ヤーコブの活躍
ジェネヴィーブとチェリシラは順調に回復して、火傷痕も無くなっていた。
だからと言って学院に登校するわけにはいかない。
火だるまの馬車から救出されて、こんなに早く元気になるはずないのだ。
ヤーコブもすでに完治しているが、包帯を巻いて登校して、ヌガデウィン公爵令嬢とペンドーラ侯爵令嬢の動向をチェックしている。
ゼノン王子も同じように包帯を巻いて、登校しているようだ。
「学院では、ジェネヴィーブ様もチェリシラ様も、大火傷で人目に出れない顔になったと噂です。
それは、ヌガデウィン公爵令嬢から出ているのが分かりました。
それを広めているのが、ペンドーラ侯爵令嬢と数人の令嬢です」
ヤーコブが報告しているのは、ジェネヴィーブとチェリシラではなく、グラントリーとアレステアだ。
グラントリーとアレステアは忙しくて、登校できないのだ。
「わかった、明日も報告に来てくれ」
グラントリーに言われて、ヤーコブは王宮を後にする。
学院からの帰り道に、王宮に寄って報告するのが日課になっていた。
同じことを、公爵邸に帰ったら、ジェネヴィーブとチェリシラにも報告するのだ。
ただし、反応は正反対である。
グラントリーとアレステアが、手にしているペンが折れんばかりに力がはいるほどの怒りを抑えているのに対して、ジェネヴィーブとチェリシラは高笑いしそうなしたり顔である。
「火傷の顔では、王太子妃も公爵夫人も務まらないって?
残念ね、綺麗に治っているわよ。
あぁ、この顔を見せて悔しがらせたい!」
「きっと女子だけなら、もっとすごい話をしているはず。聞きたいわね?」
ね、とジェネヴィーブとチェリシラは、ヤーコブを見る。
「やだよ、止めてくれよ」
ヤーコブの抵抗むなしく、またドレスを着せられた。
「すごっく可愛い。
ヤーコブ、生まれる性別間違えたんじゃない?」
ジェネヴィーブに褒められて、落ち込むヤーコブである。
「このカフェによく行っているみたいよ」
それは、ヤーコブが調べて来たことだが、自分が調べたみたいにチェリシラが言う。
「ああ、ヤーコブ、歩き方が雑よ。女の子はそんな歩き方はしないの」
虐められ体質のヤーコブは、結局、チェリシラの指示に従ってしまう。
「甘い物好きでしょ。好きなケーキを食べてきたらいいわよ」
ジェネヴィーブが笑顔で、ヤーコブを送り出す。
その間に、公爵夫人の検診をするのだ。
「今日はいなかった。はい、お土産」
2時間後、ヤーコブは帰ってきたのだが、顔が赤い。
ケーキの箱を受け取りながら、ジェネヴィーブはヤーコブをしげしげと見る。
「いなかったのに、遅かったわね。
ケーキ食べてきたんだから、いいんだけど」
「いたんだよ」
ヤーコブが言いにくそうにする。
ヌガデウィン公爵令嬢はいなかった、と言ってたはずだけど、とジェネヴィーブが思う。
「ゼノン殿下がいた」
いただけでなく、可愛い、可愛い、と褒めちぎられたのだ。
化粧しているし、ドレスだし、気がつかなくても仕方ないと思うが、声は同じだろうと、ヤーコブは思うのだ。
しかも、やたらかまってきて、いつの間にかカフェで隣に座られていた。
「ふーん」
チェリシラが面白そうに、ニヤニヤとヤーコブを見る。
「俺、課題があるから」
あわててヤーコブが部屋から出て扉を閉めると、中からジェネヴィーブとチェリシラの笑い声が聞こえた。