第24話 なんとなくゲームを進めていく
書見お願いします。
現在進行で以前の文章を直しています。
最初からお読みの方は、申し訳ありませんが、文章が少し変わっていくかと思います。
よろしくお願いします。
「まずはセオリーですね。手分けをして情報を集めましょう」
「賛成だね。僕もそれがいいと思う」
「俺も異論はない」
皆で行動するって言っても一緒に移動するわけじゃないんだね。実際は一人で動いて得た情報の共有をし合うってことになるのかな?
「ディーさんはどうですか? 不満はありますか?」
「いいよ、ボクもそれで。でもね、一つだけいいかな?」
「はい。なんでしょう?」
「最初は全員で冒険者ギルドに行くのはどうだろう。チュートリアルでも説明があったし、素直に従った方がいいと思うんだ」
「あ、そうですね。いい案ですね。ファイデルとアクトはどう思いますか?」
「いいだろう」
「僕もそれでいいよ」
「決まりですね。それでは出発しましょう」
「「おー!」」
ノリがいいんだね。三人ともなんだか楽しそう。
歩き出すサクラの後ろに全員が付いていく。
「ここも人が多いですね。皆さん、プレイヤーさんなんでしょうか?」
「だろうな。サービス初日ということもあって数千人のユーザーが集まっているからな」
「なんだかこういうのを見るとわくわくしてきますね」
「姫は元気だね」
「まあ、この状態が続けば良作と云えるだろう。どの世界でも最初は盛り上がるものだ。今だけのお祭りと割り切って、しばらくは楽しませてもらおう」
「身も蓋もないことを言わないでください。あ、ここですよね? 冒険者ギルド」
看板に大きく日本語でそう書かれている。
「ここも人が多いですね。皆さん考えることが同じなんですね」
「いや、入れないほどでもないだろう。さあ、行くぞ」
「あっ! ファイデルくん! 待ってよう!」
サクラから先頭が代わり、ファイデルとアクトが前に出る。
大きい入り口を通り、込み合う広間の真ん中を歩く。
奥へ進むと、木造りのカウンターが並び、人が押し合うように集まっている。
その間を強引に割り込むファイデルがカウンター前に近づいていく。後を追っていくと不思議なことに、たくさんの人が影のように薄くなる。
「すいませんが大変に込み合っております。ご用件がある方は声を掛けてください」
受付の女性が声を張り上げている。そう認識した途端にファイデルとアクトに続き、サクラの姿が薄れていく。
「あれ? どういうこと?」
そう声を上げると周囲の気配も消えていく。ボクと女性が対面することになる。
「こんにちは。今日はどういったご用件でしょうか?」
なるほど。こうして一人一人に対応してくれるんだね。
「ゲームを始めたばかりなんだけど、どう進めていいのか分かんないんだ。詳しく教えてくれないかな?」
「えっと、おっしゃっている意味がよく分かりません。要するにギネルダウヤールのダンジョンについて聞きたいということでよろしいでしょうか?」
なるほどね。こうやって強引に会話が成立していくんだね。上手くできているね。
「うん、そうだよ。どうしたらダンジョンに行けるようになるのかな?」
こうなってくると雰囲気に合わせた方が良さそうだね。話の流れに乗って情報を集めていこう。
「初心者クエストのご依頼ということですね。よろしければメッセージ内容の受入れをお願いします」
『クエスト〈初心者装備を整えよう〉が発動しました。イベント依頼を受注しますか?』
大昔のオンラインゲームのように、システムアナウンスがメッセージになって視界に流れてくる。当然ボクは許可を選択する。
「ではさっそく依頼内容のご説明をさせていただきます」
受付のお姉さん。名前はシンディ。オープニングで聞いた通り、この国の王様が世界樹ギネルダウヤのダンジョン攻略を推進している。そうした会話が続いていく。
「という訳で、ギネルダウヤールには世界の全てがあるとされる財宝が眠っているのです」
「うん、そうだね。そういう話だったよね」
オープニングでは、妖精族のボクが王様の客人として召喚されることになる。まるで小説のようにボクが魔法で転移され、その結果として頼みごとを言われることになる。
きっと他の人も同じように始まったのだと思う。理由が病弱の娘の病気を治して欲しいという内容だ。
