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王太子と公爵家嫡男

速駆けの2頭の馬は、ダークシュタイン伯爵領を走っていた。

隣のマサーチッツ伯爵領の干ばつ被害の視察に訪れているのだが、護衛達をまいて抜け出したのだ。

この東部地域は数年前に冷夏、昨年は干ばつと自然災害が続き、王宮への陳情が相次いでいた。

それの視察なのだが、王も王太子も不審に思っていることがある。

東部で同じ気候の中、ダークシュタイン伯爵領だけは、税の免除や支援の陳情がないのだ。

そして、伯爵自身が領地にいる事が多く、王宮に参内することが少ないために情報が入ってこない。


ダークシュタイン伯爵領の様子を探る為に、王太子グラントリー・ギレンセンは、護衛の公爵家嫡男アレステア・ファーガソンを伴って密かにダークシュタイン伯爵領に潜入したのである。

領地に入って、まず目にして驚いたのは、整備された用水路である。計画的に配置された用水路が農地に力をいれていることを証明している。

なにより、干ばつになっている地域と同じ日照りの気候だというのに、用水路には水が流れている。

これは、何年も前から貯水池を準備していたか、潤沢な水のある井戸を掘削しているということだ。


「すごいな、アレステア」

「まったくです、グラントリー。どうしてダークシュタイン伯爵領だけなのでしょう?」

アレステアは武闘派であるが、公爵家嫡男としての教育を受けており知識も深く、地方の伯爵領の農地規模に驚いている。

「我が公爵領でも、ここまではできません。是非ともダークシュタイン伯爵にご教授願いたいですね」

人目を避けて移動していたが崖の上から声がして、馬を止め崖下に身体を添わせる。


「お姉さま、こちらの温度は32度。木陰にハルジオンの(つぼみ)があります」

「ハルジオンはこの季節の花ではないわ。気象データとして来年に役に立つかも。

チェリシラ、その辺りに他にも蕾や花がないか探してちょうだい。土も採取して調べましょう」

「はい、あ!」

女性の会話が聞こえていたが、一人の悲鳴とともに崖の土が崩れ落ちて来た。

足を(すべ)らした、アレステアがそう思った時には身体が動いていた。馬から飛び降り、落ちて来る女性を助けようと飛び出していたのだ。


「きゃあああ!」

ズザザザザー!!


崩れ落ちてくる土や小石を身体で受けながら、アレステアは手を広げて白い塊を受け止めた。


「天使」

アレステアもグラントリーも、アレステアの腕の中のチェリシラを見て、天使と(つぶや)いて言葉を失った。

崖から落ちる恐怖と驚愕(きょうがく)で、チェリシラは羽を出してしまったのだ。


「チェリシラ!」

ジェネヴィーブが崖の横の道を降りて来て、アレステアに横抱きにされているチェリシラを見つけた。

ジェネヴィーブの声に、チェリシラも正気に戻ってアレステアの腕から降りようと暴れる。


「危ない」

チェリシラが落ちそうになって、アリステアが腕に力をこめると、チェリシラの羽は消えてしまった。


「妹を離してください」

ジェネヴィーブが駆け寄ると、アリステアが屈んで、丁寧にチェリシラを地面に立たせた。


「ご令嬢、おケガはありませんか?」

崖下から出て来たグラントリーに声をかけられて、驚いたジェネヴィーブとチェリシラが抱き合う。

「美しいな」

ジェネヴィーブとチェリシラを見たグラントリーの、偽ざる感想だ。

化粧っけのない顔、質素なドレス。これを夜会用に化粧させて、豪華なドレスと宝石で飾ればどれほど美しいか。

そんな事を考えている自分に、グラントリーは苦笑いした。こんなこと初めてだ。

「グラントリー・ギレンセンだ」

グラントリーが名前を告げ歩み寄ると、ジェネヴィーブがドレスの裾を持ち礼をした。

「ダークシュタイン家の長女ジェネヴィーブでございます」


「チェリシラ、王太子殿下ですよ」

ジェネヴィーブが言っても、チェリシラはキョトンとしていて突っ立っている。

「お姉さま、こんな田舎に王太子殿下がいるはずありません。偽物かも」

領地に引っ込んでいるジェネヴィーブとチェリシラは、王太子の名前を分かっていても顔を知らない。

「こんな田舎だからこそ、わざわざ王太子殿下のお名前を(かた)る必要はないでしょう。

王太子殿下は、東部地域に視察に来ているとお父様が言ってました。

けれど、ダークシュタイン伯爵領は視察に組まれていないはすですが」

ジェネヴィーブは最初はチェリシラに、後半は王太子に向かって言う。


「ダークシュタイン伯爵領は、他領とは違い干ばつの被害が少ない。

それは、天使の恩恵・・」

グラントリーは最後まで言い切ることはできなかった。

ジェネヴィーブが止める間もなく、チェリシラが王太子を殴ったからだ。

ガン!

拳骨で顔を殴られた王太子は、驚きで目を見張った。


「羽なんて奇形の一つよ!

お姉さまの努力の成果なのに! バカ王太子!」

チェリシラの叫び声が響いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 新連載ありがとうございます! [一言] 自分のことを奇形と言い切り、王子に拳骨最高です、 お姉さまスキーの妹ちゃん、応援してます!!
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