表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/91

残された男達

「手が止まっているぞ」

アレステアがグラントリーの机の書類を指す。


「あ、ああ」

あわててグラントリーが書類を手に取る。

学院から帰って来てから、王宮の王太子執務室で報告書を読むのが、グラントリーとアレステアの日課だ。

学生で仕事量が少ないとはいえ、王太子の公務として地方視察にも行くし、書類決済もする。


「僕は、早く家に帰りたいのです」

アレステアは、チェリシラがいるファーガソン公爵邸に早く帰りたい。

「サクサクと仕事を片付けますよ」


ペンの走る音だけが、静かに響く執務室で、アレステアはグラントリーに視線を動かす。

仕事をしているものの、普段の勢いがない。


「気持ちはわかりますよ。私だってチェリが一緒に行っていたら気が気でなかったでしょう」

小さく溜息をついて、アレステアが言う。気が気でないどころか、絶対に付いて行くに決まっている。


「ジェネヴィーブに信頼のある護衛も付けている。

彼女の才能は、王家に必要だ。薬草の知識まであるとは思わなかった」

グラントリーは、書類を読みながら返事をする。


「彼女を気に入っているのでしょ?」

「そうだな。

外交に語学力は絶対条件だ。ジェネヴィーブならば通訳なしでこなせる。

あれだけの知識があれば、王妃となって様々な分野の総指揮になるだろう。

他国に流出させるわけにいかない」


「おまえな・・」

そんなに、ジェネヴィーブが心配で気もそぞろなのに、まだ王妃に相応しいから、と言うのか。アレステアは呆れた。

母である王妃の哀しみを知っているから、正妃しか娶らないと言っているくせに、父親である王と似た事を言うんだな。王妃として相応しいから選んだ、なんて。

それで、あのジェネヴィーブが結婚するとは思えない、もっと素直になった方がいいぞ。

最初に、好きな人と結婚したい、と言ってたじゃないか。

グラントリーが選ぶのではない、ジェネヴィーブが選ぶのだ、と分かれよ。あの二人には、王家や公爵家は魅力じゃない。


「後3日すれば、戻ってきますよ」

アレステアの言葉に、グラントリーの手がピクンと揺れる。

「速く戻って来てくれないと、チェリが元気がなくって」


「ダークシュタイン姉妹は、仲がいいからな」

グラントリーは、いつもの穏やかな笑顔とは違って、楽しそうな表情をする。


「ところでチェリが、クラスでハブられているんですよね」

どうしてやろうか、とアレステアが暗い笑みを浮かべる。

「それは、アレステア、おまえが休み時間ごとに行くからだろう。誰も近寄れない」

グラントリーが、アレステアを非難する。


お互い、自分のことは棚に上げて、人の事はよく見えている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