夢語り肆
夢でみたものを脚色してた話です
ここは絵本の中である。
心優しい女の子が王子様に出会って、恋に落ちる。ありふれた物語のはずだった。
私は主人公の女の子ではない。彼女のお世話係の一人である。
物語の世界の中にいるけど、傍観者である。
観測者である。
女の子は今、逃げているのだ。
王子様とは一緒に居たくないと、逃げているのだ。
この物語は終わらない。
ハッピーエンドにならなければならない。二人が結ばれなければならない。
女の子は逃げる。王子様は必死に追いかける。
ここは絵本の世界だから、限られた場所しかない。海の向こうは何もない。森の中は途中までしかない。狭い狭い世界の中。
それでも女の子は逃げた。朝も夜もない。疲労もない。女の子と王子様の距離は変わらないまま永遠に追いかけっこをしているのだ。
時間は進んでいるようで進まないのだ。ここは絵本の中の一部だから。
同じ光景を見ているのは飽きた。どうにかならないかと考えるけど、女の子を説得するしかない。それはもう試した。無理だった。
王子様は悪い人ではない。いい人かは分からない。何が嫌なんだろう。でも、まぁ、ちょっと見た目が怖かった。
ふと、本が目に入った。それは白紙の物語。呼ばれているような気がした。
走り回る女の子の腕を私は掴む。
「ここに行きましょ」
私は何も書いてないページが開かれた本を指差す。
「えっ?」
「ここで私と暮らしましょ」
「あなたとなら喜んで」
女の子と私は本の中に飛び込んだ。
王子様は一人取り残される。
彼女達の入った物語には入れない。だって、その物語はハッピーエンドで閉じられているから。
読んでいただきありがとうございました!