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第11話 初めての高等部

2024/10/23 投稿します。


書見のほどお願いします。

上手くできたか心配です。

 2074年9月4日。火曜日。雨のち曇り。

 早朝の時間。

 ボクは夢を観る。


 また裸だ。

 なにも覚えていないんだけど。

 そう夢うつつと思案したニルトが、青緑の瞳を開き、暗闇に向けている。

 地面が黒く、周囲は闇に覆われている。

 生まれたままの姿で堂々と浮かび上がり、普段よりも幼く、その想いのささやきが不思議と耳に響く。


 暗いよう。

 でも怖くなんかないんだからね。

 ふふん。

 大人なんだからね。

 幽霊が出ても倒しちゃうんだよ。

 そんな風に裸で少ししかない胸を張り、虚勢と闇の中で笑顔を向けていると、不意に風景が変わっていく。

 わあ。綺麗だ。

 大きいキノコ型の一軒家が、小麦色の草原に白く彩る景色と一体化している。

 その庭先のガーデニングテーブルに、紅茶セットとお菓子が備わるスタンドが置かれている。

 白い椅子に座り、優雅にソーサーを持ち、ティーカップに口を付ける女性が姿を現わす。

 懐かしい気配。

 始まりの前世から遡ること、最初の転生先でお世話になった人。

 白い手袋をした右手で持つカップから唇を放し、左手で持つソーサーとカップを重ね、白い机にそえ置く。

 優雅に顔を上げ、金色の瞳を向けてくる。

 一度の微笑み、すぐに視線をお菓子が入ったスタンドに向け、マカロンを指で摘まみ取る。

 白いドレスに掛かる毛先がカールになった長い黄金の髪をほほに流し、それを左手で拭い、右手に持つマカロンをほお張る。

 その優雅にお茶を楽しむ美少女の姿に見惚れていると、自然と微笑みが生まれ、青緑の瞳を緩めていく。


 ティア。久しぶり。

 そうしたニルトの思いのつぶやきが、白いドレスの少女に伝わり、興味を引く。

 ほほを緩ませ、柔らかく整った眉を上げ、目元を緩ませる。

 ユウ。

 久しぶりなの。

 その響きを心内で捉え、元主人にして、友人で、母親のような人との再開に、強く笑みを浮かべる。

 ここが幻想界になるんだね。

 また戻ってくることができたんだ。

 そう郷愁に思うニルトの童顔が、優しく綻びる。

 それを目にしたティアが笑みを浮かべる。

 両手を広げ、瞳を細め、より強く口元を引きつらせる。

 そのとき、辺りが一変し、戦場の景色になる。


「クアドラプルオーバーウィル、

    ヴォイドレルムソール、呪喰カースイーター模倣イミテッド


 光がその場の景色を淡く彩る。

 明らかに青年の姿となる弾矢の体が、黄色い魔力の輝きに包まれていく。

 遠くまでそそり立つ壁に、岩肌の大地が続いていく。

 おおよそ洞穴のダンジョンの一画だった場所に、金色の草地くさちが生まれていく。

 その黄色の光が遠くまで広がり、異界の荒野が創られていく。


「やはりウイザードに至たるはこうし難い。その方、我に今一度名乗るがよい」


「オレは遠本弾矢だ! 呪喰模倣じゅしょくもほうの弾矢だ! お前を倒し、ダンジョンの暴走を止めてみせる!」


呪喰カースイーター模倣イミテッドよ。其の方の真の名は、呪喰模倣じゅしょくもほうと申すか。面白い。良い名であるな。我が等級無限に相応しい好敵手。其の方を糧道りょうどう人柱じんちゅうとし、我が真相に投影しよう。虚無実相きょむじっそうの統覚に至る我をより高みへと誘う者とし、我は其の方の敵となろう。ああ、素晴らしい」


