第20話 チームの勝利と帰還
2024/12/20 投稿しました。
書見お願いします。変なところがないか心配です。
「ボクのミスかも……」
そうささやいたニルトの視線の先で巨大ゴーレムの左足を支える萌恋に変化が生じる。
桃色ラバースーツ姿の全姿が宙に浮く。
まるで幽霊にでもなってしまったかのように体が透明になり、現実から乖離してMAXガインダーワンの巨大な左足に埋もれてしまう。
そう体感し、どうしたらいいのか分からない萌恋の見開かれた茶色い瞳には、巨大ゴーレムロボの左足内部を認識していた。
さっきまであった両腕の重たい疲労感も消え、まるでどこかに転移したかのように、いつもと違った無重力感を得ている。
それは時音にも云えることだった。
これはどういうことなの?
体が軽いわ。
あのまぶしい光の影響が全くないわね。
そっか。またなのね。
またニルトが何かしたのね。
そんな風に時音が虹色に輝くニルトの背中に向け、水色の瞳を細める。
ニルトによって生み出された固有スキル、無難世界の逃避によって、二人の防御力が極端に上げられている。
防御力とは、敵の攻撃から身を回避することと同じ意味になる。
ニルトの守りの力を仲間に伝えるオーラシールドの効果によって、全員の体が相異世界へと誘われることになる。
そのことを全く考えていなかったニルトが、萌恋にMAXガインダーワンの足止めをお願いするはずだったのに、無難世界の逃避の作用によって体が透過し、ゴーレムを受け流すことになる。
ゴーレムの左足が萌恋の守りをすり抜け、黒い地面に着地となった。
それが原因でギミックが発動している。
金属の巨大ボディが緑に輝き、魔術的作用によって地面から回復の魔素が上気している。MAXガインダーワンの上限1000とする残りのMPを急速に増やしている。
そのことを調べの能力で知ったニルトが、腹立たしく眉を寄せ、赤い瞳を細める。
ほほを膨らまし、物足りない顔になる。
「むう」
魔力が回復するなんて卑怯だぞ。
これじゃあ枯渇作戦が台無しじゃないか。
どこにあるんだ。魔力の供給源は。
それを探すため、瞳を閉じ、五勘を研ぎ澄ます。
離覚と彩覚と共覚を合わせる極意、覚睹を用いて、魔力の流れを読み取っていく。
「そっか。そういうことか」
見える。
フロア全体の魔脈の流れが。
魔術的な回路を形成し、ダンジョンからエネルギーを汲み上げている。
まるで水流のように巡る魔力の脈動が電気送電のように数ヶ所に集中している。
敵の左足のつま先にある黒い石床が原因の一つ。
他にも二ヶ所ある。
遠くの窪地と時音の背後。
おそらくその全てに影響し、一定量を等分に回復していくギミックになるんだろう。
時音と萌恋を二か所に移動させることができれば、この大きいゴーレムの回復を三等分に分けることができる。
だったら話が早い。
二人にその場所まで移動してもらうことにしよう。
そう思案したニルトが、萌恋と時音に作戦を伝えるため、その思いを魔力に乗せて声にする。
「萌恋! お願いだよ! 今見えている場所に向かってくれないかな?」
不思議と通る幼い声の響き。
目的の場所とした風景が、ニルトの作り出した世界の中に居る萌恋の茶色い瞳に宿る。
その導きに対し、萌恋が、「分かったよ。やってみる!」と応え、五〇〇メートルほど離れた黒い窪地に向けて走り出す。
その返答を耳にして、「ありがとう」と、告げたニルトが、背後に振り向き、「時音もお願い」と、声にした。
時音が瞳を細め、ニルトの思いを受け取ったかのように、「あそこね」と、つぶやく。
