暗闇からの脱出
公にはしていないが、ダークシュタイン伯爵領では火薬の原料である硝石が産出される。
ジェネヴィーブはチェリシラを喜ばせようと、花火を作ったことがあった。最初の頃は失敗ばかりで、ケガや火傷も少なくなかったが、次第に花火だけでなく爆薬まで作れるようになっていた。
暗闇の中でも慣れた手つきで、ジェネヴィーブが階段を塞いでいる蓋に爆薬を仕掛けていく。
硝酸の臭素が漂い、導火線を延ばしながらジェネヴィーブが戻って来た。
「ヤン、準備はできた?」
「はい、ラン様も早く」
ヤーコブが扉で壁との間に隙間を作り、チェリシラを非難させていた。
カチッ、ジェネヴィーブが導火線に火を点けて、扉の後ろに駆け込んで来た。
1、2、3、4、5・・数えていると、バンッ! ガッタンッ!!
大きな音を立てて蓋が蓋が跳ね飛び、光が射し込んできたが、埃が舞い上がって視界はよくない。
ヤーコブがドレスを翻して、扉から駆け出すと、階段に身体を乗り出し、上の空間に爆薬を投げ入れると、階段の影に身体を隠す。
ガンッッ!!!
さっきとは比べものにならない爆裂になり、建物全体が揺れて一部が崩れる。
粉塵と瓦礫が地下の部屋にも散乱している。階上からは、怒声とうめき声が聞こえる。
ヤーコブが短剣を手に階段を駆け上がる。
その後ろを、ジェネヴィーブとチェリシラが続く。
階段の上は粉塵で光が陰っているが、それでも暗闇から出て来た3人には、眩しすぎる。
階段を上がると、そこは想像していた以上にひどい様相だった。
建物は半壊して、崩れ落ちた壁や屋根に人が挟まれ、血だまりができている。
逃げるジェネヴィーブ達も、足場が悪く簡単には進めない。
「おまえたち!」
3人の姿を見つけた男達が駆け寄って来るが、瓦礫が障害となって近寄れない。
その隙に、走って逃げようとしても落ちた壁を乗り越えながらで時間がかかる。
もう少しで外というところで、新たな追手が増えた。
「へへへ、逃げれると思うな」
「お嬢ちゃん、剣を持つ手が震えてるぞ」
男達は下衆な笑いを浮かべながら、包囲網を縮めてくる。
訓練を受けたとはいえ、人を斬ったことのないヤーコブは、剣を持つ手が震えていた。
自分が投げた爆薬で、建物が壊れ、たくさんの瓦礫の下や、爆風に飛ばされて、血を流して倒れているのを見たからだ。
「絶対に、お二人は僕が守ります」
手が震えていても、ヤーコブの決意は強い。
だが、多勢に無勢だ。次々と人が集まって来て、ジェネヴィーブ達を取り囲む。
「う!」
男達の一人が倒れた。
そこには、第2部隊の騎士が剣を手にして走り込んで来ていた。
「お探ししました!」
ジェネヴィーブ達を探して近くにいた騎士達が、爆音で駆け付けて来たのだ。
騎士達が、男達を制圧していく。
その騎士の中に、ゼノンも混じっていた。
ジェネヴィーブ達が拐われて、第2部隊もゼノンも休みも取らずに探しまわっていたのだった。
ジェネヴィーブとチェリシラは抱き合って、座り込んでしまった。
助かった。
安心すると、身体に力が入らなかった。
「チェリ!」
王都にも爆音が聞こえ、粉塵があがる建物を目指してアレステアが馬で駆って来た。
「アレステア様」
駆け寄りたいけど、チェリシラは立ちあがることもできない。
すぐに馬から飛び降りたアレステリアが、チェリシラを抱きしめた。
「よく頑張った!」
チェリシラを誉めながら、チェリシラを抱きしめる腕に力が入る。
よく、生きていてくれた。
それが、こんなにも嬉しい。
「うん、頑張ったの。
アレステア様に会いたかったの」
チェリシラもアレステアの背中に手を回せば、怖かった、と言葉が流れ落ちた。
爆音で、遠くを探していた騎士たちも集まってきて、ケガ人の搬送や関係者の拘束が始まった。
ここは、やはりジェネヴィーブ達が休憩していた教会だった。
「地下に集会所のような礼拝堂がありました」
ジェネヴィーブが言えば、動けるヤーコブがこちらです、と案内する。