クリスマス
目に見えて長くなるわけではないが、冬至を過ぎると、太陽が徐々に早起きになる。
次にやってくるのが、サンディたちサンタクロースが、幸せを運んでくるクリスマス。
ディナーを提供するようになってからも、『はるぶすと』では、クリスマス・イヴはランチ営業のみだった。ただ、今年からはそれもやめようと3人の意見が一致し、イヴの今日、店はお休みしていた。
なぜかって?
日本では、クリスマスはどこのレストランも趣向を凝らしたランチやディナーを提供しているので、選択肢は星の数ほどある。そこで常連さんに休むことをそれとなく打診したところ、特に支障はなさそうだったからだ。
さて、サンタクロースは遠い旅路の途中、担当の地域でしばしの休憩を取る。休憩所に選ばれるのは妖精や精霊が棲む森、教会、日本なら神社仏閣、あるいは彼らのような千年人のところ。
今年の休憩所は、他の誰かが立候補したらしい。『はるぶすと』に依頼は来ていなかった。
けれど上空を通過するとき、彼らにはピンとくるものがあるらしい。
「あ」
ソファでくつろぎながら、料理小説? を熱心に読んでいた夏樹が、ぱっと顔を上げ、急いでベランダのガラス戸を開けて空を見上げる。
「やっぱりそうだ。シュウさん、冬里。今、あそこを通ってますよ」
「ホントだー」
いつの間に来たのか、すぐ隣にはすでに冬里が立っている。
「冬里、早っ」
「今年は誰が担当しているんだろうね」
あとから来たシュウも、空を見上げてそんな風に言う。
すると。
ひら、ひら、 ひら・・・
と、小さな星が、さながら蝶のようにあちらへこちらへ寄り道しながら落ちてきた。
「(ホーッホッホッホー、今年はわたしだよ)」
「ウィンディ!」
手のひらで星を受け止めると、サンタのウィンディの優しい声が、彼らの耳に響く。
目をキラキラさせて手を振り、大きな声で答えようとした夏樹が、はっと気がついたようにその叫びをゴックンと飲み込むと、小さくささやいた。
「お気をつけて~」
その声に応えるように、キラ、と一瞬、星が輝いた。
「あーあ、行っちゃった。でもどこで休憩するんだろ。せっかくだから何かおもてなししたかったな」
ちょっぴりふくれっ面の夏樹に、シュウが困ったように笑ってから魅力的な提案をした。
「ウィンディにはおもてなしできないけど、今日はイヴだから、ご予定を聞いてみて、スサナルさんのお宅にケーキを焼いて持って行こうか」
「ホントっすか? いやっほーい、やったー! なににします、どんなのにします? やっぱブッシュドノエルっすか」
料理だけでなく、お菓子も命の中に入っているらしい夏樹が、また目をキラキラさせて聞いてくる。だけでなく、まだ行けるかどうか聞いてもいないのに、キッチンに入って基本の材料を用意し始めた。
すると。
「(わたくしはモンブランが良いわ)」
「(姉上ずるい~僕はイチゴのケーキが好きです)」
「(なんだあ、俺は洋酒のたっぷり入ったヤツが、いいぜえ)」
「(えーと、僕はケーキなら何でもいいや)」
案の定、家主でもないものたちが、やいのやいのとリクエストしてくる声が響き渡る。
「(俺ん家に持ってくるって、言ってるだろーが。俺のリクエストが一番だ!)」
スサナルのそんな声は、あえなくスルーされ。
イヴのスサナル邸は、一夜限りの、洋菓子店『はるぶすと』として営業したようだった。