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第19話 ローバースト戦闘

2024/12/12 投稿しました。


がんばって今回も書きました。

書見の程よろしくお願いします。

 地面から煙が吹き上る。

 魔物の出現を知らせる現象だ。

 走り寄るニルトが、その影を両手でつかみ、腕に抱く。

 ほほにその白くフサフサの毛並みに当て、だらしなく緩んだ赤い瞳を開き、鼻息荒く甘えるようにつぶやく。


「もふもふ、可愛いなー。むふー。気持ちがいいね。ボクこの子持って帰るー」


 猫ほどの大きさで、マリモのような体毛を生やし、白い雲を連想するモクモクと名付けられる人気者。

 前世の記憶にもなく、伝え知るその外形を初めて目にしたニルトが、至福の喜びを表現する。

 ツインテールの幼い少女が、まるでペットを愛でる飼い主のように、そのだらしなく緩んだほほの顔を目にした時音と萌恋が、何も考えずに、無言のまま視線を送っていく。


「えへへ」


 お前の名前はムクだよ。

 今日からボクの家族だ。

 そう心の中で告げたニルトに、時音が近づいていく。

 立ち呆ける萌恋が、ニルトに非難を告げる。


「ニルくん。その子は魔物だよ? 危ないから放そうよ」


「そんなことないよ。ムクは優しい子だよ。だって、こんなにモコモコしていてフワフワしているんだよ? 暖かいし、柔らかいし。この子には害意はないよ」


「魔物に名前なんか付けたらあかんと。なあ、しぃちゃんもなにか言ってあげてよ」


 時音がモクモクを抱くニルトを見下ろすように正面に付き、口を開く。


「ニルト。私にも抱かせてくれないかしら?」


「ムクを虐めたりしないならいいよ」


「そこは信頼して欲しいわね」


「しぃちゃんまでなにを言うと!」


 ほほを緩ませ、満面の笑みをする時音に、モクモクを抱えるニルトが、「仕方ないなあ」と告げ、リュックとラバースーツ姿の腕にそっと乗せる。

 水色の瞳を優しく緩ませ、腕に抱えたモクモクに、「キミはどうしたいの?」と、つぶやく時音が、通じの力で対話を続けていく。


「ん? そう。へえ、そうね。ふーん。なるほど。そういう事ね。それじゃあ仕方ないわね」


 なにかを語り、赤ちゃんを抱えるように、ゆっくりと床に屈む。

 不審に思ったニルトが、「時音、なにしているんだよ」と、いぶかしく声のトーンを落とす。

 立ち上がる時音が、「まあ、いいから」と告げ、ニルトに一度瞳を向ける。

 再び腰を落とし、視線を下にして、「ほら、行きなさい」と、モクモクにつぶやく。

 するとモクモクが光を放ち、その場から薄れていく。


「ああ! ムク! 行かないでよ!」


 近づき腰を落とし、緑のドレスコート越しに手を伸ばすニルトが、かすむモクモクに触れようとする。

 しかしすでに実体がなく、触れたはずの手のひらが空を切り、モクモクの白くフサフサな体が消えていく。

 完全にその場から居なくなる。


「ムク! ムク!」


 赤い瞳から涙をとどめ、眉を寄せたニルトに、立ち上がる時音が、横から見下ろすように理由を告げる。


「ねえ、ニルト。ムクはね。あなたのことが嫌いじゃなかったの。ただ時機が悪かっただけよ。そうあの子が云っていたわ」


「ぐすん。酷いよ。なんでボクからムクを取り上げたんだよ」


「あの子の意思よ。あの子が云うには、支配者の力が強いって云っていたわ。どういう意味か分かるかしら?」


「うん……」


 支配者の力という言葉を聞いて、ニルトが涙目の眉を上げ、その意味を悟るうなづきをする。

 その二人のやり取りに耳を傾けていた萌恋が、桃色の眉を寄せ、いぶかしそうに瞳を細める。

 なんなん。

 このやり取り。

 うちは付いていけんよ。

 そう感じた萌恋が、涙目のニルトにどことなく不安を覚え、いつもと違う雰囲気の時音に、疑わしく眉を寄せる膨れた顔になる。


「分かったよ。ボク、このダンジョンを攻略する! エリア管理者を倒して、ムクを家に連れて帰るよ!」


「そうね。それがいいわ」


 ダンジョンで階層主を倒すと、様々な効果が得られるようになる。

 それには、魔物の弱体化も含まれる。


「私も手伝って上げる。だから、ニルトはあの子とまた出会えるように、全力を尽くして上げてね」


「うん。分かったよ。ありがとう、時音。ボク、時音が冷たい人だって勘違いしていたよ。えへへ。ごめんね」


「いいのよ、そんなこと。誤解が解けて嬉しいわ」


 涙を拭い、眉を晴らしたニルトが、微笑む時音の目に青緑の視線を見上げるように送り、口元を緩ませる。


「なあなあ、二人とも。なんかような、分からんけど、うちは間違っとると思うんだよね。しぃちゃん。ニルくんを騙すのは止めてよ。レベル上げがしたいって顔に書いてあるよ?」


「え? そうなの? 時音はボクに嘘を付いているの? じゃあムクはどうなるんだよ! ムクを返してよ!」


「萌恋。人聞きの悪いことを云わないで欲しいわね。嘘は言っていないわ。ここを踏破することでムクを手に入れることができるようになるのかもしれないのは、本当のことなのよ?」


「なんだ、そうか。ボク焦っちゃったよ。ごめんね、時音」


「いいの。気にしていないわ」


 やっぱりいい人なんだね。

 もっと冷たくて、自分のことばかりを考えている人だと思っていたよ。

 ごめんね、時音。

 だったら早く先に進まないとね。

 そんな風に時音の印象を温かい人だと修正し、探索にやる気が出たニルトが、「二人とも早く行くよ」と、言葉にし、左手から緑のフォースロッドを取り出して、右手に受け渡す。