 白のローブ姿に一欠ひとか逆卍ぎゃくまんじのペンダント。

 赤いライオンヘッドに、無骨と濃い顔をする。

 まるで殉教者。

 淡い魔素をまとい、魔力で具象した夢幻の砲弾車を背後に置く。

 姿形すがたかたちりゅう弾車のようだが、その大きさは巨大。


「早速だが、其の方には早々にこの場から退場してもらうことにしよう」


「それはこっちのセリフだ! オレがお前を必ず倒す!」


 対する弾矢は、鬼人の如く強大な虚実の肉体をまとう。

 黄色く輝き、高々と仁王立ち。

 実体は鬼人の身の内で宙に浮く。

 傍らにニルトと写し鏡の少女を巨大な肩に携え、黄色に輝く力の流動を左右の手に収束させている。

 それを許さず。

 宗教家の男が装飾を凝らした白いローブからの右腕を弾矢にかざす。

 筋肉質の口を動かしていく。


「レベルブーストインフィニティー! タイプ一式! 自走式魔力砲弾列車ヘルファイヤ! 漆黒の勇壮よ、その列走とした無数の砲身で敵を撃ち滅ぼせ!」


 その低く野太い声が轟いた時、砲弾車の形をした具象の幻が、大きく長く姿形を変えていく。

 その青い輝きに危険を感じた弾矢が、鬼人とした虚実の肩に乗る少女に向けて、見上げるように頭を上げる。

 白いローブ姿の敵に向け、力を示す先を指定するかのように右腕を上げる弾矢が、少女に向けて命令を口にする。


「ニーン、頼むぞ! オレに力を貸してくれ! マテリアルパーフェクトサクション!」


 弾矢の周囲から明滅と光が生まれ、黄色の空間が広がっていく。

 その輝きの境界に浮かぶ宗教家の男の背後に、巨大な幻影が形になる。

 爆風反動と現れ出る黒い列車風の軍車から、連なる砲口の火が吹き上がる。

 無数の砲身から爆音を奏で、ドドドドドっと響きが轟き、巨大な光の玉が列をなして、弾矢の広漠とした黄色い魔力壁に激突していく。

 その衝突が一切の音を消し去り、まるで光の球が渦に飲み込まれていくかのように、弾矢が作り出したゆがむ壁の中心へと流れていく。

 それは力の吸収。

 光る壁が鬼の顔を形にする。

 その口に吸い込まれるかのように、光の球が消滅し、青い爆風の波動を生み出していく。


 凄いね。

 これが魔法使いの戦いなんだね。

 宙を舞い、幽体のように傍観するニルトの心情は興味の目。

 轟雷と地響きが続く様相に赤く輝く瞳を当てて、聞き耳を立てていく。


 そうなのよ。

 この結末があなたを産むことになるの。

 やっと会えたのよ。

 今はニルト。

 ニルトの心の中に、甘く心地よい声が流れてくる。

 その声を探すかのように、赤い視線を左右に向ける。

 すると景色が変わり、再び小麦色の草原に移る。

 黄金色の髪をなびかせ、白いドレス姿のティアが、白い椅子から立ち上がる。

 実感ある風が吹き、夢なのかと疑いたくなるが、向かい合う少女の整い過ぎた口元に目線を当て、それが上下と動き出す様子に、ぼう然とした顔になる。


「あなたはダンジョンで生まれ、そして自立したの。地球と呼ばれる星で生じた奇跡の戦いに勝った者の願いの選択によってね。本来弾矢という青年の死によって生まれてくる予定だったはずなのに、その願いを解除した未来によって、過去の世界が変わり、ニルトという一つの個体を作ることになったの」


 それだとボクという存在は相異世界において一人だけってことにならないのかな?

 そんなことってあるの?

 ニルトは不思議に思う気持ちを首の傾きで表現する。


「違うの。あなた自身によって未来が変えられたからこそ、世界はそこに収束し、今こうして私と話すことができるようになったのよ。これがゼロの矛盾による奇跡の力なの。ニーンであるあの頃のあなたが転生し、そのまま復活することになるんなんて、本当に夢のようなのよ」


 むう。

 唇を尖らせたニルトが不満と、ブラウンゴールドの眉を曇らせる。


「まるで赤ちゃんなのよ。私が好きなあたなはどこに行ってしまったの?」


 だって分かんないんだもん。

 ニーンは男の子だよ? ボクがニーンの復活体だっていうのなら、当然ボクも男の子になれるはずだと思ったんだよ? でもね、実際は違うんだもん。そんなの嫌だよ。

 思想の声で告げたニルトが、小さな口を閉じ、ほほを大きくさせる。


「どうしてそんなに男の子になりたいの?」


 だって、女の子と一緒になりたいんだもん。


「それは、エッチなことがしたいってことなの?」


 よく分かんない。

 けど、男の子なんだよ。


「いいのよ。男の子になれる予測が立つか、調べてあげる」


 ありがとう。流石は未来を司る奇跡さま。

 どこに居てもボクはティアの味方だよ。

 そんな風に、心から漏れ出た甘い声をつぶやき、期待を寄せる青緑の瞳を閉じ、祈りを捧げ、両手を握る。

 大好きなお姉さんに向き合うように、床にひざを着き、背筋を伸ばす姿勢をする。


「ふーん、そうなのね。できるのよ。ただし、目的次第だけどね」


「え? なれるの? やった!」


 ティアが云うのなら間違いはないよね。

 だって、外れるはずがないもん。

 まぶたを開け、興奮したニルトが、夢の中だというのに、「うー」と、肉声を上げ、嬉しいを表現する。

 おそらく現実の身体が寝言を言葉にしたに違いない。


「そういう意味ではないの。好きな子と一緒になれればいいのよね?」


 うん、うん。

 必ず幸せになれるんだもん。


「問題はあるの。あなたが望む結果になるには、多くの試練が待ち受けているの。前世以上の面倒事はなくても、苦労があるはずなのよ。それでもゼロの矛盾を叶えるあなたであるのならば、わずかな可能性があるのよ」


 ボク、がんばる。

 手始めに何をしたらいいのかな?


