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16/29

第16話 チーム結成

2024/11/27 投稿しました。


書見の程よろしくお願いします。

以前までの文章修正に一週間以上掛かり、作成に時間が掛かりました。

 お腹の虫が盛大に音を響かせる。


「お腹空いた」


 早く食堂でお昼を食べたいな。

 本館に戻るために、入出管理所の施設内を歩くニルトが、人目に入らないよう、左手に持つ青いアイテム鞄を異空間に収納し、茶色いスクール鞄と取り替える。

 広い自動ドアを通り、次のフロアに入る。

 歩み始めに石鹸の香りが漂ってくる。

 探索を終えた人たちが体を洗うために、シャワールームに入る姿がある。

 湿気が多く、甘い香りがまん延とする。

 その入り口の横を通り過ぎ、歩みを進めていく。


 監視カメラが二台設置されている。

 スライドする四重の自動ドアを通り、アイテム保管取引署の広場に出る。

 仲買業者やアイテム運搬専用のワーレフたちが集まり、競り合いや交渉事の話などで、がやがやとした声が響いていく。

 ここでは、アイテムの買い付けから仕入れの依頼を行うことができる。

 競売取引、信用取引、先物取引と、品物によって取引方法が定められている。

 特に競売取引が主流で、常に競りの状況が表示されていくモニターが何基も用意されている。

 昼食の時間であるのにも関わらず、仕事熱心な業者や関係者が集い、ざわめきが絶えず、多くの係員がカウンターに殺到し、なにかの言い合いをしている。


 話題は共感石と帰還石の取引について。

 先物取引で設定された値段が市場価格よりも高すぎるという文句の声が聞こえてくる。

 安定供給で確保されていたらしく、数が多い品物で、定額だったのに、今までよりも値段の変動が大きいと抗議の声。

 大手ユニオンから適正価格で買い取った管理局側の言い分は、将来的に高騰する市場価格で販売したいとする公言に、その額では買い取れないとする仲買業者からの怒りが殺到する。

 それでも安いと豪語する管理局側の言い分に、突然の変更は違反だから、今までの値段で売れとする業者側と対立している形になる。

 逆に個人事業者であるワーレフたちからは、探索業務に支障が生じるため、その値段でいいからすぐに売れという声が飛び交い、管理局側に信用取引を持ち掛ける。

 入荷が少なく数に限りがあるため、信用取引を請け負うことができないとする管理局側の言い分に、規則違反だと訴え、妥協案として、様々な条件を付けていく個人授業者たち。

 結局のところ、いかに安く手に入れるのかを競い合うように、あの手この手と管理局側に、交渉を持ち掛けていく。

 皆大変なんだね。

 ボクはいっぱい持っているから、関係ないんだけどね。

 そんな風に考えを巡らせていたニルトが、本館の方へと歩みを進めていく。


 ダンジョン総合管理局、ワーレフ協会運営食堂、赤星。

 入口の壁際に、魔物からドロップした見栄えの良いアイテムが棚上に販売されている。

 携帯食やお役立ちお泊りグッズに、便利生活用品なども同じ棚の並びに置かれ、独特の雰囲気を醸し出している。

 長いテーブル席が何基も置かれ、その中央に券売機が四台置かれている。

 空いている一台に着くニルトが、収納空間から探索者証明カードを取り出し、券売機の読み取りセンサーに当てる。デビッドカードに似るファーストカードでの取引になるため、探索者割引も兼ねて、先に読み込ませていく。


 年齢制限なし。

 ワーレフを支援する団体が組織する国際銀行が通帳を管理し、時短なく即時引き落としとなる取引方法で、分割払いやローン借金といった仕組みがなく、貯えた限度額までいつでも引き落とすことができるカードになる。

 年間費は無料。

 探索者証明カードの更新費に含まれるため、一切の手続きが必要としない特徴がある。


「お腹ペコちゃん」


 黄色いブラウスの腹部に右手をそえて、空腹の意志を告げたニルトが、献立メニュー全表示の液晶モニターの前に立ち、その瞬間、自然とおすすめの料理が表示される。


「ワーレフ日替わり定食?」


 なにこれ。

 美味しいの?

