神秘の薬
「お姉さま!」
ジェネヴィーブの馬車がファーガソン公爵邸に着くと、チェリシラが飛び出して来た。
ジェネヴィーブも馬車から降りて、チェリシラと抱き合う。まるで生き別れの姉妹が会ったかのうようだ。
「留守にしてたのは、5日だけですよ」
後ろからアレステアが、溜息をつきながら出て来る。
「アレステア様、ただいま戻りました。思った通り、ダークシュタイン領と気候を同じくする山中に薬草が自生してました。
すぐに薬剤の精製にとりかかります」
ジェネヴィーブは家主の息子であるアレステアに報告をする。
馬車から降ろされた薬草の苗を、温室に運んで紗を駆けるよう御者に指示して屋敷に入った。
それを確認して、護衛に付いていた騎士達は報告の為に王宮に戻る。
薬草を探している間、幾人かに会った。山には山菜やキノコを採集に人が入り込んでいた。
だが、ロンという異質な人間。
サウザーは馬を走らせながら、ロンの特徴を思い出していた。
あれは町民なんかじゃない、冒険者に扮した貴族だろう、それも高位で騎士だ。
山の中では、擦って酒をふり瓶詰めにしたが、屋敷に戻れば煮詰めることもできる。
だが、公爵夫人に投与する薬は、新鮮な事が最重要である。
幼いチェリシラの抵抗力をつけるために、様々な実験をして、
新鮮な薬草が一番効果があると分かっている。
採ってきた薬草が根付くかは、わからない。
領地に自生する植物を、領地の伯爵邸で育てるのとは、わけが違う。
気候の違う王都に持ってきて育てるのだ。
ジェネヴィーブが与えられた部屋に閉じ籠もって数時間すると、精製液ができた。
すぐに、公爵夫人に運んでいく。
夫人は、抵抗なくその薬を口にした。
「いまさら、無くすのか恐いなんて、言うはずないでしょ。
少しでも良くなる可能性があるなら、試してみたい」
公爵夫人の体調は、余命僅かといってもおかしくないほど弱っている。
「なんだか、身体が火照ってきた気がするわ」
ベットに横になる夫人は、ジェネヴィーブとチェリシラに微笑む。
「心配しないで、少し眠るだけだから」
目を閉じる夫人は、そのまま眠りについた。
帰宅した公爵が、夫人の手を握って一晩を明かした。
朝になって、目を覚ました夫人が公爵に言ったのは、
「なんだかお腹かすきましたわ」
いつも食欲がない夫人なので、公爵は喜びで震えた。
それから、毎日精製液を飲むことで、目に見えるように体調は良くなっていった。
5日目には公爵に支えられながら、夜の庭園を歩けるほどになった。
公爵邸の温室で管理させている薬草は、僅か二株だが根づいた。
庭師と相談して管理するのはチェリシラの仕事になった。ダークシュタイン領でも、ジェネヴィーブの資料を元にいろんな植物を育てていたのだ。
学院でクラスから浮いているチェリシラは、温室での植物管理は心休まるものだった。