ファーガソン公爵
食事の最中に、ファーガソン公爵の帰宅を告げられた。
上着を脱いだだけだろうという姿の公爵が食堂に入ってくると、ジェネヴィーブとチェリシラが立ち上がり礼をそようとするのを、公爵は手で制する。
「食事中だろう、座ってくれたまえ」
使用人が椅子をひいて公爵も着席するが、公爵の前には何もだされない。
ここで、食事をするつもりはない、ということだ。
息子が食事をしているのにだ。
「アレステア、手紙で状況はわかっていているが、どちらと結婚したいのだ?
ファーガソン公爵家は政略結婚はしない。好きにするがいい」
アルビノの女性と結婚している公爵自身が、政略結婚とは考えられない。
バン。
テーブルに両手をついて、チェリシラが立ち上がった。
「どうして?
どうして、反対しないんですか!?
息子が、悪い女に引っかかったと心配しないんですか?!」
プッ。
声を吹き出したかのように、笑い声が重なった。
アハハハ!
アレステアと公爵が笑っているのだ。
他人事のように笑っている二人に、チェリシラ はさらに怒りがこみあげてくる。
「チェリシラ・ダークシュタインと言います。
公爵閣下にご無礼だと分かってます。
だけど・・」
「チェリシラ」
向かいに座るジェネヴィーブが、チェリシラを止めた。
「まず言うことが違うでしょ?」
チェリシラは、気まずそうにジェネヴィーブを見て言葉を飲み込んだ。
それから、ジェネヴィーブとチェリシラは目配せをして口を開いた。
「お帰りなさいませ」
二人の声が揃う。
笑っていた公爵とアレステアが、ビタリと止まった。
「あ、ああ」
戸惑いがちに公爵が応える。
「ご挨拶が後になり申し訳ありません。
学院に通うにあたり、ファーガソン公爵邸に滞在させていただき、ありがとうございます。
私はジェネヴィーブ・ダークシュタイン、こちらは妹のチェリシラです」
ジェネヴィーブの挨拶を、公爵は面白そうに聞いている。
手紙には、チェリシラ・ダークシュタイン伯爵令嬢と結婚したい、と書いてあった。だが、姉の方もなかなかではないか。
公爵は使用人に珈琲を指示して、長居をすることを決めたようだ。
「父上、ご紹介いたします。
チェリシラ・ダークシュタイン伯爵令嬢との婚約の許可をいただきたい」
アレステアも形だけの許可申請で、反対されることなどないと分かっている。
「許可する。
ダークシュタイン伯爵の許可も得ているなら、明日には王宮に報告をしておく」
ダークシュタイン伯爵の許可は、脅すように得てきている。
「令嬢は、何か言いたい事があるのではないか?」
珈琲カップに手を添えて、公爵はチェリシラが止めた言葉を聞こうとする。
「息子の結婚など、気にしないように思えたので」
チェリシラは、とっても無礼な事を言っているが、公爵は気に障っていないようである。
「ファーガソン家の男は、見つけると他はどうでもいいようになる。
何代も、唯一の伴侶にすべてを捧げてきた。
悪女であろうが、浪費家であろうが関係ない。
ファーガソン家の男が見初め、求婚した、それが全てだ」
公爵の言葉に、ジェネヴィーブとチェリシラは悪寒が走った。
うわぁ、見つけるって、その伴侶と出会うってこと?
まるで、アレステアが翼を見ていなくとも、同じ事が起こるってこと?
他はどうでもいいようになる、ナニソレ!
だから、子供を放置しているってこと?
「私は、だからって子供を放置するようなことしません。
使用人がいても家族ではないから」
チェリシラは拳を握りしめていた。