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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

仮想偶像

作者: FrRolla

今回は1万文字を超える短編を書かせていただきました。

是非1読お願いします!

これはとある日常である。

決して特別ではない、誰かの当たり前の1ページだ。

仮想偶像(メインキャスト)


それはネットを使ってアイドル活動をする男性、女性の事である。


これも現在は立派な売り出し方としてこの世に広く浸透している。


そんなメインキャストに恋をした。


そのキャストの名前は玉響紗良(たまゆらさら)という。


彼女の黒のロングでスレンダーな体。服装はいつも白のワンピース。しぐさの一つ一つがカワイイ。


それは見る毎にその気持ちが募っていった。


配信がやっているそのアイドルに投げ銭システムという好きな配信者にお金を送るシステムを使って何度も何度もそのアイドルにお金を送った。


自分が働いていた給料の何割かはその配信者に投げてる状態だった。


正直かなりの額を送ったと思う。


しかしそれ以外の趣味もなかったし自分で使う気もなかった。


それにそれを生きがいに仕事をしているという状態でもあった。

人生が楽しくなかったと思う。

それを埋めるようにお金をつぎ込んでいた。

今日も仕事に行く。

毎日楽しくもない仕事にいって金を稼ぎに行く。

それがずっと続くんだと思っていた。

これが俺、榊原徹(さかきばらとおる)の毎日だった。


「億劫だな・・・」


毎日が変わらないこの日々が何か変わることがあると信じていた


朝死にそうな顔をしながら電車に乗り込む。


今日が終わればいよいよ土曜日サラリーマンのパラダイスだ。


今日も紗良が配信する。


配信では毎回投げ銭のシステムで高額を投げ銭していたら少しだけ名前が有名になった。


それでも別に何も嬉しくない、俺からしたら単純に今の心を埋めてくれる存在に感謝と使い道に困った金を投げていただけだ。


電車はいつもと同じように混んでいる、スーツ姿をしたサラリーマン、学生、老人それ以外にも様々な格好をした人たちがすし詰め状態で電車に詰まっている、まるで昔の奴隷を運ぶ馬車のようである。