「好きな子を沢山作りなさい。男の子でも女の子でも分け隔てなく。そうすると、いろいろなことが分かってくるはずなのよ」


 分かった。そうするよ。

 心内でティアの言うことはなんでも聞きたいニルトが、晴れた顔で嬉しい感情を全面に表現する。

 男になれるのならばなんだってする。

 そう思案したかのように、瞳を細め、満面の笑みになる。


「もうすぐ時間なの」


 起床の覚醒が近づいている。

 朝の目覚めがそこまで来ている。

 その証拠に、ニルトがティアから自然と離れていく。

 それがとても切なく、胸が苦しくて、久しぶりに会ったママの面影のように、姉のような女性から別れたくないという想いが、目元に涙を生む。

 もっと甘えたいという欲求が募り、眉を寄せ、瞳を曇らせる。

 その気配を知ったのだろう、ティアという少女が、微笑むように嬉しいとする一言の想念をニルトに送り、口を開く。


「またね、ニルト。私はあなたのことだけを見守っているから」


「まっ」


 てよ。

 言葉にならない目覚めに、ここはどこだろうと一瞬の疑問。

 すぐに朱火のベッドの中だと気付き、またしてもやってしまったと、ニルトは自分の甘えに反省する。

 強く閉じた目元にしわを寄せ、瞳を細く開き、赤い髪の朱火の寝顔に視線を合わる。


「ティア……」


 零れる夢の思いを告げ、その切なさを拭うように息をのむ。

 朱火の眠りを妨げないように、そっとベッドから身を起こす。


 朱火ちゃん、ありがとう。

 心内で感謝を告げて、そっと左手を右手にそえる。

 すぐに触れていた左手を放し、ベッドから降りるよう静かに、カーペットに足を付ける。

 力を抜き、魔力を発散させ、全身にその波をまとう。

 空気中の魔子と同質になるよう、魔力を変質させていく。

 そんな風に、ニルトが霧のように姿を消していく。

 今は何時だろう。

 気配を薄く、掛け時計に視線を移し、午前五時の時針を意識する。

 一度うなずき、そのまま静かに入り口の戸へと向かい、無音でドアノブを回していく。

 廊下に出て、向かいの自室に入る。

 指を鳴らし、急いでマンドラゴラスーツを青いワンピースフリルのドレスとした装いに変容させる。

 収納と着付けを同時に行ったニルト。

 姿見用の大きな鏡の前に立ち、身体だけ左右に振り返る。

 変な所はないよね?