方法は二つ。最上階で財宝を手にすること。または世界樹の新芽の樹液を手に入れること。
どんな手を使っても構わない。絶対に願いを叶えて欲しい。
そんな答えにディーが否応なく了承し、客人として入城許可証を受け取ることになる。
そうして手に入れた獣皮紙風の証明書をアイテムストレージから取り出し、受付のカウンターに提示する。
「これを見てもらってもいいかな?」
「まあ! 王家の紋章入りの入城許可証ですか! そうですか! そういうことですか!」
どういうことだろう。よく分かんない。
「でしたら入用の物はこちらで用意しておきますね」
「えっ、いいの?」
話が通じたみたいだね。
「ではこちらをお受け取りください」
「お?」
なんか効果音が流れてきた。
アイテム取得の知らせだね。
どれどれ。さっそくストレージの中を調べてみよう。
「おお?」
どうやら初心者の皮鎧に、初心者のショートソードと、初心者のブーツがセットになって入手できたみたいだね。
「こちらもお受け取りください。アイテム袋になります。ディー様に合わせ、特別に容量が大きい物をご用意しました。腰に下げてお使いください」
この革袋がアイテム袋になるんだね。実際の物とは違うように見えるけど、そこはゲームだね。
取あえずもらった物は全部装備してみよう。
「お似合いですよ」
「うん、ありがとう」
『クエスト〈初心者装備を整えよう〉を達成しました』
「あっ! レベルが上がった」
「おめでとうございます。クエスト報酬の経験値によってレベルが上がったようですね。しかし残念です。ディー様は無職ですのでクラス補正がほとんどありません」
「クラス補正? なにそれ?」
「クラスとは職業を意味します。職業に就くことでレベルアップのときに得られるステータスポイントを高めることができるようになります」
「ん? そうなんだ」
ジョブシステム的なにかなのかな?
「どうでしょう。ここでクラスチェンジをしてみてはいかがでしょう」
「どういうこと? このままじゃいけないの?」
「はい。基本的にメリットはあまり多くありません。無職のままでもレベルが上がっていくにつれてステータスは向上して行きます。ですが、その恩恵はあまりにも少なく、おすすめできないからです。なぜなら最上レベルに到達するとクラスチェンジが行われ、自然にクラス先が決められてしまうからです。任意のクラスに就くことができなくなるデメリットは、冒険者にとって致命的になるからです。ステータスは引き継がれるメリットがあるのですが、その成長率も低く、今からクラスチェンジをした場合と比較しても、それほど差はないかと思います。それが理由ですね」
「そうなんだ。だったら何になれるの?」
「ここでは、ソードマン、アーチャー、シールドガーダー、アドベンチャーに就くことができます」
「ここではってことは、他にもそういったことができる場所があるのかな?」
「はい。冒険者ギルドの他には、魔物使いギルド、魔術士ギルド、治療院ギルド、生産ギルド、商業ギルドなどがあります。その他にも隠れギルドが存在し、専門のクラスに就くことができます」
「なるほどね。生産をしたければ生産ギルドに行けばいいし、魔術を極めたいのなら魔術士ギルドに行けばいいんだね」
「はい。その通りになります」
「あのさ、素朴な疑問なんだけど、クラスチェンジのやり直しはできるのかな?」
「はい。可能です。ですが、レベルが一になるのでおすすめできません」
「えっと、ステータスも初期状態に戻るってこと?」
「そうなります。利点としては、スキルポイント以外の成長率に影響を与えると云われています。ですがレベルを下げてまでクラスチェンジをするメリットがないため、実質上無駄な行為であるとも云われています。それに二度目のクラスチェンジにはお金が要求されます。その額も大きいことから、やる人なんてほとんどいませんね」
「スキルポイント以外ってことは、やり直すためにクラスチェンジをすると、レベルアップでスキルポイントが取得できなくなるってことかな?」
「はい。任意でのクラスチェンジを行った場合に限り、前回のレベルまでスキルポイントの取得ができなくなります」
それってすごいデメリットじゃないのかな? 聞いておいてよかったよ。