 その姿に水色の瞳を当てていた時音が、心内でちょろいわねと笑い、ニルトの動きに付いていく。

 後方から萌恋が、微笑む時音の横顔を目にし、「はあ」と、ため息を吐いた。


「もう二十分くらいは歩いたと?」


「そうね。ダンジョンに入って一時間半と云ったところかしら?」


 話し合いながら、足の速い萌恋と時音の先頭を歩くニルトが、一直線に城塞上部の歩廊とした石切造りの石床を進む。

 幅広い道の中央を歩き、精巧に隙間なく敷き詰められた地面を踏んでいく。

 道は長く、常に緩やかな下り坂。

 曲がる階段を何度も降りて、途中でビックキャタピラーとキャンディージェルに遭遇する。

 それらを時音のアストラルエオンが先に対処し、ニルトがアイテムの回収を行っていく。

 そうした展開が何度も続き、自然と役割が決まり、チームに協調性が生まれてくる。


 歩く先が分かりづらく、霧で通路がかすんでいる。

 まるで半世紀以上昔の横スクロール型アクションゲームのように、テレビ画面表示の(しきい)範囲が、歩幅と共に連動していく。

 そんな風に霧の無い明るい範囲が、ニルトの進む速度に合わせて動き、その視認できない灰色とした空間の先に向け、背後に続く二人に届くように大声を出す。


「この先になにか居るかも! 二人とも注意をして!」


「ええ。分かっているわ!」


「うちはニルくんを信じとるよ!」


 そうした予測のもとに迷いなく進みを続け、先が広くなる。

 鋸壁きょへきや壁とした障害物が一切なく、方形型の白いタイルが床に並び、その形に合わせ、広場は吹き抜けの格闘場とした造りになる。

 その中央に向け、歩みを進めるニルトが、途中で足を止める。

 時音と萌恋もそれに続き、足を止める。

 風で茶金のツインテールが揺れるニルトが、青緑の瞳を遠くに向け、考えるように眉を寄せる。


「うーん、なんだろう」


 前にも経験がある。

 こういった雰囲気の場合は、必ずどこかに仕掛けがあるはずなんだ。

 転移トラップや毒ガスの罠。

 モンスターハウスから、隠しの落とし穴。

 魔力を減らす魔導陣。

 そう意識したニルトの視界遠方に、一瞬だけ光る陣が浮かび上がり、そこから巨大な煙が出現する。


「召喚の罠だね……」


「大きいな! あんなん、どう対処すると?」


「強い気配ね。この子たちだけで戦えるかしら……」


 立ち上る煙から、大きな影が出現し、その様子に目を向け、シールドを構える萌恋の前方に、五色の光を浮かばせる時音に向け、顔だけ振り返るニルトが、「ここはボクに任せてよ」と告げ、右手に持つフォースロッドから青い魔素を噴出させ、小柄の体から驚異的なスピードを繰り出していく。

 その合図を見聞きした時音が、「分かったわ。皆はアスにしたがって」と指示を出し、色合い違いのアストラルエオンが茶色に統一される。

 それを合図に萌恋がフォースの輝きを強める。

 すでに脚を動かし、疾走するニルトの前方に、黒く巨大な影がカエルの形になる。

 萌恋が驚くように目を大きく開き、口を開く。


「メガフロッグ! 十階のエリアボスなんかが、なんでこげん所に出ると!」


「違うわ! 大き過ぎる! それに表皮の色も全然違うわ!」


「しぃちゃん! まだここ一〇階層の途中だよね? なんでこげん強そうな敵がおる!」


「そうね……」


 二人の会話を耳で捉え、脚を動かし、緑のドレスコートの裾をなびかせるニルトが、右手のフォースロッドを前にかざし、背中に無数の角を生やす黒いカエルに向け、遠距離攻撃を仕掛ける。

