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天使の降臨

「チェリシラ、煙幕も長くは持たない。

この場を乗り切ったら、逃げる事が一番重要よ。

この後、誰もが貴方を探そうと躍起になる。

天使教の生け贄になんて御免だけど、自由にできないのも御免だわ」

ジェネヴィーブにチェリシラが頷く。

「はい、一緒に逃げよう」

当たり前のようにチェリシラが言うのを、ジェネヴィーブが聞いている。

キラルエもアレステアも大事だが、捨てて姉妹二人で逃げる。

もう何度も何度も、ダークシュタイン家では逃げるシミュレーションをしてきた。


二人の不穏な会話を、ヤーコブとファーガソン公爵夫人、侍女達が固唾を飲んで聞いている。こらから、何をするつもりか想像も出来ない。

ただ、あまりにも押し寄せる群衆が多く、暴徒と呼ばれる状態で、外で応戦している精練揃いのキラルエ達であっても不利であり、討ち(そこ)ねた暴徒が公爵邸に侵入する可能性が高かった。


「行きなさい。今を乗り越えることが最重要だから、できるわよね?」

ジェネヴィーブがチェリシラをバルコニーに送り出すと、照明に点火する。


月を背景にチェリシラがバルコニーに姿を見せた。

煙幕でぼやけているうえに、ジェネヴィーブが照明を調整して、バルコニーを見る人から完全に逆光にして、チェリシラの顔かたちは確認できない


「静まりなさい!」

チェリシラが声を張り上げた。


その声は離れた場所のアレステア達にまで響き、煙幕に包まれた姿は小さくとも目視できた。


逆光で黒いシルエットのチェリシラが翼を大きく広げると、大地が震えるような驚きの声が響き、驚きのあまり動きが止まった。

それは天使の姿、そのものであった。翼の輪郭だけが光を受けて、輝いていた。


ヤーコブと公爵夫人達は、驚きのあまり声を出すこともできずに、チェリシラの後ろ姿を見ている。

チェリシラの背中に、真っ白の翼があるのだ。


「すぐにここから出ていきなさい!

生け贄など、おぞましい。お前達を嫌悪する!」

月夜に天使の声が、響き渡る。


アレステアとグラントリーは、無我夢中で人々を()き分け、公爵邸に近づく。

チェリシラとジェネヴィーブを逃がす、それしか頭にない。


「チェリシラの声だ」

周りの警戒を(おこた)らずにバルコニーを見上げるゼノンがポツンと呟く。聞こえたのは側にいるキラルエだけだ。

誰もが、バルコニーの天使のシルエットに見惚(みと)れて動けない。


退(しりぞ)きなさい!!」

チェリシラの後ろから叫んだのはジェネヴィーブだ。その声は薄れゆく煙幕を切り裂き、天空に響いた。

今度は、キラルエもグラントリーも反応した。

絶対に守る。


ジェネヴィーブはチェリシラの手を引くと、バルコニーから部屋に飛び込んだ。

だが、それと反対に公爵夫人トルテアがバルコニーに出て行く。

「トルテア様?」

ジェネヴィーブはトルテアの意向が分からず、逃げようとした足を止める。


「貴女達は、私が守るわ」

微笑んだトルテアは、バルコニーに立つ。

徐々に煙幕が消えていき、そこには月の光を背に受けたトルテアが、何も言わずに立っていた。

月の光に輝く、アルビノの白い髪、白い肌、薄い色素の何もかもが美し過ぎてこの世のものではないと思わせた。

天使ではなく、女神がそこにいた。

ファーガソン公爵夫人は、全ての人に天使は自分だと錯覚させて、チェルシラとジェネヴィーブを守ったのだ。


「トルテア!」

ファーガソン公爵が、暴徒となっていた民衆が力なく平伏(ひれふ)している上を、馬で踏みつけて公爵邸に突進した。


キラルエ、ゼノン、アレステア、グラントリー、ファーガソン公爵、男達が先を争って公爵夫人の部屋に急ぐ。


天使の姿が消えた事で、人々は我に返っていた。

誰もが天使の姿に感動をしていたが、公爵邸に押し寄せた民衆は絶望し、軍は歓喜していた。


民衆は天使に拒否されたことで、失望して茫然としている。

王宮から駆け付けて来た第2部隊と第3部隊は、民衆の取り締まりと、公爵邸の敷地に侵入した者達の拘束、討たれた者達の処分をする。

それはとんでもない数で、平民相手とはいえ、圧倒的少人数で対処した騎士達の剣技に畏怖するほどだった。


「民衆を陽動した天使教の司祭を探せ。宗祖を逃がすな!」

部隊長が声を張り上げて軍を指示するが、逃げようとする人々で混乱するのを、「抵抗する者は斬る」と言い放った。


チェリシラ、ジェネヴィーブ、やりました。

男達に守られることが多かったですが、やる時には女の子もやるのです。

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