「自然にクラスチェンジをするとステータスが引き継がれるんだよね? ちなみにその後のレベルアップは、当然スキルポイントが手に入るよね?」
「はい。自然にクラスチェンジとなった場合には、リセットが行われないので、成長率に影響することはありません。そのままクラスボーナスの恩恵を受けることができます」
「だったらボクはこのままでいいよ。その方が強くなれる気がするからね」
「そうですか。非常に残念です。お客様が当ギルドに所属していただけるのでしたら、他のギルド員も大変に喜んでくれると思ったのですが……」
なるほどね。クラスチェンジの案内を理由にギルド員を集めているんだね。
そうして専属の会員にして他のギルドとの差別化を図る。そんな感じのシステムになるんだろうね。きっと。
なんか不親切だね。もう少し説明が欲しいよね。
気を付けないと。
「いろいろとありがとう。また分からないことがあったら聞きに来るよ」
「そのときはぜひお立ち寄りください」
「うん、じゃあね」
そう意識すると、不思議にシンディの気配が薄くなる。
「あれ? あんなに居た人たちがいつの間にか居なくなっているね」
どうやら話をしているうちに混雑が解消されたみたいだ。
「三人も居なくなっちゃった。あ?」
メールだ。システムに案内記号が表示されている。
「えっと、ディーが戻ってこないので私たちは生産ギルドに行くことにします。クラスチェンジができるとのことなので、その方面に行こうかと思います」
そうなんだ。
「うーん、どうしようかな? 一人になっちゃったし、どこかで戦闘でもしてみようかな?」
ボクは、『落ち着いたら一緒に遊ぼうね』と、メールの返信をする。そのまま外に向かって歩いていく。
「ここはどこかな?」
北へ歩き回ってようやく外に出たと思ったら広大な農地が続いている。
「広いよう」
一時間ほど歩いたけど畑から抜け出せないね。
「完全に道に迷っちゃった……」
なんか面白くないなあ。
なんていうか、こういうオンラインゲームってボクだけの特別感が欲しいよね。
例えば特別な力とか、小説みたいに運が良くイベントが起こるとか。ボクにしかできない驚き展開があるとかでもいいよね?
「なんかない?」
さすがディーさんだねって言われそうなイベント。
「せめて誰か居てよ。ボク一人だと寂しいじゃないか」
こういう場所にはNPCが居ていろいろと教えてくれるはずなんだけどね。
「あれ? なんかあるね」
そう思っていたら、遠くに大きな建物が見えてくる。
「やったね。さっそく行ってみよう」
近づいてみると家畜小屋が見えてきた。玄関口に農家さん風の男性が繋ぎ姿でフォーク型のスコップを担いで立っている。
「こんにちは」
「お? どした? こんな辺ぴなところにべっぴんさんが珍しいだべぇな」
「道に迷っちゃたんだけどここはどういうところなのかな?」
「なんだ? おめえさぁ道に迷っただけなんか? オラてっきり農地の購入さ来たんかと思ったべぇ。今なら安くさ買えるから、急いできたんと違うんかぁ?」
「え? ここで土地が購入できるの?」
「んだべ。今なら安くしとくべ。一つの区画で1000ギニーだ」
「高いよう」
初期の手持ちは1500ギニー。使ったら何もできなくなっちゃいそう。
「なんだべ? おめえ、安いところがお望みなんかぁ?」
「うん。じゃなくて、外に出たいんだよ。外に出るための方法を教えてよ」
「外の近く? 森の近くさぁ欲しいってことか? おめぇチャレンジャーだべぇな。あそこは遠いし、魔物さ害獣が多くて荒れ果てているだべぇ。作物さ育てるには大変だべぇよ。それでもえんだべぇか?」
「うん。なんでもいいから外に出られる場所を教えてよ」
「おし、そこまで決意が固いんなら売ってやるべぇさ。一区画と云わず限界の八区画合わせて500ギニーだべぇ」
「え? え? あ、うん。だったらそれでいいよ」
「おし! 毎度ありだ!」
あれ? なんかお金が減った。
「ワープさ使え。すぐその場に行けるだべぇ。ちなみに城壁なんてねえからな。境界を越えたらすぐ敵さ出るだべぇな」
「ワープ?」
「なんだぁおめえワープも知らねえだべかぁ? 街の中さ居れば一度行ったポイントに移動できるだべぇ」
「なにそれ。初めて聞いたんだけど。むう」
なんて不親切なゲームなんだよ。
どうせだったらギルドで話していた時点で教えてくれてもいいよね?