そんな考えに耽りながら電車の窓を見つめる、沢山の住宅が並びたまに自然がある。


ありふれた通勤をして会社に向かうその顔はやっぱり疲れていた。


特に何もなく、会社の最寄をおりて目的地に向かう。何も考えなくても足は自然と進む。


この会社に入って5年もたてばそんなもんだ。



会社に入る直前、白いワンピースを着た女子高生かそれより少し上くらいの女性が少し走ってこっちに向かって走ってきた、急いでいるのだろう。

道を譲るつもりで体をずらした、その女性はそのまま走り去る。


こんな時間から走るなんて遅刻する寸前なのか、なんてぼっーと考えていると会社についたようだ。

自分のデスクに向かう、周りはまだ来てないようだ。


「おい、榊原」


そこで上司から声がかかった。


「何でしょうか、部長」


この人は遠山部長、この会社の部長で仕事ができるおじさんといった姿をしている。

普段は面倒見がいい上司だがたまに気分屋なのでよくわからないときに怒られる。


「この書類定時までにまとめておいてくれるか?月曜日のプレゼンで使うんだ。」


もらった書類はなかなか手間がかかりそうだ。


「分かりました。今日中でいいんですね?」


「そうだ、よろしく頼む。出来たら俺のデスクに置いといてくれ。」


「かしこまりました、任せてください。」


仕事は好きじゃない、でも何も考えなくてもいいし没頭できるそしてお金が手に入る。


これを自分から奪ったら何のために生きてるのかもわからなくなるんじゃないかと怯えている。


書類整理は本当に無心に仕事をすることができる。5年もいるアドバンテージで体が覚えているからだ。


そして気付いたころには昼ご飯の時間になっていた。


ここは社食か弁当のどちらかになる。


正直弁当なんて作る気にならないのでいつも社食で食べている。


福利厚生とかで社食の代金の負担はないし日替わりランチで3種類から選べるのが正直気に入っている。


ここの会社は社員は多いが基本部門毎で仕事してるので他の人とは接点がなかったりすることも多い。


俺の同期だったり知り合いは皆会社をやめて転職したりしていたし俺の同期なんてものは誰も残っていなかった。


ずっとお世話になっているのは遠山部長くらいのものだ。


今の俺の立場はすごく珍しい立場で遠山部長のお付というよく分からない肩書きがありようは部長補佐の便利屋みたいなもので特に業務は決まっていない。


基本は部長の補佐をしてそれ以外は仕事を振られるか探しに行くといった感じだ。


今日の日替わりランチのエビフライ定食を食べながら今の立ち位置について少し考えながら午後からの仕事の段取りを考える。


それを考える過程で思考が少し飛んで今日のワンピースの女性のことを考えていた。


とても綺麗な服装だったし何をする予定だったんだろう?


なんであんなに急いでいたんだろう。


何故か頭からどうしても離れない状態で昼からの仕事に戻った。


仕事は順調に進みそれが終わり時計を見ると定時より少し早いタイミングだった。

これなら部長に怒られずに済みそうだ。


「部長、ここに書類置いておきますね」


「思ったより早かったな、この時間ならチェックしても定時に上がれそうだな」


「ありがとうございます、部長」


そういえばと前置きをした上で部長が話題を振ってきた。


「今日は金曜日だかなにか予定はあるのか?」


「特にないですが、寄り道せずに帰りますよ」


「そうか、そういう日もあってもいいな、でもたまには飲みに行ったりしてもいいんじゃないか?」


「あんまり飲みに行くとかないんですよね、飲みにいく相手もいないですし」


「そうか」


部長との話が終わり定時まであと30分ほど何をしようか、今から仕事をもらいにいくような時間でもないしかしTwitterなんて見るのも仕事中なのに気が引ける。


パソコンの整理でもするか、要らないフォルダ、ファイルなどを削除しておこうか。


そんなことをしながらもどうしても朝の白ワンピースの女性が頭から離れず、悶々としていた。


そんな風に時間を潰していたら定時になった。


「それじゃあ部長、申し訳ないですがお先に失礼します」


「もうそんな時間か、お疲れさん」


ここの会社の定時は18時だ、もう薄暗くなっていてもう少ししたら本格的な夜が到来する。


ビル街ということもあり裏路地等も多い。


少し暗い場所が多いのが気になるかもしれない、しかしこの雰囲気が何故か嫌いじゃなかった。


綺麗なビル、整えられた風景にちょっとした暗い部分。


人間の二面性みたいだ。


こんなことを他の人に言ったら絶対頭がおかしいと思われるから言わないけれど。


会社の周りの道には多くの人でにぎわっている。


これから飲みに行くサラリーマンも多いんだろう。


数人のグループで固まってる男女グループもいつもより多い。


俺は相変わらず1人だが今日は紗良の配信があるから早く帰らなきゃ行けないとは思っている。


しかし配信が始まるのは21時頃からの予定だしあと3時間もある。


今から帰っても30分で家に着くしそこから時間を持て余してしまう。


今日は少し凝った料理でもして配信を待つか…


そんな思考をしてる傍らで朝見た白のワンピースが目に入ったように見えた。


その姿は一瞬で消えたがその方向は裏路地の一角だった。


何故か気になってしまいその路地裏を見に行くことにした。


すぐ先の路地裏しかし何故か胸騒ぎが止まらない。


その路地裏を少し入った所に例の女性はいた。


その先にいた女性の唇は血でてらてらと艶を放ち赤く染まっていた。

とてもスレンダーで黒髪ロングなぞっとするほど綺麗な女性。

そして足元には少しガッチリとした男が血だまりに沈んでいる。

しかしそれ以上に驚いたのは例の白いワンピースが全く汚れていなかったことだ。

とても手馴れているようだった。


そこで僕に気付いたらしい、可愛らしい声を出しながらこちらを見て呟く。


「あら、人に見つかってしまったみたいね。こんなことは初めてだわ。」


まるで動物を捕食するかのようにこちらを楽しそうに見ている。


「君は何をしているんだ…?」


そう言葉を発するのが精一杯だった。


「この男が私に言いよってきたの、それでしつこかったから少し相手してあげたらこの結果よ」


この結果と言って男を一人血溜りに沈めるなんてどういうことなんだ?