MAXガインダーワンが巨大な両腕を胸に寄せ、頭上に振り上げる。
「ウォオオオオオオオオオーン!」
エンジンを排気するかのような音を鳴らし、再び赤い魔導陣とした輝きが放たれる。巨大ゴーレムロボとした両足の元から、赤い陣模様が出現する。
装甲厚い胸を張り、M字型のビームを繰り出す構え。
そうはさせないとするニルトが虹色の羽を震わせる。
空中に足をわずかに浮かべ、巨大ロボに向けて白い地面を沿うように飛翔する。
浮遊移動を開始した。
眉を寄せ、目力を強め、戦いの経緯を分析する。
あの必殺ビームは固有スキル無難世界の逃避によって防ぐことができる。
問題はその分の消費魔力が大きいことだ。
このまま時間を掛けて同じことを繰り返していけばボクのMPは尽きてしまう。
そうなる前に黒い地面から敵を引き離すしかない。
そう考えたニルトが赤い瞳に光を宿す。
緑のドレスコートをなびかせ勝負に出る。
右手から左手に持ち替えたイメージシェイプロッドを収納し、MAXガインダーワンに向けて速度を上げていく。
白い地面から足を浮かせ、風を切る速さになる。
途中でさらに上昇。
両手両足を広げ、口を開く。
「魔装! フェアリーオーツ! ファーストフォーム! 具象せよ!」
その掛け声に合わせ、ニルトの周囲が黄金に輝き、武具のマークを胸の中心に描く魔術陣が両手と両足先の五ヶ所に出現する。
魔力でできた装備を生み出すアビリティー、【魔装具象】を用いて幻想の装具を形にする。
両手に巨大なマナアームを着用し、両足に魔素噴出孔を備えたマナバーニングレッグを装着する。
背中から頭に掛けて空気抵抗を極力抑えた卵型フォルム、マナフルヘッドボディアーマーで身を包む。
レッグと同じく背中に二基の噴出孔を備える。
まるでSF映画に出てくるパワードスーツのように、ニルトの全姿が白色の装甲で隠れていく。
頭部から遅れて魔術陣が黄金色に輝き、ベールとしたカプセル型のヘッドギアが現れ、瞳を隠す黒いヘッドフロントガードが形になる。
乗機完了。
白い魔装足から虹色のマナバーニングを噴出し、MAXガインダーワンのボディに向けてより速く飛翔していく。
「ぶっ飛ばしてやるんだからね!」
ニルトの叫び声に合わせ、敵の胸部青い鋼板に右の魔装アームが突き出される。
「うぉおおおおおおー!」
MAXガインダーワンの巨体がニルトの力によって白い地面を滑り、ずるずると後退する動きをする。
遅れて左の魔装アームがMAXガインダーワンの青いボディに突き出される。
「もう! これで!」
宙に浮き、虹色のバーニングを吹かせる魔装具姿のニルトの両アームが敵のボディに接触し、ロボゴーレムの巨体が徐々に後退する速度を強めていく。
さらに魔装ボディの背中にある二基のマナバーニングからも虹色の魔素を激しく吹き放ち、MAXガインダーワンの巨体を黒い足場から遠ざける。
「ガァオォオオオオオオーン!」
その力に抗うように巨大ロボゴーレムがエンジンを振るう音を響かせ、脚の駆動モーターを激しく鳴らし、白いひざを曲げている。
白黒とした地面の境界を捕捉し、MAXガインダーワンの青い足先が、周囲より窪んだ区切りのすき間に突き立てられる。
その反動で後退する動きが止まり、青い胸部装甲に魔装アームを当てるニルトの力と拮抗する。
体勢を崩したゴーレムにニルトが攻勢を強める。
激しい押し相撲の始まりを告げる合図のような叫びが響いていく。
「いけぇえええー!」
「グォオオオオオオーン!」
互いに魔力枯渇を意識した死闘の開始になる。
そこに萌恋と時音が気配を強め、大声を口にする。
「着いたと!」