 身なりのゆがみは心のゆがみ。

 ブラウンゴールドの寝ぐせが付いた髪が気になり、手元からブラシを取り出し、シュシュを外して整える。

 なんかクセ毛がある。

 毛先だけ曲がって扱いづらい。

 女の子ってこういう作業が面倒くさいよね。

 そう考え、手早く慣れた手付きで髪を整えていく。

 手元から新しく黒いリボンゴムを取り出し、結い直す。

 鏡で全身を散見するよう、青緑の瞳を揺るがす。

 首を左右に振り、一三〇センチに届かない全姿に目を向け、眉を寄せる。


「男になるもん」


 決まりの一言をつぶやき、出入口のドアに振り向き歩く。

 今から朝ご飯の準備をする。

 家族を起こさないように騒音に注意をしよう。

 そう考え、ドアノブに手を掛け、廊下に出ていく。

 静かに歩き、階段をゆっくり下りる。

 降りた先で女子トイレに入る。

 便座で用を済ませ、廊下を歩き、脱衣所に向かう。

 入り口壁際洗面台の前で立ち、手と顔を洗い流す。

 顔を拭き、歯を磨く。

 口の中を洗い流し、タオルで口元を拭く。

 脱衣所を出て廊下を歩き、誰も居ないリビングに入る。

 吹き抜け台所の冷蔵庫まで歩き、扉を開けて、朝食のメニューを考える。

 中の食材に瞳を泳がせていく。


 エッグプレットにしよう。

 ニルトは背伸びをして、入れ物から八個卵を取り出す。


 異世界の料理。

 容器を棚から取り出し、卵黄と卵白に分ける。

 卵黄にハーブの粉と醤油を少量合わせ、卵白に砂糖多めと、箸で手早くかき回す。


 卵焼き用のフライパンを出し、IHコンロに温度設定で熱を通す。

 油代わりに魔力を使い、一気に卵黄をフライパンに流し込む。


 ここが勝負。

 表面がパリッと中は半熟に焼けるよう、熱通しを魔覚で調整する。

 スクランブルエッグを作る工程に似ている。

 ドリップ状の卵が堅くなった瞬間を見計らい、表面温度が上がらないように魔力で調整する。

 コンロの温度調整用ボタンに触れるニルトが、瞳を細め、四角いフライパンが青く輝く瞬間に反応する。

 タイミングを計らい、卵白を投入し、軽く混ぜていく。

 折りたたむように箸で整形。

 ついでと、箸が生地に触れたそのときに、四角いフライパンを淡い水色に輝かせる。

 リーズン処理。

 その瞬間に、ニルトがフライパンを一気に持ち上げ、生地を中空で裏返しにする。


 それを繰り返し、ウインナーを片手間でボイルする。

 昨日の鍋汁を使い、余った具材を入れ、みそ汁の代わりにする。

 別の鍋で白味噌と赤味噌と甘口味噌を合わせ、温度設定をしながら調理をしていく。


「おはよう」


 パジャマ姿の剣が廊下から現れる。

 ニルトに声を掛けてきた。

 ニルトはその気配を感じ取っていたように振り向き、「おはよう」と、返事をした。

 剣が隣に寄り着き、「凄いな」と、つぶやいた。

 味噌汁の灰汁を取るニルトと会話を続ける。


「何か手伝うことはあるか?」


 朝の準備は申し分ないな。

 そう妹の手際を信頼した剣が、昨日の着ぐるみ姿と違った服装に目を見張り、青い瞳の眉を上げ、指示を仰ぐ。


「うん、そうだね。今日からお弁当を作ろうかと思ったんだけど、手伝ってくれるかな?」


「ふむ、いいぞ。しかし急にどうしたんだ? 学食で食べればいいではないか」


「ボクがそうしたいからだよ」


 本音を言うと、怒られてしまうよね。

 異空間に食べ物をストックして、ダンジョンへ行くための準備がしたいんだ。

 全員分の弁当を作るという口実で、少しずつ保存する作戦なんだけどね。

 そう欲望を募らせたニルトが、鍋に青緑の視線を向け、調理に勤しむ姿のまま、剣に意識を配る。


「ふむ、そうか。では何からやればいい?」


「じゃあ、おにぎりを作ってよ。朝食分とお弁当分を合わせて四個ずつ」


「分かった」


 ニルトが丸いフライパンを片手で握る。

 昨日の残りのつくねを使い、余った焼肉のタレと合わせ、焼き色を付けていく。

 空いた時間で棚から弁当箱を取り出し、自分用は使い捨ての洗った惣菜容器を用意する。

 余熱を冷ますために、ウインナーと卵プレットを照り焼き風にしたつくねと一緒に並べていく。


「できたぞ」


 流石は剣お姉ちゃんだ。

 横に着くニルトが、昆布と塩と梅の海苔おむすびを大皿に取り分け、一つずつ手に持ち、弁当用に魔力を通す。

 腐敗防止のリーズン処理を丁寧に施し、青い光を微かに灯す。

 そうして、時刻は午前六時三〇分を過ぎる。


「いただきます」


「ん、いただき」


「いただこう」


 三人が手を合わせ、日常の習いをする。

 そのかたわらで、異界の風習を取り入れたニルトの挨拶は、一風変わった振りになる。

 瞳を閉じ、眉を上げる仕草をする。


「三女神に感謝し、今日も健やかに、一日を過ごせますよう、朝の糧に捧げます」


 祈る様に両手を握り、右の人差し指で漢字の一字をなぞる。

 瞳を閉じたまま、続きを口にする。


「ありがたく、いただきます」


 一人だけ違う行為に見慣れた様子の三人は、父親の実家のアメリカの風習だろうと気付くことなく、箸を利き手に持つ。

 おそらく他宗教なのだろうとニルトをそう認識し、三人は食事を進めていく。


 早朝のニュース番組に耳を傾け、美味しいと言葉を交わす四人。

 ニルトが自分の味付けに舌を巻き、青緑の瞳を柔らかくする。


 昨夜強盗が都内で発生したという報道が鳴り響く。

 ニルトは、昨日の授業で見聞きした動画を思い出し、今日の予定を言葉にするため、一度箸を止め、アニメプリント柄のマグカップに口を付け、牛乳で口の中の物を流し込む。

 そうして、三人に青緑の瞳を向け、口を開く。


「ボク、今日から一人で登校するからね。下校も一人でできるから、心配しないでよね」


 弾矢がニルトに気付く。


「なんだ。オレに言っているのか? オレは別にかまわないと思うぞ?」


 好きにすればいいのに、何でそんなことを気にする。

 授業の進捗に余裕があるオレとは違い、入学したばかりのお前は、勉強に時間を割く必要があるはずだ。

 ああ、なるほど。つまり、オレ達と生活リズムに自分の生活が合わないことを気にしているのか?

 流石はオレの妹だ。気が利くな。

 そう感心した弾矢が、今日も愛らしい髪型のニルトに、優しく微笑みを返す。

 朝の寝ぐせが付いたワンブロックの茶色い髪の前髪から覗く瞳を細め、ほほをつり上げる。

 その応えに気を満足したニルトが、続けて剣と朱火に口を開く。


「二人もいいよね? ボクは一人でもできるよ?」


 左右に顔を向けているニルトの会話を聞いて、眉を寄せていた二人が、口を開く。


「ダメです。私は心配です」


「そうだな。私も心配だな」


「え?」


 どうしてそんなことを云うの?

 思いがけないパジャマ姿の二人からの返答に、青緑の瞳が瞬く。

 不安と顔を曇らせている妹に向け、朱火が同じベッドで眠っていたことを棚に上げるために、その理由を口にする。


「昨日一緒に眠っていて思ったのですが、ニルトくんは甘えん坊なので、悪い人に騙されそうな気がします。私としては、誘拐されそうで心配です」


 朱火の指摘に納得のうなずきをする剣が、返答の意思を口にする。


「最近は都心の治安が悪くなっている。この前も強盗や殺人事件が起きたばかりだ。家は女ばかりで弾矢しか男手が居ないからな。可愛いニルトのことだ。ストーカーにでも狙われてしまうと、後々面倒事になる」


