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ヤーコブ・ヒンボルト

燃える馬車に飛び込んだのは、ゼノンと、もう一人の学生。

それは、ヤーコブ・ヒンボルトだった。


クラスがチェリシラを疎外しているため、表だって側に居ればさらに反感を買い、それがチェリシラに向かうことを心配して密かに護衛していた。

クラスで影の薄い存在だったヤーコブは、停学の1週間にファーガソン公爵家の私兵団で徹底的にしごかれた。

剣術は簡単に身に付くものではないが、甘い考えは矯正され、体力の増強訓練と自覚を促された。停学が終わり学院に復帰してからも訓練は続けられ、ヤーコブは護衛として認められるようになっていた。

だから咄嗟(とっさ)に馬に乗り、馬車を追いかけて車輪に棒を射し込み、馬車を止める事が出来たのだ。


燃える馬車に飛び込んだのも、ゼノンとヤーコブだけだ。他の学生達は助けに来たけれど、何をしたらいいか分からず見ている者が多かった。

それでも、集まってくる人々を規制したり、馬車から他に延焼しないようにしていた。

ゼノンとヤーコブは、ジェネヴィーブとチェリシラを助ける際に中度の火傷を負ったので、公爵邸で治療を受けていた。

他にも軽い火傷を負っている学生が、同じように治療を受けていた。


ヤーコブの可愛い顔は、(すす)で汚れ、服もドロドロだ。燃える馬車を追いかけ、さらに馬車に乗り込んだ時は夢中だったが、ファーガソン公爵邸に着き安心したら、急激に痛みを感じた。腕には大きな傷と火傷を負っていた。


ゼノンも火傷を負っているが、ヤーコブ程ではない。

「ゼノン殿下、貴殿がいなかったら、二人がどうなっていたか。

感謝しきれないが、今は治療を優先したい。殿下も休養が必要でしょう。

二人のことは改めてお知らせします」

グラントリーが手を差し出すと、ゼノンも手を差し出して握手する。

「ジェネヴィーブ嬢は、僕にとっても大事な人なので礼にはおよびません」

友好的に握手しているのに、二人の視線は冷たい。


ゼノンはニヤリと笑うと、迎えの者達と帰って行く。

ジェネヴィーブとチェリシラに、命の恩人という印象を与えたのだ。

今は、これで十分と考える。


他の学生も、治療を終え、自分の視点での事件の状況を話すと帰って行った。

残されたのは、一番火傷のひどいヤーコブだけだ。


医師を客室のサロンに残して、グラントリー、アレステア、ヤーコブの3人が来客用サロンに移動する。

「よくやったな」

アレステアが言うと、ヤーコブが笑顔を見せるが、すぐに顔を引き締める。

「けれど、申し訳ありません。お二人に火傷を負わせてしまいました」

医師がゼノンやヤーコブに比べて、ジェネヴィーブとチェリシラの火傷が軽いのを(いぶか)しんでいた。燃える馬車の中にいた二人だからだ。


「僕が見た状況も、ゼノン殿下が言われたことと変わりません」

ですが、とヤーコブは続ける。

「馬車に飛び乗ったのですが、ジェネヴィーブ嬢とチェリシラ嬢は抱き合って丸くなってましたが、白い何かに包まれていたのです。

僕より先に飛び込んだゼノン殿下が見てないはずがありません。故意に公子と王太子殿下に言わなかったと思います。

一瞬で消えましたが、ジェネヴィーブ嬢がチェリシラ嬢を僕達に差し出すようにして意識を失ったのです」

白い何かと言われて、グラントリーもアレステアも同じ物を考える。チェリシラの翼だ。

二人の火傷が軽いというのは、その翼で守られていたからだろう。


ゼノンに見られた。

だが、ヤーコブが認識できないように、ゼノンもそれをチェリシラの翼とは理解できてないだろう。

これ以上を知られるわけにはいかない。

グラントリーとアレステアは、まずヤーコブに口止めをする。

「分かっているな?」

「はい、グラントリー殿下とアレステア様に報告すべきと話ましたが、秘匿いたします」

ヤーコブは静かに頷いた。


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