 胃袋が乾いたように、のどに食べ物を通したい欲求に駆られているニルトが、「これでいいかな」と、つぶやき、それがセンサーに伝わり、精算方法の選択に移行する。


「え?」


 三千円もするの?

 モリモリ太郎の食べ放題くらいありそうだよ?

 そう思案して、再びセンサーにカードを通し、暗証番号を入力していく。

 出てきた食券を右手で取り上げ、探索者カードを収納する。

 そのまま振り向き、売店へと歩いていく。


「毎度! あなたチャレンジャーね!」


 食券を渡した先に、肉付き良い厨房服を着る中合人風の男性から声が掛かる。

 作り置きを気にし、困った風に眉をハの字に寄せるニルトに、素早く定食が手渡される。

 紫色の肉が入った寝ぼけ色のサラダに、赤いスープがトマトケチャップよりも濃い色をしている。

 緑のメンチカツに、茶色いキャベツの千切りと、黒い小盛りのご飯がそえられている。

 ピーナッツを焦がしたような香りがする。

 空腹で味の予測が麻痺しているニルトが、食欲に駆られ、空いている席に移動する。

 木造りの大きな六人用のテーブル席を一人で占拠し、机端にトレイを置き、スクール鞄をフローリングの床に置く。

 背の高い椅子を引いて飛び乗り、スカートを整え、腰を落ち着かせる。


 口の前で漢字一字と指でなぞるよう左から右へと動かし、両手を合わせ、「いただきます」と、挨拶を告げる。

 箸を右手に持ち、サラダが入った皿を左手で持ち上げる。


「おい、あの子見ろよ」


「日替わりを頼んだのか? 馬鹿な子だな」


「まあ、食えないだろうな」


 そんなささやきを耳にしても空腹のニルトは動じず、手に持つ皿に鼻を近づける。

 香草みたいだね。アルコールのような香りがするよ。

 前世を知るニルトが、戦時中に食べた泥臭い豆の味を思い出し、灰色と茶色に彩った何かの葉っぱに、紫色の肉を箸先でつかみ、口に運ぶ。

 パリパリと枯れ葉を踏み付ける音が鳴り響く。


「うん……」


 美味しくない。

 程よい苦みと渋みが口の中を刺激する。

 甘く歯ごたえがあるカニ風味の肉。

 それらが口の中で合わさり、香り高く、全体的にアンバランスな味わいで、料理としては失敗作になる。

 笑みなく皿を置き、赤いスープの入ったお椀に持ち替える。

 縁に口を付け、味見程度に少量含んでいく。


「うっ」


 まずい。

 臭くてしょっぱい味。

 納豆風味の赤味噌味あかみそあじといったところかな?

 なんかコリコリしたキノコが入っているよね。

 口の中に残るサラダと合わさると、より一層臭みが強くなる。

 無表情を貫くニルトが、魔物との戦いよりも緊張した汗をかき、一度肩の凝りを取るように、回し解す。

 スープが入ったお椀を置き、黒いご飯の入りの茶碗を左手で持ち、右手の箸で皿に乗った緑のメンチカツを切り分け、口に運ぶ。

 サクっとした噛み応えがする。


「美味しい」


 ウィンナーの味だね。

 歯ごたえがシャキシャキで、燻製豚ひき肉のような風味が広がっていく。

 その後味が残っている内に、黒いご飯を箸でつかみ、口に含む。


「ん?」


 甘い。

 なにこれ。

 タピオカみたいな味がするよ?