「ここでいいのよね?」
二人がニルトの作戦通りの位置にたどり着く。
その足場から円陣が出現し、淡く緑の輝きが彷彿と二人の足から頭へと流れていく。
それを魔覚で鋭敏にした耳で聞いたニルトが、「後は任せて!」と告げ、黒いヘッドフロントガードに隠れた瞳を開き、眉を寄せてほほを緩める。
自信に満ちた表情で戦いに向けた意気込みを思案する。
なにがなんでもこいつを魔力床から追い出してやる。
絶対に勝つんだもん。
赤い瞳に力が宿る。
調べの力を全開にしたニルトが、敵の魔力量を計り、自身の魔装アームに力を込める。
「もう少し! これで行けぇえええぇえええー!」
ニルトの叫びの通り、巨大ロボゴーレムの足が後退する。
黒い領域から左足が離れ、白い地面に青い足先を着かせる。
その巨体が傾き、魔装アームを突き出すニルトと少しの距離を開ける。
「もう観念しろよ! お前に勝ち目はない! 大人しく負けを認めろ!」
告げ口に魔装具スーツの制御を想いで操るニルトが、ヘッドギアから覗く口元を大きくし、「はぁあああー!」と、吠える。
背中と脚にある四基のマナバーニングから出力違いの輝きが現れる。
その反動でマナフルヘッドボディが反転し、左レッグの後ろ回し蹴りが巨大ロボの青い胸に繰り出される。
鈍く反響する金属音。
軽く仰け反るMAXガインダーワンの胸部装甲に続けて右回し上段蹴りが炸裂する。
激しい打音を轟かせ、ニルトの魔装具スーツ背中にある二基のマナバーニングが噴出する。
そのまま体勢を整え、その反動を利用し、次々に蹴りの連続攻撃を仕掛けていく。
「ニルくん! かっこよかよ!」
少し離れた場所で萌恋が右手を振り上げる。
不思議と体が軽くなる空間で気分を落ち着かせ、下から吹き上がる緑の風が心地よく、激しく攻勢に出るニルトに声援を送っている。
その傍らに浮かぶ六色の光。
遠くに居る萌恋を意識する時音が、腰のベルトから一つの光を解き放つ。
通じの力を使い、銀に光る精霊に伝言の思いを告げる。
「アイ。あの子たちに伝えて! ニルトを全力でフォローするの!」
アイと呼ばれる銀色のアストラルエオンが明暗と輝く。
それに合わせ、萌恋の周りに浮遊する六つの光が白一色に染まる。
隊列を組み、ニルトに向けて舞い上がる。
円陣を成し、浮かぶニルトの右横に付く。
黒い地面から緑の光を吸収し、白の輝きを強め、ニルトの魔装具を緑色で満たしていく。
その力に充てられたニルトが、時音の思いを感じ取り、ヘッドギアから覗くほほを緩ませる。
力が湧いてくる。
魔力が少しずつ回復していくみたいだ。
この甘い感覚は時音の匂いで間違いないね。
すごく助かるよ。
そう時音に感謝し、魔装アームを交互に打ち付けるニルトが、MAXガインダーワンの巨体を右へと傾かせ、右脚を動かした。
それによってMAXガインダーワンの左右の青い足の全面が白い地面に着き、白いひざの可動部を曲げて、ニルトから来る攻撃の威力を吸収する。
ようやく態勢を整えたMAXガインダーワンの右拳が前に突き出される。
その巨大な拳を魔装アームで受け止めたニルトが、続けて来る左拳もアーム先の右手で受け止める。
黒いヘッドフロントガードに隠れた瞳を細め、両アームに力が入る。
両手の魔装アームで敵の両腕を抑えたニルトが、残り半分の魔力を活用し、四基全てのマナバーニングから虹色の魔素を噴射させる。
「うぉおおおおおおおおおー!」
「ブゥオオオーン! ブゥオオオオオオオオオーン!」
ニルトの叫びと巨大ゴーレムの響きが重なり、虹色の魔力と青い魔力の光が衝突の火花を散らす。
