ギラッシュ夫人
「火傷をおっているのね?それはよくやったわ。
ヘンリエッテが学院を自主退学したのも、たかが伯爵の娘のせいなのに」
報告を受けて、ギラッシュ夫人は笑みを浮かべた。
「いいわ、また連絡するから下がってちょうだい」
商人の装いの男は、礼をすることもなく部屋を出た。自分の考えでいっぱいのギラッシュ夫人は、そんな男の様子を見る余裕はない。
あれから王の来訪はない。
侍女長から決定事項だと、愛妾の生活費が従来の三分の一と、子供4人分の生活費のみの支給になると通知された。
今までの贅沢な生活ができなくなる。
ましてや、これでグラントリー王太子が立位すれば、王の私財からの支給のみになる。
婚約者を決める事に消極的だった王太子が連れて来たダークシュタイン伯爵令嬢。
才能豊かだと聞く姉、妹の方はヘンリエッタが降嫁する予定だったファーガソン公子の婚約者になったと聞く。
ヘンリエッタが妹の方を殴ったのは理由があるはずなのに、誰もがヘンリエッタが悪いと言う。
王でさえもだ。
王妃の息子だからと優遇されて、私の子供達は王位継承権さえ持たない。同じ王の子供なのに。
ヘンリエッタが可哀想すぎる。
ダークシュタイン伯爵姉妹など、いない方がいいのよ。
死ななかったのは残念だけど、顔にやけどを負っているならいいわ。
アレステアとグラントリーは、何よりも優先して犯人探しをしているが、実行犯の目撃はあっても捕まえる事ができない。
「第4軍の関与が濃厚だ」
アレステアが火矢の命中率、護衛が1矢で絶命していること、鮮やかな逃走で軍が関係していると結論している。
第1軍の近衛、第2軍の北軍、第3軍の南軍に比べ、市中警備を主とする第4軍は王都の構造を熟知しており、一部の貴族との癒着も噂されている。
「それはギラッシュ夫人の取り巻きだ。陛下と敵対することになるかもしれないな」
グラントリーも、それを考えていた。
「退位していただく。
大事なチェリをあんな目にあわしたんだ。絶対にゆずらないからな」
アレステアは王は政務は優秀だとは思っていても、それ以外では敬意を持ってはない。
「第一を動かす」
近衛は王族を守る軍だ。
グラントリーは、ギラッシユ夫人と王子、王女を王族ではない、と言ったのだ。
「4軍に諜報をいれる」
グラントリーは、母である王妃の苦労を報うためにも、王にならねばならない。
そして、その自分の横にはジェネヴィーブしか考えられない。
そのジェネヴィーブが狙われた、アレステアに劣らずグラントリーも激昂している。
「人選をしましょう」
アレステアは軍名簿を取り出す。
ギラッシュ夫人は気づかれていないと思っているが、ダークシュタイン姉妹を恨む人物として、真っ先に浮かぶのはヘンリエッタ王女なのである。