 そんなヘマはしないもん。

 だってボクは男だよ。

 悪者が来たら魔術でやっつけてやるんだからね。

 ニルトは反論の意志を深め、二人に鋭い視線を向け、童顔の眉だけ釣り上げる。

 ほほを膨らまし、想いとは裏腹に、幼気な可愛さをアピールする。


「一人でできるもん。こればかりは譲れないよ」


 幼い子供としたニルトを目にし、先ほど同意をした弾矢もこれはまずいと考え、瞳を細める。


「う、いや……」


 冷静に考えてみよう。

 ニルトが見た目よりも大人だとオレは思っている。

 普段の様子からも分かっている。

 ニルトはしっかり者だ。大体のことは任せてもいいだろう。

 だが、自信過剰なところが不安を感じさせる。

 二人の会話を聞いていると、言い分が正しいようにも聞こえてくる。

 分からない。

 そう思案した弾矢が、右手を目元に当て、厳しく額を寄せる。


「ふむ」


 ニルトはダンジョンによって生まれた不思議な子供だ。

 だが遺伝子的にも私たちと繋がりがある実の家族だ。そして私たちとは違う生活をしてきたと聞いている。

 だからこそ、私よりも強いなにかがある。

 どう判断していいのか迷っている弟の考えも分かる。私も迷っているところがあるからな。

 そう思考した剣が、青い瞳を大きくし、ニルトに当て、目力を強める。


「ん」


 幼い。

 可愛い。

 それだけで心配です。

 私にとって初めての妹。

 そんな大切な存在を心配するのは当然のことでしょう?

 不安そうに眉を寄せて、首を傾げる朱火の思いも感じ取った剣が、一度くらい試しに一人で行動させてもいいのかもしれないと、ニルトの擁護に傾き出す。

 末の妹は強い。

 下手をすると自分以上の実力者になる。

 そんな相手に勝てる者など早々居るはずがない。

 本音を言うと、そこまで心配はしていないのだが。

 そう考えに行き着いた剣が、おそらく自分に決定権があるのだろうと、兄妹二人に向け、答えの意志を口にする。


「そこまで言うならば許可を出してもいいだろう。ただし、条件がある。帰りは携帯で必ず連絡を入れて欲しい。それと、今日の門限は五時までだ」


 連絡があれば、その時点でキッズ用の防犯アプリで監視をすればいい。

 それに、門限を設けることで暗くなる前に家に居てくれるはずだ。

 多少遅れても問題はないだろう。

 そう考えを導き出した剣が、ニルトに向け、青い瞳の瞬きを強くする。


「できるか?」


「うん」


 ボクは生まれて一歳だけど、心は男だよ。

 ボクは強いし、問題はないんだからね。

 そう自信あるニルトが、「うん。できるもん」と口し、剣の瞬く青い瞳を見詰め返した。


 時刻は午前七時を過ぎたところ。

 テレビで朝ドラが始まり、三人の視線が液晶モニターに向く中で、ニルトは手早く食器を片付け、弁当とおにぎりを収納していく。

 廊下の入り口まで歩き、「それじゃあボク、学園に行くからね」と、声に出し、自室に戻るように歩いて行く。


 階段を歩き、二階の通路に出る。

 自室の前でドアノブを回し、部屋に入る。

 黄色のスクールブラウスに、赤い紐リボンと淡い緑のプリーツスカートをハンガーから取り出す。

 それを全て身に着け、引き出しから取り出した黒のソックスを手早く履き、茶色の鞄を持って、携帯電話を中に仕舞い込む。

 その後で廊下に出る。一階へと足音を激しく立てて降りていく。玄関に向かい、学園指定の黒い靴を履く。


「行ってきます!」


 大声を張り上げ、玄関のドアを開けて外に出る。

 三十分ほど掛けて学園に向かっていく。


「おはようございます!」


 勝手が分からないニルトは、周囲の人の真似をして、笑い掛けるよう挨拶をしていく。

 男性からは、「おはよう」と、そっけない態度が返ってきた。

 そっか。これが普通の対応なんだね。

 だったらもっと自信を持って挨拶をしていけばいいよね。

 そう考え、意識高に眉を寄せたニルトが、社会人のマナーとしての挨拶を続けていこうと心に誓う。


「おはようございます!」


 すれ違いに挨拶を行っていく。

 しかし、周りからは違った思いが飛び交っていた。

 あの子誰だ?