 青く光るロッド先から魔力で作った球体を生み出し、ギュンギュンと音を立てて大きくしていく。

 スカートのような裾がめくれるくらい激しく脚を動かし、カエルの魔物に近づき、青い光の玉を放射する。

 ギューンと風を弾く音を響かせ、光線のように長い光の帯を作る。

 体長が四メートルほどある敵の額にクリーンヒット。

 数秒ほど輝き、火花を散らす。


「ゴギャアアアアアアー!」


 その反動で敵は大声を上げ、体内に内包する魔力の守りで、青く波紋とした輝きを作り、周囲に伝搬する。

 黒い皮膚が、ニルトの第二射目となる青い光を弾き、霧散とさせる。

 ダメージがある様子がなく、ほほまである口元を激しく開き、再び大声で鳴き始める。


「ゴギャアアアー!」


 なかなか手強い。

 そう評価し、ニルトが敵の間合いの外からサイドステップを踏む。

 間合いに入らないように斜め前方へと左に移動。

 調べる者(インベスティゲイター)の能力を開放し、先ほどの攻撃で認知した敵のステータスを赤い瞳に宿す。


『名称:ザッハフロッグ

 種族:妖獣

 種別:16

 クラス:サードフォーム

 レベル:5

 HP:26534/26534

 MP:3520/3525

 戦闘力:107080

 攻撃力:492

 防御力:140      』


 戦闘力が高い。

 体力値も多く、魔力量もそれなりにある。

 不可視の手で触れ、命動鑑定を試みたニルトが、曖昧な前世の記憶を思い出し、知っている情報から、敵の特徴を精査する。


 ザッハフロッグについての記憶になく、ダンジョンの上層でこの強さは異常。

 いわゆる、ローバーストが起きたのだろう。

 ゲームで例えるならば、レイド戦闘と同じ意味になる。

 複数人の探索者で対処しなければならない相手。

 ダンジョンでは罠によって生まれてくる敵で、分類はレアモンスターになる。

 身体強化を付与する召喚の魔導陣がどこかに在って、その補助を受け、能力を高めているに違いない。

 そう瞬時に考えを導き出したニルトが、敵の左背後に向け、一定の距離を保つように移動を開始する。

 そのニルトの行動に反応し、ザッハフロッグが閃光を放つ。

 背中の角から静電気とした帯電現象を引き起こす。


「なんなん……。こんなん無理と……」


 怖か。

 うちではどうすることもできん。

 そうつぶやき思い、冷や汗をかく萌恋が、閃光で煌めき、飛散する雷の光に黒い瞳を向ける。

 強いわね。

 今の私では無理かもしれない。

 魔力壁で光を防ぐニルトの動きを水色の瞳で追う時音が、通じの力でアストラルエオンと会話し、その能力を認識する。

 何度も小刻みにうなずき、青い魔力で体を覆うニルトの背後に、水色の瞳が泳ぐ。

 黒く濃い圧力を放つ巨大な化け物。

 二人にして見れば恐怖でしかなく、ザッハフロッグの雷が鞭のように放たれ、それを回避するニルトを見守ることしかできないでいる。