ボクは歩いた場所しか表示されない地図を開いて現在位置を確認する。
「農業街ルカルゴ? ここってそういう名前なんだね」
「おう。そうだべぇ。ここさぁギネルダヤの食料さ賄っている場所になるだべぇよ。野菜や果物に薬草から家畜までさ、全てがここで生産できるんだべぇ」
「そうなんだ」
なるほど。ワープってそういうことか。
地図を意識すると移動できるポイントが表示されるんだね。
「あ」
行ったことがない空白の場所にマイプレイスっていう文字がある。
ここが今購入した場所になるのかな? 選択する許可の可否案内が出てくるね。これに許可をすると移動が開始されるのかな?
「じゃあさっそく移動してみるね」
「おう。分かんねぇことさあったらおらに聞くといいだべぇ。いろんなもん売っとるさかい、必要になったら来るといいべぇ」
「うん。じゃあね」
手を上げたままボクは移動先の許可を指定する。
「ん? お? うん?」
一瞬だったね。なんか拍子抜け。
「ここがボクの土地?」
なんとなく境界が分かる。だけど言われた通りひどい場所だね。
一見して砂利と大きな岩が散乱している荒れた土地だね。
というか広すぎる。もっと狭いかと思っていたのに、これだけ広いと東京ドームも造れそうな気がするね。皆でサッカーとかして楽しめそう。
「あれ? なんかコマンドが出てきた」
プレイスネームの設定をしろ?
なんか強引だね。
どうしても土地に名前を付けないと行けないのかな?
「適当でいいよね」
後ででも名前を変えられそうだし、今はディープライベートファームロケーションに設定しておこう。
「あっ! なんか建物が出てきた。家っていうか小屋かな?」
低いけど柵も造られている。
「なんか不思議。やっぱりゲームって感じがするね」
中はどうなっているのかな?
さっそく入ってみよう。
「おー! 意外と広いんだね!」
外観と違って間取りがとても広く取られている。何もないところにベッドが一基置いてあるだけだけどね。
「あ?」
なんかコマンドが出てきた。作業の設定操作ができるみたいだね。でも今は外に行きたいから後で見ることにしよう。
ベッドはログアウト用のコンソールになるんだね。先にここを拠点ポイントに登録をしておこう。
「これでよし」
もしもボクが魔物にやられてもここからスタートすることができる。
最初は宿屋が役割を果たすことになるから、復活時に多額のお金を取られるって聞いたけど、どうやらここだとタダになるみたいだね。
「意外といい買い物ができたのかもしれないね」
でもどうしてこうなったんだろう。
ただ外に出られればそれでよかったんだけどね。
「まあいっか。結果オーライだよね?」
だけど安かったね。
なんか理由があるのかな?