分からない事ばかりが増えていく。


「君は何者なんだ…?」


「さぁ、何者かしらね、でも見つかったからには貴方も処理しないといけないわね」


完全に獲物を見つけたような目でこちらを見ている。

絶対に逃げられない。

そもそも僕はなんの取り柄もないサラリーマンだし、漫画の世界のような主人公ではなかった。

そこで一瞬月がその女性の顔を照らす。

そこには見覚えがある顔があった。


「死ぬ前に一つだけあなたに聞いてもいいか?」


「えぇ、それくらいいいわよ、どうせ死ぬんだから」


変なことを言うのねと言った顔でこちらを見つめている。


「君は玉響紗良か?」


少し驚いた顔をしながら彼女は口を開いた。


「私の事を知っているの?意外ね」


本当に意外そうな顔をして話を聞いている。


「貴方はネットじゃとても有名人じゃないか」


「そう、でもそれがどうしたの?」


正直リアルで会って話せるだけで生きててよかったと感じもういいかなと思うくらいには現実逃避していた。


「リアルで君に会えて本当に嬉しかった、本人かどうか知りたかったんだ」


あまり興味がなさそうに話を聞きながらしばらく話が繋がる。


「ふーん。君は私のファンなの?」


「あぁ、本人を前にこんなこと言う日が来るとは思わなかったけどね…でも生で見ても綺麗だ」


「君少し言い方が気持ち悪い、私の配信を見ているオタクみたい。」


「実際そうなんだから仕方ないだろ」


そこから紗良が少し考えながらふと思いついたように呟いた。


「そう…それじゃあ私に協力するなら殺すのを考えてあげてもいいよ」


もしかして生きることができるのか?でも言葉を間違ってはならない。


「協力?何をしたらいいんだ?」


彼女はあくまでも利用する、といったスタンスでいながら面白そうに言葉を続ける


「簡単だよ、私の指示に従って動いてくれればそれでいいの、簡単でしょ?」


「もし断ったら…?」


「そしたら今から隠ぺいをかけるために君には死んでもらうことになると思うけどいいの?」


これはもう選択肢はないんだなと思ってあきらめるように呟く。


「分かった、従う、従わせてくれ」


「それじゃ交渉成立だね、これからは連絡することあると思うから連絡先を交換しておこうよ」


「分かった、これが俺の連絡先だ」


お互いLINEで連絡先を交換する。そこまで多くない友達欄の中に自分が恋をしていた玉響紗良の名前が表示される。

こんな状態でいるのに何故か楽しんでいる自分がいるのが何故か笑えてしまった。

なんだかとても優越感を得ることが出来た。


「真顔だったらそこそこ綺麗なのに顔とてもだらしない顔になってる」


「だらしないって...自分が大好きな子がいるんだから仕方ないだろ、でも綺麗なんて言われたのは初めてだ」


「そう?私は結構好みだよその顔、そういえば…君の名前はなんて言うの?」


「俺は榊原徹さかきばらとおるだ」


「よろしくね、徹くん」


「なんかその呼び方は照れるな…」


気持ち悪いというように顔をしかめながら紗良は説明する。


「毎回榊原って呼ぶのもなんか他人行儀だし、これから長くなるかもしれない付き合いなんだからこれくらい距離を詰めておいた方がいいでしょ」


「俺はなんて呼べばいいんだ?」


「うーん、紗良って呼べば?呼びたいんでしょ?」


確かに自分が恋をした相手を呼び捨てにできるなんて本当に想像したけど叶えられないと思っていたことの一つだ。


「これから宜しく、紗良」


「よろしくね、徹くん」


最初のあったシチュエーションを除けばこれほどまでに恵まれたことも無かっただろう。