 フォースシールドを強く両手で握る萌恋が、時音の前に出られない自分を心内で責める。

 もっと自分が強ければニルくんの役に立てるのに。

 右手に持つロッド先から光を生み、攻めあぐねているニルトを黒い瞳で捉え、桃色のラバースーツが汗で密着した脚で、何度も床を踏み付ける。

 いざとなったら助けに行くことができるだろうか。

 そう萌恋が自問自答し、自然と右足に体重を乗せ、黒い瞳を細めていく。

 口を一字にほほを寄せ、尻込みする恐怖に対するアプローチ。

 瞬きを繰り返し、何度も戦いをシミュレートしていく。

 その思いを知らない時音の両目が、大きく開かれる。


「ニルト?」


「え?」


 咄嗟につぶやきに驚く萌恋が、目を大きくさせる。


「なにが起こったと?」


 一撃。

 たった一撃を繰り出したニルトの光剣の一振りで、ザッハフロッグが横に真っ二つと両断される。

 その巨体が煙になり、空気に溶けていく。


「ふう」


 こんなものかな?

 右手で握るロッド先の光を落ち着かせるニルトが、決めポーズを取るように、腕を振り上げ、振り下ろす。

 右に振り向き、左手を前に出し、煙から飛び出すアイテムを不可視の手でつかみ取る。

 それらに向け、赤い瞳を凝らし、調べの力で読み取っていく。

 青の魔力石に、黄色い芯がある帰還石。

 白く大きいオーガニーストーンを瞬時に識別し、吸い寄せるように保管空間に収納する。

 体ごと振り返り、時音と萌恋が居る場所に青緑の瞳を向ける。

 その様子に安堵した時音から右手が振られる。

 大きい荷物越しの腕を上げ、近づいてくるニルトに、「おーい」と、声にする。

 微笑むニルトが、早足に時音の前にたどり着く。

 それに合わせて時音が、水色の瞳を晴らし、口を開く。


「凄いじゃない! あんなのを一撃で倒すなんて思わなかったわ!」


「ん?」


 時音にはザッハフロッグが強敵に映ったのかな?

 そんな風に、魔物の存在定義に対する認識の違いに困惑したニルトが、片眉を上げ、返しの言葉を口にする。


「う、うん。ボク、がんばったよ」


 ほほを引きつらせ、もっと簡単に倒せたはずなのに、苦戦をしてしまったと思い、苦笑を浮かべる。


「この子たちのレベルもまた上がったわ。厳密には違う子たちのレベルなんだけどね。おかげでノルマが達成できそうよ」


 思いのほか好調だとする目的の結果を告げた時音が嬉しそうにほほを緩める。

 左右に輝く五色の光。

 笑う青銀髪を煌めかせ、美しく彩る。

 その隣で眉を寄せ、うつむき下唇に力を入れる萌恋に気付いたニルトが、青緑の瞳を向け、「どうしたの?」と、心配する思いを口にする。


「元気がないよ? 萌恋らしくないね」


 萌恋は身長差があるニルトを見下ろし、黒い瞳を当て、小さく声にする。


「うち、二人の役に立てとらん」


「え?」


 急にどうしたの?