 元気だね。

 可愛い。

 今日もいいことがありそう。

 柔らかく甘いニルトの声が小気味よく、徐々にその認知度を高めていく。


 玄関口から二階へ上がり、特待生の教室で立ち止まる。「おはよう」と挨拶を済ませ、室内に足を踏み入れる。


「誰もいないね」


 そう一人寂しくつぶやいたニルトが、不思議と明かりが点く室内に靴音を響かせる。

 自分の席に鞄を置き、後ろの専用棚からパソコンを取り出し、その準備に取り掛かる。

 しばらくして、誰かが入って来た。


「おはよう。遠本さん」


「おはよう」


 パソコンの操作に夢中のニルトが、担任の紫桜香花しおうきょうか教諭のホームルーム動画を目にし、管理局でダンジョン講習を明日に受けて欲しいという連絡を聞いていた。

 そのため、同級生の藤部渡子ふじべとこの気配にそっけなく、意識はモニターに釘付けとなる。


「場所は千城区にあるダンジョン総合管理局に行って欲しいです。地図はアップしておきました。分からない場合は、職員室に居る先生に聞きに来てね。待っているからね」


 ありがとう。紫桜先生。タイミングが良い感じです。

 ニルトが、これでダンジョンに行けるのかと期待し、エメラルドグリーンの瞳を淡く輝かせる。


 それを目にした藤部渡子が、やっぱりこの子にメイドコスをさせたら流行りそうだと思案する。

 そう自分のゴスロリ趣味に引き込みたい思いを募らせ、黒色と水色のマーブルボブの前髪から覗く、黒の尖った瞳を瞬かせる。

 それらの思いを一時的に飲み込み、親切心からの質問を口にする。


「遠本さんは今日一日どう過ごすのかしら? なにか分からないことはある?」


 学園の連絡は携帯でも分かることを知らないようでは話にならないわ。

 今のうちに聞いておいた方が身のためよ。

 そう言葉にしたい思いを飲み込み、藤部渡子が振り向く同級生に向けて、ゴスロリで培った冷たい瞳を当てていく。


 藤部さんの目が綺麗だね。

 見上げるように黒の瞳を見詰めるニルトが、藤部渡子の幼さが残る演技的な容姿に惹かれていく。

 親切な人だね。

 どうせだから授業の受講順番について聞いてみようかな?

 その意志を伝えるために、ニルトが柔らかく口を開く。


「それじゃあ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「何かしら?」


「ここに書いてある学習指導要領に沿って予定を立てて欲しいってあるんだけど、予定表の付け方を教えてくれない?」


「ええ、いいわよ」


 藤部渡子が、ニルトの肩に触れるほど近くに寄って座る。

 ニルトが鼻先で渡子の甘い香りを感じ取る。

 女の子の匂いがする。

 どうしよう。

 ちょっとドキドキしてきた。

 化粧水の甘い香りに気を取られ、息をのむ。

 それを知らない渡子も、同じような気持ちを感じ取っていた。

 遠本さんから良い匂いがするわ。

 何にを使ったらこんな香りがするのかしら? 本物のお嬢様は違うわね。

 互いに知ることのない気持ちを胸に潜ませ、教えを伝える渡子と返事をするニルトの声が、教室中に響き渡る。


 それから三十分。

 突然入り口から、男子二人が全身タイツ姿で入って来る。

 それぞれにデザインが違うことに勘付くニルトに向けて二人が、「お? ひよこちゃんが居るな」「本当だ。可愛いね」と、声を掛けてきた。

 ニルトは反論の声を上げる。


「ひよこってなんだよ! 失礼だぞ!」


 ボクを馬鹿にしているのかな?

 そう考えたニルトが、目の前に立つ男子たち二人を見上げ、茶金の眉を釣り上げ、目力を強める。


 昨日パソコンで確認したクラスメイトで、二人とも二年生だね。

 一人は眉が太く、目が細く、黒と茶色のマーブルショートの髪に、細身で体が平均よりも低い花村東平はなむらとうへい

 そしてもう一人が、ひよこちゃんと呼ぶ、薄入強吾うすいきょうご

 刈り上げの茶髪で、身長高めの明るい顔立ち。

 そう二人を分析し、浮き足座る背の低いニルトに合わせ、机の前で屈み、視線を合わせる薄入強吾が、口を開く。


「遠本の事を皆がひよこちゃんと呼んでいるぞ? 俺でなくても呼ばれることがあるから注意した方がいいな。それにしても近くで見ると余計に分かる気がする。うん、ひよこだ」


「どういう意味だよ?」


「まあ、まあ。そんなに強吾を怒らないでよ。そうだね。そのままの意味だよ? 鳥の魔物のチックバードって知っている? その鳥みたいに可愛いって、朝から噂になっているよ?」


「むう……」


 印象良く見下ろしてくる花村東平に、ニルトが意識を向ける。

 チックバードってなんだよ。

 聞いたことがないぞ。

 似ているってどういうこと?

 東平が口元を緩めている様子に少し不満を感じてくる。

 そんな心根で、ほほを膨らませる。

 そこに片目でウインク。薄入強吾の仕草に、ニルトが不満をさらに募らせる。

 より大きくほほを膨らませる。


「ニュースで見たことがないのか? 新種で、金色の毛並みの小さい魔物。倒すと必ず黄金の魔力石を落とすとかで話題なっているんだぞ? 弱いし、可愛いしで、最近も新聞に掲載されていただろう?」


「そうだよ。金色の毛並みが綺麗でヒヨヒヨと鳴くから可愛いよね? ワーレフの間でも倒すのに抵抗があるってネットの記事にも書いてあったよ」


 花村東平が薄入強吾の会話を補足した。

 よっぽどほほを膨らませているニルトが気に入ったのか、強吾が目元を柔らかくし、さわやかな笑みを向ける。

 逆に東平は冷静そのもの。

 腕時計を気にした素振りで、休み時間に余裕がないのか、細い目を遠くにやり、元気がない表情をする。

 そんな先輩二人に膨れた顔をするニルトを目にした藤部渡子が、メイドコスより異世界コスの方が似合うかもと、何かを計算するように、瞳を光らせ、差し指を閉じた唇にそえる。