「あっ! そういうこと?」
コマンドの中に答えがあった。生産できる項目の適正値がおかしいことになっている。
薬草以外の成長率がマイナスになっている。野菜や果物が育ちづらい環境になっていると注意が表示されている。
他にも家畜や養殖といった飼育系の生産も壊滅的だ。ほぼ百パーセント不可能に近いマイナス補正が付いている。
代わりに薬草の補正値が高く、通常の三倍早く育つ効果が付けられている。
理由は外から害獣がやって来るという設定にあるみたいだね。獣が好きそうな物ほどマイナス補正値が付いている。
「まあ、農業には興味がないし、別にいいんだけどね」
その辺は適当だよ。適当。
薬草しか育たないのなら薬草で工夫をすればいいし。
それに何かしらの方法があるはずだよね。お金を掛ければきっと上手くいくはずだ。
「じゃあさっそく、安全地帯から外に出てみよう」
幸いすぐそこが森になる。
名前は深緑の森だ。オープニングの後で魔物を倒すチュートリアルを受けたときの場所でもある。
「出てくる敵はホーンラビット。何度も戦っているからどうにかなると思う」
一角で突撃してくるウサギの魔物。
攻撃を避けて横から一撃するとすぐに倒すことができる。このゲームでは最弱のモンスターになるらしい。
この体で戦うには打って付けの相手になるね。
「初めての戦闘だし、軽く行ってみよう」
チュートリアルではデモンストレーション用の身体で戦っていたからね。
同じように動けるか分からないけど、試しにやってみよう。
「じゃあ行こうかな?」
まずは森に慣れるところからだね。
木の根を避けて歩いていこう。
「あっ! また薬草だ!」
採取しないとね。
よいしょ。よいしょ。
「うーん、それにしても敵が出てこないね」
森の入り口付近を歩いているけど、一匹も出てこない。
逆にヒーリング草にポイズン草とパラライズ草を手にすることができた。
他にも白角石と発砲石と岩塩を見つけることができた。
ついでだけど変な模様の石や変わった草と表示される未鑑定品のアイテムもたくさん手に入れることができた。
「戦いたいなー。戦ってこのゲームの特徴をつかんでおきたいなー」
もう少し奥に行ってみたら敵が出てくるのかな?
「あっ! キノコだ!」
これも選択できる物みたいだね。
選択できるってことは採取ができるってことだよね。
植物学のおかげで不思議な形をした物の名前がなんとなく分かってくるよ。
「マジック草?」
これ、キノコじゃないんだね。
効能に魔力の回復と書いてあるね。
とても貴重で入手が難しい。
これも薬草の部類だから農場で育てられるのかな?
「取りあえず採取しておこうね」
採取は簡単だ。
土を掘り起こして根ごとアイテムストレージに入れるだけでいい。
道具もなぜかストレージに入っているので、そのまま木のスコップを使えばいい。
ただこれも初心者用の採取道具なので、いろいろと制約がありそうだけどね。
「よし、採れた」
ストレージシステムはとても便利だね。
アイテム袋を手に入れた時点で容量が拡張してくれている。積載量が1000キログラムだ。
種類や数には関係ないみたい。重さが目安になるようだね。
「あーあ、敵が出ないかなー」
お? 何か今物音がしなかったかな?
「…………」
やっぱり近くに何かいるね。
ガサガサと音がする。
「よし、こっちから攻めてみよう」
気配を消した振りをしよう。もしかしたら現実と同じで効果があるかもしれないからね。ショートソードを手に持ってゆっくりと近づいていこう。
足音を立てないように。といっても、そんなことができているのか分からないけどね。
だけど意識していこう。現実と同じ感覚で歩いてみよう。
「ゆっくりだ……、ゆっくり……」
居た。ホーンラビットだ。
でも一匹だけみたいだね。
距離があるけどまだボクに気付いていないみたい。
この体は思ったよりもいい感じだね。
暗いところでも視野が効くし、意外と動きやすい。
「あっ……」
気付かれた。
こっちを見ている。
体長一メートル。
大型犬位の大きさがある。
チュートリアルの時よりも大きいね。角の一撃をまともに受けると一瞬で命を落としそうな気がする。
大丈夫。ボクならできるよ。現実のように動けばいいだけだ。
ショートソードを構えて周囲の広さに気を配る。と、その時だった。
ホーンラビットがボクに向かって飛び跳ねてくる。
ボクにとっては遅いとは思うけど、それなりの速さがあるね。胸に向けて角を突き立ててきた。
確実に避けて調子を視よう。
「よし」
上手く避けられることができたね。
ラビットが再び体勢を立て直し、突撃を仕掛けてくる。ボクはすかさず体を横にずらし、最短の動きで回避する。
するとラビットが目の前を横切るように飛んでいくのでそこにショートソードを突き入れる。
「わっ!」
固い。刃先が当たったのに完全にはじかれた。
これ、ゲームなんだよね?