 自分以外の二人と力量差があり過ぎるために、チームの役に立てないと不満を漏らした萌恋を目にするニルトが、「うん」と、うなずき、続く言葉に耳を傾ける。


「うち、しぃちゃんの盾を務めてきたんよ。でもね。さっきの敵を見て思ったんだ。勝てないって。逃げとうて、襲い掛かって来たらどうしようかって、ずっと悩んでいたんよ。足が震えとうし。こげんじゃ足手まといだけん、ニルくんとしぃちゃんのお荷物なんて嫌と」


 そんなことはないよ。萌恋が一緒だからボクがここに居るんだよ。

 そう伝えたい思いを押し殺し、「ん?」と、声にしたニルトが、突然の魔素濃度の高まりを察知し、「まだだよ! 終わってない!」と、大声を上げる。

 すると、石床から光が輝き出す。


「なに? なんなの?」


「しぃちゃん! ニルくん!」


 時音と萌恋の足元から淡く赤い光が放出し、円陣を構成する模様の広がりを作る。

 床に振り向くニルトが、赤い瞳で転移の罠と認識する。


「二人とも、動かないで!」


「なんなん!」


「ニルト。どうするの?」


 まずい。

 この気配は、最悪の事態かも。

 転移先に敵が待ち構えている。

 そう予測し、右手のフォースロッドを左手に持ち替え、収納と消し去り、背中から虹色の羽を広げる。

 そのまま右手を掲げるニルトが、「守護の力で包み込め! オーラシールド!」と、声にした。

 その瞬間、場の光景が移り変わる。


「萌恋! 逃げて!」


「え?」


 不思議と響く時音の声に反応した萌恋が、我に返るように轟くエンジン音を耳で捉え、頭上からの危険に気付く。

 振り向くように見上げ、巨大な壁が落ちてくる様子に、左手でフォースシールドを掲げ、右手を持ち手に重ねる。


「きゃぁああああああー!」


 まるで工事現場の事故で巨大な看板が落ちてくるように、巨大な壁が迫って来る。

 叫ぶ萌恋が、瞳を閉じ、神様に願うように震え、恐怖で身を凝らし、掲げる両手に力を込める。


「ん? なんで……?」


 閉じたまぶたを強め、振り上げた腕に少しの圧力を感じた萌恋が、「なして?」と、もう一度つぶやき、閉じた唇を強く噛み締め、黒い瞳をゆっくりと開ける。


「えっ!」


 白く色彩あるいつものフォースシールドに、濃い金色とした輝きが加わり、広域に火花を散らす。

 巨大な壁を受け止め、小刻みに甲高い音を鳴らし、両手に力が入る。

 その光景に、水色の瞳を大きく開く時音が、遠方で計り知れない大きさの柱に、萌恋が押し潰されていく様子を捉えていた。

 その巨大な柱が接地となる刹那に、金色の光がまばゆく輝き、そのまま動かなくなる姿を目にし、ひとまずの安堵と、冷静さを取り戻す。

 またニルトが何かをしたに違いない。

 そう意識を切り替え、見上げる先に、巨大ロボットの全姿がエンジン音を響かせる。


「皆! どこに居るの!」


 呼び掛けたアストラルエオンたちの居場所を思案し、フロア全域に視線を向け、腰から飛び出した白い輝きに問い掛ける。


「チユ、皆を呼んで!」


 その告げ口に反応し、白い輝きが明滅する。


「すごーい! おっきー!」


 中空で虹色の羽を広げ、旋回するニルトが、まるで二足歩行ロボットとした巨大ゴーレムの頭上を飛び回り、より上空へと飛翔する。

 赤い瞳が見下ろす先に、テレビアニメに出てくる巨大ロボのような全姿が、エンジン音を鳴らし、M字の板を胸に備えている。

 前世の記憶にはない形状のゴーレムで、日本人の思念が詰まった夢のような形に、思わず瞳を開く。

 不可視の手で青と赤と白を基調とした、堅く熱いボディーに触れ、その強さを知る。


『名称:MAXガインダーワン

 種族:機人

 種別:15

 クラス:ファーストフォーム

 レベル:19

 HP:990000/990000

 MP:1000/1000

 戦闘力:1012760

 攻撃力:33600

 防御力:250        』


 ボクよりも何倍も戦闘力が高い。

 ロボットだよ。ロボゴーレム。

 かっこいいね。

 ミノタウロスくらいの強さがあるかもしれないね。

 懐かしいなあ。

 こいつは機人族。いわゆるゴーレムだ。

 弱点はおそらく動力源になる額の赤い魔石。

 基本的にそこを狙えば倒せるはずだ。そうすると一撃で終わるんだろうけど、それじゃあ芸がないよね。

 今回は魔力枯渇を狙おう。

 この方法で倒すと、ドロップアイテムが一番いいものになる。

 そのためには連携が必要だ。

 時音と萌恋に作戦を伝えよう。

 そういう風に考えをまとめたニルトが、虹色の羽から光を放ち、声を拡散させる波動を生み出していく。


「二人とも聞いているかな? これから作戦を伝えるね。敵の名前はMAXガインダーワン。弱めのゴーレムだよ。二人がやり合うと怪我をするかもしれないから、魔力枯渇を狙うことにする」


 緊張で少し疲れを覚え始めた萌恋が、フォースシールドを握る手に汗を作り、ニルトの声に反応する余力がなく、顔を強張らせている。

 六色の光と向かい合う時音が無言でうなずき、続く声に耳を傾ける。


「今からボクがけん制を仕掛けるから、萌恋は足止めをお願いするね。時音は萌恋の回復に努めて欲しい。どれくらい時間が掛かるか分からないけど、適宜指示を出すから、そこは安心してよね。作戦名はライフファーストタイムエンドだよ。二人ともお願いだよ」


