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第二話 せめて心の準備はさせて欲しかった

拝啓

「宮部梓」のお母さま、お父さま。

先立ってしまった不孝を、どうかお許しください。


あなた方の娘は現在、散々お二人に語らせていただいた、愛するゲームの世界で男として人生を歩んでおります。

何を言っているのか、わからないと思いますが大丈夫です。

わたしにも全くわかりません。


男って。

いや男って。

しかもエヴァンって。


頭の中にはしっかりと9歳に至る今日までエヴァンとして生きてきた記憶がありまして。

嘘だと言ってよ神様! と何度祈っても神様からの応えはなく。

どうにもわたしは本当にエヴァンとして転生してしまったようです。


流石にこの世界でも親より先に、というのは何としてでも避けたいので精一杯頑張る所存ではありますが、何分あなた方も知っての通り従来引きこもりで対人経験にも欠ける娘ですので。

どうか少しでもわたしが実力以上のものを発揮できますよう、そちらから応援していただけると大変ありがたく思います。

敬具



 などと。

 現実逃避がてら向こうの両親に届けとばかりに念じてみる。

 当然、返事なんてないのだけれど。


 そもそもわたしは記憶を取り戻すまでに9年間この世界でエヴァンとして生きてきたわけで、向こうの世界でも同じくらい時間は進んでるのかもしれない。

 二人とも元気だったらいいなぁ。病気とかしてないといいなぁ。

 本当、親不孝な娘でごめんなさい。でも、わたしは二人の娘で幸せでした。


 ……だめだ、今はどうにも感情の振れ幅が大きすぎる。

 割と冷静でいられてる気がしてたけど、やっぱり心はついてきてないみたい。

 ひとまずは、うん。落ち着こう。


 とりあえず現状の整理をしてみましょうか。


 わたし、宮部梓。

 女。年齢は17歳。私立各務ヶかがみがおか高校に在籍する高校生。なおロクに学校には行ってない。

 親以外との会話経験は先生とか、話す必要がある人だけと言ってもいい。

 趣味は乙女ゲーと、ギャルゲーと、ネット小説、ネットサーフィン。おわり。


 「私」、エヴァン・フィッツジェラルド。

 男。年齢は9歳。この世界ではまだ学校に行く必要はない。家庭教師による教育が少々。

 よく話すのはお母さまと、妹と、あとメイド見習い。お父様は仕事人間。

 趣味は同い年のメイド見習いにちょっかいを出すこと。

 ゲームだと共通ルートの山場であえなく……おわり。


 いや、おわり。じゃないんだって。

そうそう簡単に終わってなるものですかと。


 折角の二度目の生。それもずっと憧れてたこの世界で、生きることができるんだ。

 身体は五体満足。家も裕福。見目も悪くない……男だけど。

 というかもう、ほんと、うん、エヴァンだけども。

それでもこんな機会。精一杯抗って、楽しまなきゃ、バチが当たるんじゃないかな。


 オーケー、落ち着いたぞわたし。まずは記憶を紐解いていこうか。

 フラグを一本ずつ潰していけば、きっとなんとか——


——コンコン


 あ、終わった。


「エヴァンぼっちゃま、お目覚めですか」


 透き通った声が聞こえてくる。鈴が鳴るようなって表現があるけど、今わたしの脳は鈴どころか鐘でも鳴らされたのかってくらい、ぐわんぐわんと揺れている。

 待って。今はまだ待って。

 ステイだ。ステイなんだわたし。


「ぼっちゃま? ……まだお眠りなのでしょうか」


 お眠りじゃないから問題なのです。まだわたしはあなたに会う心構えができてないの。

 いやだってもう、声からして可愛すぎてさ。

 何? 天使? もともと声優さん演技GJ、メーカーはナイスキャスティングって感じだったけどさ。ロリはダメだって。本当ダメだって。若干の舌っ足らず感と変声期前の声の高さが生み出す甘さマシマシボイスはわたし特攻が過ぎるから。

 あ、ダメだもう全然冷静じゃないやこれ。


「失礼しますね。ぼっちゃま」


 失礼しないで。あと5分。5分だけ待って。じゃないとわたしが失礼しちゃうから。

 いや失礼はいつものことか。昨日だって「私」はあなたにスカートめくりなんぞしたわけで。

 や、ほら、仕方ないんです。だって昨日までの「私」はただの思春期のクソガキだったわけで。こんな可愛い声したお付きのメイド見習いと毎日接してたら、うん、いや、仕方なくはないな。セクハラはダメですよ絶対。

 あ、わたしがしでかす失礼はそういうんじゃないけど。一挙手一投足に尊死して会話が進まなくなるっていう。


 きぃ、と扉が開く音がする。


 待ってって言ってるのにぃ。いや心の中で思ってるだけだな言ってないやじゃあ仕方ない。

 とりあえずは深呼吸ですね深呼吸。

 そういえば、ゲームでよく「深呼吸だ!」て言って「ひっひっふー」ってやるネタあるよね。何気にわたしああいうテンプレ好きなんだ。その時の微妙な流れとかツッコミの違いでメーカーとか作品のノリがわかるっていうか。

 あとそういう話題だとあれも好き。指切り。針千本のところで「サウザンドニードル」って言って「技名かよ!」とか「ハリセンボン」って言って「魚かよ!」とか「針13本」って言って「いや数字がリアルで怖えよ!」とかいいよね。

 あ、深呼吸忘れてた。ひっひっ——


「エヴァンぼっちゃま」


 ——ひゅっ。

次回、メイドさん登場回です。

区切りの関係で短くてすみません……。

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