そうして私は彼女に協力することにした。


彼女は協力する代わりに私を食べない、ということを約束してくれた。


彼女はやっぱり俗に言う吸血鬼だった。

ある程度の期間で血を吸わないといけないという話だった。

やはりそういった意味でも何らかの協力者が必要だという。

しかも俺は彼女のファンでもあるからだいぶ融通が聞くだろうという話でもある。

それに約束を守らなければ食い殺すという脅しもある。

元々かなり部の悪い約束だった。


「変なことしたら食い殺すからね、でもそうじゃないなら生かして上げるよ」


正直読みは当たっていたし自分に生きる意味を与えてくれるというのはとても今の俺にはありがたかった。


とりあえず彼女の家で作戦会議というか話し合いをすることになった。

彼女の家はここから少し歩いた高級マンションだという。

何故そんなお金を持ってるかは教えてもらえなかったが、部屋は可愛らしく統一されていたりしながらも高級なものが沢山使われてるのが分かる部屋だった。


サラリーマンという立場上帰らないといけないとは言ったがどうせ土日を挟むから明日帰ればいいと言われ泊まることになった。


部屋について暫くして彼女が呟いた。


「私今から配信するから暫くは大人しくしててね」


何か本当に困ったことがあれば携帯に連絡を入れろと言いつけられて、自室に閉じこもってしまった。


俺が使う部屋は彼女の部屋から少し離れていてこれはネットでよくある放送事故を極力防ぐためだと言う。


特にすることもないし変なことをして機嫌を損ねると大変だと思い終わるまでは大人しくしてることにした。


その間俺も自分の端末で紗良の配信を見ることにした。


相変わらず、声、顔、仕草どれをとってもとても可愛い、そして綺麗だった。


「今日はお出かけしたんだけど途中で男の人に絡まれて怖かったよぉ」


紗良はこの調子で雑談を配信していく。

同時閲覧は3万人を超えている

コメントは「紗良ちゃんかわいい」「初見です」「今日も見てるよ!」等の定番のものからそれ以外のアンチコメント、少し過激なものまで様々なコメントが滝のように流れていく。


紗良の素の表情を見た後だと凄くキャラを作っているが、配信以外の紗良を見ていることに正直優越感を得ている自分がいた。


今日は完全に投げ銭のシステムを使わずに黙ってみてることに徹していた。

そんな感じで見ていると今日はもう終わり~という紗良のコールがあり配信は終わった。


今日の配信は短く1時間くらいで終わり、そのすぐ後に彼女は俺の借りてる部屋に尋ねてきた。


「この家はどう?」


「かなりいい空間だよ、俺の部屋とは大違いだよ」


周りを見るだけでもかなり気を使った部屋になっている。


「それなら良かった、それじゃあ何かご飯食べたいから作ってよ」


突然のリクエストにびっくりしながら疑問に思ったことを聞いてみた。


「急に言われてもな...吸血鬼なのにご飯を食べるのか?」


「毎日血をすするわけにもいかないしある程度なら人間と同じものを摂取して普通に生活できるよ、本当の飢餓感に襲われた時じゃないと血は吸わないかな」


知ってる吸血鬼よりも少し耐性がついてる様だ。


「何が食べたいんだ?それに簡単なものしか作れないぞ」


そもそもそんなに料理が得意なわけでもないしかなりの無茶ぶりなんじゃないかと思う。


「美味しいものが食べたいな」


それは作り手が一番困るやつだと思いながらキッチンに移動する。

紗良もついてきて冷蔵庫に入ってるものなら何使ってもいいよといって自分のスマホで今日の配信を見ながら「もっとこうした方がいいかな」「こうかな、サムネイルは...」等を考えているみたいだ。

