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キラルエからの贈り物

「最初に君を気に入ったのは、僕なんだよ」

ゼノンはニヤリと笑う。

「グラントリー王太子との婚約が確定していないなら、僕にもチャンスがあるわけだ」

ゼノンも分かっている。

ゼノンは気に入っているだけだが、兄からの手紙は本気であった。弟のゼノンにも釘を刺してきたのだ。

けれど、これぐらいの意趣返しは許されるだろう。

自分は、これから兄がジェネヴィーブを手に入れる為に動くのだから。


ゼノンは、テーブルに紙を広げた。

「兄からジェネヴィーブ嬢へのプレゼントだ」

ジェネヴィーブはそれを見ると、あわてて二つに折った。

「殿下、これは国家機密です! こんなもの受け取れません」


「それが分かるってことは、使い方を知っているってことだね。

ダークシュタイン伯爵領は、何年もの天候の観察によって、自然災害を最小限に避けてきたらしいね。

予知できるほどの気候データを集めるには、観測地の選定も重要だったろう、と兄が言ってました。

そもそも、今までそんな事は考えられてなかった」

ジェネヴィーブが閉じた紙を、ゼノンがもう一度広げ、そこをチェリシラが(のぞ)き見る。


「地図?」

チェリシラはどこが国家機密だろうと思う。


「そう、等高線が描かれた地図よ。

戦で進軍するには、国境を越えるにも、戦場の地形を知る為にも標高は重要になるの。

これは、その高さを知ることも、斜面の傾斜を知ることもできる地図」

ジェネヴィーブの説明に、チェリシラが口元を押さえる。


「我がアドルマイヤ王国の機密を知ったからには、アドルマイヤ王国以外に嫁ぐなど許されないよ」

両手を広げ、大げさにゼノンが言う。

「まぁ、そこまで深刻ではないかな。この程度の地図は各国で手にしているだろうから。

だが、ジェネヴィーブ嬢は有効利用してくれると願っているよ」


少し安心して、ジェネヴィーブは地図を受け取った。

「ゼノン殿下、火傷の後遺症はでておりませんでしょうか?」

ゼノンとヤーコブは、大やけどを負いながら、ジェネヴィーブとチェリシラを助けてくれたのだ。

護衛のヤーコブはともかく、ゼノンは隣国の王子だ。


「心配ないよ、あの薬は本当にすごいね。

こうやって十分に動ける。

グラントリー王太子も犯人捜査をしているのだろうけど、僕だからこそできる事をするよ。

僕も兄も、言葉で表現できないぐらいに怒っているからね」

ゼノンは自身が火傷を負っただけでなく、ジェネヴィーブとチェリシラが火に包まれた馬車の中にいて、火傷を負った姿を見ている。

薬で治ったとはいえ、痛みは大きかった。それをこの二人が絶えたのだ。

しかも、ゼノン達の薬は、ジェネヴィーブが痛みを耐えながら作ったに違いない。


グラントリー王太子とアレステア公子が事件を追っているなら、ゼノンは国の外から追うつもりだ。

グラントリー王太子達も犯人を推定しているだろうが、確たる証拠なしでは手がだせない相手だろう。

それは戦争をも視野にいれないといけない。だから、兄のキラルエがアドルマイヤ側でさぐり、自分がここで得た情報と照らし合わせるのだ。


愛妾ギラッシュ夫人イゾルテ。

王の関心が薄れているのに、息子に王位を望んでいると言う。

ゼノンに結婚の打診のあった王女は、どこの国の王家だろうと侮蔑と共に避ける愚鈍な人間であった。

娘を嫁がせて後援を得られないとなると、何者かの力をかりて邪魔な存在の排除。


では、誰と手を組んだのか?

一人とは限らないだろうし、国内だけとは限らない。


「その地図は、兄からのお見舞いだ。どうか受け取って欲しい」

火傷を負い、薬を作り、ジェネヴィーブに負担がかかっていることは察することができる。完治してないのに、王都を歩いていて、キラルエと会ったのだ。

その地図で計画を立てている間は、ジェネヴィーブは館で静養しているだろう、とキラルエは考えたのだ。


ジェネヴィーブが地図を手にするのを確認して、ゼノンは席を立った。

「お互い静養中の身だ。長居をするわけにいかない」


ゼノンが部屋を出ると、部屋の外ではヤーコブが護衛と共に立っていた。

「やぁ、君か。火傷はどうかい?」


ゼノンがヤーコブに声をかけると、ヤーコブは一礼をして答えた。

「問題なく回復しております。殿下と同じかと存じます」


ゼノンは満足したように手を振ると、待たせていた護衛に守られて帰って行った。


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