ヤーコブの成長、ゼノンの苦悩
ジェネヴィーブは、チェリシラの護衛としてヤーコブを認めているし、炎の中、危険を蹴りみずに助けに来てくれた。
信用していいと思う、けれど、それによってヤーコブに危険が増える。
ヤーコブは、グラントリーやアレステアと違って下位貴族なのだ。
だから、全部は話さないし、少しのごまかしもいれる。
「西部地方から採ってきた薬草なの。もちろん薬草だけが成分ではなく保存料とかはいっているけど。
とっても繊細な植物だから、少しでも気候が変われば枯れてしまう。
だから環境を守る為に、場所は秘密にしたい」
ジェネヴィーブをヤーコブが眩しそうに見る。
「ジェネヴィーブ様の才能が羨ましい」
ヤーコブだって、ジェネヴィーブが才能だけでなく努力しているのは分かっている。
「チェリシラ様も、クラスで疎外されているのに堂々としていて、僕とは大違いだ」
入学してからずっといじめられてきた。
なじられて、反抗するのも怖くって、したくないことをさせられた。
ヤーコブは両膝の上に置いた拳をギュッと握る。
「でも、炎の中に飛び込んで助けてくれたじゃない。
ヤーコブの姿を見た時、すごく嬉しくって安心したわ」
ジェネヴィーブがヤーコブの服の袖をめくる。薬で劇的に良くなったとはいえ、元々がひどいケガと火傷だったのだ。痛々しい傷は完治には遠く、火傷で皮膚がひきつっている。
ジェネヴィーブはその腕に温室から採ってきた葉を貼っていく。
「綺麗に治るといいんだけど」
ジェネヴィーブが言うと、ヤーコブははにかむ。
「僕は女の子じゃないから、傷跡があっても」
あれ、ヤーコブってこんなだったっけ?
大人しい男の子って感じだったけど、そこいらの女の子より可愛いく見える、という考えをジェネヴィーブは心の中にしまっておく。
「僕、もっと役にたてるように頑張ります」
ヤーコブは嬉しかった。ジェネヴィーブから感謝されたこともそうだが、何より自分で行動できて自信がもてた。
ゼノンは、ファーガソン公爵から贈られた薬剤を飲んで驚いていた。
侍従達は止めたが、ゼノンは押し切って瓶の中身を飲んだのだ。
急激な眠気に襲われ、数時間寝て起きたら、身体の痛みは治まり、火傷の跡は僅かな痕跡だけとなっている。
こんなことありえない。
『我が家で預かっている令嬢達を救っていただいた殿下に多大な感謝と、火傷を負わしてしまったことへのお見舞いです。
殿下とこの薬の相性が良ければ、と切に願っております』
公爵はそう言った、とゼノンは記憶を探る。
「ジェネヴィーブ」
今までこんな薬などなかった。
変わった事と言えば、ダークシュタイン伯爵家の姉妹。あれだけだ。
ジェネヴィーブ、君は天才だ。
今回は、助ける側だったが、我が国に脅威となった時、君はどうなるのだろう。
できれば、そんな未来は来てほしくない。
ゼノンは、空になった瓶を握りしめた。
そして、ファーガソン公爵家の馬車を襲った犯人を想像する。
ファーガソン公爵家に恨みがある者か、ダークシュタイン伯爵令嬢を厭う者なら、ソレはジェネヴィーブ孃かチェリシラ孃か。
何より、自分の火傷の原因を作った人間を許したりしない。