次第にMAXガインダーワンの全身から青い光が発生する。
その光景に前世の記憶が蘇り、ニルトが咄嗟に声を上げる。
「おい! 汚いぞ!」
ゴーレムの倒し方にはいくつものパターンがある。
その一つが破壊による停止。
五体を叩き壊し、動けなくする方法だ。
その他にも魔力枯渇破壊がある。
動力源を失い、内部的に機能が壊れて動けなくなる方法だ。
この場合が最上の倒し方と云われ、戦闘後の報酬が最も良くなる。
そして魔核破壊。
弱点となる魔石を破壊する倒し方だ。
質の良い魔力石の報酬を諦め、素体の金属を回収することができるようになる。
他のゴーレムの場合でも同じ理屈で、ドロップアイテムの魔力石が小さくなる。
最後にその全ての方法以外の特殊な倒し方がある。
それが自爆の誘引破壊になる。
アイテム素材が変化し、様々な魔素を含む金属を落とす。
魔力石も同じ理屈で変質する。
壊れることなく残る場合もある。
しかし、その反動は計り知れない破壊力を生む。
数々の冒険者を殺してきた禁断の技。
「自爆プロセスを開始します。十秒後に実行します」
赤い瞳で調べの力を使うニルトにしか分からない音声が流れてくる。
「カウント開始。九」
秒読みが始まった。
敵の巨大な腕を抑えて魔装アームに力が掛かり、逃げることも動くこともできないニルト。無色の魔素を放ち、萌恋と時音の二人に向けて声を上げる。
「二人とも伏せて! 敵の最後の攻撃が来るよ!」
その声を耳にした萌恋が、ニルトの指示通り窪地から身を隠すように腰を落とす。黒い石床にうつ伏せる。
同様に聞き耳を立てていた時音が咄嗟の判断から、「全員アスに続きニルトの防御に当たれ!」と告げ、その場で身を屈む。
銀色のアストラルエオンたちの光が茶色に染まる。
ニルトの大きい体に薄い魔力壁が形成される。
「六、五、四」
フェアリーオーツに身を包むニルトが背中から虹色の羽を広げ、六つの茶色い光ごと全身を包む防御姿勢を取る。
その寸秒に考えを巡らせる。
残りの魔力が少ない。
結果次第で二人に影響が出るかもしれない。
時音に萌恋。
怪我だけは絶対にしないでよね。
その気遣いが萌恋と時音の体を透過とさせる固有スキルを発動させ、その瞬間、「自爆プロセスを開始します」と、異世界言語とした女性の声が響いていく。
次の瞬間、MAXガインダーワンの各部装甲から四方柱状に青い光が拡散する。
次第に全身が淡い青に染まり、その反動で塵に含まれる魔素が地面から浮き上がる。
魔素収束現象を引き起こした。
それは強大な魔力の波動が訪れる前触れのようなもので、異世界風に例えると、魔力災害と呼ばれる現象になる。
マナテンペストとも呼ばれる自然災害で、精霊が暴れたことにより発生し、魔素のトルネードが吹き荒れる前兆の時にも起こる。地面に含まれる魔素を消費して環境変動を引き起こす。
超大な魔力が収束されるときにも起きる光の錯覚で、空気中の魔素濃度が極限まで高まる時に必ず発生する。
その光が乱反射し、魔素を含んだ塵や砂が淡い青の色に染まっていく。
こういった場合は防御力無視の一撃になる可能性が高く、ニルトの無難世界の逃避を無為にする可能性がある。
そう視認するニルトの視界全域に青い光が膨張していく。
ゆっくりと周囲へと広がり、それが戦いの最後の合図となる。
輝く光がニルトの守りによって火花を散らし、オーラシールドの効果で萌恋と時音にもその抵抗力が付加されていく。
次第に大きくなる光によって同じような火の煌めきが二人の目前でも生まれていく。
一瞬だけ辺りが静まり返り、遅れて大爆発音が轟いていく。