いつもと感覚がいっしょなのに力の入り具合が全く違う。
敵がボクから距離を取っている。
ここは逃げるべきだろうか? それともいったん距離を取った方がいいのかな? いや、止めておこう。まだ試していないことがあるからね。
魔力感応を意識しよう。魔覚と同じことができるのならワンチャンスあるはずだ。
全身に魔力をまとわせる。
現実の基本を忠実に再現しよう。最も基本となる御覚を研ぎ澄ましていこう。
「うん」
来るね。
ホーンラビットが走り始める。
あらかじめ離れた間合いの距離から一気に加速してくる。
次こそは仕留めてみせる。ボクはさっきと同じように体を横にずらして回避に努める。
すれ違いざまにショートソードを突き立てる。
「ギュウー」
よし、通った。
今度は上手くいったね。
思った通りだ。
魔力感応は魔覚と同じみたいだね。
「だったら! ここから!」
ボクは御覚を強め、全身を強化し、全てのステータスを底上げする。
血を出して地面で暴れている敵に向かって一撃を加える。
首が胴から離れ、盛大に血が飛び散っていく。
「うえ?」
こういうのはリアルにしなくてもいいじゃないのかな?
血の匂いも現実と同じ気がする。
かなり獣臭くて鉄分が混じる内臓の匂いがするね。
「うっ」
気持ち悪い。久しぶりに見る生き物の死ぬ瞬間は心にグッとくるね。
「でも」
もしかして解体もしないといけないのかな?
解体は苦手じゃないよ。
前世からいろいろとやってきたから、体が覚えている。
「まあゲームだし? 失敗してもいいよね?」
ちょっと嫌だけど試しにやってみよう。
まずは血抜き。
といっても首を切り落とした時点ですでに抜けている。
なので、手早く内臓を切り分ける。
首から腹部に掛けて一気に解体用のナイフを通していく。
ナイフは初めからストレージに入っている物を使用している。
綺麗に内蔵を切り分けたら、中から魔力石を取り出す。それをストレージに仕舞込む。
「これが最低限の解体だけど……」
ホーンラビットは使える場所が多いそうだからね。
もう少し解体してみようかな?
