王の策略
グラントリーは王に呼び出されたが、話を最後まで聞くには忍耐が必要だった。
『ジェネヴィーブ・ダークシュタインを王太子妃候補から外した』
ダークシュタイン伯爵が王と謁見したとは聞いていたが、こんなに簡単に候補から外すとは思ってなかった。
学院のジェネヴィーブの成績は、王も驚くほどだったからだ。
伯爵領での農地改革や気候予想、どれも類を見ないものだった。王もそれを認めていたはずで、国外への流出など許されない。
グラントリーは苛立ちを抑えながら、王太子執務室に戻った。
「陛下の話はなんだったんだ?」
側近しかいない執務室では、アレステアはグラントリーに遠慮はしない。
「ジェネヴィーブが王太子妃候補から外された」
「そうか、ダークシュタイン伯爵が謁見ときいてたから、それしかないだろう。
それで王は、どんな条件をつけたんだ?
アドルマイヤ王国に嫁がすわけわけには、いかないだろう」
アレステアに、グラントリーは首を横に振る。
「私が無理やり婚約者にしたいと言うから、候補として認めただけだというのだ。
ジェネヴィーブの才能も何も認めていなかった」
「グラントリー、お前はどうしたい?」
「私の妃として、ジェネヴィーブ以上に才覚のある者はいない」
その言葉を受けて、アレステアがグラントリーの肩をたたく。
「もうちょっと、自分の・・」
アレステアの言葉は途中で途切れた。
近衛が執務室になだれ込んで来たからだ。
「王より捕縛命令が出てます!」
「理由は!?」
グラントリーが、逃げも隠れもしないと前に出る。
「王に毒が盛られました。
殿下から贈られた品から、毒がでました」
近衛も言いにくそうにする。
つい先ほどまで、グラントリーは王と話をしていたのだ。
それに、王に贈り物などしていない。
王の執務室に駆け込むように来たのは、王妃である。
「陛下! どういうことです!?
グラントリーは、正式な王太子です。陛下に毒を盛る必要がありません」
「ルシアーナ」
嬉しそうに、王が王妃の名を呼ぶ。
「容疑がある以上、拘束するしかなかったのだ。
私だって、息子である王太子を信じている。ルシアーナ、こちらに」
王妃は、王が指さす王の隣の席を見て躊躇したが、王はグラントリーから王太子の地位を取り上げる事もできると思い、王の隣に座る。
「今日も綺麗だね。グラントリーとアレステア公子の拘束を止める事ができるよ」
王が、嬉しそうに王妃の手を取る。
「陛下、毒を盛られたとお聞きしましたが、お身体は大丈夫ですか?」
王妃は、王の機嫌を損ねるわけにいかない、と判断して言葉を和らげる。
「ああ、毒見がいたから、私が口にすることはなかった。
ルシアーナが心配してくれるのは、嬉しいね」
グラントリー王太子とアレステア公子が拘束されたことは、すぐにファーガソン公爵邸にもたらされた。
公爵夫人に知らせないように判断して、公爵はジェネヴィーブとチェリシラを書斎に呼び出した。
「絶対にトルテアに知られないように」
公爵は、公爵夫人がショックで体調を崩すのをおそれて、使用人にまで箝口令をする。
王太子は自室に軟禁されているようだ。
公爵は貴族派の取りまとめに動き出し、アレステアの情報をジェネヴィーブとチェリシラに教える。
アレステアは、グラントリーとは離されて、客間に軟禁されているようだ。
王宮の見取り図を取り出し、公爵は印を付けていく。