目覚めた場所
グロテスクな表現があります。お気をつけてお読みください。
最初に目が覚めたのは、ヤーコブである。
ドレスを着ていても、男の体力はジェネヴィーブ達とは違う。
ドレスの上から身体をまさぐり、隠し持った武器に気がつかれていないことを確認する。
ジェネヴィーブとチェリシラが心配だが、無暗に女性の身体を触るべきでないと、そっと様子を伺うにとどめる。
どれぐらいそうしていたか、短い時間だったかもしれないが、ヤーコブにとっては長い時間に感じた。
調子の悪かったチェリシラの方が、ジェネヴィーブよりも先に目覚めたのだ。
「ヤン?」
身体を起こして、チェリシラがヤーコブを確認する。
「体調はどうですか?」
ヤーコブが心配すると、チェリシラは頭を押さえて少し考える。
「大丈夫そう」
それよりも、とチェリシラは横で眠っているジェネヴィーブを揺さぶって起こす。
ゆっくりと目を開けてジェネヴィーブが、当たりを見渡す。
「ここは?」
薄暗い部屋には窓もなく、扉の隙間からの光が僅かに部屋を照らしている。
湿気た空気が地下の部屋ではないか、と連想させる。
「わからない、あの教会にいたはずが、気が付いたらこの部屋の中だった。
ここには僕達3人だけだ」
ヤーコブが、自分が起きてからの事を話す。
「扉は鍵がかかっていて、近くに人の気配はない」
ヤーコブがしたように、ジェネヴィーブも自分の身体をさぐって、ドレスのしたに隠したものの存在を確認する。
女性は金属部分のコルセットもあるので、ヤーコブの短剣のようにドレスで固い感触があっても、不審がられなかったのだろう。
ジェネヴィーブもチェリシラも、ドレスのしたに煙幕弾や薬物を隠し持っている。身に付けて持っているので劇薬ではないが、女性だと相手が油断するので十分に威力を発揮する。
「この間は火矢をかけられて殺されかけたけど、今回は殺さないで閉じ込めるって、どういうことだと思う?」
ジェネヴィーブが声を抑えて、二人に尋ねる。
ヤーコブはわからないと首を横に振り、チェリシラは少し考えてから首を横に振る。
「お姉さまの方が、想像ついているのでは?
それより、二人は感じない?
わずかだけど、血の匂いと腐ったような臭いがする」
ヤーコブが音を立てないように、ゆっくりと身体を動かして、扉の側まで移動して、隙間から匂いを嗅ぐ。
ヤーコブが頷くのを見て、ジェネヴィーブも空気を嗅ぐが、血の匂いは感じ取れない。
部屋の中でも匂いが分かるのは、チェリシラが敏感なのか、能力なのか。
3人が同じことを考えていた。
いつでも、殺せるってことなんだ。
しかも見張りもいない。逃げれないと確信するような場所ということだ。
「扉を開けれないかな?」
チェリシラが扉の隙間を、指でなぞる。
チェリシラと場所を代わったヤーコブが、短剣をドレスの下から出して、隙間に差し込む。
扉は木でできているので、蝶番をきしませていく。
さほど時間をかけずに、蝶番の周りの木を削り取って、蝶番を外す。
そっと扉をはずして、3人は部屋の外に出ると、蝋燭で照らされた廊下だった。
上に上がる階段があって、その先は上から蓋がされていた。
やはり地下なのだろう。その階段しか外に出る方法がないから、見張りもいないとすぐに分かった。
チェリシラが先頭に立って、血の匂いを辿って行く。
地下の通路は短く、すぐに小さな広場にたどり着いた。
広場の壁には、大きな天使の像。
たくさんの蝋燭で火を絶やさないのだろう、天井は煤汚れている。
誰もいないことを確認して、先頭でヤーコブが広間に入って、足が止まった。
血の匂いの元は、ここだった。
天使像の足元はどす黒く変色していて、その前に花で囲まれた塊が置いてある。
「ひっ・・」
続いて入ったチェリシラがひきつった声を、慌てて口を手で押えて止める。
それは、すでに腐乱が始まっている死体だった。
長い髪は乱れて散らばって、女性だという事が見て取れる。
なにより、腹部が切り開かれ、内臓であろう贓物が金杯に盛られて、供物のように供えられている。
どこからみても、それは贄だった。
これが天使教の正体!?