宗祖ガブリオ
天使教は大規模な集会を開いていた。
それは、豊穣を願う祭りに合わせて、宗祖ガブリオの説法だった。
優しそうな風貌、はりのある声、人心に響く話題、集まった人々は宗祖の話に感嘆する。
国教の神を奉り、その使徒として天使が人々を導くという教義の宗派である。
警備は第4部隊が請負い、天使教が貴族よりも平民達に浸透している事をあらわしている。
この様子では、ギラッシュ夫人と繋がっているようには見えない。
ギラッシュ夫人に有利になりそうな、王とギラッシュ夫人の真実の愛などという言葉もでてこない。
集会には、グラントリーの手の者も参加していて情報を集めている。グラントリーだけではない、いろいろな勢力の隠密が潜入しているだろう。
それほど、天使教の力が急激に大きくなって注目されているのだ。
「神の声は小さいが、天使様が皆に届けてくださる。
祈るのだ! 皆の声も天使様が神に届けてくださる」
大きく手を広げ、天を仰ぐようにガブリオが声を張り上げると、大きな歓声があがり、人々の興奮がさらに声を大きくする。
空気が震えるほどの歓声に、緊張が高まる。
ガブリオが、王宮を襲えと言えば群衆は王宮に流れ込むだろう。国を出よ、と言えば難民となって流出するだろうが、大群の難民を受け入れる国などない。
「天使様は見ておられる。常に正しい生活をするのだ」
ガブリオの声に、群衆の中から、パンパンと拍手が響くと、我も我もと爆音のような拍手になる。
「王都の人間数が、今日は膨れ上がっている」
遠目から集会を見て、グラントリーが言う。
「王都の人間の多くは普通に生活しています。
王都以外から、群衆が流れ込んでいる、と考えるべきでしょう」
アレステアが、報告書を片手に言う。
「東部なまりがあるそうです」
「東部なまり?」
グラントリーが復唱して、アレステアが答えた…
「干ばつで生活できなくなった東部の農民が大挙して、王都に押し寄せてきています」
それを誘導しているのが、天使教ということだ。
「干ばつで、命まで危うくなった時に、天使教が現れた」
干ばつになって食べ物がなくなったとき、天使教が援助物資を持ってちかよったとしたら?
「天使教の資金源はギラッシュ夫人でしょう。
それほどの金を、王は与えてましたから」
アレステアがグラントリーの考えを先取りして答える。
「けれど、ここまで大きくなったら支えきれない。
巨大な資金を得ないといけませんね。
そのために動かす人員は、確保してますし」
宗祖ガブリオは、愛妾の子を王位に就けるのではなく、自身が王になろうとしているのかもしれない。
そんな考えが浮かぶ。
では、何故にジェネヴィーブとチェリシラを襲った?
これは、天使教ではなく、ギラッシュ夫人の意向か?
「大群ですが、これぐらいなら軍を出せば一掃できるでしょう。
ですが、虐殺の王と後世に語り継がれることになるかもしれません」
だから、手が出せないんですよ、とアレステアが言う。