 あごを動かし、眉を寄せて、食評するニルトが、ミルクの香りを漂わすご飯の歯ごたえに、塩辛く噛み応えのあるメンチカツとの組合わせに不満と、瞳を細める。


「失敗した」


 調べの力を使って効果鑑定をしたニルトが、スモールスパイクの肉とレッサーハウンドドックの肉に、千城七色せんじょうななしきリーフと千城キノコが入った料理であることを知り、赤い瞳になる。

 一度咳き込み、表情をしぼませる。


「ごちそうさま」


 なんとか昼食を終え、午後一時になる。

 あと三十分で千城窟ダンジョン入構講習会が始まる予定になる。

 千城区管轄支部ダンジョン管理局が説明会を開く。

 他の県にあるダンジョンは、最寄りの管理局が管轄し、個別で許可を取る決まりになる。

 午前中の探索者資格取得の講義と違い、入構講習会を受けなければ、ダンジョンに入ることができない規則になる。

 そう思案し、食器を返却したニルトが、スクール鞄を持ち、エレベーター乗り場まで歩いていく。


 なんだか力が湧いてくる。

 さっきの食べた物のおかげかな?

 気分が軽く機嫌がいいニルトが、込み合う乗り場に着いて待つ間の陽気な雰囲気を堪能し、ほほをつり上げ、笑みを周囲に向ける。

 その様子に体格の良い来訪者たちが、甘い香りに誘われ、ニルトに注目をする。


「あ! ニルトよね? こんところで何をしているの?」


「なあ、しぃちゃん。落ち着こう?」


 衆目を気にすることなく大声を上げ、青いラバースーツに身を包む門守時音かどもりしおんが、顔だけ振り向くニルトの隣に着き、肩に青いグローブの手を乗せる。

 長い青銀の髪を結った毛先が掛かる時音の肩に、桃色ハーフアップの桃色ラバースーツ姿の少女が、桃色のグローブで触れる。


「ねえ、ニルト?」


「むう」


 突然に機嫌が悪くなるニルトが、家族に怒られた昨日のことを思い出し、眉を寄せ、二人に視線を合わせる。


「ニルト。また会えて嬉しいわ」


 会いたい人に会えて嬉しい時音が、ニルトの髪型を目にし、水色の瞳を瞬かせ、「その髪型も似合っているわね」と、右腕に抱き付き、青色のラバースーツ越しの胸元に押し付ける。

 馴れ馴れしいと感じたニルトが、「くっつくな」とつぶやき、眉を寄せていると、時音が、「ニルト」と、声高に自身のほほを重ねてくる。

 そうした過剰なスキンシップを目にする桃色髪の少女が、「しぃちゃん、その子誰なん?」と告げ、茶色の瞳を瞬かせ、「うちにも紹介しんしゃい」と声にする。ニルトの左手に自分の両手をそえ、握手とした手振りをする。


