男達のそれぞれ
届いた手紙を握りしめて、キラルエは馬を駆けていた。
『ジェネヴィーブ嬢、チェリシラ嬢、拐われる。行方不明で捜索中』
留学中の弟、ゼノンからの急便だ。
「殿下、鷹です!」
伴走する護衛の一人が、空を見上げて指を指す。
ゼノンからの続報に違いない、とキラルエが腕をさしだせば、鷹はゆっくり旋回をして落りてくる。
鷹の足には、手紙がくくり付けられている。
『ジェネヴィーブ嬢、チェルシラ嬢、無事に保護。ファーガソン公爵邸で静養中』
文を読み、先ほどまでの焦りは消失するが、誘拐された貴族令嬢が本当に無事な状態かと心配になる。
まさか、ジェネヴィーブが作った爆薬で教会を半壊して逃げた、などと想像するはずもなく、不安に馬のスピードをあげる。
「ごめん、チェリシラ。
僕は恥ずかしい。
軟禁を受け入れることが間違っていたとは思わないが、僕達が軟禁のあいだに、君達は僕達を助けようとして、危険な目に合ってしまった」
ファーガソン公爵邸では、アレステアがチェリシラの前で頭を垂れていた。
「アレステア様、それは私もです。
アレステア様が、こうやって自分で軟禁から抜け出せるとは思ってなくて」
アレステアを助ける、と意気揚々と出発してのに、結果は拐われアレステアが迎えにくる事態となった。
それでも、天使教の告発には貢献できたはずである。
チェリシラとアレステアが、自分が悪かったと言い合っているのは、周りから見るとじゃれているようにしか見えない。
ジェネヴィーブは、サロンで座ってチェリシラ達を見ていた。
少し、寂しい。
キラルエに会いたい。
でも、彼は隣国の王太子でとても忙しい。
簡単に会える距离ではない。
その声が聞こえたのか、ジェネヴィーブに来客を告げに、ファーガソン公爵家の家令がやってきた。
「お客様でございます」
その姿を見た途端、走り出していた。
その腕の中に飛び込むと、力強く抱きしめられる。
「心配したぞ」
同級生のグラントリーやアレステアにはない安心感。
ジェネヴィーブは、笑顔を見せるとゆっくり目を閉じた。
ああ、疲れていたんだ。
「医者だ!」
腕の中で、ぐったりとしたジェネヴィーブにあわてて、キラルエが抱えあげる。
その様子を見て、チェリシラがアレステアを放置して駆け寄ってくる。
「お姉様!」
侍女に先導されて、キラルエはジェネヴィーブの部屋に入ると、ゆっくりとべっとにジェネヴィーブを横たわらせる。
顔色が悪くないことに、少しだけ安心する。
規則正しい吐息。
ついてきたチェリシラをベッドサイドの椅子に座らせると、キラルエは部屋を出ていった。
側についていたいが、状況確認が優先である。
天使教は、いくつかの国で、勢力を伸ばしているのだ。
それは、アレステアも同じであった。
王宮で別れたグラントリーを、気になっていた。