配信の綺麗な部分しか見てないのと裏側を見るとまた違ったイメージを持った。

そうやって配信準備をしている彼女を横目に冷蔵庫にある食材で簡単にパスタを作ることにした。

パスタなら外れないだろうと思いトマトベースのパスタが完成した。

丁度彼女の方も終わったらしく、顔をぱっと上げるとたまたま目があった。

少しだけ照れてしまって顔を背けながら「できたぞ」と呟く。


「へぇ、ちゃんと食べれそうなものだね」


出された料理を見てそんなコメントを残しながら口に運ぶ。


「へぇ、なかなか美味しいじゃん」


少し意外そうな声を出しながら紗良が呟く。


「美味しいならよかった」


正直人に料理を振舞うことなんてなかったしかなり緊張していた。


「これだったら今後は料理も任せられるね」


いたずらをした子供みたいに笑うとそういいつつしっかり完食してくれていた。

ご飯を食べ終わった後を見計らって紗良の向かいの椅子に腰かける。


「さて、君をここに連れてきた理由を話してなかったよね」


「確かに作戦会議としか聞いてないな」


「単刀直入にいうと妹を探しているの?」


「妹さん?」


彼女に妹がいるなんて初耳だった。

紗良は話を続ける。


「妹はある日出て行ってしまったの、気が付いたらふらっとね」


「心当たりはなかったのか?」


「ある場所は全て捜したわ、でも見つからなかった」


「手掛かりはなかったのか?」


「手掛かりね...ないわけではないわ」


「その手掛かりは?」


「妹の部屋の机の上に置いてあったの、これよ」


そこにはK.S.G.sの差出人で謎の手紙が置いてあった。

中を開けてみるとそこに書かれていた言葉には生唾を飲みことになった。


玉響紗良の妹は預かった。半年の猶予を与える。その間に5億円用意してここの口座に振り込め

名望銀行     XXX-XXXXX


と書いてあった。

正直5億なんてどうやって払ったらいいんだという額だし俺に何をさせるつもりなのかも分からなくなってきた。

「こんなことって...」


「その人を探してほしいの」


「探すって言ったってどうやってしたら...」


「それは考えがあるわ」


これは紗良の考えに乗るしかないんじゃないんじゃないか?


「K.S.G.sはこの都市にしかいない軍団なんだよ、そして拉致した吸血鬼を売買する組織らしい」


「それじゃあK.S.G.sはこの都市にいないと商売できないということか?」


「そうだよ、だから捜索の方法はいくらでもある」


「紗良には何か考えがあるんだな、それに従うよ」


正直何ができるか分からないが従うしかないというのが大きい、そういう契約なんだから。


「そういえば、吸血鬼ってそんな集団が存在するくらい多いのか?」


紗良は少し考えてから口を開いた。


「私は他の吸血鬼は見たことないよ、でも知らないだけかもしれない」


これを機に色々聞けることを聞いてみることにした。


「君は何年生きているんだ?」


「200年くらいからは数えてないわね」


「そんなに長い間生きてるのか」


「えぇ、妹と二人きりで楽しく生活していたの、夜の街を散歩したり料理をしたり普通の姉妹っぽくね、でも今回こんなことになるなんて想像もしてなかった」


彼女の先ほどとは違う少しだけ焦った表情を浮かべていた。


「それでその捜索の方法って?」


「それは新しい吸血鬼が発生したって流すのさ、勿論君の事さ」


これを聞いた途端彼女は俺を囮にするつもりなんだと理解した。


「それが本当ならK.S.G.sは確実に君に接触してくるはず、そこを逆に捕まえる」


「そう簡単に言うがそれは成功するのか?」


「それはやってみないと分からないでもこれが一番効果的な方法だと思うよ、勿論拒否なんてしないよね?」


どうせ拒否権なんてものもないし今断ったらそれこそ契約違反になる。

殺されるということだ。


「分かった、やるのはいつなんだ?」


彼女は即答で答えた


「明日よ」


「かなり急だな、それで食いつくのか?」


「さっき配信したでしょ?そこでK.S.G.sに一つメッセージを残しておいたの」


「メッセージ?」


「そう、メッセージ。新たな吸血鬼が見つかってそれと引き換えだってね」


「それがメッセージ...」


逃げられない...


