チェリシラの怒り
ファーガソン公爵は、アレステアに全権を委ねて席を立った。
本当に、アレステアの結婚はどうでもいいみたいだった。
そして、食事を終えた3人は、サロンに場所を移してお茶にしている。
チェリシラは、怒り狂っていた。
「アレステア様、何で怒らないの!!」
まさに襟首を掴みかからんはかりである。
「なに、ヘラヘラ笑っているの!」
怒りはアレステアにまで及んでいる。
「チェリが僕の為に怒っているのが、幸せだな、と」
嬉しそうに笑うアレステアに、チェリシラが距離を置こうと後退る。
「お姉様、私怖いです」
わざとらしくチェリシラがジェネヴィーブの後ろに隠れれぱ、アレステアの片眉があがる。
「僕は、グラントリーに全面的に協力します」
「厄介払いしようとしてる!」
ジェネヴィーブも後退り、チェリシラと手を取り合うと、あきらかに、アレステアの機嫌が悪い気がする。
「姉妹なのよ」
「ええ、分かってます。
これが、兄や弟なら許しませんけどね。
今は、父の気持ちがよくわかります」
アレステアがニッコリ微笑む。
何も知らなければ、ステキと思ったかもしれない。顔はいい、公爵子息で、王太子の側近で護衛するほど武力がある。
将来性抜群で、カッコいいのに、逃げ出したい。
チェリシラが逃げたら、地の果てまでも追いかけてきそうで恐い。
「皆が憧れるファーガソン公爵家って、中に入れば怖いよね」
コソッとジェネヴィーブが言えば、チェリシラがウンウンと頷く。
公爵の話を聞いた後では、羽を利用したいだけ、なんて思えなくなっている。
「聞こえてますから」
アレステアも自覚しているので、今更だ。
チェリシラは別格としても、ジェネヴィーブも気に入っている。王太子妃、未来の王妃として才能だけでなく、人柄もいい。
「明日は、僕とグラントリーは学院に行きますが、二人は編入試験を受けることになってます。
王の推薦がある限り、編入は間違いないのですが、学力を検定する必要があります。それがクラス分けになります。
ジェネヴィーブ孃は、遠慮なく実力を出してください」
ちょうどお茶を飲み終えたアレステアが席を立つ。
「部屋までお送りしましょう」
アレステアは、ジェネヴィーブ、チェリシラと隣り合った部屋だが順番に部屋まで送ると、胸に手をあて軽く礼をする。
「食事の後にお茶ができて、楽しい一日でした。
ゆっくり休んでください」
それが本心か計算かはわからないが、チェリシラには響いた。
パタンと扉がしまると、チェリシラはベッドにダイブした。
「疲れたー」
姉のジェネヴィーブの部屋に行こうかなとも思ったが、姉も疲れているだろうと、そのままベッドでゴロゴロする。
あの顔は嫌いじゃないのよ。女の子ならあの顔は好きだろう。
優しいし。
逃げればいいか、と簡単な気持ちで婚約を受け入れたけど、絶対に失敗した。
あんな人なんて思わなかった。
もし好きになっても、アレステアが思うほどの気持ちを返せないと思う。
食事の後にお茶ができて、なんて言わないでよ。
嫌いになれないじゃない。
明日からも、一緒に食事するから。毎日、食事の後にお茶をするから。
もう、一人で食事する生活に戻さないから、って思ってしまうじゃない。