アレステアとグラントリーの別れ道
軟禁されてはいても王太子とその側近、ましてや王から王位を奪い取ろうとしていたのだ、どんな状態でも情報を得る術は持っている。
軟禁に抵抗して、王に毒を盛ったと疑いを深められるのを避けるために、自ら軟禁を受け入れているのだ。
別々の部屋に幽閉されているが、グラントリーとアレステアは連絡することもできるし、外部情報を得る事もできる。
「チェリが!!」
第2軍隊の警備があったはずなのに、チェリシラとジェネヴィーブ、ヤーコブが消えたと報告を聞いたアレステアが壁をたたきつける。
軟禁されている部屋の扉を蹴り上げると、鍵が壊れて弾ける。
バタバタと大きな足音で廊下を走るアレステアの前にグラントリーが立ちはだかった。
「落ち着け、アレステア!」
「落ち着いていられるはずがないでしょ! どいてください!」
アレステアがグラントリーを押しのけて進もうとするのを、グラントリーが止める。
「ここで汚点をつける訳にいかないから、軟禁を受け入れたのを忘れたわけではないだろう!」
グラントリーがアレステアの腕を掴もうとして、振り払われる。
「グラントリー、お前の言う汚点とはなんだ!?
チェリ以上に大事な者なんていない!どいてくれ!」
アレステアとグラントリーが言い争うのを、監視を兼ねた護衛は止めることも出来ずに見ている。
「だから愛なんて、間違いなんだ!」
グラントリーが声を荒げる。
愛妾を優先し、母をないがしろにする父。それでも、母は王妃として公務を完璧にこなし、愛妾に負けなかった。
アレステアは少し落ち着いて、グラントリーの肩に手を置いた。
「王妃陛下は忙しい方だ。
子供のお前は、ずっと一人だった。それは側にいた僕がよく知っている。
だが、今ならわかるだろう?
それは、お前を守るゆえだったと。それを愛というんだ」
もう、愛を知っているだろう?
「チェリを探しに行く。
ジェネヴィーブが婚約者候補でなくなったとはいえ、お前がダークシュタイン領から連れ出したんだぞ?」
責任とれよ、とばかりにアレステアはグラントリーに言う。
アレステアからみれば、グラントリーがジェネヴィーブを気に入っているのがよく分かっている。
グラントリーは拳をにぎりしめ、俯いた。
「私は、ナバーハ司令官の元にいく。
今度は、王が拘束される番だ」
それは、王位を簒奪すると言っているのと同じだ。
グラントリーもアレステアも感じている。
王は、ジェネヴィーブとチェリシラの消えたことを、知っているのかもしれない。
火矢で襲われた事件の捜査がすすまないのも、王が止めていると疑っている。
王の権力を奪わねば、3人を探すのも横やりを入れられるかもしれない。
急がねばならない。
「グラントリー」
アレステアとグラントリーは幼い頃から、一緒だった。
同じ年に生まれた事で、王太子と側近と定められていたからだ。
ここで、別れる。
「チェリシラを助けたら、早く戻ってこい。
お前は、私の側近で護衛だ」
わざと明るくグラントリーが言う。
「ああ、チェリは別格で1番だが、2番はお前だ」
アレステアが拳をあげると、グラントリーも拳を作って打ち合わせる。
「ジェネヴィーブが大人しく攫われているはずがない。
きっと何か事件を起こすはずだ。そこにジェネヴィーブとチェリシラがいる」
グラントリーがい思い出したように言うのを、そんなにジェネヴィーブが分かっているじゃないか。
ずっとみていたんだろう、と言葉を飲み込むアレステア。
だって、ジェネヴィーブは他の男を好きと、言っているから。
「必ず見つけ出してくる」
廊下を走って行くアレステアの後ろ姿をみて、グラントリーは軍部に歩き出した。