話し合いはこれから少しだけ続き明日の段取りだけを確認して先ほどいた部屋に戻ってきた。

これがまさに逃げられないとわかってる状態。

今日は寝れなさそうだ。


外から差し込む光で目が覚めた。

空はこんなに明るいのに今から起きることを考えるとどうも起きたくないがそんなことを言ってる場合でもなかった。


紗良はもうこの時間には起きていてリビングでコーヒーを飲みながら少しぼぉーとした顔をしていた。


そこでちらっとこっちを見るとにこっとほほ笑みまた端末に目を戻す。


「おはよう、紗良」


「おはよう、徹君」


当たり障りのない会話、しかし急速に自分の人生の終着点が近づいてる感覚。

ある程度の目途がたったらしく彼女は端末から目を離してこちらに向き直る。


「今日の17時に廃学校で待ち合わせだって」


まるで遊びの約束をするように軽く呟く。

その廃学校は3年前に閉鎖されそれから全くと言っていいほど人気がない場所である。


「わかった、一度家に戻ってもいいか?」


「別に構わないよ、色々と帰ってやりたいこともあるだろうしね」


紗良は大きく伸びをするとそう呟いて「私部屋に戻るからあとは好きにして。」と言い残すとまた部屋に戻ってしまった。


さてどうしたらいいかな...と手持ち無沙汰になり取り合えず最初の目的通りに家に帰ることにした。

帰る途中でふとコンビニが目に入った。

普段は全く気にも止めないそんな状態で今日はやけに色んな感覚が鋭敏になる。


誰かが言ってた。

「死ぬときに後悔がないように生きるんだ」

こんな月並みの言葉が心に刺さるなんて思いもよらなかった。

これが俺の人生の最後の日になるんだと考えると泣けてくる。

でもこの数時間で俺はどうしたら後悔しないだろうか?


俺のやることは一つだけだった。


それでも君を愛していく。

これに尽きるだろう。


部屋に戻り少し考える、今後どうなるのか。

一番好きな人に囮として使われる、この状況を最大限生きるためには何が必要か。

それはぶれないということ。ただブレないというそれだけだと思う。


さてあと数時間を満喫することにしよう。



予定の少し前に紗良から連絡がきた。

「そろそろ行こう」

それだけの簡単なメッセージ。

それを見て返信する。

「分かった」



二人で指定された学校に向かう。

この学校はかなり敷地面積が大きく何かを隠すのは最適といったものだった。


紗良が先導しそれに続く。

この奥には会議室だったものがありそこで行われるようだ。

会議室に着くと黒いマスクを被らされた女の子とその周りに白いマスクをつけた大人が10名ほどいる。

これが俺の最終地点なのか。


「少し早いが早速の交渉を始めようか」


早速紗良が話し始める。

紗良の言葉に頷き白マスクたちが続きを促す。


「交渉の内容はこうだ」

榊原徹という新しい吸血鬼が発見された。

それと引き換えに私の妹を開放する。

金は新しい吸血鬼を渡すことでチャラになる。


「この内容で間違いないか?」


紗良が訊ね白マスクたちは頷くだけ。

紗良に背中を押される。

そしてゆっくりと足を進め少女と俺が交換される。

その瞬間背中に電撃が走り顔を歪めながらその瞬間を見てしまった。


紗良がスタンガンを持ってこちらを笑いながら見ている瞬間を。


「どうして...!」


そうして呟いた次の瞬間俺の記憶はなくなった。





次に目を覚ますと体を椅子で拘束されて周りにカメラだらけの部屋に閉じ込められていた。


「ここは...」


意識が億劫の中その前の記憶辿る。

スタンガンをもった紗良が俺の方を見て笑っていたこと。

そのあとはこうして縛られてる部分まで記憶がないこと。


そして周りには沢山のカメラ。

これは撮影?

回らない頭で状況を整理する。

しかしちっとも頭は回らない。


そこでここ最近一番見た顔が俺の目の前に現れた。


玉響紗良(たまゆらさら)...


