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ゼノンの来訪

ゼノン・・タジーナ・アドルマイヤがファーガソン公爵邸を訪れたのは、3日後だった。

学院では同じ学生であるが、公爵邸を訪れるとなると、それなりの手順が必要になる。


「やぁ、久しぶりだね。

あの薬は驚いた、もうないのかい?」

サロンに入るなり、ゼノンは片手を上げて気楽に声をかけた。まるで学院にいるようだ。


「殿下には助けていただき、お礼のしようがありません。

あの薬は、突然変異で効能が何十倍にもなったもので、もう一度作ろうとしても作れなかったものなのです。

在庫の全てを、今回使い切りました」

ジェネヴィーブは、材料を詳しく聞かれても答えられない、突然変異と言い切る。

「採取した薬草の生息状況か保存状態か、何かが変異していたのかもしれません」


「そう。

それがいいかもね」

ゼノンは、少し考えて言った。まるで、ジェネヴィーブが薬を隠そうとしているとでも言いたげである。


「今日は、大事な話が2件あって、来たんだ。

あの薬のおかげで、火傷も傷も完治にちかい。しばらくは学院は休むつもりでいるけどね。

ご令嬢達もそうだろ?」


ジェネヴィーブとチェリシラが頷くと、ゼノンも頷く。

ジェネヴィーブが作った薬は効能が良すぎて、世間に出さない方がいい、と意見が一致したのだ。

ジェネヴィーブは材料として、チェリシラの羽の粉が混入しているのを隠すため。

ゼノンは、薬を巡って戦争さえありうると考えたため。


チェリシラがお茶を淹れて、ゼノンと自分達の前に置く。ゼノンの希望で使用人を部屋から下げている。

「ああ、いい香りだ、色もいい」

カップを持ち上げて、ゼノンはチェリシラを誉める。


「ありがとうございます」

チェリシラが微笑めば、場の空気が(なご)む。


「チェリシラ嬢の火傷はどうだ?

僕と同じで、薬が効いているようにみえるが?」

ゼノンは観察するように、チェリシラを見ている。


「はい、あまりに早く治っているので、学院には不信を与えない程度に休もうと思ってますが、完治にちかいです」

チェリシラが頬に手を当てるのは、そこも火傷していたからだ。


ゼノンは、深く椅子に座り直すと、ジェネヴィーブとチェリシラを見つめる。

「まず1つ目。

燃える馬車に飛び込んだ時に、ご令嬢達が、何か白い物に包まれているように見えた。一瞬で消えてしまったけどね。

君達は、魔法でも使えるのかい?

馬車から運び出した君達は、僕達より長く馬車の中にいたのに、僕達より火傷が軽いように見えた。

そして、僕に届けられた薬の即効性と効能は、おとぎ話の治癒魔法のようだと思った」

ゼノンは言いながらも、答えを求めていないようだった。


「それから2つ目」

今度は、ジェネヴィーブだけを見る。

「僕には、たくさんの兄弟がいてね。だけど、同母の兄弟は、兄のキラルエだけだ」

キラルエの名前が出て、ジェネヴィーブはピクンと肩が跳ねる。もちろん、ゼノンがそれを見逃すはずはない。

「兄とは、ずいぶん年が離れているので、いつまでも子供扱いだ。

僕の火傷の様子を見に来た兄が、帰りにジェネヴィーブ譲と会ったという」


ゼノンの言葉に、チェリシラがジェネヴィーブを見る。ジェネヴィーブは、両手で口元を覆っていた。

じゃ、あのキラルエは・・・


「すでに、使者がダークシュタイン伯爵に結婚許可に伺っている。

ジェネヴィーブ嬢はこの国の貴族なので、婚約が確定したら王にも許可を申請することになる」

ゼノンは、面白そうに言う。

「学院では、グラントリー王太子の婚約者候補で、昼食も一緒に食べていたようだが、我が国の王太子も落としたようだね」


「違います!

グラントリー殿下とは、何でもありません。

婚約者候補であるだけです」

ジェネヴィーブは、毅然とした態度で言った。




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