天使教
国教の宗派は様々あるが、天使教は穏やかな宗派の一つであったが、それが変わってきてのは宗祖が変わってからだ。
ギラッシュ夫人は、お茶会と銘打って招待した客の中に、その宗祖がいた。
まだ若く、御婦人に好まれる優しそうな容姿をしている。
国教に反した宗教なら取り締まることもあるが、国教の宗派の高僧が貴族夫人達に説法するのは珍しいことではない。
「さすれば皆に常世の幸せが約束されるのです」
宗祖ガブリオが、話をまとめて、お茶会が終了になる。
夫人達を見送って、ガブリオとギラッシュ夫人が残る。
「では、私もこれで失礼いたします」
かが恭しく頭をさげれば、ギラッシュ夫人がテーブルにビロードの袋を置く。
「宗祖様に相談がありますの。
これはお布施です」
「おやおや、夫人に何かお悩みが?」
分かっていても大げさな仕草で、ガブリオは明るく装う。
「教会でしたら、懺悔室があるのですが、ここは人目が多いようですね」
侍女や侍従達が並んでいるのを示している。
「それでは、近いうちに教会に参拝に参りますので、お時間をとってくださいな」
ギラッシュ夫人が言えば、いつでも、と答えて宗祖は席をたった。
離宮を出て馬車に乗れば、ガブリオに笑顔が戻る。
ギラッシュ夫人からのお布施の袋を開ければ、金貨だけでなく小さなメモが入っている。
『天使様に、陛下のお心をお聞きしたく存じます』
おやおや、王が離宮から遠ざかっているというのは、すでに噂がまん延している。
天使様のお告げが必要だな。
こちらも、ギラッシュ夫人には王を捕まえていてもらわねば困るからな。
ガブリオは、思慮深げに顎に手を当てる。
王から王太子に譲位するのも、案外早いかもしれない。
ガブリオは扱いやすそうな、愛妾の生んだ王子を思い浮かべた。
だが、王位継承権はないのだ。
まずは、天使教が主たる宗派と認められよう動きを早めねばなるまい。
第4部隊を使って、王都に奇跡をおこさせよう。
天使の存在を大きく印象つけるのだ。ガブリオの頭の中は、奇跡の内容と、王にそれを見させる事を考える。
ファーガソン公爵家のダークシュタイン姉妹も使えるかもしれない。
燃え盛る馬車から生還したという、それを天使の恵みとすればいい。
王の謁見を取り付け、ギラッシュ夫人も同席すれば寄付金分にはなるだろう。
ガブリオは、思いの外名案だと笑みが浮かんだ。