チェリシラの目覚め
チェリシラが目覚めた時、すでに姉の姿はなかった。
「お姉様」
部屋にいないと分かっていても、呼ばずにはおれない。
姉が自分の側にいないのは、事情があるに違いない。
そういえば馬車の中で、ゼノンとヤーコブを見たと思い出す。
羽で守られた自分達でさえ、あれほどの火傷を負ったのだ。彼らも無傷ではないだろう。
ベッドから起きようとして、背中が痛む。
腕を見て、火傷が治りかけていると分かり、姉が薬を自分に飲ましたのだろうと思う。だが、翼のダメージが大きく背中が痛む。
「チェリシラ、よかった目を覚ましたのね」
侍女から報告を受けて、ジェネヴィーブが部屋に入って来た。
「薬を作っていたの。傍を離れてごめんね。
3日も寝ていたのよ」
ジェネヴィーブはチェリシラの身体を補助して、ベッドの背にもたれさせる。
侍女にスープを持って来るように言うと、ベッドの横にある椅子に座る。どうやら、チェリシラが寝ている間は、ここがジェネヴィーブの定位置だったようだ。
「私達以上に、ゼノン殿下とヤーコブの火傷がひどくって、チェリシラの体力が戻ったらお礼に行きましょう」
ジェネヴィーブは彼らの為に、追加の薬を作っていたのだろう。
侍女が持って来たスープを受け取ると、サイドテーブルに置いて、ジェネヴィーブは侍女を下げさせて人払いをする。
「状況を知りたいでしょ?」
ジェネヴィーブに答えるように、チェリシラは頷いた。
スープスプーンをチェリシラに持たせて、ジェネヴィーブはチェリシラにスープを飲むように促した。
「犯人は捕らえてないわ。
犯人が誰かも、まだわからない状態。
チェリシラは目を覚まさない、犯人は捕まらない、でアレステア様が凄い事になっているわ」
ジェネヴィーブが首を横に振りながら、アレステアの様子を説明する。
「チェリシラが目覚めた事を知らせたから、すぐにでも来るんじゃないかな?」
ファーガソン公爵家に王都で矢を射るなど、並の手練れではない。
しかも、王太子の捜査を逃げている。
それから考えられるのは、王太子の権力を持っても逃げれる人間が関わっている、という事だ。
「私達を狙ったのでしょうか?
それともファーガソン公爵家を?」
チェリシラがスープを飲みながら聞くと、ジェネヴィーブは言い切る。
「私達に決まっているでしょ。私達、嫌われているみたいよ」
王が愛妾のギラッシュ夫人と距離をおいたことを知らないジェネヴィーブは、王が襲撃を指示した可能性も考えている。
「ヘンリエッタ王女の逆恨みの可能性があるわ。
犯人捜査を妨害できる権力となると、犯人は絞られている。
殿下もアレステア様も気づかれているはず」
「この国潰しちゃう?」
スープを飲み終えてチェリシラが悪戯っぽく言う。
「私達が国を潰すなんてできるはずないでしょ。でも、王の出方では国を出る事は考えなくっちゃね。
私の天使さん」
ジェネヴィーブはおどけて言うが、チェリシラがとても怒っていて、天使のお告げでもしそうだと感じていた。
一時の感情で、翼を見せる事は避けねばならない。
「火傷の跡は、絶対に残さないように治すから。
しばらくは、殿下とアレステア様に任せてみましょう」
部屋の外が急に慌ただしくなったようだ。
ジェネヴィーブとチェリシラは顔を見合わせて、噴き出した。
アレステリアが戻って来たに違いない。