編入生と留学生
ジェネヴィーブとチェリシラは、学院の編入試験を受けに来ていた。
王の推薦ということで、馬車止めには職員が迎えにきているという待遇てある。
馬車のステップを降りてくる二人に、職員は丁寧に対応する。
王の推薦で乗ってきたのはファーガソン公爵家の馬車。
編入試験が滅多にないことなのに、昨日の今日というゴリ押しだ。
通常ではありえない何かがあると、誰もが考えていた。
学生には詳細は知らされていないが、急遽編入試験があることが告知されたので多くの学生の興味をひいていた。
授業中の時間に合わせて馬車が着いたために、見に行くことはできなかったが、根拠のない噂が飛び交っていた。
他国の王族が編入してくるというものだ。
編入試験は、今年の入学試験だった。
ジェネヴィーブとチェリシラでは学年が違うが、試験は同じものだ。
突然の編入試験で問題が用意できなかったことと、それぞれの回答で学年相当の学力があるか、知力を調べる為には入学試験の内容が丁度よかったのだ。
チェリシラは制限時間を待たずに、解答を書き終えたが、ジェネヴィーブを見ると、まだ解答しているようだった。
ジェネヴィーブが何を書いているかわからないが、チェリシラが終えるものをジェネヴィーブが苦戦しているとは思えない。
チェリシラは、ジェネヴィーブが一般解答以上のことを書いていると思った。
チェリシラは教師に試験解答を提出すると、制限時間まで学院を見学しようと試験会場を出て行った。
まだ授業中のため、中庭には誰もいなかった。
しばらくすると、ジェネヴィーブがチェリシラを追ってやって来た。
「チェリシラ、一人で行動したら危険よ」
ジェネヴィーブは、チェリシラが何かを持っていることに気がついた。
チェリシラは首を横に振ると、そっと両手を開いた。
そこには、すでにこときれた小鳥が横たわっていた。
「巣から落ちたんだと思う。見つけた時は動いてなったの」
「ツグミのヒナ鳥ね」
ジェネヴィーブは腰をかがめげて、チェリシラを覗き込む。
「ここに置いておけば猫にやられるかもしれない。
もう助けられないけど、お墓を作ってお祈りしてあげることはできるわ」
チェリシラとジェネヴィーブは、中庭に小鳥のお墓を作った。
「&%#$、&&#%・・」
ジェネヴィーブは古語で、鎮魂の祈りをする。
すぐにジェネヴィーブとチェリシラは、中庭からいなくなったが、それを見ている人物がいた。
「驚いた、あれは古語でもヒプデレア時代のものだぞ。
古語の教授でさえ、あれほど綺麗に話せないだろう」
ポツリと呟いた言葉は誰も聞いていない。
授業をサボっていたら、チェリシラが来たので、見つからないように隠れていたのである。
「あれは面白そうだな」
誰もいないはずの木陰から姿が出てくる。
そろそろ授業が終わる時間だと、中庭をあとにするが、足取りは軽い。
「ゼノン、またサボっていたな」
教室に戻ると声がかかる。
ゼノン・タジーナ・アドルマイヤ、隣国アドルマイヤ王国の第2王子で、留学生である。
グラントリーの異母妹で第2王女ヘンリエッテとの婚姻の話を確認しに来ているのだ。
政略として役に立たない、それが結論だが、それより面白い者を見つけた。
どういうふうに兄に報告しようかと、ゼノンは楽しい算段を始めた。