「この子がさっき話していたニルトよ。ニルト・ファブリス・遠本さん。私たちが通う学園の特待生をしているの。ふふ」


「そっか。この子がしぃちゃんの想い人なんか。初めまして。うちは加賀萌恋かがもこと言います。ニルトくん。ニルトちゃん。ニルたん。うーん……どう呼んだらえん?」


「むう。二人とも離れてよ」


 愛らしかねえ。

 うちもこの子が気に入ったとよ。

 握る左手をそのまま胸元に引き寄せる加賀萌恋が、魅了効果あるニルトの甘い香りを感じ、自然とほほが緩む。

 小柄の少女三人が抱き付き合う姿に、背が高い男たちの視線が集まっていく。

 西洋風の男に、肌が傷跡だらけの東南アジア系と云った風ぼうの男たちが、海外の言葉でそれぞれに語り合い、華やかで可愛いとする意志を伝えていく。


 エレベーターが一階に到着する。合図の音を鳴らし、扉が開かれる。

 沢山の人が降りてくる。

 すれ違いにニルトを目にし、虹色気質の輝きに笑顔を生む。

 両手に花。

 時音も萌恋もどちらもカメラ映りが良く美人気質。

 背後から携帯電話が起動し、プロの視線が向く中で、異性を意識する胸の高鳴を覚えるニルトが、二人に引っ張られ、エレベーターの中端へと移動していく。


「ニルくん、ニルくん」


 壁に寄り掛かるニルトに、加賀萌恋が耳打ちし、鳥肌を立てるように、顔を赤くさせる。


「ニルくんでえんよね? 今後はそう呼ぶけんね」


「もう。好きしてよ。ところで時音? いつまでくっついているんだよ」


「ずっとよ。だってこうしていると、気持ちが落ち着くもの」


「うぅぅ」


 なに、この状況。

 流石のボクも恥ずかしいよ。

 女の子の意識を感じ、青緑の瞳が左右に揺れるニルトに、少し背の高い時音の胸元が腕に密着し、甘い感覚に耐え、顔を真赤に染め上げる。

 エレベーターが動き出す。

 止まることなく八階へと上がっていく。

 乗り合わせた大人たちが降り始め、ニルトに抱き付く二人も後に続いていく。

 やっと自由になったニルトが、息を大きく吸い込み、気持ちを落ち着かせ、人並みに着いていく。

 そのまま会議場の開いているドアの入り口を通り抜ける。


 暖かい色合いの光が差す薄暗い大広間。

 段差ある長い机の席が奥まで続いている。

 こうした場所に慣れているニルトが、大きなスクリーンの見渡しが良い場所へと向かい、階段を上り、やや高い位置に移動する。

 机の間を通り、中ほどで折り畳みの椅子を倒し、腰を落とす。鞄を机の上に置くと、萌恋が左に座り、時音が右から着いてきた。


「あーあ、こいうのが時間の無駄なのよー。早く終わんないかしら?」


「しぃちゃん、朝からそればっかりやなあ。レベル上げの時間がもったいないって、何度も云うとったもんね」


「こんなの受けなくてもいいのよ。出て来る敵をぶっ倒してしまえばいいの」


「でもでも、地域には地域のルールがあるんだよ。聞いて損はなかと思うやけど」


「そうは云うけど、早くレベル上げがしたいのよ。あ、そうだわ! ニルト。この後で一緒にどうかしら? 講習が終わったら、一緒にダンジョンに行きましょう。いいわね! 決まりよ!」


「えっと……」


 一瞬断ろうとしたニルトだが、よくよく考えると、いい機会だと思いを改める。

 入構予約を入れた二人に進められたと説明し、ダンジョンに行けば、念願の魔力石が手に入る。

 管理局側の許可があれば、家族への言い訳もできる。レベルも上がり、一石二鳥。

 そう思案し、青緑の瞳が瞬く。


「しぃちゃん。ダメなんよ。ルール上、ダンジョンに入るには、一式魔素を含んだ装備が必要になるんよ? ニルくんが強かと言っても、急に用意せなんて無理な話ばい。そう思わんか? なあ?」