「ここはどこなんだ?」


紗良の真意を知るために何とか言葉を紡ぐ。

しかし紗良は何も答えない。

こちらを見て笑っているだけ。


そしてしばらく時間がたっただろうか、紗良が口を開いた。


「これから配信のメインキャストとして働いてもらうよ」


「メインキャスト?」


分からないことだらけのこの状況ではあほみたいにオウム返しすることしかできない。


「そうメインキャスト、ここは裏配信だから表よりも過激なことしないと再生数とれないんだよね」


「どういう話なんだ...?」


「はぁ。仕方ないからちゃんと説明してあげるね、君は私の裏配信のターゲットになったってことだよ

そう、裏配信、この配信は普段では過激すぎて出来ないことできる、所謂ダークウェブで配信されてるんだ、非合法なことも売り物にして何でも金になっちゃうのがこのダークウェブだよ」


「その為のカメラなのか、俺をこれからどうするんだ?」


体はゾクゾクと震えながら簡単なことしか話せなかった。


「それはコメントを見て決めないといけないかな、表で動いてる金の何百倍の投げ銭をされるから流石に私の一存じゃ決められない」


ダークウェブは1つの投げ銭で何千万、何億と動く。

紗良の家があれほど豪華だったのも納得がいった。

さらに彼女は言う。


「吸血鬼としても良い商売なんだよね」


定期的に血を吸わなきゃいけない吸血鬼には金も稼げて血もしっかり摂取出来るこの商売がとんでもなく合っていたということらしい。


俺が見てた紗良はあくまでもひとつの側面でしかなくて、本当の紗良はダークウェブの配信者だった。


「そういえば君の妹は!」


そもそも俺は妹と引き換えに交換されるはずだった。

その問いかけを見て彼女は笑う。


「私に妹なんて居ないよ?まだ騙されてるのばーか。」


バカにしたように笑いながら彼女は続ける。


「君と昨日あってからもう撮影は始まってたんだよ、君の事を脅して尚且つ好きな人に滅茶苦茶に裏切られるっていうストーリーを踊ってもらう為にね、メインキャストは君だ。榊原徹くん」


これでようやく納得がいった。

最初から全部計算でその状況を見て楽しんでる周り。

そして動かされる自分。

表の世界のメインキャストが紗良であるなら裏のメインキャストは俺、この奇妙な事柄は笑ってしまうことしかできないほど滑稽だった。


配信者とリスナー。

この部分が逆転するのがダークウェブ。

そして配信者。


それを聞いた途端全ての力が抜けていく。

遠くで紗良が爪剥ぎからやっちゃおうか!等と楽しく白マスク達と話している。

その声を遠くに聞きながら俺は静かに目を閉じる。

これから様々な拷問を受けていくのだろう。

それも大好きな女性に拷問されていく。

それでも好きのままでいられるかどうか。

何故かそれを試されてる気がした。



そこから数時間様々な拷問が行われた。

爪剥ぎからはじまり、片目をくり抜かれたり、歯を無理やり抜かれたり様々なことを紗良は行った。


その度に大の大人が喚き、泣き叫ぶ。

それを見て加速度的に金は増えていく。

それを見て笑う紗良。


そんな拷問がいつまでも続くかと思った。




意識が朦朧としてフラフラの中最後の演目になったらしい。

それは紗良が全身の血液を吸うというもの。

人間が干物のように干からびるのを見るのが楽しいらしい。


そして紗良が近づいてくる。


「ねぇ、徹くん最期に言い残すことはあるかな?」


紗良は笑みを浮かべながら近寄ってくる。


「最期…君の…事を抱きし…めて一…言だ…け言い…た…い」


殆ど喋れなくなりながらも最後の言葉を発する。

叶えられるとは思っていない。

それでも最期の最期くらいはわがままを言いたい。


「最後だから叶えてあげるよ」


願いはあっさり叶えられた。

縄が解かれ彼女に支えられる。


「寂しさ…から救って…くれて…有難う…」


そのまま彼女を抱きしめるかどうかの力加減で背中に手を回しながらそう呟く。


「本当に馬鹿な男ね…」


一瞬だけ哀れんだ顔を見せた彼女に首を噛まれるとそのまま意識が完全に途絶えた。



パタン…


「紗良またそれを読んでいたのか?」


「えぇ、私が過去に1番残酷な方法で殺した男の末路、本当に馬鹿な男よ」


これはとある誰かの1ページの記録。

決して救われない。

しかし彼は救われたのかもしれない。

人間の孤独という最大の困難を取り除けたのだから。




呼んでくださりありがとうございました!

感想等ありましたら是非是非よろしくお願いします!

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