 納得に目力を強めた時音が、「全員、チユをサポート。萌恋を守って!」と告げ、両手を胸の前で重ねる。

 いつの間にか集まっていたアストラルエオンの光が白色に明暗し、萌恋が居る場所へと飛んでいく。

 左手の保存空間からイメージシェイプロッドを出現させたニルトが、古代中合国の兜を連想する頭部に向け、拳ほどの炎球を放つ。

 一度に数十発の炎が発火する音を響かせ、ゴーレム頭部に被弾していく。

 その爆発に合わせ、MAXガインダーワンの緑とした瞳が、赤く変光する。

 額の左右から機関銃のような放火音が轟き、ニルトに向けて一直線に無数の光弾を打ち出す。


 羽を広げ、地面に向けて急速降下。

 光弾を回避し、緑のドレスコートの裾を揺らがせ、シェイプロッドの先から巨大な豪炎を放出する。

 ゴーレムの首から股関節に向け、数発の巨大な炎球が激しく揺らぎ、飛んでいく。

 まるで大砲から発射された砲弾のように、高速で射出され、着弾後、炎と爆風を舞い、それが発端になり、MAXガインダーワンの左肩から光が無数に出現する。

 光は魔術的陣を成し、その先から次々に魔力でできた武具が浮き出していく。


 その様子を視認することなく、直感で認知したニルトが、誰も居ない方向に低空飛行を試みる。

 次第に様々な武具の形をした光が、ニルトに標準を合わせるように矛先を向け、飛び出していく。


 赤い瞳のニルトが、調べる者(インベスティゲイター)の力を使い、未来を見通し、その意味を悟り知る。

 先行投射の槍、スピアバンカーショットが、避ける先に合わせ、地面に突き刺さる連続した響きを奏でていく。

 低空飛行するニルトの背後の地面に針のむしろを作り出し、その連続とした輝きが、進む方向に刺さろうとする意志力を伝えていく。

 順次時間を置き、爆風と爆音を響かせる。

 その輝きは、空間を熱く揺らがせ、ニルトの機動に少しの影響を及ぼしていく。


 フロアの終わりが近い、上空に浮上を試みる。

 そこに遅れて延々追尾の長剣、レンクシィソードホーミングが、ニルトの背後を捉えていく。

 上昇を続けるニルトに、剣の形をした光の像が直角に光の帯を作る。

 ニルトが反り返るように反転し、飛んできた軌道に戻るように飛翔する。

 敵の攻撃がその動きに合わせ、修正されていく。体を横に捻り、飛翔した道筋を辿るニルトに向け、ライトショットバルカンが流れていく。

 弾幕が不規則で、左右上下と降り注いていく。

 それらを回避する意志を高めるニルトが、体をひねり、斜行しゃこう曲行きょっこう旋回せんかいを繰り返していく。

 途中追尾の長剣が爆ぜる音を鳴らし、爆風が明滅と広がり、飛散する轟きが生まれていく。

 緊急で魔力壁を展開したニルトの周囲に、マイクロ波の火花が輝き散る。

 それが合図となり、全ての追尾が破壊となる。


 MAXガインダーワンの巨体から巨大な赤い魔導陣が何層も重なり、下部から上部へ昇っていく。

