ジェネヴィーブとチェリシラの制裁
「だから~」
何がだからなのだ、王宮から戻ったヤーコブはジェネヴィーブとチェリシラに呼び出されて、アレステアとグラントリーに言われたことを白状させられた。
秘密にしろとは言われていないが、すすんで話していい内容でもない。
そこでジェネヴィーブが、自分が制裁すると言い出したのだ。
「だから~、殿下がするとお家断絶とかになりそうで怖いもの。
一ヵ月ぐらい下痢が続く薬とか、いいと思わない?」
しかも、何故かソファで二人に挟まれて座っている。
ヤーコブは肩を狭めて、二人との接触を避けようとするのに、ジェネヴィーブとチェリシラが寄って来る。
まるで女の子同士の会話のような関係になっている。
燃え上がる馬車に飛び込んだことで、ヤーコブの信頼度がアップしたのだろうが、かわいい顔をしていてもヤーコブは男性で複雑な心境である。
「問題は、使用人達を省いて、家族全員だけに食べさすのって難しいのよね。
いっそ、紛争地域で両国軍すべての食事に下剤を混ぜる方が簡単かも。
両国の兵士が下痢続きで戦闘不可なら、戦争が維持できなくっていいんじゃない?」
ジェネヴィーブの案に、チェリシラがうんうんと頷いているが、ヤーコブは頭を抱えた。
「一時的な下剤はありますが、一ヵ月続くとなると聞いたことがありません。
ジェネヴィーブ様、絶対に作成しないでください。
両国ではなく、片方にその薬が使われたら、戦争は圧倒的勝利になります。
どこの国も欲しがるでしょう」
ヤーコブは、ジェネヴィーブは賢いのに気がつかないのかと思う。
第一、火矢を射られて殺されかけたのに、下剤で報復しようとするなんて甘すぎる。
「じゃ~、幽霊に化けて屋敷に行っちゃおうか?
実際に屋敷に忍び込まなくとも、投影機を作れば・・」
ジェネヴィーブの言葉は、ヤーコブによって止められる。
「投影機?なんですか、それは?
絶対に軍用に転用されますから、覚悟して制作してください」
ジェネヴィーブだって、幽霊騒動ぐらいで、許したくない。言ってみただけだ。
「私だって死ぬかもと怖かった。だから、償いを受けさせたい。アレステア様も絶対に許さないで制裁するだろうけど、お姉様のジワジワ苦しめるのも魅力的よね」
チェリシラがまだ包帯の巻かれた手を押さえる。
「それは、僕だって」
ヤーコブは助けにきて、大火傷を負っているのだ。
結局三人で、制裁方法を話し合った。
公爵令嬢はこの事件と無関係かもしれない。けれど、チェリシラを無視しているクラスメイトと何か関係がある。
ゼノンは兄に事件と火傷のことの手紙を書いていた。
もちろん、ジェネヴィーブの薬の効能も書いている。きっと兄は彼女にさらに興味を惹かれるだろう。
その前の手紙には、脅威になるようなら排除すると返事がきたが、兄よりも早く、彼女を排除に動いた者がいるということだ。
彼女を見つけた時から、ジェネヴィーブは自分のものだ。
生かすも殺すも。
カタン、ペンを置いたゼノンは、窓の外の月を見上げた。
穏やかな光に願う。
できるなら・・・
その後は言葉にならなかった。