爆風の赤い炎と共にMAXガインダーワンが消滅のプロセスをたどる。
そして、数分と時間を掛けて空間を支配していた炎の膨らみが少しずつ小さくなる。
輝きが徐々に薄くなり、タイヤを焦がしたような煤の臭気を漂わせる。
不思議と風が流れ、酸素濃度を高めていく。
どこからともなく霧雨が発生し、周囲の気温を落ち着かせてくれる。
地面に魔装具の足を着かせるニルトが、レベルアップのファンファーレを耳にし、「魔装解除」と、つぶやく。
全身の虹色を消し去り、瞳を閉じ、周囲に意識を配る。
敵が居ないことを知り、納得するように赤い瞳を瞬きを青緑の輝きに戻す。
肩を揺らし、大きく息を吸う。
心の中で喜びを表現。
やったよ。
勝ったよ。
ボクはがんばったんだよ。
「ニルト。聞いているの? 私は怒っているの!」
「ん? 聞いてなかった。ごめんね。考え事をしていたよ」
「もう一度言うわね! 戦いに勝てたからよかったけど! 今度からはもっと慎重に探索を進めて欲しいのよ!」
「うん、そうだね。ボクもちょっと反省していたところだよ」
五分前の余韻に浸り、気持ちの整理が付かないニルトが、時音との会話に身が入らず。
地面に正座し、叱責を受け止めていた。
七色の光に囲まれている青銀の美少女を見上げ、未踏ダンジョンの探索を強引に進めた責任を感じ、その言及に耳を傾けている。
その傍らで桃色髪の可愛い少女が背中を向けている。
敵が消滅した後に残る青い魔力石と巨大な宝飾箱に茶色い視線を当てている。
それらにしか興味がない萌恋が、屈んで箱表面の赤い細工に触れている。
「ねえ、しぃちゃん。ニルくんも反省しとると思うし、そろそろ箱の中を確かめてみようよ。うちはすごく気になるよ」
「萌恋、こういうのは最初が肝心なのよ。ニルトは分かっていないの。強いってことに麻痺しているのよ。今後私たちと共に探索をしていくのなら、常識的な感覚を身に着けてもらわないと困るのよ」
「反論の言葉もないです。ボクが悪いと思います」
反省している振りをしつつ、気持ちが浮付いているニルトは、自分で告げた通りに座ったままの姿勢で頭を下げる。
事実ザッハフロッグ戦の後で無理をしたのが原因だと承知していたので、反論できないでいる。
今回は無事に済んだからいいけど、いろいろなことを考えさせられることが多かったと、心内で思い、二人が居て楽ができたと、チームワークの大切さに感心する気持ちが芽生えていた。
そうした思いを告げるために、ツインテールの前髪から覗く青緑の瞳を上げ、反省したように口を開く。
「次からは危険が少ないように気を付けるよ。だから今回は許してよ。今度の探索でそれを証明するからさあ。ねえ? 時音、お願い」
「ふーん、そういう事を云うの。じゃあそれでいいわ。次はいつにする? 明日もダンジョンに行けるのかしら?」
「え? 明日は無理だよ。学園もあるし。しばらくは勉強しないといけないからね。部活動だってあるもん」
「そう? じゃあいつがいいの? できれば今週中にして欲しいわね」
「う、うーん……、うん! 土日が空いているよ! 泊まり込みでも何でも行けると思う!」
「じゃあ決まりね。土曜日は泊まり込みで行くわよ? 萌恋もそれでいいかしら?」
心内で言質を取り、嬉しい思いの時音が振り返る。
宝箱を開け、中から何かを取り出している後ろ姿の萌恋に、水色の瞳を大きく開ける時音が、「萌恋!」と、大声を上げ、続けて口にする。
「何をしているの! 危ないじゃない! 罠があったらどうするの!」
「ねえ、しぃちゃん。見てよ、これ? 新しい盾が入っとったよ」