「まあ、そうね。ニルトは制服姿だし、今日は準備をしていなさそうだから、流石に急な話よね。残念だわ」


 そんなことないよ。

 アザーで手に入れた装備があるんだよ。

 最悪、昨日見付けたドレスを着ればいいよね。

 右手で左腕を握るニルトが、妖精のアームレースを意識し、片ほほだけ笑うように引きつらせる。


「しぃちゃん。もうじき始まるみたいだよ? 静かになあ」


「ええ、そうね」


 千人ほど入る会場に、多くの人が集まり、席が半分埋まっていく。

 ワイシャツネクタイに、黒ズボン姿の司会者が壇上に登り、マイクを持って言葉を告げる。


「えー、お集まりの皆様方にお伝えします。ただいまをもちまして、千城窟ダンジョンの講習会を始めたいと思います」


 始まりの宣言が告げられる。会議場の照明が消え、壇上の説明員に光が集中する。

 スクリーンに映像が映し出され、さまざまな注意事項の音声が流れていく。

 施設の利用と探索時における注意事項にその近況報告。

 二四時間無休で利用できるサービス案内。

 さまざまなモンスターの種類。

 転移装置の利用方法とエリア管理者の状況。そうした専門的な話が続いていく。

 ダンジョン内にも朝と夜があり、その周期が六時間遅れになる。

 エリア管理者の扉が開くのは、正午から日付が変わる深夜の十二時の間になる。


「説明は以上になります。これより同意書を配信しますので、お間違えのないようにお読みいただき、意志通しをお願いします」


 イメージセンサーが働き、青い光のホログラムライトタッチパネルが立体的に浮かび上がる。

 現れた誓約文に付随し、ニルトの瞳の前で署名欄を表示されていく。

 内容はダンジョンに入った後に起きる事故についての責任であり、その保障は全て自己負担であるとする文面が記載されている。

 全てに目を通したニルトが、署名をイメージで告知し、探索者証明カードの会員番号下四桁と暗証番号を思い入れ、許可の意思を載せる。


「ほとんどの方々はよろしいようですね? これにてダンジョン入構案内講習は終了となります。続きまして、等管理局のスポンサーである、大円堂だいえんどう様より、広告を兼ねたお話があります。お聞きになりたい方はこの場で残っていただき、興味のない方は退出していただきます。しばらくの間、お待ちください」


「やっと終わったわ。萌恋、行くよ?」


「うん」


「ニルトはこれからどうするの? 家に帰るのかしら?」


「ん? ボクは最後まで残るよ?」


 客席がざわつき、通路へ出て行く人が多く、ほぼ全員が立ち上がる。

 折り畳み席から腰を上げていた時音が、ニルトと会えたのだからもう少し一緒に居てもいいかと思う切ない機微に押され、もう一度座り直す。

 その様子を目にした萌恋が、「しぃちゃん?」と、一言つぶやく。

 上げていた腰を落とし、同じように席に座り直す。

 赤いボーダー柄の開襟かいきんシャツに、緑のズボン着姿をする、腰に小物入れを背負い、手にノートを持つ眼鏡をした小太り男性が、壇上に上がっていく。

 司会者と会話し、引継ぎのマイクを手渡され、演説台に立つ。


「はい。よろしいですか? 残っていただいた方は……、十名ほどになるのですかね? ありがとうございます。私は大円堂だいえんどう株式会社のドリューユニオンカンパニーサポート部、人材管理係長今野と申します」


