表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/91

王の後悔

王はグラントリーに違和感を覚えていた。

神を信じる息子ではない、それは断言できる。



「でね、お父様、聞いてるの?」

離宮では、ヘンリエッタが学院での苦情を王に言いつけている。

執務を終え疲れて離宮に帰って来た王を、ヘンリエッタが待ち構えていたのだ。

自分の立場を有利にするために、状況を捏造(ねつぞう)して説明する。


王太子が報告に来る前に、学院から勧告書が届いていた。

ヘンリエッタは過去にも問題を起こしていたが、勧告書に書き連ねている内容がヘンリエッタが言っていることと大きく違う。

『ヘンリエッタ王女は、編入生が教室に入るなり殴りかっかてきた。それは授業担当の教師と学年主任の教師の目に前で起こり、証人であります。

そして妄想による暴言をはき、さらに殴り掛かろうとして、編入生が避けた為に、勢い余って転倒しました。

学院始まって以来の恥ずべき事で、入学してからクラスメイトを権力で脅すということを繰り返している現状を考慮すると、無期登校禁止が妥当であると判断いたします』


留学生のゼノン・アドルマイヤ王子からも苦情が届いている。

『ヘンリエッタ王女が僕を婚約者だと吹聴しているようだが、その話は正式に断っている。

アドルマイヤ王国への侮辱であり、自国に報告し抗議するものとする』

隣国のアドルマイヤ王国とは友好条約を結んでなく、王子が留学してきたことで、両国の友好を深める機会なのだ。我が国の瑕疵(かし)で、亀裂を作るわけにいかない。


「ねぇ、お父様、ダークシュタイン伯爵家に処罰を下すべきよ。

王女にケガをさせたのよ」

ここが痛いの、とヘンリエッタは肩を抑えて涙をみせる。

「陛下、王女が伯爵家の娘に(おとし)められるなんて許せる事ではありませんわ」

ギラッシュ夫人と呼ばれる愛妾イゾルテが王に寄りかかる。


「ヘンリエッタ、私は伯爵令嬢に非がないと聞いたが?」

王に答えたのはヘンリエッタではなく、イゾルテだ。

「まぁ陛下、ご自分の娘がケガしたのですよ。王女がケガしたのです。

娘を心配しないのですか?」


王女も王子も継承権がなく王族に残ることはない、と王家の教育を強制しなかった。

そのツケがここにきたか、と王は思った。

いや、王家の教育を受けなくとも、王家は貴族や人民を(ないがし)ろにしてはならないぐらい当然のことだ。

皆が非がないと知っている令嬢を処罰するなど、人心の離反を勧めるようなものだ。

王妃ならば、決してこのような言葉は言わない。


「お父様、あの女を罰してください」

泣いていたはずのヘンリエッタが、甘えた声で王を見上げる。

ヘンリエッタにとって、父王はなんでもきいてくれる人間なのだ。

王は誰よりも偉いのだ、チェリシラが泣いて謝っても許さない、どうしてやろう、としか考えていない。


王の目には、幼い子だと思っていたヘンリエッタが、嘘で塗り固め、媚びて誤魔化そうとする大人の女に見えて、声がねっとりと耳障(みみざわ)りに聞こえる。

王妃とイゾルテを比べ、愛妾の子供達と正妃の子供を比べてしまう。

王は、グラントリーが王太子として努力をしてきたのを知っている。自分もそうだったからだ。

ヘンリエッタは?シューマンは?と次々にイゾルテの子供を比べる。


王は自分にもたれかかっているイゾルテとヘンリエッタを離すと、立ち上がった。

「王宮に帰る」

イゾルテはどういうことか、と慌てた。

「陛下のお好きなサクランボのシェリー酒を用意してますのよ」


立ちあがった王は、歩みを止めて振り返った。

イゾルテは、王の気をひいたと笑顔を見せたが、王の言葉はそうではなかった。

「ヘンリエッタは、学院を無期登校禁止だ。

王家の恥という自覚がないのか?

恥の上塗りをしない為にも、自主退学の手続きをする」

ヒッ、と息をのんでヘンリエッタが動きを止めた。


「イゾルテ、王位継承権がないとはいえ、そちの教育は失敗だ。いや、乳母に預けて教育はしてないのだな。

宰相からも、愛妾の経費が飛び抜けて多すぎると再三言われてきた。

私が甘やかしすぎたのだ。

だが、先ほどの言葉でよくわかった。

王が守るのは愛妾ではない、国だ。

経費は1/5とする。それでも王子、王女の生活として十分だろう」

気がつくのが遅すぎた、と後悔しながら、王は離宮から出て行った。


「陛下、陛下!」

イゾルテが王を呼ぶ声が離宮の外まで響いて、王は顔をしかめた。

「あんなにうるさい声だったか」

離宮の外で待機していた護衛をつれて、王は王宮に向かう。



翌朝、離宮につけた侍従がイゾルテからの伝言を持ってきた。

『ヘンリエッタの肩の傷が、首筋まで緑色に変色している』

傷の内出血なら紫とか青とかで、緑色などありえない。

「王宮医に診察をさせよう」

それだけ言うと、王は侍従を下げた。離宮に見に行こうという気にはならなかった。

侍従は、イゾルテがヒステリーを起こして離宮の中が荒れている、と王に伝えて離宮に戻って行った。


グラントリーの言葉が思い浮かぶ。

『神が許さないでしょう』

首筋まで広がった?

神の怒りなら、明日には顔まで広がるかもしれないな。

学院からの勧告書でみたヘンリエッタは、天罰も仕方ない所業だ。

そして、王妃のことを思い、天罰は自分にもあるだろうと王は思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