拉致される
ヤーコブが領地に帰ると言ったのは、天使教の教会でだが、襲ってきたのは第4部隊。
これで、天使教と第4部隊が関係していることが証明できる。
つまり、天使教は武力も手にしている可能性が高いということだ。
第2部隊長は、ナバーハ公爵に報告すべきと情報をまとめながら、騎士達にダークシュタイン伯爵令嬢の様子を確認している。
「体調を崩されていたので、近くの教会にご案内しました」
「それは、天使教の教会ではないだろうな?」
「はい、天使教では登録されておりません」
潜んで警護するにあたり、近辺の情報は収集してある。
だが、天使教の急激な拡大は、国軍の情報が追い付いていなかった。
同じ国教であるのだ、教徒の増加に伴い、天使教派に変わった教会も少なくない。
チェリシラは礼拝堂の椅子に横になっていた。
顔色が悪く、酔ったのではなく馬車が大きく揺れた時に頭を打っている可能性もある、とジェネヴィーブは考えていた。
通常ならともかく、体調が悪い時、チェリシラは無意識に羽をだすこともあるのだ。
人目のある今は、それだけは避けねばならない。
第2部隊の騎士が警備にあたり、ゼノンとヤーコブも、ジェネヴィーブとチェリシラの周りを固めている。万全の体制の警護で見られているので、羽が出てしまったら誤魔化せられない。
薄暗い礼拝堂はひんやりとしていて、ステンドグラスの優しい光と、祭壇の掲げられた燭台に灯る蝋燭の光が静寂を照らしている。
馬車の中で緊張していたせいか、襲撃が終わったと思うと、身体の力がぬけていくようで、なんだか眠い、とジェネヴィーブは感じていた。
馬車の準備ができ、騎士達がジェネヴィーブとチェリシラとヤン、ゼノンを迎えに教会に来て見たのは、倒れている騎士達だった。
ゼノンも倒れていて、ドレス姿の3人、ジェネヴィーブとチェリシラ、ヤーコブの姿が消えていた。
「おい、起きろ!」
駆け寄った騎士が、倒れている騎士を抱き起し、外傷がないのを確認して声を荒げる。
「どうなっているんだ!?」
「隊長!!」
「教会内を探せ!」
異変を感じた騎士達が集まってきて、教会内部を探したが、誰もいなかった。
修道士さえも、いないのだ。
静かな礼拝堂が、喧噪の渦に包みこまれた。
周辺の探索に、さらに多くの騎士が動員されたが、ジェネヴィーブ達を見つけることはできなかった。
「隊長、祭壇の蝋燭ですが、薄っすらと香りがします」
騎士の一人が、蝋燭を持って、第2部隊長に進言する。
「これは!」
隊長も、すでに火が消えた蝋燭に鼻を近づける。
「睡眠剤だな」
「はい」
蝋燭を持っていた騎士が答えると、眠らされた令嬢が何処かにつれさられたと考えるのが妥当である。
だが、意識のない3人を運び出せば遠くからでも目立つはずだが、そういうのは見かけていない。
どこかに、隠し部屋があるのではないか。
「探せ! 壁も全てだ!」