 小太り眼鏡の男性が、ノートを開き、顔を上げる。


「早速ですが、皆様はユニオンという言葉をご存じでしょうか?」


 ユニオンとは、異世界の冒険者ギルドで例えると、クランという意味になる。

 英語で組合を意味し、国際ダンジョン総合管理局が定める法人団体になる。

 実質は管理局の子会社と同じで、出資を受けることで、株式に参入することができる組織になる。

 そして、ユニオンとはチーム複合組織のようなものである。単一のチームと同じ権限を有する組織を意味する。

 違いがあるとするならば、クラスという位置付けの定義がされており、出資者であるリーダーが運営を分担し、支えているという点になる。

 クラスが高く評価されることで、ワーレフ協会における権限が高まり、管理局で自由が利くようになる。

 チームや個人の成績にも評価制度がある。

 ランクと呼ばれるもので、それらが高いほど優秀な者という意味になる。

 それとは別に、ユニオンにおけるクラスというものは、企業評価を示す指標になる。

 業界では、会社として扱われるため、ランクに応じて、様々な管理権限を得ることができるようになる。

 その最たるものが、出資になる。

 実質チームだけでは社会的信用がなく、銀行や個人事業主からの資金調達を得ることができづらいため、会社として成立することが難しい。

 しかし、ユニオンを結成することで、信用が生まれ、大規模な組織運営を可能にすることができる。

 その規模に応じ、管理局に収める年間費が高くなるが、その分だけ信用が上がり、人材の評価が高くなる。するとランクが上がり、世間から注目を得ることになる。

 個人団体であるチーム運営では、人員の数に制限があり、スポンサー契約や銀行出資に加え、事務手続きや社会保障におけるサポート面でも限界が訪れることになる。


「つまりユニオンの加入条件はワーレフだけでなく、一般探索者の方でもご入会できるのです。スポンサー契約をご存じでしょうか? そのようなものだとお考え下さい。いいですか? 優秀なワーレフはチームを組み、ダンジョンにアタックをしますよね? そのためには多額の資金が必要になります。ポーションや食料。装備や生活必需品に、各種魔石などの探索道具。加えて隊員へのお給金に、社会保障が別途掛かってきます。その他にも税金の工面もありますよね? そのように、チーム契約とは一種の会社のようなもので、経営経理の全てがリーダーによって行われることになります。それとは別に、管理局に払う年間費というものがあります。管理局が有する情報システムの利用料金のようなもので、いったい幾らになるか、ご存じでしょうか? なんと五千万円ですよ? 五千万! これは普通に探索していても到底支払える額ではありません!」


 ユニオンは、チームの複合体になる。

 管理局に登録が必須であり、登録することで、様々な特典を得られるようになる。

 一般探索者の探索制限が解除され、ワーレフと同じ権限を有することができるようになる。

 ワーレフの資格を得ると、探索を自由に行ってもよくなるのだが、一般探索者は、その限りではなく、何時何分にどこの場所へ行くといった報告が必要になってくる。

 その予約をしなければ探索をしてはいけないという決まりになる。

 だがチーム登録をすることで、リーダーがワーレフであることを理由に、探索予約が必要なくなる。

 その他にも、管理局は一般探索者にルールを定めている。

 緊急時の要請に対応するダンジョン入構手数料に、入手アイテムの取引手数料。

 入手アイテムの一時保管金。

 持ち込む道具の監査義務。

 個人の武器や防具の持ち込み禁止に、レンタル料の支払い。

 アイテム査定から税金の申告手数料。

 その他にも細かなルールが定められており、その規則に従い、ダンジョンに入ることが許されている。

 そうした手続きを省き、責任を持ってダンジョンを自由に探索することができるようになるのも、チーム登録の意義になる。


「そこで! 私たち大円堂だいえんどうワーレフ調査組合、ドリューユニオンカンパニーでは、皆様のご入会を心よりお待ちしているのです! 一流のワーレフ! または、将来ワーレフを目指そうとしている方々。あるいは、健康ブームに則り、レベルを向上させたい方々まで! 私共は、皆様方のような多様な人材を募集しているのです!」


 ユニオンに入ると、その組合次第で管理局が管理する施設の利用権利が良くなり、ロッカーの無料貸し出しや、専属の受付スタッフによる個別ルーム使用権利など、様々な優遇措置を受けることができるようになる。

 ワーレフ協会に登録しているホテルやレストランにも影響し、ダンジョン用品店の割引サービスや、無料宿泊に、格安飲食サービスの提供などを受けることもできるようになる。


「国際ユニオン査定としてドリューユニオンカンパニーの位置付けは、すでにAクラスと高い評価をいただいております。そのため、ワーレフ協会の支部を請け負うことができるレベルにあるのです。依頼の受注から仕事の斡旋までを一括で管理することができ、定期的にワーレフを目指す探索者を管理局に推薦することもできるのです。個別に試験を実施する権利も有していますので、ワーレフを目指す方々にとっては、最上のアドバンテージになるかと思います」


