火傷の治療
チェリシラがケガした以上、アリステアが怒り狂っているのは想像がつく。
グラントリーはどうだろうか? 王太子妃候補が狙われたということで、王家の威信とか言いそうだ。
ジェネヴィーブは、最優先することを考えていた。
きっと、アリステアとグラントリーが犯人探しに躍起になっていることだろう。ならば、自分は他のことをすべきだ。
すごく、すごく腹が立つし、この痛みの100倍の痛みを味合わせたいと思うけど、ジェネヴィーブ自身には、犯人を捜す人脈も権力もないことを分かっている。
そのことにも怒りがこみあげるが、チェリシラの為に目立つべきでない、と自重する。
侍女が箱を取って来たので、それを受け取って中を確認する。
侯爵夫人に投与する予定の小瓶が10本。
ゼノンとヤーコブに3本づつ、チェリシラと自分に2本づつ。公爵夫人の薬はしばらく休みだ。
根付いた株が新芽を出すまで、夫人の薬は作れない。いまある葉は切り取って、火傷の幹部に貼ろう。
ジェネヴィーブは家令に、公爵に言伝を頼む。
ゼノンは隣国の王子だ。ジェネヴィーブの作った薬剤を飲むはずがない。だから、ファーガソン公爵から渡してもらうのだ。公爵は夫人が薬で体調が劇的に回復したのを体験しているので、きっと尽力してくれるはずである。
小瓶を3本公爵に渡すよう言い、もう3本を公爵邸で静養しているヤーコブに渡すように言う。
1本の蓋を開けると、ジェネヴィーブは一気に飲み干した。
瞬時にすごい睡魔に襲われる。自己治癒力を高めるために、身体が休養を求めているのだ。
侍女に、チェリシラが起きたら、この瓶を飲むように言づけて、ジェネヴィーブは眠りに落ちた。
半日寝て起きた時には、火傷や打ち身の痛みが無くなっており、火傷もかなり良くなっていた。これなら跡になることなく、綺麗に治るだろう。
「チェリシラは起きましたか?」
ジェネヴィーブが寝ている間にチェリシラが起きたか、と聞けば侍女が答えた。
「はい、一度お目覚めになり、ジェネヴィーブ様からお預かりした薬を飲まれて寝られました」
それを聞いて安心したところに、ジェネヴィーブの目覚めを聞いた医師が診察に来た。
巻かれた包帯を外していくと、医師の表情が驚きに変わる。
「こんなに早く治るなんて」
医師には、ジェネヴィーブの薬剤は秘密である。大量生産できないし、材料の中にはチェリシラの羽の粉があるからだ。
医師には何も返事しない。医師は自分なりに考えて納得するだろうから。特異体質とでも思うだろう。
医師が帰ると、ジェネヴィーブは侍女に手伝ってもらい服を着替える。動きは散漫だが、歩くことも出来た。
ヤーコブの様子を診に行くのだ。
その前に隣のベッドのチェリシラを診る。
熱を測り、脈をみる。
薬で寝ていて、起きそうにないが、気にせず喉元に手を当て、呼吸を診る。肌色も良くなっている。
コンコン、とヤーコブの休んでいる部屋を侍女がノックすると、中から返事がある。
どうやら、ヤーコブは起きているようだ。
ヤーコブは、部屋に入ってきたジェネヴィーブを見ると、あわてて椅子を勧める。
「ジェネヴィーブ様、歩いて大人気ですか?」
「大丈夫です。
まだ、お礼を言ってなかったから。助けてくれてありがとう」
ソファに座りながら、ジェネヴィーブが微笑む。
「当然のことをしたまでです。
ジェネヴィーブ様、あの薬はなんですか?薬効がありえないんてすけど!?」
ヤーコブが待ってました、と薬の事を詳細日聞いてくる。あの薬効を体験すれば、気になるのは当然である。