萌恋が宝箱の底から両腕で持ち上げた物が言葉の通りの丸い形をした盾になる。
中心が盛り上がり、形状と大きさからバックラーを連想させる。
それに青緑の瞳を当てるニルトが、「ボクに触らせてくれないかな?」と告げ、調べの力を知る晴れ顔の萌恋が、「いいよ」と、快く応えを返す。
ニルトは立ち上がり、萌恋に近づき、両手で抱える盾に右手をそえる。
瞳を赤くし、その視界に映る意味を心内で読み取る。
「なるほど。良い物だね」
つぶやきの通り、あらゆる攻撃に対し抵抗力を高める効果がある。
「ワンダーエーレルシールド。衝撃耐性の魔術的作用がある魔導具の盾みたいだね」
「なんか、よう分からんけど、それは凄か事なん?」
「うん、そうだね。良い物だと思うよ」
「なあ。さっきのでっかいのとやり合えるくらいに強く成れるんかぁ?」
「うん、成れるよ。重量にも耐性があるから、どんな重たい攻撃でも軽減されると思うよ」
「本当か? じゃあこれうちにくれんかね? こげでしぃちゃんとニルくんの役に立てるばぁい」
「ボクはそれでいいよ」
「本当! 嬉しい!」
「待って!」
突然ニルトと萌恋の会話に時音が中断を呼び掛ける。
「萌恋。その前にその盾が本当に使えるのかを試してみた方がいいわよ」
「大丈夫だよ。ニルくんが調べてくれたんだから」
「本当かしら? ちょっと怪しいわね」
確かに時音の云う通りだ。
本番で初めて使うには危険かもしれない。
時音の懸念にニルトが納得するようにうなずき、丸い盾の握りに片手を通す萌恋を視線で捉え、使い方についての助言を告げる。
「萌恋。ボクの云う事を言葉にしてくれないかな?」
「うん、えんよ」
「盾よ。力を示せ」
「ファーラ。フォルフェレンラ。……これでえん? あっ!」
教えの通りに告げた萌恋が持つ盾の表面から光が放たれる。
縁の周りが無色の輝きに満ち、光沢ある装甲がフォトンの光で大きくなるように広がりを見せる。
「そうそう。それでいいんだ。後は盾の形状を思い浮かべてみてよ。大きくしたり、長くしてみたり。萌恋の思い通りになってくれると思うよ?」
「本当! やってみる! えっと、大きくなれ――あっ! できたと。できたよ! ニルくん! ありがとう!」
「うん、よさそうだね。魔力の消費も安定しているようだし、上手く使いこなせていると思うよ。さっきの言葉は覚えておいてね。考えるだけでも盾に反応すると思うから」
「えへへ。ありがとう、ニルくん。これでうちも二人の役に立てると」
笑顔で答える萌恋に、厳しく眉を寄せる時音の周りに浮かぶ七つの光が茶色に染まる。
「萌恋。これを防いでみて!」
「え? なんなん? きゃっ!」
時音のアストラルエオンたちから魔力弾が飛び出していく。
萌恋の持つ盾に当たり、火花が弾ける。
「しぃちゃん! 止めてよ!」
「次はもっと強くいくわよ! 萌恋! 今度はしっかりと盾を持って構えなさい! 本気で攻撃をするわ!」
「え? うん! 分かった! やってみるよ!」
「ファラ、アス、フウ、ライ、スイ、チユ、アイ。全員で攻撃よ! 萌恋! 行くわよ! 準備はいい?」
「いいよ! しぃちゃん!」
守備の整えを告げた萌恋が魔力を使い、左腕に装着した丸型の守りから光の装甲を広げ、それを要に体を横にする。
そして全身を隠すタワーシールドを創造し、光の盾を地面に突き立てる。
時音が使役する七つのアストラルエオンたちがそれぞれ固有の色彩を放ち、円陣を組み、回転していく。
中心に輝きを収束させ、それぞれが混在するマーブル色の光を放ち、バスケットボールほどの球体を作り出す。
