秋の終わり
この仕事が好きだ。
自分の料理を食べてくれた人が、幸せそうに微笑む瞬間が好きだ。
自分の本気を皆、〈魔法〉のように言うけれど。
父や母が子に、また子が親に。妻が夫に、また夫が妻に。
愛する者に心を込めて作る料理は、たとえ技術が未熟でも、自分にはかなわないものがあると、シュウは本気で思っている。
けれど、一期一会。
せっかく出会えたからには、笑顔で別れていきたい。
自分の差し出すもので、少しでも幸せになってもらいたい。自分はそれだけを願って、今日も料理を作らせて頂くだけ。
まだ暗い店の前庭に、いつもと同じように足を踏み入れると、今日は昨日と別の音がした。
サク……
霜が降りているようだ。
シュウは、ふっと微笑んだあと、いつものように手入れを始めだした。
たとえ気象が異常だと言われようとも、当たり前のように季節はめぐる。
雪解けがどんなに遅くとも必ず春は来る。夏がどんなに寒くとも秋は来て、秋の気温がどんなに高くても必ず冬はやってくる。
季節がおかしいのを、誰かが呪いをかけているとか、悪意を込めて操作しているとか、どうしても人は悪い方の理由を探し始める。……けれど。
そんなものは当たり前に比べれば、ささいなこと。
夜は必ず明けて、太陽は巡り西に沈み、また夜が来て、月や星が輝く。
そしてまた夜が明ける。
なにもない、日々の巡り。
良いことも悪いことも包み込み巡りゆき、やがてなにもない当たり前に帰ってゆく。
これがどれほどものすごいことか、百年人はなかなか実感できないのだろう。
そして。
誰かが声高に言う悪意よりも、目に見えない「当たり前のなにもなさ」こそがこの世界を創り上げていること。それを少しも感じさせずになしえている、何か。
そのとてつもなく大きな存在に、敬虔にならずにはいられない。
などと思いを巡らせていたが、今は草花に気持ちを注ぐことにして。
サク、サク。
霜を踏みしめるたびにかすかに音が鳴る。
日本の暦は素直にわかりやすい。
秋の終わりの、霜月のこと。
そしてまた、冬がやって来る。
長いシリーズも、ようやく終わりを迎えました。
最後はシュウの1人語り。
詩のようになってしまいましたね。
秋が終わり、もうすぐ12月がやってきます。そしてまたこのシリーズの最初に戻る(笑)
冗談はさておき。
本当にもうすぐ12月です。
今年最後の月に、今年一番の幸せと喜びが皆さまに訪れますように。
いろんな事がありますが、
『はるぶすと』は、いつでも皆さまのお越しをお待ちしております。




