教師達の試案
ゼノンは教室の窓から外を見ていた。
王家の馬車が学院を出て行き、思わず笑いが込み上げてくる。
ヘンリエッタ王女がチェリシラ嬢に手を挙げたと聞いた時は驚いたが、その後は予想通りの行動をしてくれた。
あれで、王家の教育を受けているとは思えないほどだ。
他国の王族に嫁がせようなどと、よくぞ思えた。それほど我が国をバカにしているのか、とさえ思う。
伯爵家といえば、下級貴族ではない。その令嬢を、出会い頭に殴るなど許せるものではない。
編入で入学するほどなのだから、あの妹も何かあるのかもしれない。
2発目を殴ろうとした王女が避けられて、勢い余って突っ込んで妹が転びケガをしたらしいが、妹が避けただけでなくそれを利用したとしたら。
面白いな。
それでなくとも注目されている編入生。王女の事件は、午前中には学院中に知れ渡った。
1年の学年主任が事件を学院長に報告するのは、王女の暴挙とチェリシラの行動だ。
「編入試験では、チェリシラ・ダークシュタインを推し量ることはできません。
姉のジェネヴィーブ・ダークシュタインの才能は素晴らしい。
けれど、妹は点数では表せない、何かを感じさせるのです。
王女に言った言葉は、まるで神の警告のようにさえ聞こえたのですから。彼女は自覚してその言葉を使ったようでした」
「なるほど」
顎に手を当て、学院長は手元の資料に視線を落とす。
それは編入するにあたり提出された、ダークシュタイン伯爵領で計測されたデータとジェネヴィーブが取りまとめた対策書の一部だ。
その資料を見て、10代の子供のすることではないと思っていたが、妹の話を聞くと、ダークシュタイン家に興味がわいてくる。
王都から離れた東部にあるということで情報が入ってこなかった。いや、情報を出さないようにしていたのではないか。
きっと幼い頃から、才能の片鱗が見えていたはずだ。
「この才能を開花させるために、ダークシュタイン伯爵は領地に令嬢達を止め置いたのだろう。
そして今回、編入をさせることで、我が学院に才能を預けたと考えてよかろう」
学院長に教師達も賛同する。
「ジェネヴィーブ・ダークシュタインの着眼点は新しい。
新しい学問になるかもしれません。我々で守り、育てよ、と時がいっているのではないでしょうか」
「チェリシラ・ダークシュタインも軽んじてはいけない、ということですね」
「ですが、王太子の婚約者候補とファーガソン公子の婚約者、せっかくの才能が隠されてしまうのではありませんか?」
一人の教師がいえば他の教師も同意するが、才能ある人間は狙われやすい、強力な後ろ盾が必要なのは理解できる。
「姉妹二人ともということは、ダークシュタイン伯爵家の意向なのでしょうか」
教師達は、王家とファーガソン公爵家がどこよりも早く、ダークシュタイン伯爵令嬢達の才能を知って取り込みに入ったと思っている。
「じつは、今回の編入で贔屓されて入学したと噂があるのです」
3年生の教師が、生徒達の噂と話をした。
「おろかな」
「それでは、3年生だけ特別テストはどうでしょう?
それで、ジェネヴィーブ・ダークシュタインの力を見せつけれるのでは?」
そうして、3年生だけ特別試験が決定した。