次はお尻の部分からだね。ゆっくりと皮を剝がしていこう。
吊るし切りがいいのだけどできる余裕がないので、魔覚を使って素材に魔力をまとわせていこう。
肉と皮が分離しやすいように分解をイメージするんだ。すると不思議なほどに皮が切り離しやすくなる。
「できた。ちょっと雑だけど、久しぶりだから仕方がないよね?」
脂肪分が皮に少し多めに残っている。
以前のボクだったらリンゴの皮むきのように無駄なく切り分けられたのにね。
でもまあ、ここまで出来たなら十分だよね。
骨抜きはしてもいいけど、地面にいったん置かないといけないので止めておこう。
ボクはこのままストレージに骨付き肉と毛皮を仕舞込む。
「うわっ! くっさ! しまったな……。体が血だらけだよ」
こんなところもリアルなんてひどいよね。
「うぅぅ、だったら魔術で解決してやるんだからね」
体を洗浄する術はある。
かなり高等だけど、使い始めの人でもできる魔術になる。
それでも現実と同じだとしたらだけどね。
「詠唱は必要なのかな? 試しに声を出して使ってみよう」
基本はプログラミングにある。
パソコンのプログラム言語と同じで、コードを使用方法通りに組み込んでいくように唱える必要がある。
ただし、その言葉が魔術の意にそう呪文であるかが重要で、言葉のニュアンスが大雑把に合えばそれでいいことになる。
今回は原文で詠唱するけど、本来は日本語に圧縮して唱えることが一般的になる。
取あえず、体を洗浄するには洗浄の魔術用語を使う必要がある。
「クーリング、フォルテルス、ゼーア、ヴィメース、アーダー、エレロス、トイッツゥ、デューメニュー、ヘード、セトライ」
すると体の周りに光が走る。そして詠唱の最後に実行を意味する呪文が絶対に必要になる。
「インプローブ!」
光が周囲に輝きを走らせる。なんだか目の周りと鼻の辺りにフワフワとしてこそばゆい感じがするね。
「うん。できたみたいだね」
こんな風に魔術の詠唱は用語を覚えることにある。
その意味を自分で作った言葉に予約することで、オリジナルの詠唱文を作ることができる。
例えば。
「スウ、フォルセルス」
炎よ。ディーの名によって業火となりし大地より、この場に生まれ出でよ。その力を持って全てを焼き尽くす役目を果たせ。
「エンプローブ」
これで詠唱の予約ができた。予約中にボクの頭の中で用語が組み込まれている。だから今作った文章を口にすることで、炎を出すことができるようになる。
本当はね。予約しなかった場合は長い原文を言葉にしないといけないんだよ。
でもね。こうすることで唱える文字を短くすることができるんだ。
本当だよ?
「まあ、今は魔力がもったいないから使わないけどね。もう少し戦闘に慣れてきたら試してもいいかもしれないね」
それじゃあ次に行ってみよう。
もう少し森の奥に行けば、もっと敵が出てくるよね?
ボクは入り口付近から外れ、森の中に入っていく。
「あー、疲れたー」
もう夜だね。
街中は明かりでいっぱいだ。酔っ払い風のNPCが肩を並べて歩いているね。
それにしてもいっぱいウサギが捕れたね。
あの後で二〇匹も狩っちゃったよ。
レベルも二つ上がっていい感じ。
魔力感応スキルレベルも上がってきたし、これでダンジョンに行けるようになるのかな?
ステータスも今はこんな感じになったよ。
『
名前:ディー
種族:妖精
レベル:4
クラス:無職
称号:高貴なる血筋
戦闘力:689
HP:[42/66]MP:[330/409]
力:[18+2]敏捷:[58+9]知力:[78]
スキル:SP[3]
錬金術[1]魔力感応[8]魔術[3]
剣術[5]魅了[3]運気[4]
植物学[3]鉱石学[2]魔物学[2]
』
「うん。まあまあだね」
プラスされている数字は魔力感応を常に行っているせいだ。
使えば使うほどスキルレベルが上がり、力と敏捷を上昇してくれる。
知力の高さも割合に影響する。
レベルが上がって得られるボーナスポイントの全てを知力に振り分けることで、バランスよくステータスを整えることができる。
現実も同じだよ。
魔力の量が強さに直結する。
魔覚を扱えない冒険者は三流以下になるんだよ。
でもね。
「そんなのどうでもいいんだよ」
お腹がぺこぺこなんだよ。
このゲーム、時間が経つと空腹になるんだよね。何か食べないとHPが消費していくみたい。
だから一旦街に戻ってきたんだ。数十分ごとに1ずつダメージを受けるから、このままだと死んでしまう。
早く何とかしないとまずいんだけど。
「冒険者ギルドに行けばなんとかなるよね?」
さっそく中に入って聞いてみよう。
改訂履歴
2025/12/29 全文修正しました。
ゲームの世界を書くのは難しいです。
書かない方がよかったか、自問自答中です。




