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トルテア・ファーガソン公爵夫人

いつもの日課であるトルテア・ファーガソン公爵夫人の検診は、学院が始まったので、帰宅してからとなった。

すっかり馴染んだ生活だったので、夫人は二人が帰ってくるのを待ちわびていた。

検診の後に、3人でお茶をするのが楽しみなのだ。。

ジェネヴィーブとチェリシラが話す領地の話は、王都育ちの夫人には、夢見る世界であった。

山を駆け、川に足を浸す。

小魚の影を追いかけて、岸辺を走る。

陽の光が、アルビノの夫人には悪い影響を与える。皮膚が極端に弱いからである。

物心ついた時から、諦めている世界だ。


チェリシラはとても弱く生まれた。羽があるからバランスが悪く、寝ているだけでも転がってしまう。

新生児で顔を上げることもできないうちは、窒息の危険がつきまとった。常に誰かが側に付く必要があった。

大きな秘密がある以上、家族が交代で付いた。

幼児のジェネヴィーブも付き添った。

肌も弱く、常に(ただ)れていて、まるでこの世に不適合の身体のようだった。

チェリシラが1歳になった頃、外遊びから戻ったジェネヴィーブはチェリシラに会いに行った。それは、ジェネヴィーブの日課なのだ。


「あー」

弱々しい赤子の声で、チェリシラがジェネヴィーブに手を差し出す。チェリシラの鼻がクンクンと何か嗅いでいるように動いた。


「チェリシラ?」

ジェネヴィーブが身体を乗り上げて、チェリシラに触れる。


いつもは弱い息のチェリシラが大きく息を吸った。

それを付き添っていた父親のダークシュタイン伯爵は驚き、ジェネヴィーブの身体に草が付いているのに気がついた。

「ジェネヴィーブ」

伯爵はジェネヴィーブを抱き上げ、服に着いている草を取ると、チェリシラの(ただ)れた皮膚に貼った。するとチェリシラの皮膚の赤みが引いていくのだ。


それからは、その草を探し、すりつぶしたり、煮たり、試行錯誤の繰り返しであった。

その草は、軟膏に混ぜて塗ると皮膚炎に効き、すりつぶして火でいぶる煙が呼吸を楽にした。

摘んで数時間のうちにすりつぶして瓶に詰めれば、効能が持続することもわかった。

ただ、瓶詰めにせずに鮮度が落ちると効能は無くなった。


チェリシラとアルビノの公爵夫人では、体質が違う。だが、試す価値はあるとジェネヴィーブは思う。

「トルテア様、チェリシラの身体がよくなった植物があります。

太陽の下とは言いません。月夜の庭の散歩ができるよう、その植物を試すお気持ちはありませんか?」

もしかして害になるかもしれない、それでも何もしないよりいい、とジェネヴィーブは覚悟したのだ。

それほど、トルテアの身体は弱っている。

お茶をして、髪の毛を結うリボンを選ぶのがやっとの状態だ。

公爵が心配で付きっきりになるのも、当然の状態なのだ。


公爵夫人はゆっくり微笑んで、ジェネヴィーブの手を取る。

「ジェネヴィーブ、チェリシラ。

今まで、たくさんの医師の診察を受けて、いろんな薬も飲んだわ。

もし、貴女の薬で私が(はかな)くなったとしても、貴女が苦しまないと約束してくれるなら、その薬を試すわ」

それは過去の薬で危険な状態になったこともある、と言っているのと同じだ。

「公爵閣下には、私からお話するわ」

最大の難関は公爵夫人の自分ではなく、夫の公爵だというのをトルテアは分かっている。


「トルテア様、私もお姉さまの薬でこんなに健康になりました。

一緒にお庭を歩きたいです。いつかきっと叶います」

チェリシラの手が、トルテアとジェネヴィーブの手に重ねられる。


「ええ。

閣下が戻られるまで、少し休むわ」

ジェネヴィーブとチェリシラがトルテアを援助してベッドに連れて行き、後は侍女に任せて、公爵夫人の部屋を出た。


扉の外で、チェリシラがジェネヴィーブを見る。

「お姉さま、あの草ね?」

「そう。でもあれは珍しい植物だから、探しにいかないといけない」

ダークシュタイン伯爵領で保護して栽培していたのに、干ばつになるほどの異常気象で枯れてしまったのだ。

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