「強吾。そろそろ行こうか? 時間だよ?」


「あ、そう? じゃあ行くか!」


 薄入強吾が立ち上がり、花村東平と共に出入口へと歩いて行く。

 花村東平が去り際に振り向き、右手を立てる。

 薄入強吾も振り向き、「ひよこ。またな!」と告げ、片手を上げていく。

 二人が教室から廊下へと出ていった。


「むう。ひよこだなんて酷いよう」


「私は可愛いと思うけど。それに、初日で呼び名が決まったなんて凄いことよ。ニルトは有名人ね」


「藤部さん。ボクの名前……」


「これからは渡子と呼びなさい。ね? ニルト」


「う、うん。分かったよ。渡子ちゃんでいいよね?」


「渡子ちゃん、ね。ふふ。いいわね」


 クールに笑みを浮かべ、口元を柔らかくした渡子の顔は冷たく演技的。

 横目でそういう人なんだと解したニルトが、再びパソコンに向かい、目元を強くさせていく。

 そうして、しばらく経ち、教えてもらった内容を消化するために、「ありがとう。もう大丈夫だから」と、お礼を口にして、軽く一礼をする。


「そう……」


 渡子が小さくつぶやき、少し眉を落とした表情で立ち上がる、

 なにか残念そうに、「生徒会に行ってくるわ」と告げ、ニルトから離れていく。

 うなずきで返答したニルトが、パソコンのモニターに目線を当て、ライトタッチペンを片手に、勉強を進めていく。


 それからしばらくして、四限目の開始のチャイムが鳴り響く。

 必修の教養選択に音楽の授業を選び、小テストを書き終えたニルトが、続く数学の小テストに取り掛かっていく。

 簡単だね。

 タッチペンをモニターに走らせ、素早く式を解き、計算を書き連ねていく。

 数分でその全てを解き終え、背筋を伸ばし、肩を揺らす。

 すると、教室の入り口から誰かが入って来た。


「ニルト。ご飯を食べに行くのですよ」


「え? もう?」


 大円初来愛おおまどしょこあが声を掛けてきた。

 時刻は一一時三〇分を過ぎたところ。

 四時間目の終わりにはまだ時間がある。

 パソコンモニターの時刻にも瞳を落とし、ニルトが咄嗟に見上げる。

 黒髪のツインテールを白のカチューシャで彩る初来愛に驚き、「あ、可愛い……」と、思わず声を漏らした。

 目を丸くした初来愛の黒い瞳に青緑の視線を合わせる。


「まあ、嬉しいのです。ありがとう、ニルト」


「う、うん」


 どうしよう。

 胸がドキドキする。

 可愛いという感覚が分かってきた気がしたニルトが、目立たないようにしていた自分の髪型も変えてみようかと、思わずブランゴールドの結い髪に右手をそえる。


「さあ、行くのです。時間がないのです」


「初来愛、ちょっと待ってよ! 後片付けもしないといけないし、準備をさせて欲しいかな!」


 初来愛に腕を引かれるニルトが、パソコンの電源を落とし、棚に片付けるために、急いで教室の後ろへ歩いていく。


「早くするのです。ニルト」


「うん」


 棚扉を閉めて、屈んでいた体を起こし、後ろの出入り口から廊下へと出ていく。

 職員室の前を通り、階段を降りる。

 下りた先を右方向へと歩いて行く。


「あれ? 食堂はそっちじゃないよ?」


「はい。今日は違う場所になるのです。こちらに付いて来てください」


「うん。えっと」


 どこに行くんだろう?