「行きなさい! 矛盾する境界! 行く先を阻む物の全てを溶かし破壊せよ! ディスクレパントフロンティア!」
「ふーん。時音も強い力を持っているんだね」
二人から距離を取ってつぶやくニルトの赤い瞳には、時音によって作り出された球体が幻時の属性の魔力弾であることを映し出す。
ゆっくりと速度なく浮かぶそのエネルギーからは、銀色の核となる力場が生まれ、触れた物の時を止めて光子に変換する原子分解力が備わっている。
速度が遅く止まっているようにも見えるが、その威力は計り知れないポテンシャルを秘めている。
もしもゴーレムの魔核に当てることできたなら、一撃で消滅させることもできただろう。
それほどの力を惜しげもなく試しに使うことに感心したニルトが、守りに徹する萌恋ならば問題ないと判断し、赤い視線を送る。
「こい! うちが防いでやるんだからね!」
その言葉の通り魔力弾が怪しく七色の歪んだ光を放ち、萌恋の装甲に接触する。
「重いよ。しぃちゃんの鬼!」
「耐えているみたいね。ん! よかった……。問題はなさそうね」
一瞬だけ赤い火が煌めいただけで、その輝きが盾に防がれ、瞬時に消滅する。
「怖かったよ。しぃちゃん、これで心配はなかよね?」
萌恋が盾を持つ左腕を下げる。
「まだ気になるところがあるけど、フォースシールドよりは断然良さそうね」
地面に置いてある十字型の武具に時音の瞳がいく。
その傍らで別に意識を向けていたニルトが、ドロップした魔力石に近づき、両手で持ち上げる。
アイテム空間に仕舞い込むように消し去り、萌恋が覗いていた宝箱まで歩いていく。
自分の体ほどある大きさの箱の中にツインテールの頭が入り、赤い瞳を光らせる。
「へえー、いっぱいあるんだね」
青色の快癒ポーション。
緑色の魔力ポーション。
金属のインゴット。コインほどの大きさで一見して分からない数がある。
赤い炎の魔素を含む魔炎鉄。
風の魔素を内包し、淡い緑とした魔風鉄。
冷たく青い魔素を取り込んだ魔氷鉄。
その他にも様々な魔素を含み、それぞれ特徴ある色合のインゴットが、箱の中下を埋め尽くしている。
魔素を含む金属は魔合金属とも呼ばれ、魔物の素材と純金属を合わせて精錬することで、造ることができる。
その価値は純度に比例する。
魔術具や魔導具を作るのに適している素材である状態に値が付くことになる。
そのことを前世の覚えで知るニルトには、目の前の物にそれほどの価値があるものではないと判断する。
それよりも貴重な物が視界に入り、瞳を見開き、声を上げる。
「帰還石があったよ! これで帰れるね!」
箱の角中に四つ。
淡い黄色とした中心の結晶核が、透明な外形をその色合いで満たしている。
「時音、萌恋。今日はもう帰ろう」
盾談義に熱中していた萌恋と時音が、ニルトの掛け声に気付き、集まってくる。
「そうやね。もう五時半だし、いい頃合いだね」
「そうね。それはいいのだけど。今回ドロップしたアイテムはどうするの? これだけの量を持ち運ぶのは難しいわ。どこに仕舞っているのか分からないけど、ニルトの手品のような力を公にするのかしら?」
地面に置いた背荷物に目を向ける時音が、大量に入手したドロップアイテムをどうやって持ち運ぶのかを気にした様子。
そのことを考えていなかったニルトが、「あ! そっか!」と、気付き、左手から青く四角い鞄型のアイテム袋を出現させる。
「これに入れて持って帰って来たことにできないかな?」
そう声を出し、困ったように眉を寄せたニルトに、時音が口を開く。
「それ、魔法のアイテム袋よね? 小さいけど高価の物よ。本当に大丈夫かしら」
