前へ進む決意
「お姉さま?」
チェリシラが、ジェネヴィーブを心配して声をかけた。
「大丈夫よ、チェリシラ。
お父様に言われて、よく分かったの。
私は・・・、傲慢だった。
自分の能力に奢っていた、と思う」
「お姉さまは、それだけの努力をしてきたわ。子供の小さい手で、大きな器具を使い、雨の中も観察を続けた結果と、それを使う知識も寝る間も惜しんで勉強したからだわ」
チェリシラは怒ったようにジェネヴィーブの手を取る。
ジェネヴィーブは、ふるふると首を横に振る。
「それも、護衛の騎士や領民のみんなに助けてもらったからできた。
グラントリー殿下のことも。
チェリシラと安全に暮らすには、領地を守るのが一番だと思ってた。
だけど、王都に来て知らないことがいっぱいあった。
アレステア公子がチェリシラと婚約したいと言った時に、グラントリー殿下が私の才能を認めて王都に一緒に連れて来てくれた。
それを、好きな人ができたと、簡単に忘れていい人じゃないの。
王太子殿下は、国に有用な人物として私を妃にと考えてくれた。アレステア公子のような愛ではないけど、殿下は学院でも大事にしてくれて、今も襲撃犯を捕まえる為に・・・」
ジェネヴィーブの手を握るチェリシラの手に力が入る。
「お姉さま、私は好きになる気持ちは悪いことじゃない、と思う」
「チェリシラ、アレステア公子を好きなのね?」
うん、とチェリシラは頷く。
「会いたいの、キラルエ様に。これが好きってことかな、って思う。
だけど、お父様の言うとおり、キラルエ様に返事するのは、王太子妃候補を辞退してからにすべきだった。
それぐらいの誠意は必要だった。
逃げればいいなんて、最初から考えていたから、王太子妃候補の重責を知ろうとしなかった。
私を王太子妃候補にする為に、殿下がしてくれたこと。学院で過ごしやすいように気を使ってくれたこと。
殿下は真摯で真面目で、主君とあおぐにふさわしい人物で、軽んじていい人じゃない」
もう、涙が止まらない。
殿下だって、好きな人がいるかもしれない、これからできるかもしれない。
それでも、私を選ぼうとしてくれた。それを信頼というのなら、私は裏切った。
グラントリー殿下のことも、キラルエ様の事も、軽く扱っていい人でない。
「私も、逃げればいいと思ってた。
でも、今はもう、アレステア様と一緒にいたいと思っている」
ジェネヴィーブから外した手を、チェリシラは握りしめる。
「どうして、私に翼があるんだろう。どうして、逃げないといけないの?
私に翼があるから、お姉さまは私を連れて逃げないといけないの?」
ジェネヴィーブは小指を立てて、チェリシラの目前にだす。
「約束。
私はこの国の国民として貢献して、殿下の役に立ちたい。
そして、堂々とキラルエ様に嫁ぎたい」
チェリシラは、ジェネヴィーブの指に小指を絡める。
「私も約束する。
幸せになると、約束する」
二人で見つめ合って笑い合う。
まずは、襲撃犯よね。