溺愛ということ
『母にとっては、僕の方が穏やかでいられるらしい。
子供のイメージなのではないかな?』
家では僕と自称するのか、と聞いたアレステアの答えは、憂いをおびていた。
ファーガソン公爵夫人の体調は、ずっとあのようなんだろう。
ジェネヴィーブとチェリシラは、用意された部屋でくつろいているが、それぞれの部屋があっても、ジェネヴィーブの部屋に集まっいる。
「お姉様、本当に公爵夫人を診るつもりなの?」
チェリシラが準備されていた茶器でお茶を淹れると、部屋に香りが漂う。
「公爵家だから、名のある医師が治療していのでしょうけど、女同士の方がいいかな、と思って。
私が診たからって、何も変わることはないけど、一緒に住んでいるからできる事があるかもしれない。
それに、違う目で考える事が新しい発見があるかもしれないし」
ジェネヴィーブは、自分が何でもてきるとは思っていない。
ただ、王都であの姿で生きるのは辛かったたろうな、と思ったのだ。
「お嬢様、アレステア様が食堂でお待ちてす」
いつの間にか夕飯の時間になっていたらしい。侍女が呼びに来たので、あわてて用意する。
食堂には、アレステアが一人で待っていた。
与えられた席に着席すると、アレステアが食堂を始めようと言う。
「アレステア様、公爵夫人を待たないのですか?」
チェリシラは、不思議そうに尋ねる。
「母上は、自室で父上と食事される。
朝も夜も、待たなくともよい。
父上は、母上をとても大事にしておられる」
アレステアが返事すれぼ、その意味をわからない姉妹ではない。
アレステアは、ずっと一人で食事をしてきたのだろう。
「じゃ、これからは私達が一緒よね」
チェリシラがジェネヴィーブを見れば、ジェネヴィーブも頷く。
「それは嬉しいな。
チェリとは、一生一緒だからね」
アレステアがおもわせぶりに、チェリシラに目配せすれば、チェリシラはカクカクと首をジェネヴィーブに向ける。
「アレステア様、チェリシラが怖がってます。
公爵は公爵夫人と食事を取り、アレステア様は一人で食事をしていた。これからは、チェリシラと一緒に取ると言うことですね?」
ジェネヴィーブが確認するように、アレステアを見る。
「ああ、その通りだ。
だが、父のように母を歩かせず、ずっと抱いて移動するような事はしないよ。
チェリシラは、自分で歩いていい」
「なにそれ!
どんな恐怖生活なのよ!」
チェリシラは手にしていたカトラリーを、思わず音を立てて落としまうぐらい驚いてる。
「身体が弱い母は転ぶと、ケガの治りも悪い」
だから歩かせないのは、アレステアには当然のことだが、聞いているチェリシラは立ち上がって声を荒らげた。
「ファーガソン公爵家の男っておかしい!」
しかも、指はアレステアを指して、貴族としてありえないマナーの悪さである。
「チェリシラ、食事をしましょうね」
座りなさい、とジェネヴィーブはチェリシラを諫めると、チェリシラは不満ながら席に座る。
はぁ、これが溺愛って事か。ジェネヴィーブは心の中でため息をついた。
自分に関係ないなら、どうぞ、と言える。
もし、アレステアの一目惚れが本当のことで、そしてアレステアが父親似なら、妹は耐えれないだろう。
子供の頃のアレステアも、一人で食事をしていたのだろうか?
使用人が多くいようとも、哀しい。
ジェネヴィーブだけでなく、チェリシラも同じ事を思っていた。
ダークシュタイン伯爵領、王宮、ファーガソン公爵家、とアレステアの態度は違う。