魔法のアイテム袋は収納容量が多く、人工アイテム袋と違い、特別な保存装置を必要としないため、途方もない金額で取引されている。
使用者にしか使えない制約はあるものの、時間を置けばその制約も解除されるため、悪意がある者から盗まれる心配がある。
そのことを危惧する時音に、考えるよう青緑の瞳を上下に揺らすニルトが、口を開く。
「仕方がないよ。手に持って帰れる量じゃないし、仮に隠して持って行ったとしても、逆に怪しくて後で騒ぎになるかもしれないからね。それに規則上ドロップしたアイテムは一旦監査検疫署で保管されることになるから、素直に申告をした方がいいと思うんだ」
もしも申告漏れが発覚した場合には、それ相応に関わった探索者の信用が失われることになる。
その場合は多額の罰金が科せられることになり、ある種のお尋ね者としてしばらく名前が知れ渡ることになる。
それを知るニルトが、「なんとかなるよ」と告げ、続く言葉を口にする。
「さあ、帰ろう。二人とも帰還石の使い方は分かるよね?」
「うん。でも、ニルくんが使こうてくれた方がよかと思うよ?」
「そうね、ニルトが適任ね」
「ん?」
どういうこと?
萌恋と時音の返答に首を傾げるニルトが、いぶかしく眉を寄せる。
「ん? どうしたと?」
「ニルト、もしかして知らないの?」
「ん?」
萌恋が首を傾ける。
時音があご先に右指をそえ、少し首を傾けている。
それに対し、全く話の内容の糸口がつかめないニルトが、首を逆にコテンと横にした。
「もしかしてニルくん。帰還石は一人一個だと思っとる?」
「ああ、そう云う事ね」
「え? 違うの?」
「違うわよ。帰還石は使用者の魔力によって重量と移動距離が違ってくるの。ニルトみたいに強い人は、一つの帰還石で多くの物を抱えて運べるはずよ。そっか、ニルトって意外と知らないことが多いのね」
「むう。そんないい方しなくてもいいよね? ボクだって知らないことがいっぱいあるんだよ。時音のいじわる」
「あら。そんなことはないわよ? 私、ニルトのことが大好きよ。だってニルトを見ていると胸がドキドキするもの。それに可愛いし、萌恋もそう思うでしょう?」
「うん、そうやね。しぃちゃんの言う通りだよ。ニルくん、変なところで天然だから、見ていて飽きんよ」
「萌恋に言われたくないよ! むう。二人ともいじわるだよ!」
赤くほほを膨らましたニルトが、宝箱の中の物を収納するように左手をかざす。
ダンジョンと一体化した箱はそのままに、中の物を全て空間に仕舞い込む。
左手から帰還石の魔石を取り出し、右手に持ち替え、萌恋と時音に見えるように手前に開き示す。
「帰るよ! 二人とも準備をして!」
時音の大好き発言に恥ずかしくなり、それを隠すために帰りの思いを粗野に告げたニルトが、二人の帰り支度に青緑の瞳を瞬き、熱くなった顔が気になり、空いている左手でほほに触れる。
手に熱を感じ、アストラルエオンを腰ベルトに仕舞う時音の動きに不思議と瞳が泳ぐ。
二つの盾を左右の手で持つ萌恋と、大きいリュックを背負う時音に瞳を向け、左手の帰還石に魔力を通す。
まぶたを閉じて帰りの合図を告げる。
「二人とも行くよ? 準備はいい?」
「えんよ」
「いいわ」
「リターン。スタート」
修正履歴
2024/12/29 自爆に対する文章説明を修正。その他の文章微修正。
2025/7/17 全文見直し。微妙に修正しました。
2025/12/25 微修正。誤字脱字の見直し。行間調整。
なぜか時間が掛かりました。
微妙に昔の文章が気になるので、たまに修正しています。