 その光の下に居る萌恋が、六つのアストラルエオンからの癒しを受け、フォースシールドを掲げ、巨大ゴーレムの足を支える。


「うぅぅぅ」


 なんなん? この暖かい光は。

 そう思い、不安と黒い瞳を細める萌恋が、桃色ハーフアップの髪から覗く額から汗を垂らし、「しぃちゃん、ニルくん……」と、ささやき、目元に力を強める。


 その様子に視線を向ける時音が、両手を重ね、立ち尽くす。

 赤い光に満ちる巨大ロボを見上げ、心内でアストラルエオンと会話し、助けを呼ぶ萌恋を意識する。

 水色の瞳を開き、なにかの気配に気付く

 土属性の魔力特性が高いアスを意識して、萌恋の周囲に漂う六つの全てに指示を出す。


「魔力壁で萌恋を守って……」


 そうつぶやいた瞬間、光が世界を満たしていく。

 白く広いフロアの全域を青で彩る。

 床から塵が上気し、キラキラと煌めき、何かの予兆を引き起こす。

 まるでエネルギーが吸い寄せられるかのように、青い光りが巨大ゴーレムに集まっていく。

 時音は瞳を閉じ、「もう終わりね」と、つぶやく。

 次の攻撃を受けて私は死ぬ。

 そう悟り、祈るように両手を胸の前で握り締める。


「時音!」


 ニルトの声が届き、水色の瞳を開ける。

 虹色の羽を生やした背中が、時音の視界に現れる。

 来てくれたの?

 そう希望の思いを胸内に潜め、切ないなにかを感じ取った時音が、大きく羽を広げ、両手をかざし、前に立つニルトの背中に眉を寄せた瞳を向ける。


「大丈夫だよ! ボクが全部防いであげるから!」


 堅気と呼ばれるアビリティを発動したニルトが、魔力に対する抵抗力を高める茶色の光に包まれる。

 自身の防御力を仲間に伝えるオーラシールドの効果と合わさり、ニルトが意識する二人に抵抗力が生まれていく。

 調べの力を赤い瞳に宿し、予測未来の虚像が浮かび、その思念がゴーレムの必殺名を伝えてくる。

 オールレンジコンクパーティクルマナキャノン。

 その予備動作に、MAXガインダーワンの機械音が鳴り響く。

 まるで何かを叫んでいるかのように、「ギギュギュギュギューン」と、音が轟いていく。

 巨大ボディーの中心にあるM字型の板から青い光とした輝きが、空気中から集まり、フロア全体を飲み込んでいく。

 激しく空間を熱で揺らがせ、ニルトの守りの境界面に火花を散らす。

 固有スキル、無難世界の逃避(エスケープザワールド)が、意志に反し、力を開放する。


「そっか! そうなるんだ……」


 赤い視線の先が、巨大な左足を支える萌恋の後ろ姿にいく。

修正履歴メモ欄

2024/12/13 微修正微調整。

2025/7/17 全修正完了。次が20話を修正します。


久しぶりにギャグ様相を入れてみました。

クスっとなっていただければ嬉しです。

いやー無理かな……。

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