 ユニオンのクラスはGからSSSまでの複数の段階に分けられている。

 国際ダンジョン総合管理局が定める審査基準によって決められたクラス評価のランキングになる。

 その順位の高さと規模の大きさで、ユニオンの信用が定められている。

 クラスAは上位のランキングであるランクA以上を有するチームが複数所属し、千人以上の団員であることを条件とする。

 株式で例えるならば、上場企業と同じ意味になる。

 出資が得られやすく、優秀な人材が集まり、様々な管理体制が整えられている。

 その分組織の費用が多くなり、それだけに維持力が必要になってくるが、新規チームを加える力が必要になるため、個別にワーレフ協会を名乗ることが許されている。

 これは凄いことだよね。

 千載一遇の機会かもしれない。

 ユニオンに参加する決意を固めたニルトが、午前の講習内容を思い出し、今野の演説にうなずきで返す。


「二四時間会員サポート。日本全国いつでも皆様の安全を管理し、救難時には救出要請に即時応じます。世界初の試みである探索者支援機器、マネージウォッチの開発にも成功いたしました。今回会員になる方々に限り、サービスでご提供いたします」


 今野が腰の小物入れから腕時計のような機械を取り出した。

 青い映像が浮かび、その様子が巨大スクリーンに映し出される。会場に居残る十数人の前に、ウェアラブル端末マネージウォッチと書かれた説図と文字が浮かび上がる。

 立体的に回転し、リングの全てが有機MELになると書かれた説明文が流れていく。

 なんのことか分からないニルトが、青緑の瞳を瞬き、時音から、「へえ~」とした関心の声が聞こえてくる。


「お判りいただけたでしょうか? 手前に表示されたウェアラブル端末は、当社が開発した探索者用の管理システム機器になるのです。スクリーンを見てください。最寄りの管理局で請け負うことができる依頼内容をシステムが自動で認識し、その場で利用者に合う仕事を斡旋してくれるのです。ドロップしたアイテムの買い取り依頼。特別探索依頼や魔物討伐依頼。護衛依頼からレベル上げのサポート依頼まで、様々なニーズに応えることができるのです。リアルタイムに手続きを可能にしてくれていますよね? 皆様が管理局施設内にあるワーレフ協会庶務管理署の受付に行く手間を省き、その場で仕事の手続きを行うことができるのです」


 一般探索者もワーレフと同じで、依頼を受託し、報酬を稼ぐことができる。

 請け負うためには管理局入り口のワーレフ協会庶務管理署へと行き、手続きを行う必要がある。

 だがしかし、この機械があれば、そういったことを遠隔で自動的に処理し、手続きに掛かる時間を短縮することができる。

 更にダンジョン内でも参照が可能な通信技術が備えられているため、現地で依頼を引き受けることができ、その場で達成予約を行うことができるようになる。

 便利な物なんだね。

 そうした風に感心を寄せるニルトが、今野の手振りに注目し、軽くうなずきの返事を繰り返す。


「そして、皆様に今回我々が自信を持ってご提供できるサービスがございます。それが、ワーレフ評価資格取得審査を管理する情報システムの自動運用になるのです。どういう意味合いかと申し上げますと、このマネージウォッチには、依頼管理システム以外にも、使用者の信用評価値を監視するシステムが備わっているのです。所有者がなにを行い、依頼者がどの程度の満足度を得られたのかを計算し、その人が信用に値するのかを数値で測ることができるようになったのです。これにより毎日査定が行われ、ある一定評価に達した方が自然と管理局の審査に合格し、より上位のランクに昇格することができるようになるのです。また一般探索者の場合は、定期試験が免除され、実績評価でのワーレフ認定資格を取得することができるようになるのです」


 これってボクもいずれワーレフに成れるってことだよね?

