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王の退位

「捕らえよ!」

声をあげたのは、王だ。


だが、その場にいた誰もが動かない。

近衛はすでに計画を知らされており、王の護衛以外をしない。

状況が不利と悟ると、王は剣を引き抜いた。

実用というより、装飾性の高い宝剣を王は帯剣している。


ブン!

王が剣を振り降ろすも、鍛錬(たんれん)を欠かさないナバーハ総司令官がそれを受けながす。

「王、いえ兄上と言わせていただきます。どうか、退位をして療養してください」


愛妾がいつから麻薬を使っていたのかは、分からない。最初は催淫効果の薬だけだったのかもしれない。それが、いつからか常用性のある麻薬に変わったのかもしれない。


グラントリーを守るように、アレステアが前に立つ。剣に添えた手は力が入り、瞬時に剣を抜く体制になっている。

王が退位の同意をしない場合、強硬手段になる。

それは、グラントリーを王太子でありながら、王位簒奪者とさせることになる。


「どういうことだ、私が王だ! 療養とはどういうことだ!」

王は激怒しながら、剣を振り回す。


「兄上、離宮から見つかったのは毒だけではありません。

催淫効果の蝋燭(ろうそく)と、麻薬効果のある蝋燭が、ギラッシュ夫人の寝室から見つかっております。

蝋燭に練り込んであったもので少量ですが、長年の使用により兄上は中毒状態となっております」

淡々と告げるナバーハ総司令官、相対する王は驚きの表情だ。


王が剣を床に放り投げると、カタンと音が廊下に響く。

「そうか。

自分でも気持ちや体調が、高揚したり不安定だったりすると感じていた。

あれに薬を使われていたのか、情けないな」

激情したものの、王としての矜持が引き際をわきまえている。


「ルシアーナ」

王は扉に向かって、王妃の名前を呼んだ。

「長い間、辛い思いをさせたな。身体を(いと)えよ」

王の言葉に、王妃の部屋からの返事はない。

部屋の外とはいえ、王妃が騒動に気がつかないはずはない。

「私の執務室で、調印をしよう」

「はい」

王が歩き始めると、警戒しながらもグラントリーが続く。


扉の外の足音が遠ざかると、王妃は何も聞こえなくなった、と扉から離れてソファに座った。

侍女からお茶の入ったカップを受け取ると、香りを楽しむ。

「陛下の最後の言葉を聞いても、心は動かないのよ」

王妃ルシアーナは、カップをテーブルに置く。

「陛下の行動が、薬によって操られたものだとしても、元は妊娠中に浮気をしたことが原因だから。

あれから十何年、愛妾を大事にする陛下に愛情は枯れ果て、関心も無くなったわ。

ただ、あの女が私の代わりに正妃になることだけは阻止したかった。

私こそが正妃であり、あの女は所詮愛妾で、王太子はグラントリーしかいない」

侍女は静かに、王妃の話を聞いている。


「あんな言葉で、(ほだ)されて許されると思っているのかしら?

愛妾が妊娠した時点で、私が捨てたのよ。

王と王妃という公務の関係者でしかないのにね」

ダグラス公爵家から付いてきた侍女は、王が愛妾をもった時の王妃の苦しみを知っており、王妃の言葉に頷く。

苦しみは愛が消える事で消化された。




王は王位譲渡の調印をすると、侍従と警護を引き連れて寝室に向かった。

明日からは、麻薬の診察になる。


グラントリー・ギレンセン国王が誕生した。


王の執務室となった王太子の執務室に、王都から急報が届く。

『民衆が集結しており、ファーガソン公爵家を取り囲んでいる』


「馬を引け!」

真っ先に執務室を飛び出したのは、ファーガソン公爵である。アレステア、グラントリーが僅かに遅れて執務室を出て行く。

ナバーハ総司令官は軍司令官に向かい、軍隊の招集をかける。


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