


「うーん……あっ!」


 歩ける場所が増えているかもしれない。


「もしかして、水気が少なくなっているのかな?」


 腰の高さがあった水が足首ほどに減っている。よく見ると泥が露出して歩けそうなところが多くなっている。


「どういうこと?」


 満潮とか干潮とかの関係かな? でもここ海じゃないし。


「時間かな?」


 今は深夜の三時。システム画面に表示された数字だから間違いない。

 これは何かありそう。しっかりとメモに記録しておこう。


 ボクはゴミ掃除を進めながら周囲の状況を確かめていく。


「うわ、大きい……」


 世界樹の太い根っこが露出している。さっき通れなかったところが歩けるようになっている。


「街の掃除依頼はこれで終わりだね。後はこの辺に何があるのか調べるだけだ」


 ぬかるんでいる地面を歩いて魔術の明かりを照らす。建物よりも大きい根っこのすき間を進んでいく。


「え?」


 なにこれ?


「こんな場所に洞窟の入口?」


 それとも樹洞のオブジェクトかな?


「いや違うね」


 ダンジョンの入口だよ。先に階段が見えるからね。


「どうしよう……」


 行っちゃう? 行っちゃうよね?

 意を決し一歩足を踏み入れると、突然BGMが変わる。


「え? これ面白い」


 出たり入ったりすると曲が変わる。


「むふ」


 楽しいね。こういう遊び方もいいよね。


「…………うん」


 マップを開いて冒険者ギルドにワープしてすぐに帰ってくる。


「やっぱりそうなるよね?」


 泥水がいっぱいになっている。


「となると、深夜の三時が怪しいのかな?」


 明らかにダンジョンだったね。まだ誰も見つけていない場所だったよね?


「そうだね」


 ここはボクだけの秘密の場所にしよう。

 だって公開したら面白くないもん。

 こういうのは競争なんだよ。攻略できるうちに全部独り占めにするんだ。


「うふふ。いいね」


 俄然このゲームのやる気が出てきたよ。


「じゃあそろそろ時間だし、拠点に戻ってログアウトしよう」


 もう空が明るくなってきたからね。あと六時間もしたら強制ログアウトするってチャットログにも書かれているしね。


「それに……」


 過去の全体チャットログに、『誰かが〈根源のダンジョン〉を発見しました』って、メッセージが出ているね。

 それよりも過去のログには、『〈根源のダンジョン〉初回到達により、10000ギニー、スキルポイント3、経験値3000のボーナスを取得しました』『レベルが12になりました』『〈探索者〉の称号を取得しました』と、表示されている。


「えへへ」


 初回到達者ボーナス。なんか嬉しいね。

 それに根源のダンジョンっていい響きだね。

 もしかしてワープで移動ができたりして。


「……え? できるの?」


 ワープ先に根源のダンジョンが追加されている。


「これ、もしかしてボク、やっちゃったかな?」


 嬉しいな。ボクもトップユーザーの仲間入りだ。


「えへへ」


 さて拠点に帰ろう。今日も学園があるし、起きたら朝食と弁当を作らないといけないからね。

 改訂履歴

 2025/12/31 全修正。年始も頑張ります。


 なんか一人称って読みやすいです。次からは日記を書く思い出し視点になります。三人称風になるので、分かりずらい感じがします。

 ですので、もっとわかりやすくなるように、努力していきます。

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