 食堂と全く逆方向だよ。

 疑念を募らせたニルトが、初来愛の後ろに付き、一階の通路をひたすら進む。


 技術棟。

 入ったことがない場所。

 オートロックドアが通路を仕切り、学生証カードで二人をチェックする音を響かせる。

 やっと慣れてきたイメージセンシング認証に、ニルトは息を飲む。

 進む通路に再び認証の自動ドア。

 外と隣接した吹き抜けの場所に出る。


「こっちなのです」


 あれ? こんな所に下りる階段なんてあったんだ。

 地下道なんて学園で始めて見たよ。

 そう考えを巡らせたニルトが、黙って初来愛の後に付いて行く。


 人の動きに合わせ、自動で照明が点灯する。

 コンクリートの長い通路をひたすら進み、突き当りの階段を上る。

 再びセンシング認証。

 金属の扉と向かい合い、初来愛が黒い瞳を天井に向ける。


「通してください」


 どこかにセンサーが在るのだろうか、初来愛がニルトに分からない追加で心の声を出していく。

 すると、ピーと電子音が流れる。

 初来愛がニルトに振り向き、「先に行ってください」と、言葉にした。


 ニルトが重たい開き戸に体を付け、全体重を使い、押し開けていく。

 重たい音を響かせ、扉が徐々に開いていく。

 そのまま中に入ると、コンクリートだった冷たい通路から一変し、人の気配がする暖かい雰囲気になる。

 人のざわめきがする。

 ここが高等部の玄関口。

 係員の受付に、授業の臨時を知らせる掲示板と、映し出される学内案内モニターが設置されている。

 紺色の学生制服を着た男子と女子たちがその周辺を歩いている。

 それを見聞きするニルトが、青緑の瞳を瞬かせる。


 歩く男性と目が合う。

 注意されることなく、笑みを向けられる。

 それもそのはず。

 中等部と高等部はダンジョン実習で関係があり、高等部の敷地に中等部の生徒が入って来ることはよくあること。

 そのことを知らないニルトが、扉から入って来る初来愛を目にし、ほっと息を付く。


「食堂はこっちなのです。付いてきてください」


「うん」


 まばらと人が休みなく通る生活感のある場所。

 意匠を凝らした木造の通路に天井が高く、その場を歩く小柄なニルトに、すれ違う上級性の意識が集中する。


「おい。あれが噂の人か?」


「マジか!」


「え? この子がか? 俺、始めて見た!」


 三人の男性から指差しレベルで視線が向けられる。

 その顔の先で堂々と歩く初来愛の後姿に、ニルトが付いて行く。

 講義室と隣接した通路を一直線に歩き、別の建屋にたどり着く。

 売店の隣を通って、その先に進むと、カフェテリア風の内装が広がる。

 フロアーに四角い机と丸い机が沢山並んでいる。


「ここが第二食堂になるのです。セルフサービスになっているので、入った時点でチェックが掛かる仕組みになっているのです。ここは全て私が受け持つので、好きな物を選んでください」


 突然の告げ口に反応できないニルトが、高級そうな食べ物が並んでいる受付カウンターへと向かう初来愛を呼び止める。


「自分で支払うよ?」


 振り向く初来愛が、ほほをつり上げ、笑顔になる。


「いえいえ。これは当然のことなのです。今から部のお仕事をお願いするのです。その報酬代わりにという意味で、受け取って欲しいのです」


 本当にいいのかな?

 ニルトが、「分かったよ」と告げ、初来愛の後に付いて行く。

 二人はトレイを持って、主菜のおかずを注文し、副菜のサラダを手に取る。

 その他に、スープを選び、主食にご飯と、デザートはケーキを選択する。

 全てを受け取ったニルトが、テラスに向かう初来愛の後ろの続き、重たいガラスドアを体で押し開け、外に出る。

 外はやや曇り空。屋根付きのテラスに日影が差し、熱い気温を涼しくしている。

 その下に丸く白い机が数基並び、白い椅子がその周りを囲う。

 席は全て満席で座るところがなく、どこに行くのか分からないニルトが、トレイを持ったまま首をコテンと傾ける。

 迷いなく歩みを止めない初来愛の姿に視線を動かし、まさかの相席に、瞳を大きくさせる。

 高等部の男子二人と女子一人が座る丸い机の空き席に着く。


「初来愛。遅かったな。俺たちは先に食べ終わったぞ?」


「ああーん。初来愛たん。待ってたよ。な! な! ほらな! 俺の云った通りだろう? 今日はツインテだってな!」


「分かった。分かったから落ち着いてくれないか? 今日は新しい部員も居るんだ。初めての顔合わせだから恥ずかしいことはするなよ?」


「いいじゃん、いいじゃん。初来愛たんは俺のアイドルなんだよ。可愛いって思ってなにが悪いんだ。初来愛たん、はあ、はあ。俺と結婚してくれ!」


「えっと……」


 どう応えていいかの分からない。

 おそらく初来愛もそう考えているに違いない。

 黒い眉を落とす横顔の仕草に、ニルトは勝手が分からず、首をコテンとさせて、トレイを持ったまま立ち尽くす。


「可愛いなー。家に連れて帰りたいな」


木上きじょうくん。そろそろ止めよう。ねぇ? ふふ」


 ぶっ殺すよ。とした黒い魔素の輝きを発散とさせる女性が目を細めて笑っている。

 黒いロングヘア―にカチューシャを通した髪が不思議と揺らぎ、木上きじょうという男性に、にらみを付けている。

 初来愛がその隙に女性の隣へとトレイを置き、ニルトも初来愛の隣に付く。

 まだ座ることなく立ったままの姿勢で、高等部三人の様子に視線を配る。


「それで? その子か? 初来愛がスカウトしたっていう新しい部員は?」


「はい」


「初めまして。俺は東先奏生あずまさきかない。二年A組だ。合研図書部の高等部部長をしている」


「私は黒咲那依くろさきないだよ。奏生と同じクラス。よろしくねぇ?」


「いいよ。いいね! こっちも可愛い! 俺は木上包夢きじょうつつむお兄ちゃんだよ。奏生とはマブダチで、同類のロリコンだ。気軽に包夢お兄ちゃんと呼んでくれないかな!」


 包夢さん、凄い人だ。

 公然と自分をロリコンと表現している。

 ニルトは目を開き、明け透けの変態に興味を持つ。

 東先奏生は、座った姿勢で身を乗り出し、「お前と一緒にするな」と、突っ込みの非難。

 その隣に座る黒咲那依が、ニルトに黒い瞳を向ける。

 そっか。ボクが自己紹介をする番なんだね。

 そう理解したニルトが、右脚を一歩後ろへと下げる。

修正履歴欄

2024/11/24 全体的におかしいので全文修正。

2024/12/28 全ての文章が変だったので、読み易いように修正。

2025/7/4 全修正完了。次は12話を修正します。

2025/8/22 微修正した。


お読みいただきありがとうございました。

今回は少しゆっくり書きました。

副題のボクが転生したニュールートについて、補足的な文章に修正を重ねました。※題名を変えました。

次も少し時間が掛かるかもしれません。よろしくお願いします。

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