表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/91

グラントリーの覚悟

アレステアが王宮に着くと、すでに準備が整っていた。

そこに父親であるファーガソン公爵の姿を見て、少し驚く。父親は、母親の元に帰っていると思っていたからだ。

「母上は、チェリシラ達と一緒に我が家の兵が、護衛をかためています。

屋敷の周りは静かなものでした」

アレステアが言外に、母親の所にいかないのか、と問う。


「今は、殿下の後見の一人として、ファーガソン公爵家当主が必要であろう。

それに、こんな時ぐらい父親として、お前の側にいてやりたい」

公爵の言葉に、アレステアは動揺しそうだった。

父は母最優先で、アレステアは乳母や教育係、侍従が育てた。

物心ついた時から、食事も一緒に食べた事が無かった。


ああ、チェリ、貴女のおかげですね。

アレステアは、屋敷に置いてきたチェリシラを想う。


ダークシュタイン姉妹が来てから、父と食事の機会があり、母が起き上がれるようになると、全員で食事をすることもあった。

母は変わった。それは、父も変えたのだ。

ダークシュタイン伯爵が娘のために、王に直談判したのを見たからかもしれない。

「父上、ありがとうございます」


「殿下、アレステア・ファーガソン、ただいま戻りました」

アレステアがそう言えば、グラントリーはアレステアの肩を小さく叩く。

「早かったな。もっと時間がかかると思っていた」

そして、アレステアにだけ聞こえるように、ポツリと言う。

「絶対に戻って来る、と思ってた」


「第1部隊長の指示の元で近衛が、王妃陛下を守っております」

ナバーハ総司令官が、王宮内の兵と騎士の配置を説明する。

「第4部隊は、ダークシュタイン伯爵令嬢襲撃犯として捕縛した以外も、権限のないギラッシュ夫人の指示を受けて動いていたようで、軍規律違反で拘置してあります」


「王の近衛は?」

グラントリーが確認すれば、総司令官は頷く。

「すでに、王の警備から解いております」


「そうか」

グラントリーは天を仰いだ。

有能な王と思っていたが、麻薬に(おか)されていたと聞くと、記憶力や判断力に波があったと思う。

麻薬の興奮状態の時は、有能であったのだろう。

母である王妃が公務を補助し、自分も早くから公務をしていた。それが、王を王として存在させていたということか。


今度は、アレステアがグラントリーの肩を叩く。

「お前は、一人じゃない。盾ぐらいにはなるぞ」


「ああ、そうだな」

グラントリーがいつもの愛想笑いを浮かべる。

これから、王に退位をせまる。受け入れなければ首を取ることになるだろう。


「殿下、準備ができました」

母方の叔父であるダグラス公爵、父方の叔父であるナバーハ総司令官が控えている。


先鋒にナバーハ総司令官が剣を手に歩き、その後をグラントリー、ダグラス公爵、ファーガソン公爵、アレステアと続き、周りを近衛が守る。

誰も、何も言わない。


天使教宗祖と王が癒着していることは、間違いないのだ。

麻薬に侵されている王は、天使教を(いな)めない。それどころか、保護にまわるだろう。

天使教が薬物をつかい、人心を掌握していると分かった今、一刻も早く王の権限を奪わないといけない。

天使教徒が暴徒となった時に、王によって軍の出動を止めさせるわけにいかない。


王の執務室の前には、いるはずの立ち番の護衛の近衛がいない。鍵のかかっていない扉に手をかけ、一気に開く。

飛び込んだ中に、王はいなかった。


どこに!?

逃げたのか?


「母上の所だ」

グラントリーは、すでに走り出していた。ナバーハ公爵、アレステア、近衛は問題なく着いて行くが、ダグラス公爵とファーガソン公爵は遅れがちである。


「近衛の一部は、ダグラス公爵とファーガソン公爵を守りながら、後から来い!」

ナバーハ総司令官が言った途端、近衛は別れる。

階段を一気に駆け上がり、王妃の執務室に近づくにつれ、声が聞こえてくる。


「引け! 王の命令である! 王妃の部屋に入れるのだ!」

王妃の警備兵が、王の侵入を阻止しているようだ。


なさけなくて、涙がでそうだ。

これが、自分の両親。

走るのをやめたグラントリーが、一歩一歩、王に近づく。


「父上、退位を勧告にまいりました」

王の後ろに立ったグラントリー。それを守るように、アレステアと近衛が横に立つ。アレステアはすでに剣に手をかけている。

後ろにナバーハ総司令官が控え、追いついたダグラス公爵とファーガソン公爵が様子を見ている。


「退位だと?」

王が振り向きざま、グラントリーを睨む。


「ギラッシュ夫人が麻薬を使っていることが判明しました。陛下もそれを長期にわたり吸い込んでおります。

すぐに療養が必要です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