第7話「報告」
「それで、今回の被害はどうだったのかな?」
白髪の長い髪をかきあげて、俺達に問い掛ける。清和課長のいつもの癖だ。
「そうですね。死者は0名ですが、重体者が1名で重傷者が3名。軽傷者が21名程です。取り急ぎの報告ではありますが。」
玄さんが左手に持ってる用紙を見ながら答える。いつも思うけど、報告の時だけはしっかりしてるんだよな、この人。
玄さんの報告を聞いてる清和課長は苦々しい表情と溜息をついてるな。
「今回は対応が遅れたからね。死者が出なかっただけでも良しとするしかないか。」
清和課長はさっきまでの表情を切り替えて、笑顔で仕事を労わる言葉をかけてくれる。
「申し訳ありません。もう少し現場到着が早ければ被害は抑えられたと思うのですが。」
「いや、君達は良くやってくれたよ。今回は承認が遅かった事が原因なんだ。こればかりはどうしようもない。気にしないで欲しいな。」
今回の現場到着が遅れた理由はこれか。最近は本当に増えてきたな。何か面倒な事になってるみたいだけど、俺達現場の人間は承認が無いとどうしようも出来ないしな。
「そーだよねー。承認が早ければきっと軽傷者だけで済んだよー。」
やーめーろ。余計な事は言うなよ。俺の背後にいる同じインターンの姫が今回の文句を言ってる。
「仕方がないさ。ルールは、社会の秩序の為に必要な事だよ。」
清和課長が、今度は少し寂しげな表情で、姫に諭す様に言うと
「分かってますよーだ。」
ぶぅ。と擬音が聞こえる感じで、姫は頬を膨らませ口を尖らせる。子供かよ。
「それじゃあ、後は報告書をまとめて今日中に提出をよろしくね。」
「かしこまりました。それでは。」
今回の状況の説明を終えて課長に頭を下げる。そしてドアを開き自分のデスクに戻ろうとすると
「あぁ、鈴鹿君だけは残ってくれないかな。今回の件もだけど、今迄の分も含めて少し話をしなければならないからね。」
あぁ。あれはヤバいな。表情は笑ってるけど纏っている空気で怒っているのがバレバレだ。
「げっ。」
呼び止められた姫は青ざめた表情で冷や汗を垂らしながら清和課長に向きを戻してる。ドンマイ。
「じゃあ、北沢君と藤原君はこの件の報告書を頼むね。」
「「かしこまりました。」」
玄さんと声を揃えて答える。 そして今度こそドアを開き自分達のデスクに戻る。
「はぁ〜緊張しました。まだ報告をするのは慣れないです。」
俺は思った事をそのまま口に出した。
「その内に慣れるさ。それに大した事はお前は喋ってないだろ。殆ど俺が話してるんだから。」
「そうですけど、あの雰囲気の中にいるのが緊張するんですよ。」
少しだけ笑いながら玄さんは俺の肩を優しくポンポンと叩く。
「その緊張もいつか消えるが、忘れない方が良いぞ。」
思わせぶりな事を言うな。
「そんなもんなんですかねー。」
「そんなもんさ。さぁ、報告書だ。今回の件、大体書き終わったら俺の所に持って来いよ。」
げっ。また大枠を書くのは俺なのか。
「たまには、玄さんが最初から書いてくださいよー。」
「俺はインターン中に出来る事は、全部やらせる方針なのさ。頑張れ学生。」
そう言うと玄さんは、俺達のオフィスの休憩室に入ってしまった。
「本当に、インターン使いが荒いんだから。」
毎回言うが聞いてくれないな玄さんは。
確かにインターンで出来る事は確かにそんなに多くないけど、なーんか納得出来ない。
まぁ、文句言っても報告書が終わるわけじゃないし、始めるか―――――。