 面白そう。

 ニルトは、瞳を輝かせ、興味を示すように、唇を柔らかくする。

 宝珠の装飾によってツインテールがラメ色に輝き、いつもよりも淡く黄金色に染まり、神秘的に彩る。

 その様子に今野が、少女三人の中で特別目立つ美少女に目が行き、無意識に眼鏡越しの瞳を向け、説明を続けていく。


「それではここでドリューユニオンカンパニーの会員に入りたいという方は、今から表示されるライトタッチパネルにサインをしていただきます。その瞬間から契約が完了しますので、後日改めてご自宅に、資料等を送付いたします。お手数ですが、目の前のライトタッチパネルに目を通していただきたくお願いします」


 ニルトの顔の前にホログラムが浮かび上がる。

 ドリューユニオンカンパニーの会員契約書が文字を連ねていく。

 今野が説明した通りの内容が記載されている。

 今すぐにダンジョンへ向かっても良い規約が箇条書きで表現され、最後の文面に、ユニオンに所属する団員に関する規定が記述されている。

 チーム結成要項の有無。

 新しくリーダーになり、団体に登録する。あるいは、すでにチームを結成し、そのまま登録する。そうした記述に目を通すニルトが、「リーダーになろうかな……」と、独り言をつぶやく。

 それを耳にした時音と萌恋が口を開く。


「私も入るわ。ニルトが一緒だと戦いが楽になるから」


「しぃちゃんが入るんなら、うちも入るよ?」


「え? いいの? だったらお金はボクが払うよ」


「じゃあ、チームの名前は何にする? こういうのはかっこ良くないといけないわよね?」


「んー、ドサンコシールなんてぇどげんね?」


「却下よ。それだったら花鳥水月よ。なんとなく今決めたわ」


「もっとましな案はないの?」


 困ったなあ。こういうのは苦手なんだよね。

 そうした風に、眉を寄せるニルトが、青緑の瞳を天井に向け、遠くを見詰める。


「だったら、愛らしかん隊なんてぇどげんね?」


「エタニティパートナーがいいわよ。永遠の相棒。いいと思わない?」


「あ」


 そうだ。

 以前に使っていたパーティー名にちなんだ名前にしたらどうだろう。

 そう考えたニルトが、両目を開き、手を打つように口を開く。


「トゥルーシード」


「トゥルーシード? なんだか懐かしい響きね。真実の種ってことかしら?」


「しぃちゃん、違うよ。偽りなき強者やね」


「ん、何か違う気がするわね。ニルト。どういう意味かしら?」


「女神様。あるいは最強という意味になるのかな?」


「そう……。よく分からないけど、響きがいいからそれでいいわ」


「うちもえんよ」


 本当は、超克って意味があるんだけど、説明ができないよね。

 シード。それは越精を四段階超えた先にある存在定義の名。

 そこに真実を加えることで、神と名乗ることができるようになる。

 そうした風に経緯を知るニルトが、ライトタッチパネルに指をそえ、必要事項に記入をしていく。

 三人が互いの記入内容を確かめ合い、書き進めていく。


「はい。結構です。皆様ありがとうございました。これにて私どもからのご提案は終了とさせていただきます。お気を付けてお出口へとお帰りください」


「やっと終わったわね。もう二時を過ぎているわ。ダンジョンに急がないと、帰りが遅くなるわね」


「うん。早くロッカーに行って準備ばしよう」


 全身ラバー服姿の時音と萌恋が、折り畳み椅子から立ち上がる。

 その様子を目で追い、急ぎ鞄から携帯電話を取り出すニルトが、ティックラインを起動し、家族に向け、ダンジョンに行ってくると一言記し、そのまま電源をスリープモードに切り替える。

 電話を鞄に仕舞い込み、立ち上がる。

 急ぎ二人の後ろに付き、段差を下る。

 二人の肩に触れることができる距離まで近づき、声を掛ける。


「待ってよ。ボクもダンジョンに行くから」


修正履歴欄

2024/12/15 全体的に文章を修正。取り急ぎのため、今後も変更の可能性あり。

2025/7/11 全修正。難しかったです。次は17話です。

2025/9/1 誤字脱字修正。ほとんど変えていません。


お読みいただきありがとうございました。

次はダンジョンにやっと入る予定です。

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